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3章 白いアレを求めて三千里
34話 手がかかる程、可愛いというのは本当かと男は問う
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ロッカクから帰ってきた俺達は、まずルイーダさん達をターニャの実家である『どら焼き亭』で泊らせて貰った。
ターニャの口利きがあった事もあるが、ルイーダの事情を知ったターニャパパが漢泣きして破格の銅貨1枚で1泊させると快く応じてくれた。
更にサービスで俺を殴らせてくれるならタダだと俺に詰め寄ってきたが、丁重にお断りして俺がその金額を負担する事にした。
どうやら、娘であるターニャに嫌われない方法で俺を殴ってやりたいらしい。勿論、あのプロレスラーのような太い腕から繰り出される拳なんてノ―サンキューだ。
ターニャ……家を出る時、どんな事を言って出てきたんだい?
そんな事を考える俺がターニャを見るとニッコリと微笑まれる。
ん、世の中、知らなくてもいい事ってきっと沢山あると思うんだ。
知ってしまったらターニャパパに同情して殴られる未来があるかもしれないので知らない事を選択する。
男親って切ないよな……
いつかするかもしれない未来に俺は震えた。
まあ、これでルイーダさん達のしばらくの生活は問題ない。子供達の壊血病などの事もあるから静養してもらおう。その間に田んぼ予定地やそこに住める場所の確保などやろう。
そうそう、子供達の壊血病にビタミンCなどの補給と並行でプチヒールをすると回復が早める事が出来てるようだ。
ヒールなどにしたら効果が上がるかもしれないが、負担が大きくなるかもしれないので無理に試す必要はなさそうだ。
見立てだと3日ぐらいで治りそうだ。10日かかると思ってたので充分だろう。
そうだ、プチヒールでいいなら俺でなく、キャウの実地訓練にやって貰うのがいいかもしれない。
後で行くように言っとこう。
今、話が出たキャウ達、3人娘には明日は土地捜しなので用事があるので明日は休みと告げて帰らせている。
まあ、どこかで会うだろう。
そう考えて俺はターニャと一緒にパメラが待っている我が家へと戻って行った。
次の日の早朝、パメラとの訓練を終えて、汗を流して濡れている髪を拭いていると家のドアをノックする音がした。
「シーナ、ウチ、今、手が離せないから出て」
「うん、分かった」
朝食を作ってるらしいターニャが俺にお願いしてくる。
快諾した俺は、裏ではまだパメラが水浴び中だし、出なくて裏に回れたら相手が男だったら大変だと思った俺は急ぎ足で玄関に向かってドアを開ける。
「はいはい、どなた?」
「貴方の可愛い後輩ちゃんです!」
開けるとそこには赤髪のお団子ヘアの少女がテヘペロして沢山の荷物を抱えて立っている。
後ろを見ると申し訳なさそうにしているテヘペロ少女と同じように荷物を抱えた白髪赤目のスイと肩で揃えられた黒髪が似合う神官服を着た少女、キャウがいた。
それを見た俺は頷くと冷静に行動する。
何事もなかったようにドアを閉めようとしたが、赤髪のお団子ヘアの少女、マロンが飛び出してドアに足を挟みこんで閉めようとするドアを阻止する。
「何、何? 可愛い後輩のアタシが来たのに何も言わずに閉めようというのはどういう了見なのかな?」
「お前はどこの借金取りだ!? ここはとりあえず閉めようとするのが正しい判断だろ?」
