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3章 白いアレを求めて三千里
31話 ハーフヴァンパイアとは? と男は聞けない
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スイの嗚咽が徐々に収まり、呼吸を整えるように深呼吸をするのを感じた俺は話しかける。
「少しは落ち着いたか?」
「はい……あっ、でも、このままでお願いします」
返事をしたのを確認した俺が抱き締め、頭を撫でる手を離そうとしたのを感じ取ったスイが止めてくる。
その止める時の言葉は丁寧だが、声音と離れようとする手を押さえる動きは必死だったので思わず、クスッと笑ってしまう。
撫でられて擽ったいのか、身を捩るスイの白髪が俺の顔を擽ってくるのに耐えながら話しかける。
「事情を聞いていいかな?」
「はい……まずは、先輩、申し訳ありませんでしたわ。先輩が止められなかったら先輩を……」
「暴走してた時の記憶があるの?」
俺の言葉に頷いたスイが震え出す、
どうやら俺の言葉で感情が揺れたようで、感情が高ぶり始めたようだ。
「スマン、辛い事を聞いた」
「いいえ、それを話してないと先に進めませんから」
おそらく、俺に気付く前にロッカクの街の人を襲うと考えた事を思い出し、そんな考えをした自分が怖くなったのだろう。
思わず、またスマンと言いかけたがグッと堪える。謝れば、俺の気は済むがスイに負担をかけると思ったからだ。
「私はとある貴族とヴァンパイアの間に生まれた妾腹の子ですわ」
淡々と感情が籠らない声音で説明するスイに耳を傾け、色々とあったんだろうなと思う。
以前にスイとキャウの冒険者見習いになる理由がちょっと変わっているという話をしたと思う。
スイは国の端にある修道院に行くのを止めて、冒険者見習いを目指した。事情はともかくイメージ通りのクソ貴族のやり口が透けて見えてイヤイヤではあるが色々と現状把握して理解する。
貴族の娘とは分かってなかったが、礼儀作法がスキルにあった理由も納得だ。
ちなみにキャウはプリットにある教会から出て、冒険者見習いになったそうだ。
「先輩もご存じのようにハーフヴァンパイアは、ヴァンパイア寄りになるか、人寄りになるかは分からないんです」
ごめん、知ってる前提で話してくれてるけど知らない……なんか一般常識ぽい感じに話すから「ごっめーん、どういう事?」とはさすがに聞ける状況じゃねぇ――!
知らない事がばれないでくれ、とバクバクと脈打つ心臓に沈まれと祈る。
そんな俺の気持ちに気付いてないスイが説明を続ける。
「これが人寄りに育てば何ら問題はありませんわ。それが発覚するのが大人の……その女の子、の日……に発露するのが一般的だそうです」
大人の……初潮か!
