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町での仕入れ
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冒険者ギルドの前では、冒険者たちを送り出した王国第二騎士団の馬車が帰還し、次々と集まり始めていた。
「エドガー王子、こちらにおられましたか。そろそろ我が所領へ向かいましょう」
そう声をかけたのは、西の侯爵家の当主、マリスティア侯爵だった。
「だがな、お前の親父にも反逆の嫌疑がかかっている。そんな場所に行けるわけがないだろう」
「ご安心を。心配には及びません。奴は動けませんよ。もし動けば――ヴァイオレット様の身柄が保証できない、と申し上げてあります」
「……だが、まだ見つかっておらん」
「であれば、見つけ出せばよいのです。そうでは?」
「ああ、そうだな」
「ところで、ライオネル王子はどちらに?」
「兄上なら、聖王国へ向かっている」
「魔物の討伐や、ヴァイオレット王女の誘拐事件を差し置いて、ですか?」
「ああ。兄上は、ソラリス聖王女にアストリア様の面影を見ている。この機会に手に入れるつもりなのだろう」
「ですが……血のつながりがあるのでは?」
「どうだろうな。父上に、そんな器量があるとは思えんが」
「なるほど」
「それにしても、王国の一大事よりも女の尻を追うとは……王になる自覚がないと言われても仕方がない。気の毒だがな」
「それは――我々にとっては、むしろ好都合ですね」
※
アキラ達は冒険者ギルドの中にいた。
「アキラさん、すみませんでした」ハートフェルトは冒険者ギルドの受付リアナに呼ばれ、慌ててギルドにやってきた。到着した時、ギルドの中はほとんどの人が出払っており、いつもと変わらぬ静けさが漂っていた。
「いえ。それでは行きましょう」アキラはそう言いながら市場へと向かう。すでに注文を済ませていたようで、次々と食材が運ばれてくる。
「アキラさん、私も買い物をしたいのですが」とノワールが言うと、ハートフェルトは驚いて彼女を見た。
「ああ、紹介がまだでしたね。彼女はノワです。知り合いの子ですが、小さいながらもしっかりしていて、仕事を任せています。支払いはもちろん一緒にします」
事前に彼女と支払いを立て替えることについては話してあった。
「そうですか。アキラさんの周りには、すごい方が多いですね」商人はノワールの手際を見て感心し、目を細めた。
ノワールは市場の数店舗を次々と回りながら、目利きし、高級食材を効率よく買い集める。ウエストグレンの小さな市場では品数も限られているため、買い終わるのに時間はかからなかった。
市場の店主たちは、小柄なノワールの知識に驚きを隠せない。
「これ、食べられるんですか?」とノクスが興味深げに尋ねる。
「もちろんです。大きな魚でしょ。マグコ、これとっても美味しいですよ。セーヴァスの港から、大船で大西海に漁に出るんです」リアナが答えた。
ハイエルフのノクスは楽しそうに市場を歩き回り、リアナは試食や案内に忙しい。彼女は監視役のはずだが、監視の目を欺く作戦は上手くいっているようだ。
「終わりました。アキラさんの方はどうですか?」
「ああ、あと少しだ。これが頼まれていたものだ」
「私も手伝いますね」ハートフェルトはリストに書かれた文字を見て目を見張った。「ああ、そういうことか」と小さくつぶやく。
そこには、見慣れたダリオスの筆跡があった。師匠について尋ねたかったが、今は適切な場所ではない。
「食料品以外の衣料雑貨や工具類、植物の種や苗は馬車に積んであります。すべては兄弟子の商会に預けておきました。追加分もすぐに準備できます」
リアナが忙しくしている間に、アキラはそっと空間倉庫を開き、全ての品物をそこにしまった。購入品がどこにも見当たらないことに気づいたリアナだったが、ハートフェルトの「後で届けます」という言葉にすんなり納得した。
