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4章 求められる英雄、欲しない英雄
56話 カッコ良くは無理がありましたと男は懺悔した
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農場では結界外にいた者達が必死に避難していた。
「ルイーダさん、こっちだ」
「私の事より、子供達の避難を優先してください」
モヒンは、必死に逃げてくる子供達を誘導するルイーダの腕を掴み、被り振って引っ張る。
「もうほとんどの子供達は結界に入りやしたよ!」
確かに見渡す限り、まだ入れてない子供達もいるが結界の方へと向かってい居り、他にはいなさそうだ。
心配そうに辺りを見渡すルイーダはギュッと拳を握り、豊かな胸に押し付ける。
避難してきた中にルイーダの子、ムクとメグの姿がなかった為であった。
「心配ないですって! きっと既に避難済みでしょうから」
「……」
モヒンが一生懸命に安心させようとするが一向に晴れないルイーダの表情を見て、困ったように鼻の頭を掻く。
ルイーダはモヒンに連れられて農場の結界に入ると人数確認しているラフィ達の傍に向かう。
「おう、ラフィ、ルイーダさんのお子様のムクとメグを知らねぇーか?」
「いないよ、それにまだ何人かの子供もいないんだけど、まだ連れて来てない子がいるんじゃないの?」
ラフィはセアンとミサにも聞くが同じように知らないと答え、やはり何人かいないと同じ証言をしてくる。
それを聞いて慌てたのはルイーダ。
飛び出そうとしたのモヒンが手を掴まえて止める。
「あぶねーっすよ! 今のところ、ワイバーンは建物を潰すしかしてませんが……巻き込まれたらどうっすんすか! マロン達が偵察に出てますから」
「それでも私は自分よりも子供達を……」
振り切って行こうとするルイーダの前に出て両肩を掴むモヒンが意を決した男の顔で言う。
「俺がいきやす。ルイーダさんはここに残ってくださいな」
「……」
数秒、見つめ合った2人だったが、すぐに申し訳なさそうな顔をしたルイーダが被り振る。
「ごめんなさい!」
ルイーダはモヒンを振り切ってプリットの西門を目指して走り出した。
その時、スラム街ではワイバーンに襲われていた。
「ひえぇぇ!」
マロンは3,4歳の子供を両脇に抱えてワイバーンの死角にある壁の後ろで荒い息を吐いていた。
泣きそうになっている子供達に強がり全開の笑みを浮かべて安心をさせる。
ヒョコと顔を出すとレティアが弓でワイバーンの顔に放っていたが、まったく刺さる気配もなく、あっさりと弾かれていた。
だが、その攻撃に意識は向ける事は出来るようで意識を向けられるとすぐに壁の後ろに隠れる。
隠れた壁をワイバーンが攻撃しても崩れた背後には既にレティアはいない。
マロン達5人はシーナに薬草採取をして良いと言われた時に、モンスターからの逃亡方法をしっかりと叩き込まれた。
それは、死角に逃げろ、風上に立つな、意識を分散させろ、このたった3つを叩き込まれたのである。
薬草採取でやはりモンスター、ゴブリンをメインに遭遇してしまう事はどうしても多かった。
その時、1対1に持ち込めそうにないパターンも多く、シーナに言われた方法を遵守した。
ちょこちょこと攻撃を入れて草むらに隠れ、それを5人で繰り返し、どこを攻めたらいいか分からなくして戸惑っている最中に逃亡する。
勿論、風上にならないようにを意識をしての話だ。
そのおかげでマロン達は怪我一つなく、今まで薬草採取が出来ていたが今日の今日まで言われてたからやっていたがずっと不平不満だらけだったマロンとレティアは心底シーナに感謝した。
「嫌々でもシーナ先輩の言う事を聞いてやってて良かった……」
「そ、そうね、あんなスケベな人に感謝したら身を穢されるから言いたくはないけど、それだけは同感」
いつの間にか合流したレティアがマロンにシーナを貶して同意する。
そのやり方でワイバーンの意識を拡散させながらマロン達は子供達をスラム街の外へと誘導していた。
今、小脇に抱える子以外に2人残っていた。
すると、スラム街の出口の辺りにある壁から顔を出したキャウがハンドサインをマロンとレティアに送ってくる。
そのハンドサインに手を上げて了解を示した2人は顔を見合わせる。
「エルがワイバーンの注意を引き付けたらマロンはその子達を連れて走って」
「了解」
その返事を聞いたのかと言わんばかりのタイミングで壁から飛び出してきたエルが盾に剣を叩きつけてワイバーンの注意を向ける。
意識が向いたのを確認したマロンは壁から飛び出す。
飛び出したマロンの動きからする音に気付いたワイバーンが方向転換した。
意識がマロンに向かった背中に隠れていたスイが氷魔法を放つ。
「アイスアロー!」
背後から打ったが命中せずにワイバーンの顔の横の目の辺りを通過しようとした時、スイは拳を握る。
パリンッ!!!