きっぱりとデリカシーの無い事を脳内でサラッと考える俺。
やはり、この暴露は恥ずかしかったようで俺の頬と触れてるスイの頬が熱くなるのを感じる。
「そ、それで私の場合、1年間、様子を見られて安全と分かると修道院に放り込まれそうになりましたわ。だから、私は人寄りだと思ってましたが……」
「それで、ヴァンパイア寄りになってしまったら?」
俺の質問に口を噤むスイの様子に気付き、聞く順番を間違ったか、と頭を捻り出す。
その戸惑いを気付かれたのか「申し訳ありませんでしたわ」と逆にスイに気を使われる。
「そうなると覚醒をしないように定期的に血を摂取するか、軽度な発露であれば、せ、性的興奮を散らして凌ぐ方法もあります。ただ、これが生粋のヴァンパイアであれば、吸血する時に血の摂取の調整が出来ますが、ハーフヴァンパイアの場合、それが出来ず、摂取出来る上限か、相手の命を……」
言葉を濁されたが、先程、スイに噛まれた野犬の有様を思い出せば納得だ。
それに見つけた時に自分を慰めてた理由も納得だ。こちらの世界にも適用されるか分からないが、吸血行為は性行為と似通っているという話を聞いた覚えがあった。
「それで覚醒してしまったスイは俺が治したから、もう大丈夫なのか?」
「……いいえ、確かに今回の覚醒は収まりましたが、次はもっと簡単に覚醒してしまいます。脱臼みたいに」
そう言うと、スイは自分から俺の腕から抜けて、俺の前に立つ。
スイは瞳から涙を零し、はだけた格好の半裸で真っ白い肌と涙が月明かりに照らされて幻想的な美しさを放つ。
ゆっくりと両手を広げて、涙を流すスイは必死に笑みを浮かべる。
「完全に覚醒すれば私の心は魔物になってしまいます。本当は自分ですべきですが臆病なので、先輩……私が人であるうちに殺して下さい」
「ちょっと待て……他に手がないのか? 例えば、俺が常に近くにいて兆候が出たら毎回クリアするとか?」
「先輩のお気持ちは嬉しいですが、それを続けてもいずれ耐性が生まれて間隔が短くなって……後は血の盟約者が……」
「血の盟約者?」
思わず、しまったといった顔をしたスイに近づいて両腕を掴んで覗き込む。
「血の盟約者とは何だ? それがあれば助かるのか?」
「先輩、本当に無理なんです。これはヴァンパイアが吸血した後、自分の血を相手に口移しで飲ませる事で縁を繋げる儀式です。ヴァンパイアなら吸血の量が調整出来ます。ですが、ハーフヴァンパイアは先程、言ったように調整が出来ず、相手を死なせてしまいます」
「なるほど、なら仕方がない。腹が決まった」
そう俺が言った瞬間、少し悲しげにしたがすぐに笑みを浮かべながら涙を拭う。
俺はスイの目の前に来て、目線を合わせると肩をはだけてみせる。
スイは俺のまさかの行動に目を白黒させていた。
「よし、難しい事は分からんがその血の盟約者とやらに俺にしろ」
「せ、先輩! 何を言ってるんですか!? 死ぬんですよ、死んでしまいます。確かにハーフヴァンパイアの成功例はあります。ゴブリンキングが治める集落をたった3人で落とした英雄がかろうじて耐えたという記録と強力な魔物を血の盟約者にしたという話しかありませんわ」
慌てた様子のスイが、先程までと逆に俺の腕を掴んで、首から頭が取れるんじゃないだろうかと思わせるほど首を横に振る。
血の盟約者というのが良く分からんが、心を魔物にしたくないスイにとって魔物に助けて貰うのは嫌だろうな。
しかし、人間に成功例があるというなら余計に俺が足踏みする理由は存在しない。
それにゴブリンキングを3人で倒した英雄ね……それが耐えれるなら。
「スイ、お前の先輩はゴブリンキング、ゴブリンクィーンだけでなく、ゴブリン神をもソロで倒した男なんだぜ?」
「えっえっ! じゃ、じゃあ、緊急依頼の時、討伐した人が分からずに終わったゴブリン神達を倒したのが先輩なんですか!」
「これは内緒だからな? まあ、そういう訳でスイが死なずに済む可能性が目の前にある。俺で駄目だったら諦めていい。俺は絶対にスイに手をかけるのは死んでもゴメンだからな」
予想外の情報に戸惑うスイの腕を取り、引き寄せて俺の肩にスイの小さい顔を押し付ける。
「でも万が一……」
「マロン達と一緒に冒険者になるんだろ? 先輩を信じろよ」
「そ、それは……」
「サクッとやっちまえ」
俺に言われて漸く、ゆっくりと口を開いていくスイが犬歯を俺の肩に当てる。
当てられた犬歯から震えが伝わり、俺はスイの頭を撫でてやりながら
「明日も明後日も俺がこうやってスイの頭を撫でてやる」
「――ッ!」
その言葉が背を押したのか、覚悟を決めたらしいスイが俺の肩に犬歯を突き立てる。
血を吸われる感覚らしきものを感じるなか、スイが震えているのに気付き、空いてる片手で強く抱き締めてやる。
スイ、俺はちゃんと生きているぞ!
