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第十八章 日独交渉
帝都再び
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瑞鶴は一日で補給と整備を済ませると、帝都に向けて全速力で航行を始めた。もちろんここでも下村大将は瑞鶴に残っている。
「東京湾に着いたら、横須賀に向かってくれ。港を空けておくように手配してある」
「分かった。それにしても、誰を乗せるつもりなのかいい加減教えてくれないの?」
「前にも言っただろう。少なくとも横須賀に到着するまでは秘密だ」
「あっそう。まあ誰だろうと私には関係ないか。言っとくけど、客の世話はそっちでしてよ? 部屋なら幾らでも貸すけど。あ、出る時は掃除もちゃんとしといてね」
「ああ、君にそんな手間をかけさせるつもりはないよ。船室だけ貸してくれればこちらからは何も求めない」
「今の言葉、忘れないでよね」
さて、ハワイから再び1週間ほどの航海を経て、瑞鶴は何ら支障なく横須賀に到着した。横須賀には相変わらず摂津や赤城や加賀など第一艦隊が居座っているが、特に妨害してくることもなく、瑞鶴は平穏無事に停泊することができた。
そして横須賀に到着した翌日。横須賀鎮守府には憲兵隊には思しき数百の兵士が集まっており、かなり騒がしいことになっている。そんな中、瑞鶴に客人が訪れた。舷梯を登ってきた恰幅の良い男の顔は、瑞鶴も知っている。
「阿南惟幾内大臣だ。君とは初めて顔を合わせるな」
「陸軍軍人と顔を合わせる機会なんてほとんどないんだから、当然でしょう」
「確かに、それも道理か」
「で、何の用?」
「君と今後の打ち合わせをするために来た」
「大臣自ら打ち合わせねえ」
「それほどに重要な案件なのだ。人に聞かれたくはない。中に入れてくれるか?」
「ええ」
「それと、憲兵を何十人か乗せたいのだが、構わないか?」
「……私を襲う気じゃないでしょうね?」
「馬鹿を言え。天皇陛下の軍隊がそのような下衆な真似をするものか」
阿南は落ち着いた口調ながらも、その声には瑞鶴を竦ませる気迫が宿っていた。
「分かった。好きにしたらいいわ」
「うむ。感謝する」
という訳で瑞鶴は阿南大臣と二人きりで面会することになった。大臣を元艦長公室に案内して無駄に立派なソファに座って向かい合う。
「まずは、これまで下村大将がずっと君に秘密にしていたであろうことを話そう」
「ドイツへの特使が誰かって話?」
「そうだ」
「こんなに大盤振る舞いするなんて、東條英機でも連れてくるの?」
「東條か。奴でも良かったが、今回はそれ以上のお方だ」
「……それって、まさかだとは思うけど、陛下だったりする?」
「その通りだ」
「んなっ――ちょ、本気で言ってんの!?」
「本気だ。既に陛下もお乗りになっておられる」
「はぁ!? 事前に言いなさいよそれくらい!!」
当今の帝が乗り込まれるというのに船魄が挨拶の一つもしないなど不敬千万である。瑞鶴は阿南大臣に掴みかかりそうな勢いで問い掛ける。
「ど、どこにおられるの!? 今すぐお部屋にご案内しないと!!」
「陛下なら、すぐそこにおれらるぞ」
「は……?」
示し合わせたように(実際示し合わせていたのだろうが)開いた扉の先に、元首にして統治権を総攬されるお方が、悪戯っぽく笑みを浮かべておられた。瑞鶴は飛び跳ねるように直立した。
「へ、陛下……!? え、いや、どうしてこんなところに……!?」
「――」
「そ、それは……そうでした。い、いや、そうではなく、陛下がわざわざ私に会いに来るなんていけません! お、お部屋にご案内しますから、着いてきてください……!」
瑞鶴は旅館の女将のように、今上帝を一番上等な元艦長室に案内した。
「そ、その、陛下、私は軍艦ですから、乗り心地は良くありませんかと……。い、今からでも、氷川丸とかに乗り換えては、いかがでしょうか……?」
「――」
「ひ、比叡、ですか。比叡は巡洋戦艦ですから、比叡と比べたら、乗り心地は同じくらいかと思いますが……」
以前練習戦艦となっていた比叡は度々御召艦を務めたことで有名である。
「――」
「あ、は、はい……。で、では、できる限り振動が少ないよう、航行させていただきます……」
「――」
「い、いえ、とんでもない……。そ、それでは私はこれで、し、失礼させていただきます……。な、何か御用があれば、いつでも、お申し付けください……」
とても身が持たないと思った瑞鶴は逃げるようにその場を後にした。侍従なども乗り込んでいるようで、瑞鶴がわざわざ何かをする必要はなそうだ。瑞鶴はすっかり疲れ果てた様子で阿南大臣の待つ部屋に戻った。
「まったく、陛下が来られるなら先に言いなさいよ。準備ってものがあるんだから」
「客の世話などするつもりはないと、君が言っていたのではないか」
