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外伝
エルフツリーの治療
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「さて、ノルド、お願いだ。エルフツリーを治療してほしい。私とマルカスは引き続き、島民の治療を行う」
「見てみないと……」
ノルドは自信なさげに答えた。
「すいません……お願い致します」
キサラギが現れた。顔は青ざめ、手はかすかに震えていた――彼女の背後に、島の異変の深刻さが滲んでいた。
島の魔物の森――そこに足を踏み入れることになった。サルサたちが同行しない理由は、はっきりしているが、他に理由もありそうだ。
森は、まるで死の森のようだった。緑はすべて、黒く染められている。
中にいる魔物ですら、苦しんでいるか、あるいは狂っているようだ。異様な鳴き声が森にこだまする。
リコは思わず耳を塞ぎ、ノルドの腕にしがみついた。
ヴァルとともに、エルフツリーの元へ辿り着いた。
そこに、かつて見た他の森の女王のような気高き姿はなかった。あったのは、真っ黒に染まり、今にも朽ち果てそうな細く弱った木――それが、エルフツリーだった。
木の枝には魔烏の群れが止まり、ギャアギャアと不快な奇声を上げている。バサバサと羽音が響く。
「なんてことだ……!」
ノルドは今にも倒れそうな木を前に、言葉を失った。
「ワオーン! ワオーン!」
ヴァルが威嚇するように吠えるが、魔烏たちは飛び立たない。
すると、妖精ビュアンが怒りの表情で姿を現した。
「馬鹿烏ども、そこを離れなさい!」
「ビュアン、魔物避けを。奴らにぶつけて」
ノルドは薬瓶を取り出し、逆さにして液体を流す。それを、ビュアンが風と水の魔法で魔烏たちに吹きつけた。
魔烏たちは一瞬とどまり、こちらを睨みつけた。しかし、一羽、また一羽と飛び立ち、やがて全てが去っていった。
「どうしようか……手の施しようがない……」
ノルドは困り果て、オロオロとした様子で木を見上げた。
「ノルド、落ち着いて。人族と同じよ。この子はまだ幼い。だから、ちゃんと治療すれば大丈夫よ」
「わかった。リコ、ヴァル、手伝って」
ノルドはそう言って、エルフツリーの周囲の土地を除染するよう命じた。いつも罠掘りをしているヴァルは手慣れた様子で、根を傷つけぬよう周囲の土を取り除いていく。
「ノルド、汚れていない土はどこにあるの?」
「土を深く掘っていけば、奥の方は汚れていない気がする。調べてほしい!」
「へえええ、ヴァルお願い!」
リコが頼むと、ヴァルは顔で「ここを二人で掘ろう」と合図を送った。
幹には、イルが導液嚢を刺した無数の跡が残っていた。ノルドは愕然とする。
「これはひどい……なんて傷のつけ方だ……!」
ノルドは幹をさすりながら、自分の手がわずかに震えていることに気づいた。傷ついた子どもの体に注射を打つような気分だった。ヒールと魔力のポーションを、慎重に、迷いなく選ばなければならない。
「ごめんね。痛いけど我慢して」
その瞬間、エルフツリーの内部から汚れた魔力が渦巻くように噴き出した。ノルドはもろに受けて膝をつく。
まずい。このままでは、魔力が枯れ、木も死んでしまう――。
「嫌だ、怖い、嫌だ、怖い、嫌だ、怖い」
どこからともなく、小さな子供の声が聞こえた。ノルドが周囲を見回すが、誰もいない。
「ノルド、この子の声よ」
ビュアンが静かに教えてくれる。そして木に近寄り、やさしく語りかけた。
「落ち着いて。痛かったわね。怖かったわね。でももう大丈夫よ。私たちが助けてあげる」
「私、死んじゃうの? 殺すの?」
「何を言ってるの? あなたは、私たち精霊の友達。精霊の木じゃない!」
「でも、どの子も顔を見せてくれない……私が変になったから、嫌われて……」
エルフツリーは泣き出してしまった。
「よしよし、大丈夫。だから私たちが来たの。あなたを治すためにね」
ビュアンはにっこりと笑い、語りかける。
「私の名はビュアン。妖精にして、精霊王の子。精霊王が、あなたを癒すために、私をここへ送ったのよ」
「……そうなの? 精霊王様、見たことない。強いの?」
「もちろんよ。私がお話してあげる」
ビュアンがノルドにウインクを送る。それを合図に、ノルドはすかさず作業を進めた。
「あっ」エルフツリーが声を漏らした。
「もう、終わったよ。これで、少しは楽になると思う」
「だって。それでね、精霊王ってね、実は怒りん坊なんだけど……」
ビュアンと幼い精霊木の会話は、楽しげに続いていく。
ノルドが用意したポーション袋から、少しずつ液が点滴のように木に注がれていく。同時に、根からは汚れた魔力が流れ出していた。
「あー。また汚れちゃったぁ」
リコとヴァル、そしてノルドも加わって、敷き詰めた土を入れ替えていく。木が吐き出す魔力を、新しい土が吸い取っていく。
「ビュアン、持ってきたポーションが尽きそうだ。急いで、作成に戻らないと」
