【完結】殿下、5回目の婚約破棄は私の方からさせて頂きます!~やりたい放題していたら、いつの間にか逆ハー状態でした~

ゆきのこ

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#side ヴァンス ~大切な妹は、僕の初恋の人~

告白

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「会長、そこで蹲っている男子生徒ですが・・・如何なさいますか?」

ため息混じりにそう問い掛けて来たのは、こちらに向かって歩みを進めるエレノア嬢だった。

「あ、あぁ・・・!医務室に・・・運んで診て貰った方が良いだろうな。」

「はい。それで?私が運べるとでもお思いですか?」

我に返った様子の会長が慌ててそう返事をするが・・・エレノア嬢は「そんな事は分かっています」
とでも言いたげに間髪入れずにそう笑顔で更に問いかける。

(流石、フローラの親友だと言うべきか・・・会長相手に物怖じしないな・・・。)

この人は敵に回してはいけない人だと・・・エレノア嬢の見方が少し変わってしまう様な、黒さを孕んだ笑みだった。

「・・・はぁ、仕方ない。俺が運ぼう。」

溜息をついた会長は、他に良い案が浮かばなかったのか、渋々という感じで男子生徒の方へと歩き出すと、蹲っている男子生徒を肩を貸す形で立ち上がらせた。

(このまま行ってしまうのだろうか?決闘の続きは、どうすれば・・・)

「あの・・・会長・・・勝負は、どうしましょうか?」

どうやらこのまま去るつもりの会長の背中を咄嗟にそう引き留めはしたが・・・
会長は振り向かず背中を見せたままだ。

「本気でやる意思が無い者とする勝負など、ただの茶番だ。先ずは覚悟を決める必要が・・・有るのでは無いか?俺と勝負するよりも先に告白しなくてはいけない相手が居る筈だ・・・。」

(会長が怒るのは当然だ・・・。どんな理由があったにせよ、会長は本気で挑んでいたのに、僕は途中で雑念に囚われて・・・不誠実な事をしてしまった。おまけに、フローラに何も伝えていない事もお見通しか・・・。)

会長はその言葉を最後に庭園広場を立ち去ってしまった。
僕は会長の言葉を噛み締めながら・・・俯いた顔を上げる事が出来ず・・・その背中を見送る事すら出来なかった。

「最初で最後のチャンスだと思いますわよ?婚約者から告白のお許しが出るなんて・・・。無駄にしないで下さいませね。」

続いてエレノア嬢に肩を叩かれたかと思えば・・・耳元でフローラには聞こえない様な小声でそう言われた。

(僕の覚悟ー・・・か。)

フローラに告白しようかと悩んだ事が無い訳ではない。
でも、結局しなかった。

フローラの唯一無二の兄というポジションを汚したくなかった。
僕を慕ってくれるフローラの笑顔を見る度に、このままで良いって、これが正解なんだって・・・自分を押さえ込んで来た。

父上も母上も・・・殿下との婚約を喜んでいたし、僕が邪魔をすべきでは無いと思った。

いつでもフローラが戻って来れる存在で在り続ける事・・・それが僕に出来る最大限の愛情だと・・・。

そう思い込ませて来た。

だけどーーー・・・



「あの~・・・お兄様?私達も帰りましょうか?」

その場から動かずに考え込んでしまっていた僕は、フローラにそう声を掛けられてようやく我に返った。

僕の荷物を回収し、僕の手を取り引っ張って帰ろうとするフローラに・・・



「待って!!!」



咄嗟に叫んでしまっていた。

(多分・・・今ここなんだ。唯一、フローラに気持ちを伝えるなら・・・ここしかないんだ!!!)

「ど、どうしたのですか?急に・・・」

急に僕が叫んだものだから・・・フローラは目を見開いて驚いてしまっていた。
それでも・・・僕の様子がいつもと違うと察してくれたのか、歩みを止めてじっと僕の方を見ている・・・。




「フローラ・・・好き・・・なんだ。」



伝えたくて仕方がなかったその思いをやっと言えた筈なのに・・・
何故か心臓を抉られるかの様な苦しみを覚えた。

「私もお兄様の事は大好きですわよ?」

鈍いフローラはやはり僕が妹として好きだと言っていると勘違いしているらしい。

「違う・・・違うんだ。」

あっけらかんとした表情で、簡単にそう返事をするもんだから・・・首を左右に振って違うと告げる。

(いつもの僕ならここで逃げてしまうけど・・・今日は逃げない。きちんと伝える・・・!)

