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第二十八章 海上補給線
ソ連の奇策Ⅱ
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シャーマン大将は幕僚達と相談の上、結論を下した。
「ソ連艦隊は、放置することにした」
「そうなのかい? 今こそ攻撃すべきだと思うんだけど」
「もしも彼らがUSAを見捨てて逃げるつもりならば、刺激しない方がいい。ソ連が諦めてくれれば、我々は絶対的な優位を確保できる」
「諦めてくれなかったら、どうする?」
「その時はその時だ。いずれにせよ、敵艦隊が分断されたことに違いはない。再び合流しようとするのなら、全力で攻撃するまでだ」
「分かった。そうしよう。私は偵察を続けていればいいのかな?」
「頼む。敵に妙な動きがあったら、すぐに伝えてくれ」
レキシントンはただ敵を観察し続ける。ポルトープランスにUSA艦艇を残し、ソ連艦隊は一直線に西進を始める。その針路の先にあるのはソ連海軍の拠点、コスタリカであった。
○
それから3日。米ソ連合艦隊は表面上は解散状態になっている。USA海軍太平洋艦隊はポルトープランスに、ソ連海軍太平洋艦隊はニカラグアのプエルト・カベサス海軍基地に入港していた。
ソ連海軍の突然の行動にCA海軍や月虹は戸惑っていたが、ソ連が撤退してくれることに期待して、ソ連海軍にもUSA海軍にも手を出していなかった。無論、戦争の激化を避ける為、コスタリカに手を出す訳にはいかない。
フルシチョフ書記長が何か声明を出すことに期待して待っていると、レキシントンに通信が掛かってきた。
『あー、姉さん、ソ連が動き出したんだけど』
気だるそうな声は、レキシントンの妹サラトガのものである。
「港から出てきたのかな?」
『うん。続々とプエルト・カベサスから出てきてる』
「分かった。シャーマン大将に言っておくよ」
『あー、うん、よろしく』
レキシントンがそのことをシャーマン大将に伝えると、シャーマン大将はすぐに自らサラトガに通信を繋いだ。
「海軍軍令部長のシャーマンだ。サラトガ、ソ連軍の様子を詳細に伝えてくれ」
『詳細にって言われても、どんどん港から出てるってだけなんだけど』
「敵の規模は? どれほどの艦が港を出たんだ?」
『戦艦は全部出てるよ。ああ、空母もどっちも出てる』
「なるほど。つまりニカラグアから全戦力で打って出たということか」
『多分そうなんじゃない? 知らないけど』
「偵察ご苦労。引き続き、敵の動向に注意を――」
『あー、面倒臭いから姉さんに代わってもらえない?』
と、サラトガは海軍で一番偉い人間に向かって堂々とサボりを要求した。シャーマン大将もサラトガがそういう船魄だと分かっているので、一々咎めることもしない。わざとらしく溜息を吐いて、レキシントンに声を掛ける。
「分かった。レキシントン、構わないか?」
「問題ないよ」
「では、頼む。ソ連海軍の動きを決して見逃すな」
という訳で偵察の任務はレキシントンが引き継ぎ、彼女の艦載機はソ連艦隊を詳細に観測する。
ソ連海軍は損傷が激しい艦のみを残し、そのほぼ全戦力をプエルト・カベサスから出撃させた。その向かう先は北東、つまりハイチ方面であった。どうやら太平洋に逃げ帰るつもりなど毛頭ないらしい。
「ソ連は何を考えているんだろうね。ニカラグアに戻って補給を受けても、どうせ砲弾を消耗するだけだと思うんだけど」
「確かに、意味がない行動だと言わざるを得ないが……」
「どうする?」
「ソ連に諦めるつもりがないというのなら、攻撃するまでだ。瑞鶴に連絡を取る。ソ連に耐え難い損害を与えるのだ。船魄を殺すことも、やむを得ない」
米ソ連合艦隊が勝手に半分になっている。これ以上の好機を逃がす訳にはいかない。シャーマン大将は投入可能な全ての艦載機を動かしてソ連艦隊を攻撃すると決定した。
だが、そのほんの数十分後のことであった。
「大将閣下! ノーフォークのUSA艦隊が動き始めました!」
アメリカ連保がノーフォーク海軍基地の周辺に潜ませておいたスパイからの報告である。
「ふむ……。ソ連と呼応しているのは間違いないが、一体何を考えている……」
USAの首都ワシントン近くから、モンタナ級のモンタナとオハイオ、それにアイオワ級のミズーリとウィスコンシンを中核とするUSA大西洋艦隊が出撃した。これを放置すればすぐフロリダ海峡までやって来て、CA海軍主力部隊が攻撃を受ける。
だが、これはそれほど脅威ではない。アメリカ東海岸はヴァンガード率いるイギリス海軍と大和が守ってくれているのだから。とは言え、前回の戦闘ではモンタナとオハイオだけだったところ、ミズーリとウィスコンシンが加わっており、決して侮っていい相手ではない。
シャーマン大将はヴァンガードに敵艦隊の迎撃を依頼した。
『――状況は理解しました。ミズーリとウィスコンシンは、それだけなら大した戦力ではありませんが、モンタナと一緒にいるのは厄介です』
「どうだろうか? 何とかできるか?」
『大和に頼ることになりそうですが、追い返すくらいはできますかと。しかし……フランスは何をしているのですか? 影も形も見えませんが』
「フランス海軍は燃料が調達できないから出撃できないそうだ」
