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第十八章 日独交渉
日独元首会談
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瑞鶴はアッサブ港に碇を下ろした。
「――こ、この度は、長旅に付き合っていただき、あ、ありがとうございました……!」
「――」
「あ、そ、そうでした。会談のご成功を、お祈り申し上げます……」
瑞鶴は当今の帝を見送り、艦内に戻った。ここから先に瑞鶴ができることはない。
「そう言えば、ヴィットリオ・ヴェネトが泊まってるけど、イタリア国王でも連れて来たの?」
瑞鶴は艦内に残っている下村大将に尋ねた。アッサブ港にはイタリアの軍艦が何隻か停泊していたが、それなりに縁のあるヴィットリオ・ヴェネトに瑞鶴は興味を持った。イタリアは第二次世界大戦以来戦艦を新造していないので、今でもリットリオ級が最新の戦艦なのである。
「その通りだ。だがそれ以上に、今回の会談はヴィットリオ・ヴェネトの艦内で行われるとそうだ」
「そうなの。まあ、戦艦な中ほど安全な場所もないか」
「ああ。イタリアの軍艦で最も居住性がいいのがリットリオ級だからね」
「私じゃダメだったのかしら」
「それは流石に無理だ」
「冗談よ。ねえ、ヴィットリオ・ヴェネトに会いに行ってもいい?」
「君は世界中から狙われているんだぞ? すまないが無理だ」
瑞鶴艦内なら少数の兵士でも警備できるが、一歩外に出ればそうもいかない。ドイツなどが手を出して来るかもしれないし、瑞鶴を外に出す訳にはいかないのだ。
「残念ね」
「そう思うなら我が国に戻って来てくればいいんじゃないか?」
「それは嫌よ」
ヴィットリオ・ヴェネトと久しぶりに会いたいのは山々であったが、この程度の不自由、瑞鶴の帝国に対する不信感と比べれば些細なものだ。
○
さて、ヴィットリオ・ヴェネトは世界でも最重要の人物が二人も同時に訪ねてくると知って、全力でもてなす準備を整えていた。別に彼女がやらなくても接待をする者は幾らでもいるのだが、自分の艦内で行われる会談に知らん顔を決め込むのは、彼女には無理であった。
「ヴェネト殿、まもなくヒトラー総統がお見えになります」
「分かりました……。頑張りましょう」
ヴェネトは大きく深呼吸して、ヒトラー総統に出迎えに岸壁に降りた。
「お初にお目にかかります、アドルフ・ヒトラー閣下。私はヴィットリオ・ヴェネトと申します」
「君がヴェネトの船魄か。あまり軍人という感じはしないな」
「よく言われます。私も時々、軍艦を辞めて海上レストランにでもなろうかと思うこともあります」
「ほう。君はそれでいいのかね?」
「イタリアの役に立てるのなら、私はどんな形でも構いません」
「ほう。軍人らしくはないが、良いイタリア国民のようだ」
「お褒めいただき光栄です。さあ閣下、会談場所までお連れいたします。車椅子をお押ししてよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
車椅子の総統の為、舷梯は長いスロープに取り替えられており、艦内も階段はスロープで覆われている。ヴェネトはドイツ親衛隊に護衛されながら、総統を会談場所となる食堂に連れていった。
「まだ天皇陛下は来られていないか」
「はい、陛下はまだいらっしゃっておりません。閣下におかれましては、暫しここでお待ちください。その間にワインでも如何ですか?」
「すまないが、私は酒を飲まないんだ」
完璧を期したかったヴェネトとしては痛恨のミスである。だがそれを表に出すことはなかった。
「何と……そうでしたか。失礼なことを申しあげました。それでは、葡萄でジュースを作りましょう」
「そこは葡萄にこだわるのか」
「お気に召しませんでしたか?」
「いやいや、そんなことはない。イタリアの作りたての葡萄ジュースとは、実に美味しそうじゃないか」
「ありがとうございます。暫しお待ちください」
ヴェネトは厨房に指示してジュースを作らせ、自らは総統の傍で待機していた。到着した葡萄ジュースを総統は痛く気に入ったようであった。
そんなことをしていると、今度は天皇が到着したとの連絡が入り、ヴェネトはすぐさま埠頭に降り立った。流石は現役の君主と言うべきか、華やかな軍服に身を包み、多くの自重に囲まれて現れた今上帝を前にして、ヴェネトは緊張のあまり呼吸が早くなってしまう。
「お待ちしておりました、天皇陛下。この艦の船魄、ヴィットリオ・ヴェネトと申します。早速ですが、会談場所までご案内させていただきます」
「――」
「いえいえ、私はやりたくてやっているのです。どうかお気になさらないでください」
そういう訳でヴィットリオ・ヴェネトは当今の帝を食堂に案内し、二人の国家元首は顔を合わせた。
今上帝とヒトラー総統は食堂のすぐ側にある士官室に入り、その入口は日本の憲兵隊、ドイツの親衛隊、イタリア海軍が厳重に警備して、虫一匹入れない構えである。士官室には両名の他には通訳しか入ることを許されず、会談の内容については誰も知ることはできなかった。