「フローラの事が・・・妹としてじゃなくて・・・一人の女性として、好きなんだ。」



流石のフローラでもようやく分かってくれたらしい・・・。
勢いに任せて言ってみたは良いものの・・・フローラは頭が追いついて居ないのか・・・頭を抱えながら目をグルグルと回してしまっている。

「一人の・・・女性・・・と、して・・・?」

「ずっと昔から・・・好きなんだ。諦めようと何回も何回も・・・言い聞かせて来たけど、無理で・・・。ごめん・・・、」

何だろう・・・悲しくも無いのに涙が溢れてきた。
それはまるで、僕の感情が出処を探して涙として出てきた様な感覚に近かった。

絶対に言ったら駄目なのにーーー

伝えたって困らせるだけだと分かっていたのにーーー

伝えずには居られない程に・・・好きになってしまっていた。

気持ちをぶつけると言う事が・・・無様な姿を晒す事だと同義なのだと・・・初めて知った。

(情けない男だと思われているだろうな・・・)

「ーーーっ?!」

そう思っていた矢先の事だったーーー。



信じ難いが・・・何と・・・フローラが、泣いている僕を・・・抱き締めて来たのだ。



「べ、別に謝る事では有りません!誰を好きになろうが・・・お兄様の自由ですわ。」

フローラが何か言ってくれているが・・・全く頭に入って来ない。

(胸ー!!!胸が当たってるー!!!どどどど?!どういう状況なんだ?!・・・・・・落ち着け、落ち着くんだ・・・僕!!)

「ありがとう、フローラ・・・もう大丈夫だから。」

内心焦っている事を悟られぬ様にと、名残惜しい気もしたが・・・フローラの腕を優しく解いた。

だが一度持ってしまった熱はそう簡単に下げる事など出来る訳もなく・・・。
フローラの顔を見られない程、心臓がバクバクの僕は・・・暫く俯いたまま必死に熱を逃がす努力をする。



「お兄様・・・あの・・・私・・・、」

歯切れの悪いフローラの声で顔を上げた僕は・・・その表情を見てすぐに分かってしまった。

(そりゃ、そうだよな・・・。)

「フローラ、良いんだ。告白をしてしまったが・・・この関係を壊したい訳では無いんだ。ーーフローラさえ良ければ、変わらず接して貰えると嬉しい。」

「ええ!も、勿論です!」

心底嬉しそうにそう食い気味に返事をしてくれたフローラに、僕も救われた様な気持ちになる。

(良かった・・・。まぁ、長期戦でやっていこう!)

「有難う、フローラ。さぁ、帰ろうか?」

「・・・・・・?」

僕が差し伸べた手の意味が分からないのか・・・僕の手をじぃっと見つめたまま、頭の上に?マークを飛ばしているフローラに、思わず笑ってしまう。

「手を繋ぎたいんだけど・・・駄目かな?」

「いや、別に・・・かまいませんけれど・・・。」

フローラの許可を貰えたので、遠慮なく手を握ると、フローラがビクッと動いたのを感じた。

指と指を絡めて繋いだので・・・恐らくそれに反応しての事だろう。

(こんな繋ぎ方・・・許されないと思っていた・・・。)

「こここ、これではまるで・・・恋人同士だと勘違いされてしまいそうですわね?!」

「フローラは会長の婚約者として有名人だから・・・恋人は無いんじゃない?さしずめ、僕と不埒な関係を築いている位なんじゃないかなぁ?」

恋人同士という言葉がフローラから出て来た事が・・・とにかく嬉しかった。
変わらず接してくれと言ったものの、本当に前の様に兄として変わらず慕われても・・・苦しいな。という思いが過ぎらなかった訳では無いのだ。

フローラが僕の告白を受けて、きちんと意識してくれている・・・。

それが何よりも嬉しかった。

「婚約者は気持ちが無くてもなれますが・・・恋人には、気持ちが無いとなれませんよ?全く別物ですわ!」

そっか・・・。フローラにとって、婚約者ってそういう事なんだね・・・?

それはつまり・・・婚約者である会長には別に特別な気持ちは無いと、遠回しに言っているのと同義だ。

思わず笑顔が溢れ出してしまう・・・。

「そうだね・・・、フローラの言う通りだ。」

(じゃあ僕はー・・・婚約者ではなく・・・)



「ならば・・・フローラのに立候補しても良いかな?」



そう告げると、繋いだままのその手を・・・口許に寄せてフローラの手の甲に優しくキスをした。

「ひぇーーーっ?!!!」

(良かった・・・嫌がっている様子では無いな・・・。)

チラリとフローラを確認すると、乙女の様に恥じらっている姿が目に入った。

「だ、駄目です!絶対に駄目です!!!」

顔を真っ赤に染めながら、可愛らしい声を出すフローラに悪戯心が刺激されてしまう。

「どうして・・・?好きになるのは、自由なんじゃなかったの?」

「ドキドキし過ぎて心臓が持ちませんから・・・!だから・・・絶対に駄目です!」

(そんなの・・・絶対にまたするに決まってるじゃないか!フローラ!)

真面目な顔をしてそんな事を告げるものだから・・・思わず可笑しくて笑いが止まらなかった。

ドキドキさせたくてしているのだから・・・
ドキドキしてくれると分かれば、またやってしまうに決まっているのに・・・。

(僕にもチャンスが有るって思って良いんだよね・・・?フローラーーー)



この日を境に、
僕の妹は・・・僕の片思いの相手にもなったーーー。
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