「と、とりあえず話だけでも聞いて、ねっねっ?」
こうしてても時間の無駄だし、マロンなりに何やら必死でお願いしてくるので話だけでも聞いてやるか。
仕方がないのでドアを閉めるのを止めて、話を聞く体勢になる。
「で、何があった?」
「それがね? 聞くのも涙、語るのも涙、それは……むぐぅ」
話が長くなりそうだったので、取り合えず頬を鷲掴みして黙らせる。
しかし、お前はどこの人だと突っ込みたいな。
俺はスイとキャウを見つめて考える。説明をさせるならどちらだろうと……
「キャウ、説明頼む」
「はい~」
スイも説明出来るだろうがオブラートを包む言い方をする恐れがあるが、この子、キャウは思った事をそのまま言うだろうから今回は適任だ。
「先輩に預かって貰ってるバナナが発端なのですがぁ~」
「ああ、預かってるな。よくこんなに沢山買ったよな。金は大丈夫だったのか?」
「まさにそこなのですよぉ~」
ウンウンと頷くキャウを見て、なんとなく答えが分かった気がしたが先を促す。
促されたがマイペースなキャウは、一つ頷いて考えるようにして話し始める。
「先輩が言うように沢山買いました~。スイちゃんも私もお小遣いのほとんど使いましたしね~。でも、マロンちゃんは……」
俺はマロン達が持っている荷物、おそらく各自が持っている私物だと思われるモノを眺める。衣服などが入ってあり、持ち歩いて移動せずに拠点にしてる場所に置いておくようなものが沢山ありそうだ。
そして、俺に頬を鷲掴みされているマロンが頬に両人差し指を当てて、目をパチパチさせて首を傾げて愛嬌を振り撒こうとする努力を見て告げる。
「この馬鹿は宿代もバナナにつぎ込んで追い出されたという事か?」
「さすが先輩、大正解ですぅ~!」
俺が掴んでいるマロンを半眼で見つめると汗を流し始めながらも、可愛らしい笑みを意識し続けるコイツの根性は認めるべきかと良く分からない理解が進み始める。
スイとキャウは宿で住めただろうが、追い出されるマロンを不憫に思ったから同行してるのだろう。
まあ、パーティメンバーを見捨てないのは良い事だが、今回に限っては見捨てた方が良かったような気もしなくもない。
まあ、この2人も余剰金であるお小遣いをつぎ込んでバナナを買ったから貸すのも出来ないのだろう。
溜息を吐いて力が抜けて、俺の手から脱出したマロンが俺の服を掴んで懇願する。
「そこでね? シーナ先輩の家で使ってない部屋あるじゃないですか? そこを間借り出来ないかと……」
「確かに使ってない部屋はあるけどさ。そんな事しなくても多少、バナナを売れば済む話だろ?」
そう、マロンが言うように使ってない部屋はある。
家は言うなれば4DKで隣接する場所に大きな物置きがある。
基本的に台所とダイニング、そして俺達3人の寝室の3か所ぐらいしか使ってない。1部屋を物置きのように使っているが2部屋は使ってない。
外の大きな物置きは大き過ぎて使い勝手が悪いので使う予定すらない。
だからと言って間借りさせてやる理由もない。
そろそろ、朝市も開いてるだろう、と思っているとマロンが抱き着いて止めるようにしてくる。
「駄目だよ! アタシがどれだけの思いで……」
「確かに衣食住を破綻させてまで捨て身ではあるが……」
「でしょ、でしょ? それにシーナ先輩と一緒に住めば、朝からジュースも作って貰えるし、だから、こうして有り金をはたいて牛乳を……ぎゃあぁぁ!」
今度は額を鷲掴み、アイアンクロ―をして持ち上げる。
駄目だ、コイツは本格的な駄目な子だ! 教育しなくてはっ!!