アイスアローは音は大きいがたいしたスピードもなく四散して終わる。
しかし、その音と目に飛び込んできた氷礫に驚いたワイバーンが横にあった建物にぶつかった。
「マロンちゃん、今~の内ですよぉ~」
「あいよっ!」
2人の子供を抱えてキャウの下に連れていくと引き渡す。
「次でラストだ!」
そう言うと再び、戻るマロンの目の前ではスイ達がおちょくるようにワイバーンをちょっかいをかけていた。
ワイバーンの意識が向いている方向を意識しながら、最後の子供、ルイーダの子供、ムク、メグの回収に走った。
上手い事、避けて隠れている2人の下に到着したマロンがニカっ笑う。
「お待たせ、さっさと逃げよう」
「う、うん……あ、お姉ちゃん後ろ!」
ムクに言われ、慌てて振り返ると後ろに気付いてないが苛立ちから振った尻尾が迫っていた。
咄嗟に2人を抱えて、進行方向に飛んで尻尾から2人を守るようにしてワイバーンの前へと吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられて喀血したマロンに動揺したキャウが飛び出してくる。
それに釣られるようにして飛び出し、マロンに駆け寄ってしまうスイ達。
マロンを心配したというのはあるが、冷静さを欠いて飛び出したスイ達はワイバーンの正面で固まってしまう。
大きな口を開いて突っ込んできたのを見て、しまったと思ったが逃げれる余裕などなかった。
だが、大きな水球が飛んできてワイバーンの顔に命中すると潰れずに顔を覆う。
突然、顔全体を水球で覆われて、驚きと呼吸が出来ないダブルパンチを食らってジタバタと暴れた。
「今の内に逃げなさい!」
マロン達とワイバーンの間に躍り出たトリルヴィが立ち塞がる。
助けに来てくれたらしいトリルヴィであるが蒼白な顔色に荒い息を吐く様子から誰の目でも分かるMPエンプティ状態なのが分かった。
もう戦える状態ではないのに「逃げろ」と何度も口にするトリルヴィを見て躊躇するマロン達の背後から悲痛な母親の声がする。
「ムク、メグ!!」
「「ママっ!!」」
振り返った先にいたのはモヒンに羽交い締めにしされて飛び出すのを阻止されたルイーダ。
それを見て、もう一度、マロン達に「逃げなさい!」と告げるとマロンを起こして立ち上がろうとしたがトリルヴィが生み出した水球が破裂した。
慌てて水球を生もうとするがMP不足で不発して片膝を付いてしまう。
背後にいたマロンを起こそうとしてた体勢ですぐに動けずに固まる。
もう駄目だと思ったトリルヴィとマロン達だったが、ワイバーンの背後にあった夕陽を見て違和感を感じた。
良く見つめると夕陽の中に異物らしきモノに気付く。一度、気付くとそれがどんどん大きくなって、それが異物ではなく人影である事に気付いた。
「どりゃあああああぁぁ!!」
夕陽から飛び出してきた人影がワイバーンの背後から蹴り込んで、ワイバーンを地面に陥没させた。
どうやら今の一撃で首の骨が折れたせいか、心臓を止めたかは分からないがワイバーンは絶命していた。
夕陽をバックにワイバーンの背で立つ人が振り返る。
「大丈夫か?」
振り返ったのは少年で夕陽を背にしていて、表情が分かり難いが安堵の笑みを浮かべてるのが良く分かった。
トリルヴィは放心するように少年を見つめ、マロン達は口をパクパクさせ、モヒンは呆けてしまい、ルイーダを羽交い締めしてた手を離すとルイーダはペタンと女の子座りをした。
唯一、冷静だったのはスイだけだっただろうか、嬉しそうに少年に微笑む。
スイ以外で最初に立ち直ったトリルヴィは眼鏡を外すと地面に叩きつける。
その意味が分からない行動に戸惑った少年がアタフタするのを気にせず、前に出て数歩の距離に行くと片膝を付いて臣下の礼を取る。
「初めてお目にかかります。名もなき英雄様とお見受けします。私は元来、目が悪く貴方様のご尊顔を確認出来ないのは大変心苦しゅうございますが……」
