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第二十二章 アメリカ本土決戦
重巡決戦
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ドイツ軍の砲弾は初弾からデモインに4発ほど命中した。それに対しアメリカ軍の砲弾は全て至近弾であった。
『ふむ。確かに砲弾が弾き返されているようですね』
「言ったでしょう? 面倒な相手だって」
『であれば、魚雷を叩き込むとしましょう! 突撃です!』
『確かに、確実に損傷を与えるには魚雷を使うのがいいだろうが……』
砲撃が効果を産まなさそうなので、ヒッパーはブリュッヒャーの提案も現実的なものに思えた。
『しかし、デモイン級の主砲は毎分10発撃てます。近寄るのは危険かと』
ザイドリッツはヒッパーに警告する。デモイン級の主砲は重巡洋艦の主砲としては間違いなく世界一の射撃速度を誇っている。弾着を観測しないと次が撃てないので、距離がある程度離れていれば大して意味を持たないが、近寄れば近寄るほど危険は増す。
『なるほど。確かに、全力で射撃されると火力は大して変わらないな』
アトミラール・ヒッパー級の射撃速度は近代化改装を経ても毎分6発程度。大幅に劣っていると言わざるを得ないだろう。ヒッパーは取り敢えず現状を維持することに決定した。
双方の砲撃は徐々に精度を増していき、三度目の斉射でブリュッヒャーが被弾してしまう。左舷中央部に一発が命中した。
『クッ……やってくれますね……』
『大丈夫か、ブリュッヒャー?』
『この程度、どうということはありません』
「しかし、真面目に戦ってみると思ったより面倒ねえ。このまま撃ち合いを続けるのかしら、ヒッパー?」
『少し考える』
「そんな暇はないと思うけど」
ヒッパーは結論を出せずにいた。魚雷を叩き込めば勝てることは間違いないだろうが、近距離で大量の主砲弾を喰らえば誰かが沈む可能性もある。姉としてその危険を冒すことはできなかった。
と、その時であった。ザイドリッツが姉妹達に呼び掛ける。
『――どうやら援軍が来るようです。私達には敵の速力を可能な限り落として欲しいとのことです』
「あら、面白くなってきたじゃない」
『了解した。全艦、デモインの艦尾と艦首に火力を集中しろ!』
ヒッパーは命令を下した。艦首や艦尾を狙っていてはどうやっても致命傷にはならないが、艦首を損傷させれば凌波性が悪化するし、艦尾を狙えばスクリューや舵を損傷させられるかもしれない。
○
「艦首に損傷。速力が低下する」
「急に狙いを変えてきたな。何を考えている……?」
デモインとニューポート・ニューズを指揮するのはこれまで通りケネディ少将である。ドイツの重巡洋艦達が急にデモインの急所以外を狙い始めた意図を、少将は掴みかねていた。
「私のスピードを落として、輸送船団が逃げ切ろうとしている?」
「いや、この程度の速力低下では、輸送船が逃げ切るなんてことは不可能だ」
「じゃあ、よく分からない」
「私も同感だ」
装甲が比較的薄い艦首や艦尾を狙われ、デモインは遠目にも分かるほど損傷しているが、戦闘継続に支障はない。寧ろドイツの重巡洋艦達の方が船体の各所から煙を上げている。
と、その時であった。デモインはレーダーに新たな艦影を捉えた。
「敵の新手。大きさはおよそ200m。ここから40kmにいる」
「ドイツの重巡洋艦だろうか。デモイン、直ちに偵察機を出してくれ」
「分かった」
時代遅れになりつつあるが、デモインは水上機を搭載している。カタパルトで発艦させ、敵艦を直接確認しに向かう。
「敵は重巡洋艦みたいだけど、主砲塔が2基しかない奇妙な形をしている」
「それは3連装砲塔か?」
「うん」
「なるほど……」
ケネディ少将は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「敵は何なの?」
「その独特の艦影は、ドイツのリュッツオウ級重巡洋艦しか考えられない」
アトミラール・グラーフ・シュペーも属しているリュッツオウ級である。
「それがどうして脅威なの?」
「あれは数は少ないとは言え28cm砲を装備している。君の装甲では耐えきれない」
「それは……。っ、敵艦撃ってきた」
「回避だ! ニューポート・ニューズにも伝えろ!」
デモインとニューポート・ニューズはこの戦い始まって初めて回避行動を取った。だが、艦首が損傷しているせいで上手く動けない。それに今回は運が悪かった。デモインの右舷中央部を28cm砲弾が貫いたのだ。
「痛い……!」
「やはり貫通されたか……。既に同等の戦力と交戦している状況でこれは分が悪い。撤収する。急ぐんだ!」
「…………」
デモインは何の返事もしない。
「デモイン?」
「こ、怖い……怖いよ……」
デモインは震えながら、譫言のようにそう呟くばかりであった。彼女がとても命令など聞いていられる状態ではないと、ケネディ少将はすぐさま判断した。
「艦長、デモイン全艦を手動操艦に切り替えよ! 全速力で撤退する!」
この時ばかりはアメリカ海軍の方針が功を奏した。デモインの制御は船魄から人間の手に渡り、すぐさま針路を反転して撤退を始める。幸いにしてリュッツオウ級は速力が低く、逃げ切ることは容易であった。任務は完全に失敗であるが。
「まさか船魄が怖気付くとは。本当に大丈夫なんでしょうか、閣下?」