「僕たちは、ネグロクサ商会と武器屋に行く予定です。その間に準備を進めてください。場所も教えてください。それと、鶏と子牛も手配してもらえますか?保冷庫と動かすための魔法石も必要です。追加資金は100ドラゴニア金貨で足りますか?」
「わかりました。ケイオス商会でお待ちしてます。商会街の外れにあります。ちなみに、ネグロクサ商会は昨日、名前が商会連合に変わりました」
「え!どうしてですか?」ノワールは驚いた。
「詳しい事情は箝口令が敷かれていて、わかりません。ただ、これだけ大きな商いをしているのに、こちらへの接触がないのは確かに不自然です。」ハートフェルトは状況の変化に気づき、考え込んだ。
「まあ、これから行くので、探ってみましょう」
※
町の中心に構える元ネグロクサ商会の建物は、今も立派な外観を保ち、内部も落ち着いた雰囲気で営業を続けていた。店員たちの応対も、丁寧かつ洗練されている。
「アリア様の使いの方ですね。以前ご注文いただいた品、準備できております。苦労しましたよ。世界中を探しましたから。こちらが販売していただくポーション2本です。では、確認とお会計をさせていただきます」
連合商会の商人は、スマートメガネをかけ、てきぱきと仕事を進めていく。
「ところで、ネグロクサ商会って、どうして無くなったんですか? 教えてもらえませんか?」アキラが率直に尋ねる。
「よく聞かれますよ。でも、正確には“無くなった”わけではありません。簡単に言えば、海賊と商会に分かれたのです。魔物の出現が影響していましてね」
「そんなこと、話していいの?」アキラはやや警戒しながら聞き返す。
「はは、大丈夫です。お客様の信用が第一ですから。それに、私は魔物と戦うのは性に合わなくて。商人の道を選んだまでですよ」
その間、リアナとノワールは、机の上のチョコを取り合いながら紅茶を楽しんでいた。
「このチョコ、ほしい。お友達がきっと喜ぶ」ノワールが子供のような顔でつぶやいた。
「それでしたら、シシルナ島のチョコですね。素朴な味ですが、人気があります。販売もしておりますよ」それを聞きつけた商人がにこやかに反応する。
「で、いくらですか?」アキラが尋ねる。
「最近は魔物の影響で運送料が高騰しておりまして、1箱あたり金貨10枚になります」商人は商人らしい言い訳を添えた。
「では、20箱ください」
王国金貨はドラゴニア金貨の10分の1。アキラにとって、それほどの額ではなかった。
商人はアキラを一瞥してから、後ろに控えるハイエルフのノクスを見て納得した様子で「かしこまりました。準備いたします」と応じた。
「わーい!」ノワールが嬉しそうに歓声を上げる。
奥から会計係が現れ、トレイに金貨と証文を載せて差し出す。
「こちらがお会計になります。ポーションは上級品でしたので、1本金貨5,000枚。2本で10,000枚となります。良い品をありがとうございます。お売りする分がこちらになります。ご確認ください。合計で金貨12,000枚です」
「……それは……」アキラは妥当な金額かどうか、まったく見当がつかなかった。そんな様子を見た商人は、何かを勘違いしたらしく、慌てて言葉を続けた。
「そうですね、本来なら金貨12,000枚ですが……今回はお値引きして9,800枚にいたしましょう。チョコが金貨200枚ですので、ちょうど10,000枚ですね。今後もポーションを優先的にいただけると嬉しいです。アリア様にも、そうお伝えください」
白百合に盾の紋章が入った、小ぶりで立派な箱が開かれる。中には、萎びた草とくすんだ石。
アリアが求めていたもの。それが本物かどうか、アキラには判断がつかなかった。
ラピスがいるのを感じたアキラがラピスに尋ねると、彼女は即答した。
「間違いありません。本物のソウルヴァインと冥石です。よくぞ手に入れてくださいました」
ラピスの声には、弾けるような喜びがこもっていた。
「よかった……ところで、これらの品、どこで手に入れたんですか?」
「それは……口が裂けても申し上げられません。それが、商人の掟ですから」
何でも話しそうな様子だった商人は、この件については急に口を閉ざした。
「わかりました。またお願いするかもしれません」