だが、泣き叫んでいるのにカバンから取り出した両手に抱えている牛乳を抱き抱え続けるコイツの根性は本物だ。
さて、どうしてやろうと思っていると奥からひょっこりと顔を出すパメラがいた。どうやら汗を流し終えて、マロン達の声が聞こえたので見に来たのだろう。
覗いているのがマロン達で同性と分かったせいか、下着姿で濡れてる髪を拭きながらこちらにやってくる。
「どうかしたのか?」
「実はな……」
ここに至るまでの話をパメラにすると顎に手を添えて考える素振りをみせたが、難しく考える事はないとばかりにあっさりと答えを口にする。
「いいじゃないか、外の物置きを好きに使わせてやれば」
「しかしだな?……」
「やった――!」
喜ぶマロンを見て眉を顰める俺にパメラが説明してくれる。
買ったモノはしょうがないと諦めて、住み込みにする事で今まで以上に訓練が出来る。
早朝のパメラとの訓練にも参加させて、びっちりとしごく事が出来ると言ってきた。
確かに、今まで以上に訓練を課すのも悪くない。特にマロンにはキツめにすると効果は高そうだ。
現にパメラにしごくと言われて天国から地獄に叩き落とされたような顔をしてるので本当に効果はありそうだ。
対照的にスイとキャウは嬉しそうにしている。
この子達はロッカクに行く途中のゴブリン戦で自分達が戦える力があると理解したせいで、もっと強くなりたいという欲求が生まれたようで訓練に前向きになっているようだ。
この方法は先輩としては正解かもしれないが、指導員としては失格な気がしなくもない。
まあ、既にこれは破綻しかけてるかもしれない。
特にスイの存在だ。
俺はヴァンパイア、ハーフヴァンパイアの事を良く知らなかったので、恥を忍んであれからもっと色々と聞いた。
聞いた内容で重要なところだと、血の盟約者というのは何なのかというものだ。
当初の俺はハーフヴァンパイアが暴走しないようにする為の契約ぐらいに思っていたが、正確に言うと間違いであった。
血の盟約者を違う言い方をするならエンゲージ、契約とも言えるらしい。つまり結婚の約束と言う事だ。
生粋のヴァンパイアは暴走しないように相手を死なせないように血が吸えるが、ハーフヴァンパイアだけは相手を死なせないようにコントロールする為に血の盟約者が必要になるので、それだけの意味ではない。
だが、両方ともに言えるのは、血の盟約者を持つと言う事は、私には貴方だけで、貴方がいなくなれば私は存在しませんという重いモノだそうだ。
何故かというと血の盟約者以外から血を吸う事が出来なくなるからだ。正確に言うなら吸えるが生きる糧としては無理になる。
まあ、それをターニャが知っていたから節操無しで、スイを縛るような事をしたと思い、俺を怒って泣きながらボコボコにした訳だ。
確かに、その事情を知ればあれぐらいで良く許してくれたと思う。スイが暴走してしまったという事情を話した辺りで、怒りを抑えてくれたので本気で心配してくれたと良く分かる。
しかし、俺は15歳以下の子に手を出すのはポリシーに反すると告げているが当のスイがなかなか納得してくれてない。
一緒に住むなら、ゆっくりと説き伏せるのもいいかと思うから渡りに船かもしれない。
それにマロンもキャウも可愛い後輩だ。
このどうしようもないマロンを折檻する事があっても、このまま放りだすような事もする事など出来ない。
指導員としては自己責任だと言って放りだすのが正解なんだろうけどな……
深い溜息を零す俺を見たパメラが、好意的な笑みを浮かべると俺の肩に手を置いてくる。
「この子達に物置きを貸す事は私からターニャに伝えておこう」
「俺は容認したとか言ってないんだけど?」
「ふふふっ、なら、私の独断という事にしておこう。厳しく優しい指導員さん」
そう言って台所の方へと歩いて行くプリッとしたお尻をしたパメラが去っていくのを見送る。
パメラにしてもターニャにしても、心配もかけてるし、色々と察して気を使われているのを痛感する。
俺が気付いてない気遣いも一杯あるだろう。
男の甲斐性……俺にあるのかな?
情けなさ過ぎて溜息しか出ない。
頭をガリガリと書いて3人娘に向き合う。
「物置きに行くぞ」
「「「は――い!」」」
3人娘を連れて物置きに行き、ドアを開くとがらんとして何もない。
まあ、本当に物置きとして使ってないし、良く見るクモの巣とかがちらほらある。
広いここは正直、物置きというより山小屋といったイメージがしっくりくる。
「今日は休みって言ってたから1日使って住めるように3人で頑張るように」
そう言うとウンウンと嬉しそうに頷きながら部屋を眺める3人娘。
3人娘に背を向けて立ち去ろうとした俺だが、止まって溜息を吐きながら頭を掻く。
「男手が欲しい事があれば、いつでも声をかけてくれ」
「「「有難う、先輩」」」
異口同音で感謝を告げる3人が俺の背後から抱き着いてくる。
それを振り返り、苦笑いを浮かべながら思う。
俺はやっぱり甘いのかな? と……
抱きついた3人娘が離れて、後ろで楽しげに声を上げるのを聞きながら俺はその場を後にした。
ターニャの口利きがあった事もあるが、ルイーダの事情を知ったターニャパパが漢泣きして破格の銅貨1枚で1泊させると快く応じてくれた。
更にサービスで俺を殴らせてくれるならタダだと俺に詰め寄ってきたが、丁重にお断りして俺がその金額を負担する事にした。
どうやら、娘であるターニャに嫌われない方法で俺を殴ってやりたいらしい。勿論、あのプロレスラーのような太い腕から繰り出される拳なんてノ―サンキューだ。
ターニャ……家を出る時、どんな事を言って出てきたんだい?