「我々だって戦車が機銃の銃口を向けてきたら蜘蛛の子を散らすように逃げ出すだろう。こんな小さな少女に勇敢であれと期待する方が間違っている」
ケネディ少将は淀みなく言い切った。デモインにそれ以上文句を付ける者はいなかった。
『ふむ。確かに砲弾が弾き返されているようですね』
「言ったでしょう? 面倒な相手だって」
『であれば、魚雷を叩き込むとしましょう! 突撃です!』
『確かに、確実に損傷を与えるには魚雷を使うのがいいだろうが……』
砲撃が効果を産まなさそうなので、ヒッパーはブリュッヒャーの提案も現実的なものに思えた。
『しかし、デモイン級の主砲は毎分10発撃てます。近寄るのは危険かと』
ザイドリッツはヒッパーに警告する。デモイン級の主砲は重巡洋艦の主砲としては間違いなく世界一の射撃速度を誇っている。弾着を観測しないと次が撃てないので、距離がある程度離れていれば大して意味を持たないが、近寄れば近寄るほど危険は増す。
『なるほど。確かに、全力で射撃されると火力は大して変わらないな』
アトミラール・ヒッパー級の射撃速度は近代化改装を経ても毎分6発程度。大幅に劣っていると言わざるを得ないだろう。ヒッパーは取り敢えず現状を維持することに決定した。
双方の砲撃は徐々に精度を増していき、三度目の斉射でブリュッヒャーが被弾してしまう。左舷中央部に一発が命中した。
『クッ……やってくれますね……』
『大丈夫か、ブリュッヒャー?』
『この程度、どうということはありません』
「しかし、真面目に戦ってみると思ったより面倒ねえ。このまま撃ち合いを続けるのかしら、ヒッパー?」
『少し考える』
「そんな暇はないと思うけど」
ヒッパーは結論を出せずにいた。魚雷を叩き込めば勝てることは間違いないだろうが、近距離で大量の主砲弾を喰らえば誰かが沈む可能性もある。姉としてその危険を冒すことはできなかった。
と、その時であった。ザイドリッツが姉妹達に呼び掛ける。
『――どうやら援軍が来るようです。私達には敵の速力を可能な限り落として欲しいとのことです』
「あら、面白くなってきたじゃない」
『了解した。全艦、デモインの艦尾と艦首に火力を集中しろ!』
ヒッパーは命令を下した。艦首や艦尾を狙っていてはどうやっても致命傷にはならないが、艦首を損傷させれば凌波性が悪化するし、艦尾を狙えばスクリューや舵を損傷させられるかもしれない。
○
「艦首に損傷。速力が低下する」
「急に狙いを変えてきたな。何を考えている……?」
デモインとニューポート・ニューズを指揮するのはこれまで通りケネディ少将である。ドイツの重巡洋艦達が急にデモインの急所以外を狙い始めた意図を、少将は掴みかねていた。
「私のスピードを落として、輸送船団が逃げ切ろうとしている?」
「いや、この程度の速力低下では、輸送船が逃げ切るなんてことは不可能だ」
「じゃあ、よく分からない」
「私も同感だ」
装甲が比較的薄い艦首や艦尾を狙われ、デモインは遠目にも分かるほど損傷しているが、戦闘継続に支障はない。寧ろドイツの重巡洋艦達の方が船体の各所から煙を上げている。
と、その時であった。デモインはレーダーに新たな艦影を捉えた。
「敵の新手。大きさはおよそ200m。ここから40kmにいる」
「ドイツの重巡洋艦だろうか。デモイン、直ちに偵察機を出してくれ」
「分かった」
時代遅れになりつつあるが、デモインは水上機を搭載している。カタパルトで発艦させ、敵艦を直接確認しに向かう。
「敵は重巡洋艦みたいだけど、主砲塔が2基しかない奇妙な形をしている」
「それは3連装砲塔か?」
「うん」
「なるほど……」
ケネディ少将は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「敵は何なの?」
「その独特の艦影は、ドイツのリュッツオウ級重巡洋艦しか考えられない」
アトミラール・グラーフ・シュペーも属しているリュッツオウ級である。
「それがどうして脅威なの?」
「あれは数は少ないとは言え28cm砲を装備している。君の装甲では耐えきれない」
「それは……。っ、敵艦撃ってきた」
「回避だ! ニューポート・ニューズにも伝えろ!」
デモインとニューポート・ニューズはこの戦い始まって初めて回避行動を取った。だが、艦首が損傷しているせいで上手く動けない。それに今回は運が悪かった。デモインの右舷中央部を28cm砲弾が貫いたのだ。
「痛い……!」
「やはり貫通されたか……。既に同等の戦力と交戦している状況でこれは分が悪い。撤収する。急ぐんだ!」
「…………」
デモインは何の返事もしない。
「デモイン?」
「こ、怖い……怖いよ……」
デモインは震えながら、譫言のようにそう呟くばかりであった。彼女がとても命令など聞いていられる状態ではないと、ケネディ少将はすぐさま判断した。
「艦長、デモイン全艦を手動操艦に切り替えよ! 全速力で撤退する!」
この時ばかりはアメリカ海軍の方針が功を奏した。デモインの制御は船魄から人間の手に渡り、すぐさま針路を反転して撤退を始める。幸いにしてリュッツオウ級は速力が低く、逃げ切ることは容易であった。任務は完全に失敗であるが。
「まさか船魄が怖気付くとは。本当に大丈夫なんでしょうか、閣下?」
「我々だって戦車が機銃の銃口を向けてきたら蜘蛛の子を散らすように逃げ出すだろう。こんな小さな少女に勇敢であれと期待する方が間違っている」
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