「へ、陛下だったら話は別に決まってるでしょうが! あんたも内大臣なんだったらそれくらい察しなさいよ!」
「それは悪かった。さて、私は議事運営の仕事がある故、ここに残ることはできない。何かあったら引き続き、下村大将を使ってくれ」
「分かった。けど、陛下がいらっしゃらないのに御前会議をやるつもりなの?」
「陛下がいらっしゃらないことはそう珍しいことではない」
「あ、そう」
阿南大臣は大本営政府連絡会議の運営に戻ったが、主上の不在は『陛下は葉山御用邸でご静養あそばされている』ということで押し通したらしい。
「東京湾に着いたら、横須賀に向かってくれ。港を空けておくように手配してある」
「分かった。それにしても、誰を乗せるつもりなのかいい加減教えてくれないの?」
「前にも言っただろう。少なくとも横須賀に到着するまでは秘密だ」
「あっそう。まあ誰だろうと私には関係ないか。言っとくけど、客の世話はそっちでしてよ? 部屋なら幾らでも貸すけど。あ、出る時は掃除もちゃんとしといてね」
「ああ、君にそんな手間をかけさせるつもりはないよ。船室だけ貸してくれればこちらからは何も求めない」
「今の言葉、忘れないでよね」
さて、ハワイから再び1週間ほどの航海を経て、瑞鶴は何ら支障なく横須賀に到着した。横須賀には相変わらず摂津や赤城や加賀など第一艦隊が居座っているが、特に妨害してくることもなく、瑞鶴は平穏無事に停泊することができた。
そして横須賀に到着した翌日。横須賀鎮守府には憲兵隊には思しき数百の兵士が集まっており、かなり騒がしいことになっている。そんな中、瑞鶴に客人が訪れた。舷梯を登ってきた恰幅の良い男の顔は、瑞鶴も知っている。
「阿南惟幾内大臣だ。君とは初めて顔を合わせるな」
「陸軍軍人と顔を合わせる機会なんてほとんどないんだから、当然でしょう」
「確かに、それも道理か」
「で、何の用?」
「君と今後の打ち合わせをするために来た」
「大臣自ら打ち合わせねえ」
「それほどに重要な案件なのだ。人に聞かれたくはない。中に入れてくれるか?」
「ええ」
「それと、憲兵を何十人か乗せたいのだが、構わないか?」
「……私を襲う気じゃないでしょうね?」
「馬鹿を言え。天皇陛下の軍隊がそのような下衆な真似をするものか」
阿南は落ち着いた口調ながらも、その声には瑞鶴を竦ませる気迫が宿っていた。
「分かった。好きにしたらいいわ」
「うむ。感謝する」
という訳で瑞鶴は阿南大臣と二人きりで面会することになった。大臣を元艦長公室に案内して無駄に立派なソファに座って向かい合う。
「まずは、これまで下村大将がずっと君に秘密にしていたであろうことを話そう」
「ドイツへの特使が誰かって話?」
「そうだ」
「こんなに大盤振る舞いするなんて、東條英機でも連れてくるの?」
「東條か。奴でも良かったが、今回はそれ以上のお方だ」
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「ど、どこにおられるの!? 今すぐお部屋にご案内しないと!!」
「陛下なら、すぐそこにおれらるぞ」
「は……?」
示し合わせたように(実際示し合わせていたのだろうが)開いた扉の先に、元首にして統治権を総攬されるお方が、悪戯っぽく笑みを浮かべておられた。瑞鶴は飛び跳ねるように直立した。
「へ、陛下……!? え、いや、どうしてこんなところに……!?」
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「そ、それは……そうでした。い、いや、そうではなく、陛下がわざわざ私に会いに来るなんていけません! お、お部屋にご案内しますから、着いてきてください……!」
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「そ、その、陛下、私は軍艦ですから、乗り心地は良くありませんかと……。い、今からでも、氷川丸とかに乗り換えては、いかがでしょうか……?」
「――」
「ひ、比叡、ですか。比叡は巡洋戦艦ですから、比叡と比べたら、乗り心地は同じくらいかと思いますが……」
以前練習戦艦となっていた比叡は度々御召艦を務めたことで有名である。
「――」
「あ、は、はい……。で、では、できる限り振動が少ないよう、航行させていただきます……」
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「それは悪かった。さて、私は議事運営の仕事がある故、ここに残ることはできない。何かあったら引き続き、下村大将を使ってくれ」
「分かった。けど、陛下がいらっしゃらないのに御前会議をやるつもりなの?」
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