トリルヴィがそう言うと先程より慌てた様子の少年が自分の体を弄るようにして、慌てたが白い仮面を取り出すと装着する。
その慌てる少年にはにかむトリルヴィは更に頭を垂らす。
「私は貴方をお捜ししておりました。色々、語りたい事が山ほどございます。ですが、今は緊急事態。どうか、その英雄のお力をお貸しくださらないでしょうか?」
「……ああ、任せろ」
急に渋めの声にする少年に笑みが零れるのが抑えられないトリルヴィだったが頭を垂れたままだから少年には気付かれてはいない。
少年はワイバーンを一瞬で掻き消し、トリルヴィの横を抜けて、喀血するマロンに近寄る。
「ハイヒール」
一瞬で全快したマロン達が頬を染めて、少年を見上げて瞳を潤ませる。
ムクとメグを受け取り、両手に抱っこしてへたり込むルイーダの下へと向かい2人を目の前で下ろしてやる。
自分の子が無事なのを実感したルイーダが2人を掻き抱くようにすると号泣した。
その背後で佇むモヒンに
「後はお願いします」
「……おうぅ」
モヒンの返事に頷いた少年は高い位置の上空で佇む先程より2回りは大きそうなワイバーンを見つめると飛び上がる。
その飛び上がる姿をその場にいる者達が全員で見送った。
ワイバーンから放たれた火球を剣であっさりと切り裂くその勇姿を見て、鮮烈に心に刻まれる。
あれが、プリットの『名もなき英雄』だと。
街中に響き渡るような断末魔を上げたワイバーンが空で真っ二つに切り裂かれるのを見て、プリットが救われた事を強く実感した。
「ルイーダさん、こっちだ」
「私の事より、子供達の避難を優先してください」
モヒンは、必死に逃げてくる子供達を誘導するルイーダの腕を掴み、被り振って引っ張る。
「もうほとんどの子供達は結界に入りやしたよ!」
確かに見渡す限り、まだ入れてない子供達もいるが結界の方へと向かってい居り、他にはいなさそうだ。
心配そうに辺りを見渡すルイーダはギュッと拳を握り、豊かな胸に押し付ける。
避難してきた中にルイーダの子、ムクとメグの姿がなかった為であった。
「心配ないですって! きっと既に避難済みでしょうから」
「……」
モヒンが一生懸命に安心させようとするが一向に晴れないルイーダの表情を見て、困ったように鼻の頭を掻く。
ルイーダはモヒンに連れられて農場の結界に入ると人数確認しているラフィ達の傍に向かう。
「おう、ラフィ、ルイーダさんのお子様のムクとメグを知らねぇーか?」
「いないよ、それにまだ何人かの子供もいないんだけど、まだ連れて来てない子がいるんじゃないの?」
ラフィはセアンとミサにも聞くが同じように知らないと答え、やはり何人かいないと同じ証言をしてくる。
それを聞いて慌てたのはルイーダ。
飛び出そうとしたのモヒンが手を掴まえて止める。
「あぶねーっすよ! 今のところ、ワイバーンは建物を潰すしかしてませんが……巻き込まれたらどうっすんすか! マロン達が偵察に出てますから」
「それでも私は自分よりも子供達を……」
振り切って行こうとするルイーダの前に出て両肩を掴むモヒンが意を決した男の顔で言う。
「俺がいきやす。ルイーダさんはここに残ってくださいな」
「……」
数秒、見つめ合った2人だったが、すぐに申し訳なさそうな顔をしたルイーダが被り振る。
「ごめんなさい!」
ルイーダはモヒンを振り切ってプリットの西門を目指して走り出した。
その時、スラム街ではワイバーンに襲われていた。
「ひえぇぇ!」
マロンは3,4歳の子供を両脇に抱えてワイバーンの死角にある壁の後ろで荒い息を吐いていた。
泣きそうになっている子供達に強がり全開の笑みを浮かべて安心をさせる。
ヒョコと顔を出すとレティアが弓でワイバーンの顔に放っていたが、まったく刺さる気配もなく、あっさりと弾かれていた。
だが、その攻撃に意識は向ける事は出来るようで意識を向けられるとすぐに壁の後ろに隠れる。