そんな事を考える俺がターニャを見るとニッコリと微笑まれる。
ん、世の中、知らなくてもいい事ってきっと沢山あると思うんだ。
知ってしまったらターニャパパに同情して殴られる未来があるかもしれないので知らない事を選択する。
男親って切ないよな……
いつかするかもしれない未来に俺は震えた。
まあ、これでルイーダさん達のしばらくの生活は問題ない。子供達の壊血病などの事もあるから静養してもらおう。その間に田んぼ予定地やそこに住める場所の確保などやろう。
そうそう、子供達の壊血病にビタミンCなどの補給と並行でプチヒールをすると回復が早める事が出来てるようだ。
ヒールなどにしたら効果が上がるかもしれないが、負担が大きくなるかもしれないので無理に試す必要はなさそうだ。
見立てだと3日ぐらいで治りそうだ。10日かかると思ってたので充分だろう。
そうだ、プチヒールでいいなら俺でなく、キャウの実地訓練にやって貰うのがいいかもしれない。
後で行くように言っとこう。
今、話が出たキャウ達、3人娘には明日は土地捜しなので用事があるので明日は休みと告げて帰らせている。
まあ、どこかで会うだろう。
そう考えて俺はターニャと一緒にパメラが待っている我が家へと戻って行った。
次の日の早朝、パメラとの訓練を終えて、汗を流して濡れている髪を拭いていると家のドアをノックする音がした。
「シーナ、ウチ、今、手が離せないから出て」
「うん、分かった」
朝食を作ってるらしいターニャが俺にお願いしてくる。
快諾した俺は、裏ではまだパメラが水浴び中だし、出なくて裏に回れたら相手が男だったら大変だと思った俺は急ぎ足で玄関に向かってドアを開ける。
「はいはい、どなた?」
「貴方の可愛い後輩ちゃんです!」
開けるとそこには赤髪のお団子ヘアの少女がテヘペロして沢山の荷物を抱えて立っている。
後ろを見ると申し訳なさそうにしているテヘペロ少女と同じように荷物を抱えた白髪赤目のスイと肩で揃えられた黒髪が似合う神官服を着た少女、キャウがいた。
それを見た俺は頷くと冷静に行動する。
何事もなかったようにドアを閉めようとしたが、赤髪のお団子ヘアの少女、マロンが飛び出してドアに足を挟みこんで閉めようとするドアを阻止する。
「何、何? 可愛い後輩のアタシが来たのに何も言わずに閉めようというのはどういう了見なのかな?」
「お前はどこの借金取りだ!? ここはとりあえず閉めようとするのが正しい判断だろ?」
「と、とりあえず話だけでも聞いて、ねっねっ?」
こうしてても時間の無駄だし、マロンなりに何やら必死でお願いしてくるので話だけでも聞いてやるか。
仕方がないのでドアを閉めるのを止めて、話を聞く体勢になる。
「で、何があった?」
「それがね? 聞くのも涙、語るのも涙、それは……むぐぅ」
話が長くなりそうだったので、取り合えず頬を鷲掴みして黙らせる。
しかし、お前はどこの人だと突っ込みたいな。
俺はスイとキャウを見つめて考える。説明をさせるならどちらだろうと……
