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第二十一章 北太平洋海戦
駆逐艦の危機
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那智に敵戦艦を発見したと伝えた峯風であったが、なかなか危機的な状況に晒されていた。相手は戦艦2隻と軽巡洋艦4隻に駆逐艦数隻と言ったところだが、峯風の周囲には駆逐艦三隻と軽巡洋艦二隻しかいないのである。一応は水雷戦隊の編成をしているが、艦種もバラバラの酷いものである。
駆逐艦というのは本来なら同型艦4隻で駆逐隊を編成して戦うものだが、現状帝国海軍でそれができている部隊はほとんどない。これは帝国海軍に限らず全世界的に駆逐艦が不足しているからである。余談になるがその理由は、原子力空母だろうと海防艦だろうと船魄を生み出す手間がほとんど変わらず、大型艦の船魄化が優先されてしまうからだ。
「クソッ。敵も苦し紛れというところだが、突破できる火力がないな」
主砲を敵の駆逐艦に向かって乱射しつつ、峯風は舌打ちした。
『ウチの軽巡洋艦って全体的に弱いからさ。仕方ないよねー』
と、面白がっているような口調で言うのは、島風型の長姉つまり峯風の一番上の姉、島風であった。島風型の中では唯一の戦中生まれであり、唯一人間の艦としての実戦経験がある。
「ああ。まったくだ。昔の最上型程度の軽巡洋艦を何隻か用意してくれれば助かるんだがな」
『ふふ、そうだね。ウチの阿賀野型はちょーっと弱過ぎるよねー』
「そんなこと本人に言うなよ、姉さん」
『ふふ。それはどうかな』
島風の指摘自体は正しいものであった。峯風はアメリカ軍を「人類の敵アイギス」と思っている僚艦に配慮して「敵の巡洋艦」などと呼んでいるが、つまるところ相手はクリーブランド級軽巡洋艦である。クリーブランド級は15.5cm砲12門を装備しているのに対し、日本の最新型である阿賀野型は僅かに6門。半分の火力ではどうしようもない。
このように日米の軽巡洋艦に圧倒的な能力差があるのは、別に日本の造船技術が劣っているという訳ではなく、設計思想の違いである。阿賀野型軽巡洋艦は敵の駆逐艦を撃沈することを目的にしているのであって、敵の巡洋艦と交戦することはあまり想定していないのだ。
「駆逐艦を幾ら沈めても、巡洋艦がいると手が出せないな」
『流石にちょっと近寄りたくはないよねー』
クリーブランド級からの砲撃を回避しつつ、阿賀野型の阿賀野と能代は駆逐艦をじっくり撃沈しているのだが、状況は好転していない。峯風達は敵の戦艦から1,500mほど離れてグルグル回りながら、好機が来るのを窺っていた。
『応援はまだ来ないのかなー? ちゃんと那智に言ったんだよね?』
「ああ。確かに返事ももらった。10分も掛からない筈なんだが、来ないな」
『もしかして別の敵に襲われてたりするのかなー?』
「この暗闇だ。偶然奇襲されてもおかしくはないだろうな」
『それは困るね』
「文句ばっかり言ってないで、少しは作戦でも考えたらどうだ?」
『あー、うん。考えておくよ』
「……」
島風には全く期待できないが、とは言え峯風も作戦を立案するのは仕事ではないので、せっかくの島風型の性能を敵から逃げ回ることにしか使えなかった。
○
その那智達は、敵軍の航空隊の襲撃を受けて足止めを喰らっていた。
「どうしてこんな所に艦載機がいるの!?」
『分かんないけど、全部落とせばいいだけだよ!』
『私達を狙ってやって来た訳ではなさそうですが、足止めされるのは困ったものですね』
この暗闇の中で航空機を飛ばすのは自殺行為だ。レーダーが全て破壊されたこの状況、特定の部隊を狙って攻撃してくるなどまず不可能である。那智が攻撃されているのは偶然の産物に違いないのだが、番狂わせにしてはこれ以上ない偶然であった。
○
さて、これほど大規模な襲撃を行うと、流石のアメリカ軍もそこに主力部隊がいると気付く。とは言え報告は相変わらず混乱していて話にならないので、シャーマン大将はレキシントンに航空隊を出させて上空から事態を把握しようとしていた。
諸々の報告を受け取る必要があるのでシャーマン大将は司令室に残り、艦橋のレキシントンとは常に無線電話を繋いでいる。
『敵の重巡洋艦3隻と接敵してしまったよ。叩いておいた方がいいかな?』
「……偵察に影響が出ない程度に足止めしておいてくれ」
『分かった』
「とにかく逸早く、最前線の状況を把握してくれ。ノースカロライナが攻撃を受けていることは分かっている」
『できる限り努力してみるよ』
「頼んだぞ……」
レキシントンは戦闘機を中心に偵察を行う。敵味方入り乱れる最前線の上空に到達するが、すぐさま日本軍の対空砲火が襲ってきた。
『困ったな。対空砲火が激しくて近寄れないよ』
「……ならば、今見えているものを報告してくれ」
『一際大きいのが1隻、私の艦載機を撃ちまくってきているね。あれは武尊型とかいう奴かな。他には……巡洋艦クラスの艦が2隻だけしか見えないよ』
「そんな僅かな兵力に撹乱されていたというのか……」
『あんまりよく見えないから、もっといるかもしれないけど』
「いや、巡洋艦以上の艦を見落としていなければ十分だ。状況は、おおよそ把握した」
『そうか。よかったね』