会談は一時間ほどで終わった。その後は休憩ということで食堂で晩餐会が行われた。ヴェネトは責任者として最大限のもてなしを行ない、晩餐会はとても和やかな雰囲気で平和裏に終わったのであった。
「――こ、この度は、長旅に付き合っていただき、あ、ありがとうございました……!」
「――」
「あ、そ、そうでした。会談のご成功を、お祈り申し上げます……」
瑞鶴は当今の帝を見送り、艦内に戻った。ここから先に瑞鶴ができることはない。
「そう言えば、ヴィットリオ・ヴェネトが泊まってるけど、イタリア国王でも連れて来たの?」
瑞鶴は艦内に残っている下村大将に尋ねた。アッサブ港にはイタリアの軍艦が何隻か停泊していたが、それなりに縁のあるヴィットリオ・ヴェネトに瑞鶴は興味を持った。イタリアは第二次世界大戦以来戦艦を新造していないので、今でもリットリオ級が最新の戦艦なのである。
「その通りだ。だがそれ以上に、今回の会談はヴィットリオ・ヴェネトの艦内で行われるとそうだ」
「そうなの。まあ、戦艦な中ほど安全な場所もないか」
「ああ。イタリアの軍艦で最も居住性がいいのがリットリオ級だからね」
「私じゃダメだったのかしら」
「それは流石に無理だ」
「冗談よ。ねえ、ヴィットリオ・ヴェネトに会いに行ってもいい?」
「君は世界中から狙われているんだぞ? すまないが無理だ」
瑞鶴艦内なら少数の兵士でも警備できるが、一歩外に出ればそうもいかない。ドイツなどが手を出して来るかもしれないし、瑞鶴を外に出す訳にはいかないのだ。
「残念ね」
「そう思うなら我が国に戻って来てくればいいんじゃないか?」
「それは嫌よ」
ヴィットリオ・ヴェネトと久しぶりに会いたいのは山々であったが、この程度の不自由、瑞鶴の帝国に対する不信感と比べれば些細なものだ。
○
さて、ヴィットリオ・ヴェネトは世界でも最重要の人物が二人も同時に訪ねてくると知って、全力でもてなす準備を整えていた。別に彼女がやらなくても接待をする者は幾らでもいるのだが、自分の艦内で行われる会談に知らん顔を決め込むのは、彼女には無理であった。
「ヴェネト殿、まもなくヒトラー総統がお見えになります」
「分かりました……。頑張りましょう」
ヴェネトは大きく深呼吸して、ヒトラー総統に出迎えに岸壁に降りた。
「お初にお目にかかります、アドルフ・ヒトラー閣下。私はヴィットリオ・ヴェネトと申します」
「君がヴェネトの船魄か。あまり軍人という感じはしないな」
「よく言われます。私も時々、軍艦を辞めて海上レストランにでもなろうかと思うこともあります」
「ほう。君はそれでいいのかね?」
「イタリアの役に立てるのなら、私はどんな形でも構いません」
「ほう。軍人らしくはないが、良いイタリア国民のようだ」
「お褒めいただき光栄です。さあ閣下、会談場所までお連れいたします。車椅子をお押ししてよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
車椅子の総統の為、舷梯は長いスロープに取り替えられており、艦内も階段はスロープで覆われている。ヴェネトはドイツ親衛隊に護衛されながら、総統を会談場所となる食堂に連れていった。
「まだ天皇陛下は来られていないか」
「はい、陛下はまだいらっしゃっておりません。閣下におかれましては、暫しここでお待ちください。その間にワインでも如何ですか?」
「すまないが、私は酒を飲まないんだ」
完璧を期したかったヴェネトとしては痛恨のミスである。だがそれを表に出すことはなかった。
「何と……そうでしたか。失礼なことを申しあげました。それでは、葡萄でジュースを作りましょう」
「そこは葡萄にこだわるのか」
「お気に召しませんでしたか?」
「いやいや、そんなことはない。イタリアの作りたての葡萄ジュースとは、実に美味しそうじゃないか」
「ありがとうございます。暫しお待ちください」
ヴェネトは厨房に指示してジュースを作らせ、自らは総統の傍で待機していた。到着した葡萄ジュースを総統は痛く気に入ったようであった。
そんなことをしていると、今度は天皇が到着したとの連絡が入り、ヴェネトはすぐさま埠頭に降り立った。流石は現役の君主と言うべきか、華やかな軍服に身を包み、多くの自重に囲まれて現れた今上帝を前にして、ヴェネトは緊張のあまり呼吸が早くなってしまう。
「お待ちしておりました、天皇陛下。この艦の船魄、ヴィットリオ・ヴェネトと申します。早速ですが、会談場所までご案内させていただきます」
「――」
「いえいえ、私はやりたくてやっているのです。どうかお気になさらないでください」
そういう訳でヴィットリオ・ヴェネトは当今の帝を食堂に案内し、二人の国家元首は顔を合わせた。
今上帝とヒトラー総統は食堂のすぐ側にある士官室に入り、その入口は日本の憲兵隊、ドイツの親衛隊、イタリア海軍が厳重に警備して、虫一匹入れない構えである。士官室には両名の他には通訳しか入ることを許されず、会談の内容については誰も知ることはできなかった。
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