「キャウ、説明頼む」
「はい~」
スイも説明出来るだろうがオブラートを包む言い方をする恐れがあるが、この子、キャウは思った事をそのまま言うだろうから今回は適任だ。
「先輩に預かって貰ってるバナナが発端なのですがぁ~」
「ああ、預かってるな。よくこんなに沢山買ったよな。金は大丈夫だったのか?」
「まさにそこなのですよぉ~」
ウンウンと頷くキャウを見て、なんとなく答えが分かった気がしたが先を促す。
促されたがマイペースなキャウは、一つ頷いて考えるようにして話し始める。
「先輩が言うように沢山買いました~。スイちゃんも私もお小遣いのほとんど使いましたしね~。でも、マロンちゃんは……」
俺はマロン達が持っている荷物、おそらく各自が持っている私物だと思われるモノを眺める。衣服などが入ってあり、持ち歩いて移動せずに拠点にしてる場所に置いておくようなものが沢山ありそうだ。
そして、俺に頬を鷲掴みされているマロンが頬に両人差し指を当てて、目をパチパチさせて首を傾げて愛嬌を振り撒こうとする努力を見て告げる。
「この馬鹿は宿代もバナナにつぎ込んで追い出されたという事か?」
「さすが先輩、大正解ですぅ~!」
俺が掴んでいるマロンを半眼で見つめると汗を流し始めながらも、可愛らしい笑みを意識し続けるコイツの根性は認めるべきかと良く分からない理解が進み始める。
スイとキャウは宿で住めただろうが、追い出されるマロンを不憫に思ったから同行してるのだろう。
まあ、パーティメンバーを見捨てないのは良い事だが、今回に限っては見捨てた方が良かったような気もしなくもない。
まあ、この2人も余剰金であるお小遣いをつぎ込んでバナナを買ったから貸すのも出来ないのだろう。
溜息を吐いて力が抜けて、俺の手から脱出したマロンが俺の服を掴んで懇願する。
「そこでね? シーナ先輩の家で使ってない部屋あるじゃないですか? そこを間借り出来ないかと……」
「確かに使ってない部屋はあるけどさ。そんな事しなくても多少、バナナを売れば済む話だろ?」
そう、マロンが言うように使ってない部屋はある。
家は言うなれば4DKで隣接する場所に大きな物置きがある。
基本的に台所とダイニング、そして俺達3人の寝室の3か所ぐらいしか使ってない。1部屋を物置きのように使っているが2部屋は使ってない。
外の大きな物置きは大き過ぎて使い勝手が悪いので使う予定すらない。
だからと言って間借りさせてやる理由もない。
そろそろ、朝市も開いてるだろう、と思っているとマロンが抱き着いて止めるようにしてくる。
「駄目だよ! アタシがどれだけの思いで……」
「確かに衣食住を破綻させてまで捨て身ではあるが……」
「でしょ、でしょ? それにシーナ先輩と一緒に住めば、朝からジュースも作って貰えるし、だから、こうして有り金をはたいて牛乳を……ぎゃあぁぁ!」
今度は額を鷲掴み、アイアンクロ―をして持ち上げる。
駄目だ、コイツは本格的な駄目な子だ! 教育しなくてはっ!!
