完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
24 / 221

討伐依頼

しおりを挟む

 島主は、セラ親子の家に向かった。

「こんばんは、ガレアです」

「ワオーン!」小狼のヴァルが元気よく駆け寄り、勢いよく尻尾を振った。ついてこいと合図され、島主はその後を追う。

「こんばんは、ガレアさん」

 通された部屋には、セラとリコがいて、ゆっくりお茶をしていた。島主はちらりと
視線を向ける。

(やはり、犬人族の少女がいたな)

 耳がぴくぴくと動いている様子が、どこか楽しげだ。

「どうなさいましたか?」セラは、微笑みを感じさせる柔らかな声で尋ねた。

「色々と助けてもらっているようですね。本当に、すみません」島主は深く頭を下げた。

「なんのことですか? 大したことはしていませんよ。これから、スイーツタイムなんです。よろしければ、ご一緒にどうですか?」

「いきなり来て、それは……」

「今日はリコの成人祝いなんです。ぜひ一緒にお祝いしてあげてください!」

「それでは、ご馳走になります。ところで、リコちゃんは、どこの子ですか?」

「ニコラばあちゃんちの子!」リコは自信満々に答えたあと、少し考えるように首を傾げた。「あ、でも……ヴァル……そんな名前だったっけ?」

「……ああ、ヴァレンシア孤児院ですね」

「あ、たぶんそれ!」リコは嬉しそうにうなずき、ガレアの背中を軽く押しながらダイニングへと案内した。ヴァルは、不貞寝をしている。

 部屋には甘い香りが漂っている。島主も思わず、深呼吸した。キッチンでは、小さなパティシェが、真剣な顔でデザート作りに取り組んでいた。

「母さんに習って、リコの生まれ故郷、聖王国のクチーナ・ポーヴェラ風ティラミスとパンナ・コッタを作ったよ」

 几帳面にレシピが書かれたノートが、開かれているのが彼らしい。ノルドは控えめに言いつつも、その口元には誇らしげな笑みが浮かんでいた。

「それでは、どうぞ!」みんなの前に、デザートが置かれる。

 リコは懐かしさと、これまで味わったことのない美味しさに感激し、尻尾をぶんぶんと振っている。

「小さい頃、通りのお店で食べている人たちを眺めながら、いつか私も食べてみたいと思ってたの……ありがとう、ノルド!」リコはノルドの首に飛びついた。

「早く、食べて!」

「うん。美味しい!」ノルドにもたれながら、一口食べて頷く。あっという間に、平らげた。

 ノルドは顔を真っ赤にして下を向き、ポケットから小さな包みを取り出してリコに渡した。

「急だったから、これしか作れなかった」

 それは、小さな陶器に入った保湿剤だった。檸檬の香りがふんわりと漂い、以前シロノに見せた試作品をさらに改良したものだった。

「大切に使うよ、ノルド!」

 リコは満面の笑みを浮かべ、ノルドを見つめた。その笑顔に、ノルドも思わず照れくさくなり、軽く頷いた。

「私からは……リコ、おいで!」

 セラは手招きすると、リコを部屋に連れて行った。しばらくして、着替えたリコが戻ってくる。

「へへへ、どう、ノルド、似合うかな?」

 リコは嬉しそうにその場でくるくると回り、小さく踊ってみせた。

「うん、とっても似合ってる」

 リコが着ているのは、淡い緑色のチュニック。柔らかな生地で仕立てられ、動きに合わせて伸縮性を持たせてある。活発に動き回れるよう工夫された一着で、セラの裁縫の腕前が光っている。

「ほう……」

 島主は感心しながらそっと素材に触れた。その丈夫さから、この服が冒険者向きの仕立てであることがわかった。

 リコは満足そうにお代わりをしていたが、やがて大きなあくびをして「お腹いっぱい、眠くなっちゃった」とつぶやいた。初めての森の探索で、気疲れもあったのだろう。

「リコ、着替えてベッドで休みな!」

「やだ!このまま寝る!」

 リコがぐずぐずと座り込むと、ヴァルがそっと近づいてきた。リコのそばに横たわり、静かに寄り添う。

 その暖かさに安心したのか、リコは表情を緩め、次第にまぶたを閉じていった。眠りにつく直前、セラにおぶわれて部屋へと運ばれていった。その寝顔は穏やかで、安心しきった様子だった。

「ご馳走様。村民や警備員の皆に世話をかけたな」

島主は食事を終え、ノルドに礼を述べた。

「いえ、別に……」

 ノルドは控えめに答えたが、その表情はどこか誇らしげだった。

 セラが戻ってきたところで、ガレアが話を切り出した。

「魔物の森にいるボブゴブリンを討伐しようと思います。案内をしてくれませんか?もちろん、報酬はお支払いします」

「ボブゴブリン……それでか」

 ノルドは初めて聞いたような顔をしたが、すぐに納得した様子でうなずいた。

「わかりました。島主様は後衛でしょう。私も同行します」セラが言う。

「待って、島主様、母さん!僕に倒させてください!」 ノルドは勢いよく声を上げた。
 セラは少し驚いたが、すぐに微笑んでうなずいた。

「いいわ。ノルド、あなたに任せます。ただし、私も島主様も同行しますよ」

「任せておいて」

 ノルドは力強く答えたが、その声にはわずかに緊張が滲んでいた。

「準備してくるよ。行こう、ヴァル」

 ノルドはヴァルの背を軽く叩いて呼びかける。ヴァルは静かに立ち上がりしぶしぶノルドの後をついていった。



 ゴブリンの巣窟となっている森の最奥、暗闇に包まれた古代遺跡の前にたどり着いた。遺跡の前は、森が途切れて、土の平地になっている。

 漆黒の闇が広がっているが、島主以外の仲間たちは暗闇でも周囲を見通せるらしい。セラから手渡された目薬を差すと、闇の中の景色が次第に浮かび上がってきた。

 ノルドは警戒を強め、遺跡入り口を警備しているゴブリン二匹に視線を向ける。死角から素早くダーツを放つと、二匹とも毒に冒され、身動きが取れなくなった。その隙を逃さず、確実に仕留める。

「よし、ヴァル、罠を仕掛けるぞ!」

 いつものように目で合図を送り、準備を開始した。

 ガレアが運んできた罠は相当な量だ。それを器用に扱いながら、ヴァルはノルドの指示を待つことなく手際よく、口で罠を展開していく。その様子を見て、ガレアは感心したように小声でつぶやいた。

「手慣れていて、無駄がない」

「準備完了です!作戦はお伝えした通りです」

「ノルド、逃げたやつは私に任せなさい」

 罠が張り巡らされたことを確認すると遺跡の正面にいるノルド達を残して、全体を見渡せる左手の小高い丘に位置取った。

「わかりました。それじゃあ始めます!」

【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...