ステータス表記を変えて貰ったら初期設定に戻ってたー女神公認のハーレム漫遊記ー

ささやん

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4章 求められる英雄、欲しない英雄

55話 現場は燃えていると男は被り振る

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 トリルヴィがプリットに着いた時には、既にあちらこちらから火の手が上がっていた。

 辺りを見渡すと数匹のワイバーンが手当たり次第に攻撃しているのが目に入る。

「くっ、あの馬鹿将軍の考えなしな行動のせいで……今はそれどころではないわ」

 もっと悪態を吐きたい思いを無理矢理飲み込んだトリルヴィはこのプリットで一番力を有している貴族の下へと馬を走らせる。

 そう、シーナがティテールについて調べて貰ってる事に絡みのある疑惑のある貴族、フェレチオ子爵だ。

 正直なところ、あの情報屋が言うようにすこぶる評判が悪い事はトリルヴィの耳に届いていた。
 色んな胡散臭い裏事情がある貴族だが、現状、ワイバーン襲撃にたいして対抗が出来るかは微妙だが、住人の避難誘導ぐらいであれば頼れる兵、私兵を持っている。

 背に腹は代えられない。

 今は清濁を好んでられないと飲み込んで、フェレチオ子爵の館にやってくるとトリルヴィは目を見開く。

 何故なら、館を囲むようにフェレチオ子爵の私兵と思われる者達がすし詰めのように囲っていたからだ。

「な、なにこれ……! この過剰兵力は!」

 ワイバーンにこれだけの数で挑んでも勝てはしないだろうといえる数百の私兵だが、こんな身動きが出来ない状態でいても攻撃もままらずに倒されるのがミエミエであった。

 どうしてこの無駄に余ってる戦力を住人の為に使わないのだと、悔しさで怒鳴りたくなるが下唇を噛み締めて耐える。

 苛立ちを必死に拳を握り締める事で耐え、私兵達の目の前で馬を止めると降りずに声を張る。

「私は王国調査官トリルヴィです。フェレチオ子爵と面談したい。急ぎ、取次を!」

 そう言ったトリルヴィを見て、露骨に面倒そうな顔をしたが、更にもう一度「急ぎだっ!」と告げると嫌々、連絡を入れる為に兵が1名、その場を離れる。

 しばらくすると執事服をピチピチで着た色黒の男がトリルヴィの前に姿を現す。

「ワタクシ、執事長、コカロンと申します。只今、主人であるフェレチオは多忙の為に面談する余裕がありませんのでワタクシが代理で承ります」
「代理では話になりません! すぐにフェレチオ子爵を呼びなさい!」

 苛立ちを隠さずに眉尻を上げて声高にトリルヴィが上げるが、鉄面皮なのかピクリとも表情を動かさないコカロンは「多忙につき……」を繰り返す。

 何度も言い合うなか、周りの兵達がトリルヴィをニヤニヤと笑いながら見つめているのを見て、罵倒しそうになるが耐える。

 フェレチオ子爵は自分の身の安全を第一にして引き籠っているのだろうと分かり、歯軋りをしてしまうトリルヴィ。

「では、貴方に指示をします。すぐにここの兵を使って住人の避難誘導に動きなさい」
「申し訳ありませんが、ここの兵はフェレチオ様の私兵、王国調査官様の命令であれ、聞き入れる理由はありません。どうしてもと仰るなら王国が発行する命令書をお持ちください。私の権限で処理できる問題ではありません」

 感情が籠らない言葉にトリルヴィは、一気に沸点に到達して紅潮させた顔で噛みつくように叫ぶ。

 トリルヴィは自分の後方を指差して更にコカロンに詰め寄る。

「目の前にある現実をみなさい! 緊急事態なんです。ここで遊ばせてる兵がいて良い状況ではないのは見て分かるでしょ!」

 そう言われたコカロンは一応は差された方向に目を向けるが、相変わらずの無感情な瞳でトリルヴィを見つめる。

「街には冒険者もいますし、警備隊もいます。私達に何の関係ありません」
「関係あるでしょう! 住人達が納める税を払っているのは緊急時に私達、王国、貴族が助けるからでしょうが! 第一、警備隊とはあくまで人相手の要員で数も多くありません。冒険者は……ゴブリン神の後、現役冒険者の流出のせいで、冒険者見習いを始めているぐらいにいないんですよ!」