隠れた壁をワイバーンが攻撃しても崩れた背後には既にレティアはいない。
マロン達5人はシーナに薬草採取をして良いと言われた時に、モンスターからの逃亡方法をしっかりと叩き込まれた。
それは、死角に逃げろ、風上に立つな、意識を分散させろ、このたった3つを叩き込まれたのである。
薬草採取でやはりモンスター、ゴブリンをメインに遭遇してしまう事はどうしても多かった。
その時、1対1に持ち込めそうにないパターンも多く、シーナに言われた方法を遵守した。
ちょこちょこと攻撃を入れて草むらに隠れ、それを5人で繰り返し、どこを攻めたらいいか分からなくして戸惑っている最中に逃亡する。
勿論、風上にならないようにを意識をしての話だ。
そのおかげでマロン達は怪我一つなく、今まで薬草採取が出来ていたが今日の今日まで言われてたからやっていたがずっと不平不満だらけだったマロンとレティアは心底シーナに感謝した。
「嫌々でもシーナ先輩の言う事を聞いてやってて良かった……」
「そ、そうね、あんなスケベな人に感謝したら身を穢されるから言いたくはないけど、それだけは同感」
いつの間にか合流したレティアがマロンにシーナを貶して同意する。
そのやり方でワイバーンの意識を拡散させながらマロン達は子供達をスラム街の外へと誘導していた。
今、小脇に抱える子以外に2人残っていた。
すると、スラム街の出口の辺りにある壁から顔を出したキャウがハンドサインをマロンとレティアに送ってくる。
そのハンドサインに手を上げて了解を示した2人は顔を見合わせる。
「エルがワイバーンの注意を引き付けたらマロンはその子達を連れて走って」
「了解」
その返事を聞いたのかと言わんばかりのタイミングで壁から飛び出してきたエルが盾に剣を叩きつけてワイバーンの注意を向ける。
意識が向いたのを確認したマロンは壁から飛び出す。
飛び出したマロンの動きからする音に気付いたワイバーンが方向転換した。
意識がマロンに向かった背中に隠れていたスイが氷魔法を放つ。
「アイスアロー!」
背後から打ったが命中せずにワイバーンの顔の横の目の辺りを通過しようとした時、スイは拳を握る。
パリンッ!!!
アイスアローは音は大きいがたいしたスピードもなく四散して終わる。
しかし、その音と目に飛び込んできた氷礫に驚いたワイバーンが横にあった建物にぶつかった。
「マロンちゃん、今~の内ですよぉ~」
「あいよっ!」
2人の子供を抱えてキャウの下に連れていくと引き渡す。
「次でラストだ!」
そう言うと再び、戻るマロンの目の前ではスイ達がおちょくるようにワイバーンをちょっかいをかけていた。
ワイバーンの意識が向いている方向を意識しながら、最後の子供、ルイーダの子供、ムク、メグの回収に走った。
上手い事、避けて隠れている2人の下に到着したマロンがニカっ笑う。
「お待たせ、さっさと逃げよう」
「う、うん……あ、お姉ちゃん後ろ!」
ムクに言われ、慌てて振り返ると後ろに気付いてないが苛立ちから振った尻尾が迫っていた。
咄嗟に2人を抱えて、進行方向に飛んで尻尾から2人を守るようにしてワイバーンの前へと吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられて喀血したマロンに動揺したキャウが飛び出してくる。
それに釣られるようにして飛び出し、マロンに駆け寄ってしまうスイ達。
マロンを心配したというのはあるが、冷静さを欠いて飛び出したスイ達はワイバーンの正面で固まってしまう。
大きな口を開いて突っ込んできたのを見て、しまったと思ったが逃げれる余裕などなかった。
だが、大きな水球が飛んできてワイバーンの顔に命中すると潰れずに顔を覆う。
突然、顔全体を水球で覆われて、驚きと呼吸が出来ないダブルパンチを食らってジタバタと暴れた。
「今の内に逃げなさい!」