アキラはチョコと、何よりも貴重な品をリュックに詰めた。
こうして商会連合を後にし、一行は次なる目的地へと向かっていった。
「エドガー王子、こちらにおられましたか。そろそろ我が所領へ向かいましょう」
そう声をかけたのは、西の侯爵家の当主、マリスティア侯爵だった。
「だがな、お前の親父にも反逆の嫌疑がかかっている。そんな場所に行けるわけがないだろう」
「ご安心を。心配には及びません。奴は動けませんよ。もし動けば――ヴァイオレット様の身柄が保証できない、と申し上げてあります」
「……だが、まだ見つかっておらん」
「であれば、見つけ出せばよいのです。そうでは?」
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「ところで、ライオネル王子はどちらに?」
「兄上なら、聖王国へ向かっている」
「魔物の討伐や、ヴァイオレット王女の誘拐事件を差し置いて、ですか?」
「ああ。兄上は、ソラリス聖王女にアストリア様の面影を見ている。この機会に手に入れるつもりなのだろう」
「ですが……血のつながりがあるのでは?」
「どうだろうな。父上に、そんな器量があるとは思えんが」
「なるほど」
「それにしても、王国の一大事よりも女の尻を追うとは……王になる自覚がないと言われても仕方がない。気の毒だがな」
「それは――我々にとっては、むしろ好都合ですね」
※
アキラ達は冒険者ギルドの中にいた。
「アキラさん、すみませんでした」ハートフェルトは冒険者ギルドの受付リアナに呼ばれ、慌ててギルドにやってきた。到着した時、ギルドの中はほとんどの人が出払っており、いつもと変わらぬ静けさが漂っていた。
「いえ。それでは行きましょう」アキラはそう言いながら市場へと向かう。すでに注文を済ませていたようで、次々と食材が運ばれてくる。
「アキラさん、私も買い物をしたいのですが」とノワールが言うと、ハートフェルトは驚いて彼女を見た。
「ああ、紹介がまだでしたね。彼女はノワです。知り合いの子ですが、小さいながらもしっかりしていて、仕事を任せています。支払いはもちろん一緒にします」
事前に彼女と支払いを立て替えることについては話してあった。
「そうですか。アキラさんの周りには、すごい方が多いですね」商人はノワールの手際を見て感心し、目を細めた。
ノワールは市場の数店舗を次々と回りながら、目利きし、高級食材を効率よく買い集める。ウエストグレンの小さな市場では品数も限られているため、買い終わるのに時間はかからなかった。
市場の店主たちは、小柄なノワールの知識に驚きを隠せない。
「これ、食べられるんですか?」とノクスが興味深げに尋ねる。
「もちろんです。大きな魚でしょ。マグコ、これとっても美味しいですよ。セーヴァスの港から、大船で大西海に漁に出るんです」リアナが答えた。
ハイエルフのノクスは楽しそうに市場を歩き回り、リアナは試食や案内に忙しい。彼女は監視役のはずだが、監視の目を欺く作戦は上手くいっているようだ。
「終わりました。アキラさんの方はどうですか?」
「ああ、あと少しだ。これが頼まれていたものだ」
「私も手伝いますね」ハートフェルトはリストに書かれた文字を見て目を見張った。「ああ、そういうことか」と小さくつぶやく。
そこには、見慣れたダリオスの筆跡があった。師匠について尋ねたかったが、今は適切な場所ではない。
「食料品以外の衣料雑貨や工具類、植物の種や苗は馬車に積んであります。すべては兄弟子の商会に預けておきました。追加分もすぐに準備できます」
リアナが忙しくしている間に、アキラはそっと空間倉庫を開き、全ての品物をそこにしまった。購入品がどこにも見当たらないことに気づいたリアナだったが、ハートフェルトの「後で届けます」という言葉にすんなり納得した。
「僕たちは、ネグロクサ商会と武器屋に行く予定です。その間に準備を進めてください。場所も教えてください。それと、鶏と子牛も手配してもらえますか?保冷庫と動かすための魔法石も必要です。追加資金は100ドラゴニア金貨で足りますか?」
