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第一章「生き血をすするまで」
九品目 ラミアのハンバーグ3
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「その代わりに聞かせてやる。マルタ村に吸血鬼はもういない。だからその依頼は受けられない。それだけのことだ」
「いない? マルタ村に? そんなはずはありません。我々がマルタ村についての情報を更新したのは、つい昨日のことですよ?」
初老の男性は信じようとしない。いや、むしろそれは正常な反応と言ってもいいだろう。
そもそも自分たちで重要だと判断して、情報を集めているぐらいだ。私でも部外者にそれは違うと言われたら、まずは相手を疑う。
ただ一つ、証拠を提示されたときを除いて。
「まあ周りのゾンビはそのままだからな。ただ教会にいた吸血鬼ならすでに私たちが始末した。何なら証拠もある。キリボシ、塩を見せてやれ」
私はそう言ってキリボシに目を向ける。しかしどういうわけか、出し渋るキリボシ。小声で何事かと聞いてみると、食べるわけでもないのに日中取り出して、いたずらに傷ませたくはないと言う。
私は至極当然のことだと思った。ただここで証拠を見せなければ、いま話した情報は確認されてそれで終わり、代償という話も怪しくなってくるだろう。
そういう事情もあって、ここはなんとしても証拠を提示しなければならない場面なのだが――。
ふとキリボシから初老の男性へと目を向けた私は、思わずなんで怪訝な顔をされなければならないんだ? と表情を微かに険しくする。
「あの、塩を見せられて私にどうしろと?」
「それは……」
言われてみればそうだなと、口に出しかけた言葉を私は飲みこむ。そもそもなぜ私は塩で証明できると思い込んでしまったのだろうか。
当たり前のように吸血鬼と塩を私は結び付けていたが、その場に居合わせたわけでもない相手にそれを信じさせるのは不可能だ。
仮に説明出来たところで正気を疑われるだけだろう。
しかしここで引き下がったのではあまりにもバカ。なりたくてなったわけではないが、本当にお人よしになってしまう。
どうにかこの塩は吸血鬼を絞ってできたものなんです、などと言わずに済む方法があればいいのだが。
そんなことを考えていると、不意に微かな悲鳴を耳が捉える。
「何だ?」
かなり距離があるみたいだが……いや、むしろ話をなかったことにできる好機では?
咄嗟に路地を引き返そうとしたところで、すぐに初老の男性に出鼻を挫かれる。
「こっちです」
言うが早いか、一人でさっさと走り出す初老の男性。私としてはそのまま逆に走り出してもよかったのだが、まあ理由ぐらいは聞いておくかとキリボシに目配せして、とりあえず初老の男性の背中を追いかけることにする。
「遅い!」
初老の男性に追いつくや否や飛んでくる鋭い視線。その顔つきは商人というより歴戦の兵士という感じだったが、今はそんなことはどうでもいい。
「お前が早いんだ。誇っていいぞ? で? 悲鳴とは逆に向かっているようだが、何か考えでもあるのか?」
「まずは情報の集まる中心地に向かいます。幸いなことに悲鳴は壁の外から――なんですか?」
私がうわあと汚物を見るような目で足を止めると、合わせてキリボシも初老の男性も足を止める。
どうやら商人というのは本当に自分たち以外どうでもいいらしい。
「幸いなことに、ね。悪いが私たちはここまでだ」
キリボシ、行くぞ。そう目配せして二人で来た道を引き返そうとすると、初老の男性がすぐに目の前へと回り込んでくる。
「待ってください。まだ何が起こっているのかも、これからどうなるかも分からないんですよ」
初老の男性は信じられないという顔をする。
「今から引き返すおつもりですか? ただの徒労で終わるかもしれませんよ。それにお二人が向かって解決できるならまだしも、もし手に負えなかったときにはどうするおつもりですか」
「悲鳴が一つや二つならまだしも、な」
私は少しずつだが大きくなり、近づいてきている悲鳴を背に苦笑する。
「少なくとも徒労で終わるということはないさ」
「ではなぜ……レティシアを守るために、魔王軍と最後まで戦われた他ならぬアザレア様なら、初動がいかに大切かよくご存知でしょうに!」
「落ち着け。誰に聞いたのか知らないが、私はそもそも最後まで戦っていない。こうして生きているのがその証拠だ」
しかし魔王軍か。レティシアのときを思えば騒ぎは小さいが、まあその可能性もあるなと一応、頭に入れておくことにする。
「いや、そんなことよりもだ」
そこまで言ってから私はあることに気づく。適当に騒ぎを収めて外の連中から謝礼でも貰おうかと思っていたが、目の前の商人から巻き上げればいいのでは?