俺は微笑みながら、スイが俺の存在を感じられるように頭を撫で続けた。
しばらくすると、プハッと満足そうな声を上げて俺の肩から離れる。
そして、見つめ合うスイは唇についた血を舐める。
どうやら摂取量上限まで吸ったようだ……多分、大丈夫だとは思っていたが、さすがにちょっとは不安がなかったとは言えなかったしな。
しかし、あの野犬の時にも思ったが、スイってスイッチ入ると唇を舐める仕草とか、えらくエロイ気がする。今の年齢のポテンシャルでこれだと将来が恐ろしいな。
「先輩、次は私の血を……」
「お、おう」
潤んだ瞳で俺の首に腕を回して、顔を近づけてくるスイを見て思う。
儀式だからしょうがないって分かるけど、なんか背徳的でヤバい!
スイの将来、男殺しという二つ名が生まれるんじゃないだろうか?
蕾のような唇を俺の唇に押し当て、小さく口を開けて血を流し込もうとする。
可愛らしい舌先をおずおずと俺の口へと挿し込み、血を送ろうと懸命に頑張るスイの呼吸が荒くなっていく。
むぅ、効率を考えたら俺も舌を刺し込んだほうが良さそうだが、それだとディープキスになってしまうからな……所謂、これは医療活動みたいなもんだから不味い。
しばらくされるがままにしていると血が流れ込むような感じがなくなる。
そろそろ、終わりかな?
椎名 (シーナ) Lv87
HP:436000/456000
MP:1055000/1075000
ちから:49600 みのまもり:28300
きようさ:350 すばやさ:60100
かしこさ:40 うん:3
スキルポイント:395
スキル:剣術Lv5 盾術Lv5 身体強化Lv5
雷魔法Lv3 回復魔法Lv5 探査Lv3
威圧Lv5 魔力制御Lv10 全状態異常耐性Lv10
薬品調合Lv3
共通語 解体 危険探知
HP自動回復 MP自動回復 挑発
御者Lv3
魔法剣 エロ魔法
巨根 精力増大 スキルポイント取得倍増
成長促進 鑑定 スキルポイント管理
血の盟約者:スイ
お、ステータスに血の盟約者の項目が出来てる。ちゃんと相手がスイになってるな。
うおっ! HPもMPも2万ずつ減ってるがな! これって俺じゃなかったら本気で死んでるな。
そう納得していると俺の舌先にスイの舌先が当たり出してる事に気付いた事を悟ったスイが言う。
「はぁはぁ、すいません、私がドン臭いから時間がかかって」
そう言って、顔を横に向けて更に俺の口内深くへと進ませようとしてくるスイに疑問を覚える。
もう、血の味せんけど?
スイ Lv2 ハーフヴァンパイア
HP:250 MP:490
ちから:40 みのまもり:50
きようさ:50 すばやさ:120
かしこさ:60 うん:15
スキル:剣術Lv1 盾術Lv1 身体強化Lv0
氷魔法Lv1
御者Lv1
礼儀作法
魔眼 吸血 再生
飛行
血の盟約者:シーナ
ステータスが全体的に馬鹿上がりしてるな……ああ、ハーフヴァンパイアとしてちゃんと覚醒したからかな?
