【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第5輪 凛々しい薔薇の如く

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 金の装飾で縁取られた白一色の壁に天井から垂れ下がる大きな魔法灯が明かりを灯している。華やかな部屋の家具は白とピンクで統一されていて、いかにも女の部屋であることが分かった。
 そんな部屋に、王国魔法騎士団の金糸の刺繍が入った白いローブを纏い、空色の団服を着たグラキエスがソファーへ座ってお茶を嗜んでいる。
 横を見ても前を向いてもイグニスの姿はない。代わりに、グラキエスの前でティーカップへ口をつける淑女の姿がある。

 腰まで伸びた瑠璃色の髪を内巻きにして、フリルがあしらわれた水色の華やかなドレスを着た美少女だ。宝石のような青い瞳で微笑む彼女は、どこか雰囲気が誰かに似ている……。
 彼女の背後には数人の侍女が下を向いて控えていた。

 音を鳴らさず置かれるカップから手を離した彼女は、微笑んだまま本題に入る。

「グラキエス。この間は、とても残念でしたね」

 この間と言われて思い浮かぶのは、一週間前に起きた『王宮書庫事件』だけ……。第一王女であるカーラが一人で計画したとは思えなかったベッドについて、大方検討はついていたグラキエスは涼しい顔を向ける。
 同じようにティーカップを置いてから、穏やかな笑みを浮かべるグラキエスは内緒話でもするかのように口元を隠した。

「やっぱり、あれはアクアの仕業だったんだねぇ……。カーラ様だけが思いつくとは考えていなかったからさっ」

 少しだけ声を抑えた話し方のグラキエスの意図を読んだアクアは部屋から侍女を下がらせる。扉が閉められたあと、両手を広げて呪文を口にするグラキエスは悪戯な笑みで自分の唇へ人差し指を立てた。
 念入りに施された魔法は外へ声が漏れないようにする遮断魔法である。明らかに、これから秘密の話をする気満々なグラキエスへ、釣られるよう悪い笑みを浮かべるアクアは口元を隠した。

「ふふっ……お兄さまの困惑した顔は、とても素敵でした」
「まぁ、僕にとっても素敵なサプライズだったよ。ベッドはまだイグニスの気持ちが固まってないから早かったけどね?」

 軽く片目を瞑ってウインクするグラキエスは再びカップを持ち上げて紅茶を嗜む。
 それに対してお菓子へ手をつける美少女は、イグニスの妹であるアクア・ローゼンだった。
 髪と目の色は両親を半々に受け継いで異なるが、歴とした血の繋がった兄妹である。
 グラキエスを『お兄様』と呼ぶのにも複雑な理由があった。残念ながら、イグニスと婚約したら義兄ぎけいになるからではない。

 二人は紅茶を嗜みながら、悪巧みを考える貴族のように薄ら笑いを浮かべている。

「ああ、そろそろお兄さまもお越しになりますね。此処からが本題ですけれど……」
「そうだねぇ。きっと、とても嫌そうな顔をするだろうなぁ……どんな顔も可愛いけど」

 噂をすれば影が差す、と言わんばかりに軽く扉を叩く音が聞こえてきた。
 「どうぞ」と言うアクアの声で開かれる扉から、二人の予想通り眉間に皺を寄せたイグニスの姿がある。



 ◆◆◆



 誰が見ても明らかに不服そうな表情で扉を締めてすぐ、グラキエスの掛けた魔法へ気づいて睨みつけた。
 グラキエスと同じく仕事の合間に訪れたイグニスの服装は、王国魔法騎士団で支給された金糸の刺繍が入った白いローブに、暗めな赤い団服姿である。
 この二人が揃っている時点で嫌な予感しかしないイグニスは、手で払うようにグラキエスを退かした。

 残念そうな顔をしながらソファーの端まで移動したグラキエスの隣に座ると足を組む。

 十歳も歳が離れた妹のアクアは可愛いと思っているイグニスだが、グラキエス関連で困らされていた。とても聡明で理解者な妹は実の兄であるイグニスよりも、義兄・・のグラキエスを応援している。

「血の繋がった俺より、こいつを選ぶのはどういう了見だ」
「お兄さま。血の繋がりなどと言う古いお考えは、改めてくださいませ」
「それなら、余計に兄弟で……しかもだぞ」
「性別につきましても古いお考えかと存じます。そして、宜しかったですね」

 しれっと意見を変える妹のアクアは大したものだ。
 胸に手を当てて喜びを噛み締めているグラキエスに対して、心底嫌そうな表情をするイグニスはすぐにでも攻撃魔法を放ちそうな勢いで睨みつける。
 「てめぇが唆したんだろう」と言わんばかりの表情にグラキエスは手を交差させて首を左右に振った。

「僕は何もしていないからねー? アクアからの好意を有り難く受け取ってるだけだよ」
「――てめぇの影響は大アリだろうが……」
「お兄さま。もしも、世継ぎを心配なさっているようでしたら問題ございません。わたくしが、どなたかと婚姻して子を儲けます」

 考えもしなかった言葉が妹の口から飛び出すと、イグニスの思考が停止する。
 思わずグラキエスが顔の前で片手を振っても反応はない。と思っていたら……ブツブツ唱えるような声がして、一瞬でグラキエスは宙ぶらりんになった。
 何度も使っている捕縛用の魔法に縛られたグラキエスは「またー!?」と叫んでいる。
 日常茶飯事なのか、目の前で起こっていることに対してアクアは驚きもせず口元を隠して笑っていた。

「お兄さまも恥ずかしがり屋さんですね」
「――そんな風に見えるのなら、医者へ行くぞ……。ハァ……俺は仕事に戻る。妙な気は起こさなくていい」
「ちょっ……! 僕またこのままー⁉」

 開いた大きな花は三つ。三十分は拘束されるらしい。顔を振り返ることなく部屋から出ていくイグニスへ、文句を口にしたグラキエスだったが、その表情は嬉しそうだった。

 ◆◆◆

 いつものやり取りとはいえ、二人が王国魔法騎士団に所属してから暫く見ていなかったアクアは口元を隠して笑っている。義妹とはいえ、蔓に縛られて宙づりにされる状態は気恥ずかしく、グラキエスは視線をそらして咳払いした。

「グラキエスお兄様。このような状況ではありますが、お話しされたいことはございますか?」
「……正直、この状態じゃ……ないです」

 にこやかにして残酷な過去の同じ醜態話で花を咲かせるアクアに、冷や汗をかきながら相槌する形で三十分が経過する。

 拘束魔法が解除されると、縛っていた蔓はキラキラと光の粉になって消えていき、解放されたグラキエスは床へ膝をつく。
 何事もなかったように再び向かい合ってソファーへ座り直したあと、アクアは何か閃いた様子で両手を前にして握りしめる。

「グラキエスお兄様、押して駄目なら引いてみろ作戦です!」
「えっ? 引いてみろ……って、もしかしてイグニスにアプローチしないって意味の?」

 強く頷いてみせるアクアに、胸を押さえるグラキエスはわなわなと震えていた。イグニスに恋心を抱いてから十五年。グラキエスは、イグニスへのボディタッチを欠かせたことはない。振り解かれようと、腕に触れたりは確実にしていた。それを一切辞めるのはグラキエスにとって究極の選択に等しい。だが、十五年も進展がなく、そろそろイグニスの見合い話を進めようとしてくるかもしれない両親の動きもある。最悪、一番でなくても一緒にいられるならと思っているグラキエスは深く頷いた。
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