日本軍はもう前衛部隊になど構わず、後方の戦艦を撃沈しに向かっている。そして前衛部隊はほんの少数の敵艦に翻弄され、遊兵と化してしまっている。シャーマン大将はおおよその状況を把握することに成功した。
駆逐艦というのは本来なら同型艦4隻で駆逐隊を編成して戦うものだが、現状帝国海軍でそれができている部隊はほとんどない。これは帝国海軍に限らず全世界的に駆逐艦が不足しているからである。余談になるがその理由は、原子力空母だろうと海防艦だろうと船魄を生み出す手間がほとんど変わらず、大型艦の船魄化が優先されてしまうからだ。
「クソッ。敵も苦し紛れというところだが、突破できる火力がないな」
主砲を敵の駆逐艦に向かって乱射しつつ、峯風は舌打ちした。
『ウチの軽巡洋艦って全体的に弱いからさ。仕方ないよねー』
と、面白がっているような口調で言うのは、島風型の長姉つまり峯風の一番上の姉、島風であった。島風型の中では唯一の戦中生まれであり、唯一人間の艦としての実戦経験がある。
「ああ。まったくだ。昔の最上型程度の軽巡洋艦を何隻か用意してくれれば助かるんだがな」
『ふふ、そうだね。ウチの阿賀野型はちょーっと弱過ぎるよねー』
「そんなこと本人に言うなよ、姉さん」
『ふふ。それはどうかな』
島風の指摘自体は正しいものであった。峯風はアメリカ軍を「人類の敵アイギス」と思っている僚艦に配慮して「敵の巡洋艦」などと呼んでいるが、つまるところ相手はクリーブランド級軽巡洋艦である。クリーブランド級は15.5cm砲12門を装備しているのに対し、日本の最新型である阿賀野型は僅かに6門。半分の火力ではどうしようもない。
このように日米の軽巡洋艦に圧倒的な能力差があるのは、別に日本の造船技術が劣っているという訳ではなく、設計思想の違いである。阿賀野型軽巡洋艦は敵の駆逐艦を撃沈することを目的にしているのであって、敵の巡洋艦と交戦することはあまり想定していないのだ。
「駆逐艦を幾ら沈めても、巡洋艦がいると手が出せないな」
『流石にちょっと近寄りたくはないよねー』
クリーブランド級からの砲撃を回避しつつ、阿賀野型の阿賀野と能代は駆逐艦をじっくり撃沈しているのだが、状況は好転していない。峯風達は敵の戦艦から1,500mほど離れてグルグル回りながら、好機が来るのを窺っていた。
『応援はまだ来ないのかなー? ちゃんと那智に言ったんだよね?』
「ああ。確かに返事ももらった。10分も掛からない筈なんだが、来ないな」
『もしかして別の敵に襲われてたりするのかなー?』
「この暗闇だ。偶然奇襲されてもおかしくはないだろうな」
『それは困るね』
「文句ばっかり言ってないで、少しは作戦でも考えたらどうだ?」
『あー、うん。考えておくよ』
「……」
島風には全く期待できないが、とは言え峯風も作戦を立案するのは仕事ではないので、せっかくの島風型の性能を敵から逃げ回ることにしか使えなかった。
○
その那智達は、敵軍の航空隊の襲撃を受けて足止めを喰らっていた。
「どうしてこんな所に艦載機がいるの!?」
『分かんないけど、全部落とせばいいだけだよ!』
『私達を狙ってやって来た訳ではなさそうですが、足止めされるのは困ったものですね』
この暗闇の中で航空機を飛ばすのは自殺行為だ。レーダーが全て破壊されたこの状況、特定の部隊を狙って攻撃してくるなどまず不可能である。那智が攻撃されているのは偶然の産物に違いないのだが、番狂わせにしてはこれ以上ない偶然であった。
○
さて、これほど大規模な襲撃を行うと、流石のアメリカ軍もそこに主力部隊がいると気付く。とは言え報告は相変わらず混乱していて話にならないので、シャーマン大将はレキシントンに航空隊を出させて上空から事態を把握しようとしていた。
諸々の報告を受け取る必要があるのでシャーマン大将は司令室に残り、艦橋のレキシントンとは常に無線電話を繋いでいる。
『敵の重巡洋艦3隻と接敵してしまったよ。叩いておいた方がいいかな?』
「……偵察に影響が出ない程度に足止めしておいてくれ」
『分かった』
「とにかく逸早く、最前線の状況を把握してくれ。ノースカロライナが攻撃を受けていることは分かっている」
『できる限り努力してみるよ』
「頼んだぞ……」
レキシントンは戦闘機を中心に偵察を行う。敵味方入り乱れる最前線の上空に到達するが、すぐさま日本軍の対空砲火が襲ってきた。
『困ったな。対空砲火が激しくて近寄れないよ』
「……ならば、今見えているものを報告してくれ」
『一際大きいのが1隻、私の艦載機を撃ちまくってきているね。あれは武尊型とかいう奴かな。他には……巡洋艦クラスの艦が2隻だけしか見えないよ』
「そんな僅かな兵力に撹乱されていたというのか……」
『あんまりよく見えないから、もっといるかもしれないけど』
「いや、巡洋艦以上の艦を見落としていなければ十分だ。状況は、おおよそ把握した」
『そうか。よかったね』
日本軍はもう前衛部隊になど構わず、後方の戦艦を撃沈しに向かっている。そして前衛部隊はほんの少数の敵艦に翻弄され、遊兵と化してしまっている。シャーマン大将はおおよその状況を把握することに成功した。
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