ふむ、やっぱり最後の項目にちゃんと血の盟約者があるな……
「なあ、スイ?」
「ごめんなさい、先輩、もうちょっと、もうちょっとですから」
恍惚な表情でトロトロになっているスイが儀式、いや、キスを求めてこようとするのにペチと額を叩いて止める。
叩かれた額を押さえて唇と尖らせるスイに言う。
「もう終わってるよな?」
「いいじゃないですか、私のファーストキスなんだから堪能させて頂いても?」
「ってか、カウントしてるのか? 普通、ファーストキスって甘酸っぱいのだからな? こんなエロエロしてない」
はぁ、と溜息を零す俺が少し拗ねた様子にスイに言う。
「これでスイが暴走する事はないんだな?」
「定期的に先輩の血を少し頂ければ……捨てないでくださいね?」
腰の後ろで手を組んでモジモジするスイを見て思う。
さっきまでのギャップを考慮してやってるなら、将来に他人が二つ名を付ける前に俺がここで認定してやろうと。
しかし、俺はさっきまでスイの命がどうこうと思っていたから、ついつい失念してた事に気付き、やられっぱなしだったのでやり返す。
「いつまで月光浴させてるつもりなんだ?」
「へっ!?」
俺が分かりやすいように俺の胸と股間を指差してやると、ゆっくりと自分の体、小ぶりな胸と中途半端に下ろしたパンツを見つめて3秒固まり、短い悲鳴を上げて蹲る。
急いで乱れた服を整えるスイに笑うのを耐えながら待っていると「先輩、絶対に逃がしませんから……」と不穏な声が聞こえた気がした。
俺はロッカクがある方向に向き、スイに手を差し出す。
「ターニャが待ってるはずだ。早く帰ろう」
「もうっ!」
そう言って俺の手を強く握る。
結構痛い。さっき見たステータスで結構上がってたからな。
ロッカクへと歩き出して、しばらくするとスイが俺の腕に抱きついて顔を隠す。
「先輩……有難うございます」
「……おう」
俺の腕をギュッと抱き締めたスイの顔をクッキリと照らしだされ、頬を朱に染め、小刻みに揺らす肩から目を逸らす。
空を見上げた俺は思う。今日は満月だったのかと……
そして、誰かの為に小さな胸を痛めて、犠牲になろうとした少女を少しでもいいから癒してはくれまいかと。
俺はいつもに増して澄み渡る夜空を見つめて、ただ、ただ、それだけを祈った。
「少しは落ち着いたか?」
「はい……あっ、でも、このままでお願いします」
返事をしたのを確認した俺が抱き締め、頭を撫でる手を離そうとしたのを感じ取ったスイが止めてくる。
その止める時の言葉は丁寧だが、声音と離れようとする手を押さえる動きは必死だったので思わず、クスッと笑ってしまう。
撫でられて擽ったいのか、身を捩るスイの白髪が俺の顔を擽ってくるのに耐えながら話しかける。
「事情を聞いていいかな?」
「はい……まずは、先輩、申し訳ありませんでしたわ。先輩が止められなかったら先輩を……」
「暴走してた時の記憶があるの?」
俺の言葉に頷いたスイが震え出す、
どうやら俺の言葉で感情が揺れたようで、感情が高ぶり始めたようだ。
「スマン、辛い事を聞いた」
「いいえ、それを話してないと先に進めませんから」
おそらく、俺に気付く前にロッカクの街の人を襲うと考えた事を思い出し、そんな考えをした自分が怖くなったのだろう。
思わず、またスマンと言いかけたがグッと堪える。謝れば、俺の気は済むがスイに負担をかけると思ったからだ。
「私はとある貴族とヴァンパイアの間に生まれた妾腹の子ですわ」
淡々と感情が籠らない声音で説明するスイに耳を傾け、色々とあったんだろうなと思う。
以前にスイとキャウの冒険者見習いになる理由がちょっと変わっているという話をしたと思う。
スイは国の端にある修道院に行くのを止めて、冒険者見習いを目指した。事情はともかくイメージ通りのクソ貴族のやり口が透けて見えてイヤイヤではあるが色々と現状把握して理解する。
貴族の娘とは分かってなかったが、礼儀作法がスキルにあった理由も納得だ。
ちなみにキャウはプリットにある教会から出て、冒険者見習いになったそうだ。
「先輩もご存じのようにハーフヴァンパイアは、ヴァンパイア寄りになるか、人寄りになるかは分からないんです」
ごめん、知ってる前提で話してくれてるけど知らない……なんか一般常識ぽい感じに話すから「ごっめーん、どういう事?」とはさすがに聞ける状況じゃねぇ――!
