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本編 第三部 〜乙女はアカデミーにて〜

その勝負・・・受けて立ちますわ!

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昼休憩をお兄様と楽しく過ごした私は、Aクラス戦場へと向かっていた。

怖く無い・・・と言えば嘘になる。味方が誰も居ない状況で一人で戦わなくてはいけないのだから・・・。
でも、後悔はしたく無いし・・・何よりお兄様のあの悲しそうな顔が私の背中を強く押す。

大きく深呼吸をした私はAクラスの扉へと手をかけた。

昼休憩終了間近という事もあってか、Aクラスの生徒は既に着席しており午後の部の講義を今か今かと待ち構えている状態だった。
必然的に私に視線が集まり、また何処からとも無くざわざわと雑音が始まり出す。

「ふんっ・・・!不正を働いた分際で優雅に休憩とは、勘違いも程々にしおけよ?」

そんな雑音の中で私にはっきりと聞こえる様に発言した男性は・・・席に座りながらも通り過ぎようとする私を睨みあげて居た。

(彼は確か・・・宰相の御子息の・・・)

エレノアを連れて何度か足を運んだパーティーで数回見かけた事のある彼は・・・宰相として活躍されているロイマン侯爵の御子息、アイザック・ロイマンだった。
彼の秀才ぶりは社交界で孤立気味の我が家にまで轟く程、幼い頃から有名な人だ。
ちなみに前回も前々回も嫌味っぽい奴では有ったが・・・エレノア率いる生徒会の方が怖すぎてあんまり記憶に残っていない。

言われっぱなしでは引き下がれない私は、歩みを止めてアイザックの方へ体を向けると睨み返してやった。

「あらあら・・・随分怖い顔をしていらっしゃいますね?アイザック殿・・・おまけに聞き捨てなりませんわ?私が不正を働いただなんて・・・一体、誰がそんな出鱈目な事を仰っていますの?」

「貴様・・・っ!無礼だぞ!」「アイザック〝殿〟などと・・・!」

私の発言が聞き捨てならなかったのか、アイザックの近くの席に座っていた男子面々が私に向かってやいやいとヤジを飛ばしてくる。

「あら?この学園では、お家は関係有りませんわよ?〝皆平等〟だと学園長も仰って居たでは有りませんか・・・!でも・・・そうですか・・・別に肩書きを使っても良いという事であれば・・・愛しい愛しい婚約者に泣き付いて、このAクラスの方々にひどい目に遭わされていると言って見るのも良いですわね・・・」

私がヤジを飛ばしていた軍団の方を流し目でそう牽制すると、全員が全員、私が在学中の殿下の婚約者であるという事を思い出したのか、それとも殿下が私にベタ惚れであるという下らない嘘の噂話を信じているのか・・・、見る見る顔が青ざめていき視線が私から離れていく。

(ふん・・・っ!雑魚は引っ込んでなさい・・・!)

「その通りだ・・・フローラ嬢。学園内では別に〝アイザック殿〟で構わない。だがしかし・・・未来の王妃となる女性がこの様な振る舞い・・・あまり関心は出来ませんね?」

私と雑魚のやり取りを見兼ねた感じで口を開いたアイザックは、先程とは違いやけに冷静な物言いだ。

紺色のストレートヘアに切れ長の瞳。高潔さが漂う金色の丸縁眼鏡をクイっと中指で上げる仕草は・・・何処か色気まで感じさせる。

(まぁ・・・でもね・・・お色気モンスター〝サイラス〟に比べたらね・・・。アイザックなんて可愛いものよ!)

「未来の宰相候補となる様なお方が、下らない嘘の噂を信じて・・・私を辱めていらっしゃるのに?本当に・・・どの口で仰っていらっしゃるの?私の事を勘違いしている様だから言っておくけど・・・私はそこら辺の御令嬢の様にお行儀良く無くてよ?」

バンっとアイザックの机を叩いて令嬢スマイル全快で宣戦布告をした私の様子に、周りのAクラスの面々は勿論の事・・・アイザックまでもが目を見開いて驚いている。

(ふん・・・!こちとら何回目の学園生活だと思っているのよ・・・?!満点位、余裕だっつーの!!!!)

私が勝ち誇った顔で机から手を離し、体勢を整えた瞬間・・・顔を俯かせたアイザックが何故か笑い出してしまった。

「ふふふ・・・そうですか、そうですか。ーーーでは・・・私と勝負しませんか?フローラ嬢・・・」



「へ?勝負・・・?」



アイザックに剣の心得が有ったとは知らなかった私は思わず素で驚いてしまった・・。
だがしかし!自分は幼い頃、本気で〝騎士になる〟と夢見て剣の稽古を欠かさずしていたのだ。
恐らく、そこら辺の御令嬢よりは剣の腕は良い筈・・・!

(それに・・・陰でコソコソ言われるよりもよっぽど言いわ!勿論、勝つ気満々だけれど・・・それ以上の価値がこの勝負には有るわ!)

「勿論!受けて立ちますわ・・・!では本日の午後の講義後、広場でなど如何でしょうか・・・?」

「え?広場・・・?」

見当違いな私の返答に、思わず眼鏡が傾いてしまった様子のアイザックは慌てて眼鏡を定位置へと直していた。
私は全く意味が分からず、とりあえず午後の講義まで時間も無いので続けて提案する。

「真剣は流石に不味いですから・・・模造刀で宜しいでしょうか?」

「ちょ・・・!ちょっと、待って下さい・・・!何の話をしているんだ?さっきから・・・!」

手を前に突き出して苦言を並べるアイザックに、益々訳が分からなくなってしまった私は首を傾げる。

「え・・・?勝負するんですよね・・・?」

「勝負はします!でも何故、剣で勝負という事に擦り変わってしまっているのですか?!普通に話の流れから察すれば、どう考えても試験の点数で勝負でしょう?!」

(え・・・。でもそれだとーーー)

「午後の講義の初めに抜き打ちテストを行うと小耳に挟みましてね。・・・・・・どうです?そのテストで貴方が私より高い点数を取れば、貴方の濡れ衣も晴れますし・・・勿論、私も謝罪します。」

「え・・・あ、いやー、それ勝負にならないかと思いますけど・・・」

「では!!不正を認めるのですね?そういう事になりますよ?」

(何でだよ!アイザック・・・君の為に言ってあげているのに・・・!!!)

「いや・・・不正はしてません!でもその勝負だと・・・うーん・・・。」

「分かりました。では、万が一・・・私が負けた場合は、何でも言う事を聞いてあげますよ。」

(いやいやいや・・・!出来レースにアイザック、君は何てものを賭けているんだよ・・・!おい!)

「ちなみにその場合・・・私が負けたらどうなるんですか?」

「ふんっ・・・!やはり勝つ自信が無いようですね?まぁ、そうですねぇ・・・、次の定期試験では白紙で答案を出して頂き、このAクラスから出て行って頂きましょうかねぇ・・・」

(はい消えたー!私がわざと僅差で負けてあげる選択肢、抹消しましたー!!!)

「ちなみに確認ですけれど、私がアイザック殿に勝った場合は・・・私が首席入学者であると言う事に、皆さまご納得して頂けると言う事で宜しいのですよね?!」

私が大きな声でそう問い掛けると、クラスの面々は互いに顔を見合わせながらも首を縦に振り始めた。

その様子を見た私の返事は決まっていたーーー



「ならば・・・その勝負!受けて立ちますわ・・・!」

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