マロン達とワイバーンの間に躍り出たトリルヴィが立ち塞がる。
助けに来てくれたらしいトリルヴィであるが蒼白な顔色に荒い息を吐く様子から誰の目でも分かるMPエンプティ状態なのが分かった。
もう戦える状態ではないのに「逃げろ」と何度も口にするトリルヴィを見て躊躇するマロン達の背後から悲痛な母親の声がする。
「ムク、メグ!!」
「「ママっ!!」」
振り返った先にいたのはモヒンに羽交い締めにしされて飛び出すのを阻止されたルイーダ。
それを見て、もう一度、マロン達に「逃げなさい!」と告げるとマロンを起こして立ち上がろうとしたがトリルヴィが生み出した水球が破裂した。
慌てて水球を生もうとするがMP不足で不発して片膝を付いてしまう。
背後にいたマロンを起こそうとしてた体勢ですぐに動けずに固まる。
もう駄目だと思ったトリルヴィとマロン達だったが、ワイバーンの背後にあった夕陽を見て違和感を感じた。
良く見つめると夕陽の中に異物らしきモノに気付く。一度、気付くとそれがどんどん大きくなって、それが異物ではなく人影である事に気付いた。
「どりゃあああああぁぁ!!」
夕陽から飛び出してきた人影がワイバーンの背後から蹴り込んで、ワイバーンを地面に陥没させた。
どうやら今の一撃で首の骨が折れたせいか、心臓を止めたかは分からないがワイバーンは絶命していた。
夕陽をバックにワイバーンの背で立つ人が振り返る。
「大丈夫か?」
振り返ったのは少年で夕陽を背にしていて、表情が分かり難いが安堵の笑みを浮かべてるのが良く分かった。
トリルヴィは放心するように少年を見つめ、マロン達は口をパクパクさせ、モヒンは呆けてしまい、ルイーダを羽交い締めしてた手を離すとルイーダはペタンと女の子座りをした。
唯一、冷静だったのはスイだけだっただろうか、嬉しそうに少年に微笑む。
スイ以外で最初に立ち直ったトリルヴィは眼鏡を外すと地面に叩きつける。
その意味が分からない行動に戸惑った少年がアタフタするのを気にせず、前に出て数歩の距離に行くと片膝を付いて臣下の礼を取る。
「初めてお目にかかります。名もなき英雄様とお見受けします。私は元来、目が悪く貴方様のご尊顔を確認出来ないのは大変心苦しゅうございますが……」
トリルヴィがそう言うと先程より慌てた様子の少年が自分の体を弄るようにして、慌てたが白い仮面を取り出すと装着する。
その慌てる少年にはにかむトリルヴィは更に頭を垂らす。
「私は貴方をお捜ししておりました。色々、語りたい事が山ほどございます。ですが、今は緊急事態。どうか、その英雄のお力をお貸しくださらないでしょうか?」
「……ああ、任せろ」
急に渋めの声にする少年に笑みが零れるのが抑えられないトリルヴィだったが頭を垂れたままだから少年には気付かれてはいない。
少年はワイバーンを一瞬で掻き消し、トリルヴィの横を抜けて、喀血するマロンに近寄る。
「ハイヒール」
一瞬で全快したマロン達が頬を染めて、少年を見上げて瞳を潤ませる。
ムクとメグを受け取り、両手に抱っこしてへたり込むルイーダの下へと向かい2人を目の前で下ろしてやる。
自分の子が無事なのを実感したルイーダが2人を掻き抱くようにすると号泣した。
その背後で佇むモヒンに
「後はお願いします」
「……おうぅ」
モヒンの返事に頷いた少年は高い位置の上空で佇む先程より2回りは大きそうなワイバーンを見つめると飛び上がる。
その飛び上がる姿をその場にいる者達が全員で見送った。
ワイバーンから放たれた火球を剣であっさりと切り裂くその勇姿を見て、鮮烈に心に刻まれる。
あれが、プリットの『名もなき英雄』だと。
街中に響き渡るような断末魔を上げたワイバーンが空で真っ二つに切り裂かれるのを見て、プリットが救われた事を強く実感した。
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