知らない事がばれないでくれ、とバクバクと脈打つ心臓に沈まれと祈る。
そんな俺の気持ちに気付いてないスイが説明を続ける。
「これが人寄りに育てば何ら問題はありませんわ。それが発覚するのが大人の……その女の子、の日……に発露するのが一般的だそうです」
大人の……初潮か!
きっぱりとデリカシーの無い事を脳内でサラッと考える俺。
やはり、この暴露は恥ずかしかったようで俺の頬と触れてるスイの頬が熱くなるのを感じる。
「そ、それで私の場合、1年間、様子を見られて安全と分かると修道院に放り込まれそうになりましたわ。だから、私は人寄りだと思ってましたが……」
「それで、ヴァンパイア寄りになってしまったら?」
俺の質問に口を噤むスイの様子に気付き、聞く順番を間違ったか、と頭を捻り出す。
その戸惑いを気付かれたのか「申し訳ありませんでしたわ」と逆にスイに気を使われる。
「そうなると覚醒をしないように定期的に血を摂取するか、軽度な発露であれば、せ、性的興奮を散らして凌ぐ方法もあります。ただ、これが生粋のヴァンパイアであれば、吸血する時に血の摂取の調整が出来ますが、ハーフヴァンパイアの場合、それが出来ず、摂取出来る上限か、相手の命を……」
言葉を濁されたが、先程、スイに噛まれた野犬の有様を思い出せば納得だ。
それに見つけた時に自分を慰めてた理由も納得だ。こちらの世界にも適用されるか分からないが、吸血行為は性行為と似通っているという話を聞いた覚えがあった。
「それで覚醒してしまったスイは俺が治したから、もう大丈夫なのか?」
「……いいえ、確かに今回の覚醒は収まりましたが、次はもっと簡単に覚醒してしまいます。脱臼みたいに」
そう言うと、スイは自分から俺の腕から抜けて、俺の前に立つ。
スイは瞳から涙を零し、はだけた格好の半裸で真っ白い肌と涙が月明かりに照らされて幻想的な美しさを放つ。
ゆっくりと両手を広げて、涙を流すスイは必死に笑みを浮かべる。
「完全に覚醒すれば私の心は魔物になってしまいます。本当は自分ですべきですが臆病なので、先輩……私が人であるうちに殺して下さい」
「ちょっと待て……他に手がないのか? 例えば、俺が常に近くにいて兆候が出たら毎回クリアするとか?」
「先輩のお気持ちは嬉しいですが、それを続けてもいずれ耐性が生まれて間隔が短くなって……後は血の盟約者が……」
「血の盟約者?」
思わず、しまったといった顔をしたスイに近づいて両腕を掴んで覗き込む。
「血の盟約者とは何だ? それがあれば助かるのか?」
「先輩、本当に無理なんです。これはヴァンパイアが吸血した後、自分の血を相手に口移しで飲ませる事で縁を繋げる儀式です。ヴァンパイアなら吸血の量が調整出来ます。ですが、ハーフヴァンパイアは先程、言ったように調整が出来ず、相手を死なせてしまいます」
「なるほど、なら仕方がない。腹が決まった」
そう俺が言った瞬間、少し悲しげにしたがすぐに笑みを浮かべながら涙を拭う。
俺はスイの目の前に来て、目線を合わせると肩をはだけてみせる。
スイは俺のまさかの行動に目を白黒させていた。
「よし、難しい事は分からんがその血の盟約者とやらに俺にしろ」