だが、泣き叫んでいるのにカバンから取り出した両手に抱えている牛乳を抱き抱え続けるコイツの根性は本物だ。
さて、どうしてやろうと思っていると奥からひょっこりと顔を出すパメラがいた。どうやら汗を流し終えて、マロン達の声が聞こえたので見に来たのだろう。
覗いているのがマロン達で同性と分かったせいか、下着姿で濡れてる髪を拭きながらこちらにやってくる。
「どうかしたのか?」
「実はな……」
ここに至るまでの話をパメラにすると顎に手を添えて考える素振りをみせたが、難しく考える事はないとばかりにあっさりと答えを口にする。
「いいじゃないか、外の物置きを好きに使わせてやれば」
「しかしだな?……」
「やった――!」
喜ぶマロンを見て眉を顰める俺にパメラが説明してくれる。
買ったモノはしょうがないと諦めて、住み込みにする事で今まで以上に訓練が出来る。
早朝のパメラとの訓練にも参加させて、びっちりとしごく事が出来ると言ってきた。
確かに、今まで以上に訓練を課すのも悪くない。特にマロンにはキツめにすると効果は高そうだ。
現にパメラにしごくと言われて天国から地獄に叩き落とされたような顔をしてるので本当に効果はありそうだ。
対照的にスイとキャウは嬉しそうにしている。
この子達はロッカクに行く途中のゴブリン戦で自分達が戦える力があると理解したせいで、もっと強くなりたいという欲求が生まれたようで訓練に前向きになっているようだ。
この方法は先輩としては正解かもしれないが、指導員としては失格な気がしなくもない。
まあ、既にこれは破綻しかけてるかもしれない。
特にスイの存在だ。
俺はヴァンパイア、ハーフヴァンパイアの事を良く知らなかったので、恥を忍んであれからもっと色々と聞いた。
聞いた内容で重要なところだと、血の盟約者というのは何なのかというものだ。
当初の俺はハーフヴァンパイアが暴走しないようにする為の契約ぐらいに思っていたが、正確に言うと間違いであった。
血の盟約者を違う言い方をするならエンゲージ、契約とも言えるらしい。つまり結婚の約束と言う事だ。
生粋のヴァンパイアは暴走しないように相手を死なせないように血が吸えるが、ハーフヴァンパイアだけは相手を死なせないようにコントロールする為に血の盟約者が必要になるので、それだけの意味ではない。
だが、両方ともに言えるのは、血の盟約者を持つと言う事は、私には貴方だけで、貴方がいなくなれば私は存在しませんという重いモノだそうだ。
何故かというと血の盟約者以外から血を吸う事が出来なくなるからだ。正確に言うなら吸えるが生きる糧としては無理になる。
まあ、それをターニャが知っていたから節操無しで、スイを縛るような事をしたと思い、俺を怒って泣きながらボコボコにした訳だ。
確かに、その事情を知ればあれぐらいで良く許してくれたと思う。スイが暴走してしまったという事情を話した辺りで、怒りを抑えてくれたので本気で心配してくれたと良く分かる。
しかし、俺は15歳以下の子に手を出すのはポリシーに反すると告げているが当のスイがなかなか納得してくれてない。
一緒に住むなら、ゆっくりと説き伏せるのもいいかと思うから渡りに船かもしれない。
それにマロンもキャウも可愛い後輩だ。
このどうしようもないマロンを折檻する事があっても、このまま放りだすような事もする事など出来ない。
指導員としては自己責任だと言って放りだすのが正解なんだろうけどな……
深い溜息を零す俺を見たパメラが、好意的な笑みを浮かべると俺の肩に手を置いてくる。
「この子達に物置きを貸す事は私からターニャに伝えておこう」
「俺は容認したとか言ってないんだけど?」
「ふふふっ、なら、私の独断という事にしておこう。厳しく優しい指導員さん」
そう言って台所の方へと歩いて行くプリッとしたお尻をしたパメラが去っていくのを見送る。
パメラにしてもターニャにしても、心配もかけてるし、色々と察して気を使われているのを痛感する。
俺が気付いてない気遣いも一杯あるだろう。
男の甲斐性……俺にあるのかな?
情けなさ過ぎて溜息しか出ない。
頭をガリガリと書いて3人娘に向き合う。
「物置きに行くぞ」
「「「は――い!」」」
3人娘を連れて物置きに行き、ドアを開くとがらんとして何もない。
まあ、本当に物置きとして使ってないし、良く見るクモの巣とかがちらほらある。
広いここは正直、物置きというより山小屋といったイメージがしっくりくる。
「今日は休みって言ってたから1日使って住めるように3人で頑張るように」
そう言うとウンウンと嬉しそうに頷きながら部屋を眺める3人娘。
3人娘に背を向けて立ち去ろうとした俺だが、止まって溜息を吐きながら頭を掻く。
「男手が欲しい事があれば、いつでも声をかけてくれ」
「「「有難う、先輩」」」
異口同音で感謝を告げる3人が俺の背後から抱き着いてくる。
それを振り返り、苦笑いを浮かべながら思う。
俺はやっぱり甘いのかな? と……
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