「それならその前に、ちょっと私に考えがあるわ」
ビュアンが、木に向かって微笑む。
「見てみないと……」
ノルドは自信なさげに答えた。
「すいません……お願い致します」
キサラギが現れた。顔は青ざめ、手はかすかに震えていた――彼女の背後に、島の異変の深刻さが滲んでいた。
島の魔物の森――そこに足を踏み入れることになった。サルサたちが同行しない理由は、はっきりしているが、他に理由もありそうだ。
森は、まるで死の森のようだった。緑はすべて、黒く染められている。
中にいる魔物ですら、苦しんでいるか、あるいは狂っているようだ。異様な鳴き声が森にこだまする。
リコは思わず耳を塞ぎ、ノルドの腕にしがみついた。
ヴァルとともに、エルフツリーの元へ辿り着いた。
そこに、かつて見た他の森の女王のような気高き姿はなかった。あったのは、真っ黒に染まり、今にも朽ち果てそうな細く弱った木――それが、エルフツリーだった。
木の枝には魔烏の群れが止まり、ギャアギャアと不快な奇声を上げている。バサバサと羽音が響く。
「なんてことだ……!」
ノルドは今にも倒れそうな木を前に、言葉を失った。
「ワオーン! ワオーン!」
ヴァルが威嚇するように吠えるが、魔烏たちは飛び立たない。
すると、妖精ビュアンが怒りの表情で姿を現した。
「馬鹿烏ども、そこを離れなさい!」
「ビュアン、魔物避けを。奴らにぶつけて」
ノルドは薬瓶を取り出し、逆さにして液体を流す。それを、ビュアンが風と水の魔法で魔烏たちに吹きつけた。
魔烏たちは一瞬とどまり、こちらを睨みつけた。しかし、一羽、また一羽と飛び立ち、やがて全てが去っていった。
「どうしようか……手の施しようがない……」
ノルドは困り果て、オロオロとした様子で木を見上げた。
「ノルド、落ち着いて。人族と同じよ。この子はまだ幼い。だから、ちゃんと治療すれば大丈夫よ」
「わかった。リコ、ヴァル、手伝って」
ノルドはそう言って、エルフツリーの周囲の土地を除染するよう命じた。いつも罠掘りをしているヴァルは手慣れた様子で、根を傷つけぬよう周囲の土を取り除いていく。
「ノルド、汚れていない土はどこにあるの?」
「土を深く掘っていけば、奥の方は汚れていない気がする。調べてほしい!」
「へえええ、ヴァルお願い!」
リコが頼むと、ヴァルは顔で「ここを二人で掘ろう」と合図を送った。
幹には、イルが導液嚢を刺した無数の跡が残っていた。ノルドは愕然とする。
「これはひどい……なんて傷のつけ方だ……!」
ノルドは幹をさすりながら、自分の手がわずかに震えていることに気づいた。傷ついた子どもの体に注射を打つような気分だった。ヒールと魔力のポーションを、慎重に、迷いなく選ばなければならない。
「ごめんね。痛いけど我慢して」
その瞬間、エルフツリーの内部から汚れた魔力が渦巻くように噴き出した。ノルドはもろに受けて膝をつく。
まずい。このままでは、魔力が枯れ、木も死んでしまう――。
「嫌だ、怖い、嫌だ、怖い、嫌だ、怖い」
どこからともなく、小さな子供の声が聞こえた。ノルドが周囲を見回すが、誰もいない。
「ノルド、この子の声よ」
ビュアンが静かに教えてくれる。そして木に近寄り、やさしく語りかけた。
「落ち着いて。痛かったわね。怖かったわね。でももう大丈夫よ。私たちが助けてあげる」
「私、死んじゃうの? 殺すの?」
「何を言ってるの? あなたは、私たち精霊の友達。精霊の木じゃない!」
「でも、どの子も顔を見せてくれない……私が変になったから、嫌われて……」
エルフツリーは泣き出してしまった。
「よしよし、大丈夫。だから私たちが来たの。あなたを治すためにね」
ビュアンはにっこりと笑い、語りかける。
「私の名はビュアン。妖精にして、精霊王の子。精霊王が、あなたを癒すために、私をここへ送ったのよ」
「……そうなの? 精霊王様、見たことない。強いの?」
「もちろんよ。私がお話してあげる」
ビュアンがノルドにウインクを送る。それを合図に、ノルドはすかさず作業を進めた。
「あっ」エルフツリーが声を漏らした。
「もう、終わったよ。これで、少しは楽になると思う」
「だって。それでね、精霊王ってね、実は怒りん坊なんだけど……」
ビュアンと幼い精霊木の会話は、楽しげに続いていく。
ノルドが用意したポーション袋から、少しずつ液が点滴のように木に注がれていく。同時に、根からは汚れた魔力が流れ出していた。
「あー。また汚れちゃったぁ」
リコとヴァル、そしてノルドも加わって、敷き詰めた土を入れ替えていく。木が吐き出す魔力を、新しい土が吸い取っていく。
「ビュアン、持ってきたポーションが尽きそうだ。急いで、作成に戻らないと」
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ビュアンが、木に向かって微笑む。
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