「せ、先輩! 何を言ってるんですか!? 死ぬんですよ、死んでしまいます。確かにハーフヴァンパイアの成功例はあります。ゴブリンキングが治める集落をたった3人で落とした英雄がかろうじて耐えたという記録と強力な魔物を血の盟約者にしたという話しかありませんわ」
慌てた様子のスイが、先程までと逆に俺の腕を掴んで、首から頭が取れるんじゃないだろうかと思わせるほど首を横に振る。
血の盟約者というのが良く分からんが、心を魔物にしたくないスイにとって魔物に助けて貰うのは嫌だろうな。
しかし、人間に成功例があるというなら余計に俺が足踏みする理由は存在しない。
それにゴブリンキングを3人で倒した英雄ね……それが耐えれるなら。
「スイ、お前の先輩はゴブリンキング、ゴブリンクィーンだけでなく、ゴブリン神をもソロで倒した男なんだぜ?」
「えっえっ! じゃ、じゃあ、緊急依頼の時、討伐した人が分からずに終わったゴブリン神達を倒したのが先輩なんですか!」
「これは内緒だからな? まあ、そういう訳でスイが死なずに済む可能性が目の前にある。俺で駄目だったら諦めていい。俺は絶対にスイに手をかけるのは死んでもゴメンだからな」
予想外の情報に戸惑うスイの腕を取り、引き寄せて俺の肩にスイの小さい顔を押し付ける。
「でも万が一……」
「マロン達と一緒に冒険者になるんだろ? 先輩を信じろよ」
「そ、それは……」
「サクッとやっちまえ」
俺に言われて漸く、ゆっくりと口を開いていくスイが犬歯を俺の肩に当てる。
当てられた犬歯から震えが伝わり、俺はスイの頭を撫でてやりながら
「明日も明後日も俺がこうやってスイの頭を撫でてやる」
「――ッ!」
その言葉が背を押したのか、覚悟を決めたらしいスイが俺の肩に犬歯を突き立てる。
血を吸われる感覚らしきものを感じるなか、スイが震えているのに気付き、空いてる片手で強く抱き締めてやる。
スイ、俺はちゃんと生きているぞ!
俺は微笑みながら、スイが俺の存在を感じられるように頭を撫で続けた。
しばらくすると、プハッと満足そうな声を上げて俺の肩から離れる。
そして、見つめ合うスイは唇についた血を舐める。
どうやら摂取量上限まで吸ったようだ……多分、大丈夫だとは思っていたが、さすがにちょっとは不安がなかったとは言えなかったしな。
しかし、あの野犬の時にも思ったが、スイってスイッチ入ると唇を舐める仕草とか、えらくエロイ気がする。今の年齢のポテンシャルでこれだと将来が恐ろしいな。
「先輩、次は私の血を……」
「お、おう」
潤んだ瞳で俺の首に腕を回して、顔を近づけてくるスイを見て思う。
儀式だからしょうがないって分かるけど、なんか背徳的でヤバい!
スイの将来、男殺しという二つ名が生まれるんじゃないだろうか?
蕾のような唇を俺の唇に押し当て、小さく口を開けて血を流し込もうとする。
可愛らしい舌先をおずおずと俺の口へと挿し込み、血を送ろうと懸命に頑張るスイの呼吸が荒くなっていく。
むぅ、効率を考えたら俺も舌を刺し込んだほうが良さそうだが、それだとディープキスになってしまうからな……所謂、これは医療活動みたいなもんだから不味い。
しばらくされるがままにしていると血が流れ込むような感じがなくなる。
そろそろ、終わりかな?