 トリルヴィは必死に熱弁をするが、コカロンは相も変わらず鉄面皮を貫く。

「何度も申しますが私の権限ではお答えしかねます。フェレチオ様の私兵をどうしてもお使いになりたいようであれば王こ……」
「もう、いいですっ!!!」

 コカロンでは話にならないとばかりに横を通り抜けてフェレチオ子爵に会おうと歩みを進めるがコカロンに道を塞がれる。

 何度も邪魔されて抜けるのが難しいと判断したトリルヴィは、声を張って1人でも多くに届けと話しかける。

「フェレチオ子爵に雇われし皆様! 本来なら問題がある行動を強いろうとしているのは百も承知です。しかし、どうかプリットの街を救う為に動いてください。それをした結果の処罰は必ず、王国調査官であるトリルヴィが正当であったと証明します。職を失った場合も必ず、補填するとお約束します。どうか、どうか、今、貴方達が立つ街を救う為に力を貸して下さい!」

 一気に捲し立てたトリルヴィが賛同してくれる人を捜すように見渡すが、終始、ニヤニヤした兵達がトリルヴィを見つめていた。

 まったく響いた様子がないのを見て、下唇を噛み締め、小さな手も握り締め過ぎて真っ白にしながら俯くトリルヴィを見下ろすコカロンが言う。

「残念ながら居られないようです。まあ、そんなので動く私兵が居たら困るというのが実情でしょうが?」
「くっ! フェレチオ子爵のやり様、私は決して忘れません。貴方の主人にしっかりとお伝えを!」

 怒りに任せて背を向けるトリルヴィの背後で慇懃な態度でお見送りするコカロンが「しかとお伝えします」と頭を垂れた。


 フェレチオ子爵がアテにならなかったトリルヴィは、次に勢力がある冒険者ギルドへと向かった。

 先程、トリルヴィが言ったように冒険者の流出のせいで数は少なくなっているが警備隊より数が多いうえ、モンスター絡みでは一枚上で場馴れしてるという意味では優先順位が高い為である。

 冒険者ギルドが見える位置までやってくると出入りが激しいのが良く見えた。

 どうやら怪我人を担ぎこんでいるようで、トリルヴィも出入りする人の流れに乗って中に入る。

 中に入るとそこはまさに修羅場と言わんばかりの阿鼻叫喚がそこにあった。

 充満する鉄臭さと痛みに呻く声、指示を飛ばす人達の怒号、親を求める子の声が響き渡っていた。

 それを見たトリルヴィは胸を掻き抱くようにしたが、すぐに頭を被り振るとカウンターの前で指示を飛ばす受付嬢、スピアの下へと向かう。

「王国調査官、トリルヴィと申します。現状をお聞きして良いですか?」
「王国の人? えっと、まったく人が足らなくて救助も避難もままらなってません。引退した冒険者にも手伝って貰えてますが……」

 スピアはトリルヴィの眼鏡の奥にある瞳を覗き込むようにしてくる。

 その見つめる瞳が「王国軍は介入するのか? いつくるのか?」と訴えているのが痛いほどトリルヴィには伝わった。

 身内の恥を晒す事に怒りと羞恥で顔を赤くするトリルヴィは拳を握る。

「……申し訳ありません。王国軍は動かないでしょう。仮に動いても2日はかかります」

 やっぱりな、とスピアは諦めるように溜息を零す。スピア自身もまったくアテにはしてなかったが来ないと分かるとやはり悔しいのか眉尻を上げてカウンターを叩く。

 実のところ動く気があったところで、シーナに大半の兵を捕獲されているので動ける可能性はゼロではあったが、トリルヴィの見立て通り動かなかっただろうとは推測された。

 なにせ、プリットが襲われるのは織り込み済みであり、襲われる事を屁とも思ってない将軍が指揮官だからだ。

 フゥ、と溜息を吐く事で怒っててもしょうがないと割り切ったスピアはプリットの地図をトリルヴィの前に出してくる。

「まだワイバーンに襲われ続けているので被害は随時動いてますが、現状、この辺りとこの辺が手薄です。特にスラム街がある辺りは……」

 スピアは苛立ちげに「あの辺りには見習いの子ばかりで、冒険者といえばモヒンさんだけ」と告げられてトリルヴィは想像以上に危ない事を知る。

 冒険者見習いなど、一般人との境界線があってないようなもの。

 しかも、いる現役冒険者が1名とはかなりまずい。

 避難誘導もままならない。

「微力ですが、私がそこに向かいましょう」
「いいですか? 王国調査官様なのに?」
「緊急事態ですので、動ける者が動くしかないでしょ?」

 弱った笑みを浮かべたトリルヴィであったが、先程のフェレチオ子爵を思い出して怒りからやる気が満ちる。

 スピアに「では、いってきます」と告げると足早に冒険者ギルドを去るトリルヴィの背を見送るスピアは頬に手を当てて溜息を零す。

「フェレチオ子爵もあの人の1/100でも貴族としての誇りがあればね……それにしてもシーナさんはこんな時にどこにいるのよ!」

 カウンターを蹴っ飛ばして爪先を痛めてスピアは涙目になった。
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