『……そうですか』
「とにかく、北の守りは任せた。頼んだぞ」
『はっ。お任せください』
という訳でヴァンガード達は、再びモンタナ級戦艦に挑むことになる。
「ソ連艦隊は、放置することにした」
「そうなのかい? 今こそ攻撃すべきだと思うんだけど」
「もしも彼らがUSAを見捨てて逃げるつもりならば、刺激しない方がいい。ソ連が諦めてくれれば、我々は絶対的な優位を確保できる」
「諦めてくれなかったら、どうする?」
「その時はその時だ。いずれにせよ、敵艦隊が分断されたことに違いはない。再び合流しようとするのなら、全力で攻撃するまでだ」
「分かった。そうしよう。私は偵察を続けていればいいのかな?」
「頼む。敵に妙な動きがあったら、すぐに伝えてくれ」
レキシントンはただ敵を観察し続ける。ポルトープランスにUSA艦艇を残し、ソ連艦隊は一直線に西進を始める。その針路の先にあるのはソ連海軍の拠点、コスタリカであった。
○
それから3日。米ソ連合艦隊は表面上は解散状態になっている。USA海軍太平洋艦隊はポルトープランスに、ソ連海軍太平洋艦隊はニカラグアのプエルト・カベサス海軍基地に入港していた。
ソ連海軍の突然の行動にCA海軍や月虹は戸惑っていたが、ソ連が撤退してくれることに期待して、ソ連海軍にもUSA海軍にも手を出していなかった。無論、戦争の激化を避ける為、コスタリカに手を出す訳にはいかない。
フルシチョフ書記長が何か声明を出すことに期待して待っていると、レキシントンに通信が掛かってきた。
『あー、姉さん、ソ連が動き出したんだけど』
気だるそうな声は、レキシントンの妹サラトガのものである。
「港から出てきたのかな?」
『うん。続々とプエルト・カベサスから出てきてる』
「分かった。シャーマン大将に言っておくよ」
『あー、うん、よろしく』
レキシントンがそのことをシャーマン大将に伝えると、シャーマン大将はすぐに自らサラトガに通信を繋いだ。
「海軍軍令部長のシャーマンだ。サラトガ、ソ連軍の様子を詳細に伝えてくれ」
『詳細にって言われても、どんどん港から出てるってだけなんだけど』
「敵の規模は? どれほどの艦が港を出たんだ?」
『戦艦は全部出てるよ。ああ、空母もどっちも出てる』
「なるほど。つまりニカラグアから全戦力で打って出たということか」
『多分そうなんじゃない? 知らないけど』
「偵察ご苦労。引き続き、敵の動向に注意を――」
『あー、面倒臭いから姉さんに代わってもらえない?』
と、サラトガは海軍で一番偉い人間に向かって堂々とサボりを要求した。シャーマン大将もサラトガがそういう船魄だと分かっているので、一々咎めることもしない。わざとらしく溜息を吐いて、レキシントンに声を掛ける。
「分かった。レキシントン、構わないか?」
「問題ないよ」
「では、頼む。ソ連海軍の動きを決して見逃すな」
という訳で偵察の任務はレキシントンが引き継ぎ、彼女の艦載機はソ連艦隊を詳細に観測する。
ソ連海軍は損傷が激しい艦のみを残し、そのほぼ全戦力をプエルト・カベサスから出撃させた。その向かう先は北東、つまりハイチ方面であった。どうやら太平洋に逃げ帰るつもりなど毛頭ないらしい。
「ソ連は何を考えているんだろうね。ニカラグアに戻って補給を受けても、どうせ砲弾を消耗するだけだと思うんだけど」
「確かに、意味がない行動だと言わざるを得ないが……」
「どうする?」
「ソ連に諦めるつもりがないというのなら、攻撃するまでだ。瑞鶴に連絡を取る。ソ連に耐え難い損害を与えるのだ。船魄を殺すことも、やむを得ない」
米ソ連合艦隊が勝手に半分になっている。これ以上の好機を逃がす訳にはいかない。シャーマン大将は投入可能な全ての艦載機を動かしてソ連艦隊を攻撃すると決定した。
だが、そのほんの数十分後のことであった。
「大将閣下! ノーフォークのUSA艦隊が動き始めました!」
アメリカ連保がノーフォーク海軍基地の周辺に潜ませておいたスパイからの報告である。
「ふむ……。ソ連と呼応しているのは間違いないが、一体何を考えている……」
USAの首都ワシントン近くから、モンタナ級のモンタナとオハイオ、それにアイオワ級のミズーリとウィスコンシンを中核とするUSA大西洋艦隊が出撃した。これを放置すればすぐフロリダ海峡までやって来て、CA海軍主力部隊が攻撃を受ける。
だが、これはそれほど脅威ではない。アメリカ東海岸はヴァンガード率いるイギリス海軍と大和が守ってくれているのだから。とは言え、前回の戦闘ではモンタナとオハイオだけだったところ、ミズーリとウィスコンシンが加わっており、決して侮っていい相手ではない。
シャーマン大将はヴァンガードに敵艦隊の迎撃を依頼した。
『――状況は理解しました。ミズーリとウィスコンシンは、それだけなら大した戦力ではありませんが、モンタナと一緒にいるのは厄介です』
「どうだろうか? 何とかできるか?」
『大和に頼ることになりそうですが、追い返すくらいはできますかと。しかし……フランスは何をしているのですか? 影も形も見えませんが』
「フランス海軍は燃料が調達できないから出撃できないそうだ」
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