「わかりました。ケイオス商会でお待ちしてます。商会街の外れにあります。ちなみに、ネグロクサ商会は昨日、名前が商会連合に変わりました」
「え!どうしてですか?」ノワールは驚いた。
「詳しい事情は箝口令が敷かれていて、わかりません。ただ、これだけ大きな商いをしているのに、こちらへの接触がないのは確かに不自然です。」ハートフェルトは状況の変化に気づき、考え込んだ。
「まあ、これから行くので、探ってみましょう」
※
町の中心に構える元ネグロクサ商会の建物は、今も立派な外観を保ち、内部も落ち着いた雰囲気で営業を続けていた。店員たちの応対も、丁寧かつ洗練されている。
「アリア様の使いの方ですね。以前ご注文いただいた品、準備できております。苦労しましたよ。世界中を探しましたから。こちらが販売していただくポーション2本です。では、確認とお会計をさせていただきます」
連合商会の商人は、スマートメガネをかけ、てきぱきと仕事を進めていく。
「ところで、ネグロクサ商会って、どうして無くなったんですか? 教えてもらえませんか?」アキラが率直に尋ねる。
「よく聞かれますよ。でも、正確には“無くなった”わけではありません。簡単に言えば、海賊と商会に分かれたのです。魔物の出現が影響していましてね」
「そんなこと、話していいの?」アキラはやや警戒しながら聞き返す。
「はは、大丈夫です。お客様の信用が第一ですから。それに、私は魔物と戦うのは性に合わなくて。商人の道を選んだまでですよ」
その間、リアナとノワールは、机の上のチョコを取り合いながら紅茶を楽しんでいた。
「このチョコ、ほしい。お友達がきっと喜ぶ」ノワールが子供のような顔でつぶやいた。
「それでしたら、シシルナ島のチョコですね。素朴な味ですが、人気があります。販売もしておりますよ」それを聞きつけた商人がにこやかに反応する。
「で、いくらですか?」アキラが尋ねる。
「最近は魔物の影響で運送料が高騰しておりまして、1箱あたり金貨10枚になります」商人は商人らしい言い訳を添えた。
「では、20箱ください」
王国金貨はドラゴニア金貨の10分の1。アキラにとって、それほどの額ではなかった。
商人はアキラを一瞥してから、後ろに控えるハイエルフのノクスを見て納得した様子で「かしこまりました。準備いたします」と応じた。
「わーい!」ノワールが嬉しそうに歓声を上げる。
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「こちらがお会計になります。ポーションは上級品でしたので、1本金貨5,000枚。2本で10,000枚となります。良い品をありがとうございます。お売りする分がこちらになります。ご確認ください。合計で金貨12,000枚です」
「……それは……」アキラは妥当な金額かどうか、まったく見当がつかなかった。そんな様子を見た商人は、何かを勘違いしたらしく、慌てて言葉を続けた。
「そうですね、本来なら金貨12,000枚ですが……今回はお値引きして9,800枚にいたしましょう。チョコが金貨200枚ですので、ちょうど10,000枚ですね。今後もポーションを優先的にいただけると嬉しいです。アリア様にも、そうお伝えください」
白百合に盾の紋章が入った、小ぶりで立派な箱が開かれる。中には、萎びた草とくすんだ石。
アリアが求めていたもの。それが本物かどうか、アキラには判断がつかなかった。
ラピスがいるのを感じたアキラがラピスに尋ねると、彼女は即答した。
「間違いありません。本物のソウルヴァインと冥石です。よくぞ手に入れてくださいました」
ラピスの声には、弾けるような喜びがこもっていた。
「よかった……ところで、これらの品、どこで手に入れたんですか?」
「それは……口が裂けても申し上げられません。それが、商人の掟ですから」
何でも話しそうな様子だった商人は、この件については急に口を閉ざした。
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