「いない? マルタ村に? そんなはずはありません。我々がマルタ村についての情報を更新したのは、つい昨日のことですよ?」
初老の男性は信じようとしない。いや、むしろそれは正常な反応と言ってもいいだろう。
そもそも自分たちで重要だと判断して、情報を集めているぐらいだ。私でも部外者にそれは違うと言われたら、まずは相手を疑う。
ただ一つ、証拠を提示されたときを除いて。
「まあ周りのゾンビはそのままだからな。ただ教会にいた吸血鬼ならすでに私たちが始末した。何なら証拠もある。キリボシ、塩を見せてやれ」
私はそう言ってキリボシに目を向ける。しかしどういうわけか、出し渋るキリボシ。小声で何事かと聞いてみると、食べるわけでもないのに日中取り出して、いたずらに傷ませたくはないと言う。
私は至極当然のことだと思った。ただここで証拠を見せなければ、いま話した情報は確認されてそれで終わり、代償という話も怪しくなってくるだろう。
そういう事情もあって、ここはなんとしても証拠を提示しなければならない場面なのだが――。
ふとキリボシから初老の男性へと目を向けた私は、思わずなんで怪訝な顔をされなければならないんだ? と表情を微かに険しくする。
「あの、塩を見せられて私にどうしろと?」
「それは……」
言われてみればそうだなと、口に出しかけた言葉を私は飲みこむ。そもそもなぜ私は塩で証明できると思い込んでしまったのだろうか。
当たり前のように吸血鬼と塩を私は結び付けていたが、その場に居合わせたわけでもない相手にそれを信じさせるのは不可能だ。
仮に説明出来たところで正気を疑われるだけだろう。
しかしここで引き下がったのではあまりにもバカ。なりたくてなったわけではないが、本当にお人よしになってしまう。
どうにかこの塩は吸血鬼を絞ってできたものなんです、などと言わずに済む方法があればいいのだが。
そんなことを考えていると、不意に微かな悲鳴を耳が捉える。
「何だ?」
かなり距離があるみたいだが……いや、むしろ話をなかったことにできる好機では?
咄嗟に路地を引き返そうとしたところで、すぐに初老の男性に出鼻を挫かれる。
「こっちです」
言うが早いか、一人でさっさと走り出す初老の男性。私としてはそのまま逆に走り出してもよかったのだが、まあ理由ぐらいは聞いておくかとキリボシに目配せして、とりあえず初老の男性の背中を追いかけることにする。
「遅い!」
初老の男性に追いつくや否や飛んでくる鋭い視線。その顔つきは商人というより歴戦の兵士という感じだったが、今はそんなことはどうでもいい。
「お前が早いんだ。誇っていいぞ? で? 悲鳴とは逆に向かっているようだが、何か考えでもあるのか?」
「まずは情報の集まる中心地に向かいます。幸いなことに悲鳴は壁の外から――なんですか?」
私がうわあと汚物を見るような目で足を止めると、合わせてキリボシも初老の男性も足を止める。
どうやら商人というのは本当に自分たち以外どうでもいいらしい。
「幸いなことに、ね。悪いが私たちはここまでだ」
キリボシ、行くぞ。そう目配せして二人で来た道を引き返そうとすると、初老の男性がすぐに目の前へと回り込んでくる。
「待ってください。まだ何が起こっているのかも、これからどうなるかも分からないんですよ」
初老の男性は信じられないという顔をする。
「今から引き返すおつもりですか? ただの徒労で終わるかもしれませんよ。それにお二人が向かって解決できるならまだしも、もし手に負えなかったときにはどうするおつもりですか」
「悲鳴が一つや二つならまだしも、な」
私は少しずつだが大きくなり、近づいてきている悲鳴を背に苦笑する。
「少なくとも徒労で終わるということはないさ」
「ではなぜ……レティシアを守るために、魔王軍と最後まで戦われた他ならぬアザレア様なら、初動がいかに大切かよくご存知でしょうに!」
「落ち着け。誰に聞いたのか知らないが、私はそもそも最後まで戦っていない。こうして生きているのがその証拠だ」
しかし魔王軍か。レティシアのときを思えば騒ぎは小さいが、まあその可能性もあるなと一応、頭に入れておくことにする。
「いや、そんなことよりもだ」
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