椎名 (シーナ) Lv87
HP:436000/456000
MP:1055000/1075000
ちから:49600 みのまもり:28300
きようさ:350 すばやさ:60100
かしこさ:40 うん:3
スキルポイント:395
スキル:剣術Lv5 盾術Lv5 身体強化Lv5
雷魔法Lv3 回復魔法Lv5 探査Lv3
威圧Lv5 魔力制御Lv10 全状態異常耐性Lv10
薬品調合Lv3
共通語 解体 危険探知
HP自動回復 MP自動回復 挑発
御者Lv3
魔法剣 エロ魔法
巨根 精力増大 スキルポイント取得倍増
成長促進 鑑定 スキルポイント管理
血の盟約者:スイ
お、ステータスに血の盟約者の項目が出来てる。ちゃんと相手がスイになってるな。
うおっ! HPもMPも2万ずつ減ってるがな! これって俺じゃなかったら本気で死んでるな。
そう納得していると俺の舌先にスイの舌先が当たり出してる事に気付いた事を悟ったスイが言う。
「はぁはぁ、すいません、私がドン臭いから時間がかかって」
そう言って、顔を横に向けて更に俺の口内深くへと進ませようとしてくるスイに疑問を覚える。
もう、血の味せんけど?
スイ Lv2 ハーフヴァンパイア
HP:250 MP:490
ちから:40 みのまもり:50
きようさ:50 すばやさ:120
かしこさ:60 うん:15
スキル:剣術Lv1 盾術Lv1 身体強化Lv0
氷魔法Lv1
御者Lv1
礼儀作法
魔眼 吸血 再生
飛行
血の盟約者:シーナ
ステータスが全体的に馬鹿上がりしてるな……ああ、ハーフヴァンパイアとしてちゃんと覚醒したからかな?
ふむ、やっぱり最後の項目にちゃんと血の盟約者があるな……
「なあ、スイ?」
「ごめんなさい、先輩、もうちょっと、もうちょっとですから」
恍惚な表情でトロトロになっているスイが儀式、いや、キスを求めてこようとするのにペチと額を叩いて止める。
叩かれた額を押さえて唇と尖らせるスイに言う。
「もう終わってるよな?」
「いいじゃないですか、私のファーストキスなんだから堪能させて頂いても?」
「ってか、カウントしてるのか? 普通、ファーストキスって甘酸っぱいのだからな? こんなエロエロしてない」
はぁ、と溜息を零す俺が少し拗ねた様子にスイに言う。
「これでスイが暴走する事はないんだな?」
「定期的に先輩の血を少し頂ければ……捨てないでくださいね?」
腰の後ろで手を組んでモジモジするスイを見て思う。
さっきまでのギャップを考慮してやってるなら、将来に他人が二つ名を付ける前に俺がここで認定してやろうと。
しかし、俺はさっきまでスイの命がどうこうと思っていたから、ついつい失念してた事に気付き、やられっぱなしだったのでやり返す。
「いつまで月光浴させてるつもりなんだ?」
「へっ!?」
俺が分かりやすいように俺の胸と股間を指差してやると、ゆっくりと自分の体、小ぶりな胸と中途半端に下ろしたパンツを見つめて3秒固まり、短い悲鳴を上げて蹲る。
急いで乱れた服を整えるスイに笑うのを耐えながら待っていると「先輩、絶対に逃がしませんから……」と不穏な声が聞こえた気がした。
俺はロッカクがある方向に向き、スイに手を差し出す。
「ターニャが待ってるはずだ。早く帰ろう」
「もうっ!」
そう言って俺の手を強く握る。
結構痛い。さっき見たステータスで結構上がってたからな。
ロッカクへと歩き出して、しばらくするとスイが俺の腕に抱きついて顔を隠す。
「先輩……有難うございます」
「……おう」
俺の腕をギュッと抱き締めたスイの顔をクッキリと照らしだされ、頬を朱に染め、小刻みに揺らす肩から目を逸らす。
空を見上げた俺は思う。今日は満月だったのかと……
そして、誰かの為に小さな胸を痛めて、犠牲になろうとした少女を少しでもいいから癒してはくれまいかと。
俺はいつもに増して澄み渡る夜空を見つめて、ただ、ただ、それだけを祈った。
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