【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第6輪 芽吹かない花

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 早朝から会議やら訓練などで忙しくしていたイグニスは、団長室でグラキエスが用意した朝食を食べている。アクアと話をした日から、なぜかグラキエスがよそよそしい。普段なら隣で食べるのに、ソファーの前に簡易的な椅子を持ってきて座っている。

 少し否定しすぎたか? と思考を巡らせる中、先に食べ終えたグラキエスは笑顔を向けてきた。

「このあとの予定についてだけど、城下町の視察をして午後は解散かな。最近は多忙だったから暇ができるね」
「そうか……てめぇの予定はどうなってやがる」
「僕? 午後は暇だから……久しぶりに外へ遊びに行ってこようかな」

 「聞くんじゃなかった」という顔を貼り付けたイグニスは舌打ちする。グラキエスの遊びは一つしかない。イグニスも夜の経験はあるが、グラキエスは性欲に溺れているのかと疑うほど、十代から夜遊びしている。しかも昼間から……。

 聖女として弁える気もさらさらないこの男は、イグニスに愛を囁きながら肉体関係にも発展しないことへの不満か、やることはやっている。
 ただ、副団長に就任してからの三年間。イグニスと長く生活を共にしている現在いまは浮ついた話を耳にしない。

 最近は闇魔法結社の事案で忙しくて暇すらなかった。だが、古城の件があってから闇魔法結社も身を潜めるように大人しい。そろそろ何かあってもおかしくないと読んでいるイグニスは頭を掻き乱す。

 イライラは闇魔法結社だけじゃないことはグラキエスも気づいていた。これは、アクアの立てた『押して駄目なら引いてみろ作戦』である。

 朝食を終えて、視察のために準備をするため着替えるイグニスにすら反応しないグラキエスは徹底していた。

 鍛錬をして汗ばんだシャツを脱ぐと、血色の良い肌色が現れる。白いタオルで拭く際に、きめ細かな肉体美を晒しているが、グラキエスは沈黙して目を逸らしていた。
 引き締まった腰、無駄な肉のない背中がちらついている。

 グラキエスを意識して少しだけ横を向くと、薄く線の入った腹部、胸板は見えそうで見えないところをキープしていた。

 気配で大体把握しているグラキエスは明らかに覗きたい、あわよくば触りたいのを我慢している。
 イグニスは同性に一切興味がないため、まったく気にしていない。単純に、グラキエスを意識しているだけだった。

「着替え終わったから行くぞ」
「あ、うん。――今の絶対わざとだ……いつもなら出て行けって言うのに」

 ブツブツと呟くグラキエスに不敵な笑みを浮かべるイグニスは気分良く部屋を出る。


 
 ◆◆◆


 
 視察を終えて王城へ戻って来ると、遊びに行こうとしていたグラキエスが陛下に呼び出されていた。何事かと尋ねたイグニスの耳へ思いがけない言葉が発せられる。

「実は、メディシーナ副団長に縁談が来ていまして……しかも、国同士の大事な」
「え……今更、見合い話だと?」

 何やら他国にもいる聖女……もちろん、正真正銘女性の。国同士の繋がりを強めるため、普通なら同国の王子と婚姻するところ、他国の聖女がどうしてもと懇願してきたらしい。
 イグニスは男らしい顔立ちの華やかさを持っているが、グラキエスはどちらかと言うと綺麗な女らしい顔立ちをしている。同じ女でも見惚れてしまうほど……。
 それに、グラキエスはを持っていた。どんな相手でも一貫した態度のイグニスと違い、騎士団や王族意外には愛想を振りまいていて近づきやすい側面がある。

 思っても見なかった縁談に目を泳がせるイグニスは、一人で団長室へ戻るとソファーへ腰を下ろした。

「……あいつが見合いだと?」

 イグニスより二歳年下の男は二十五で結婚適齢期は超えている。イグニスは結婚自体に興味がなく、実のところ縁談は沢山あるが、妹アクアのおかげで両親からも好きにして良いと言われていた。これに関しては、グラキエスの知らないことでもある。

 精霊の加護を受けて精霊魔法を持つ家系は一族を存続させる義務を持つが、嫡男でなくても構わなかった。アクアは、イグニスと違う青薔薇の魔法を扱える。寧ろ、そちらの方が珍しくアクアは良く「お兄さま、わたくしに感謝してくださいね?」といじってきた。

 聖女の能力は精霊魔法と異なり、光回復魔法を使える者が突然発現するもので、血によるものじゃない。そのため結婚義務もなく、聖女は王族と同じ扱いであるため陛下でも命令出来なかった。今回のも呼び出されたが、お願いの部類だろう。

 きっと断って戻ってくると思っていたイグニスの耳に扉を叩く音が聞こえてきた。
 許可をすると視線をそらすグラキエスの姿がある。

「てめぇが呼び出された話は聞いた。断ってきたんだろ」
「あー……それが。相手の聖女様がどうしてもって言うから一度会うだけって……」
「は……?」

 まさかの断ってこなかったことに思わず漏れた言葉でハッとした。
 自分は一切グラキエスの言葉や態度に応えていないにも関わらず、なぜか悶々していることに気づき胸へ手を当てる。明らかに動揺しているイグニスに、グラキエスは口元を隠して笑った。

 だが、朝から振り回される身は苛立ちも覚えていて、気づいたら口から出ていた思いがけない言葉はグラキエスを驚かせる。

「……婚約、受けたらどうだ」
「――え?」
「てめぇも身を固めたら、俺のことなんて気にしなくなるだろう」

 顔面蒼白で震えるグラキエスを見て、再びハッとしたのも束の間だった。明らかに目の色が据わったグラキエスに、余裕ぶっていたイグニスは押し倒される。思いがけない行動に、睨みつけるイグニスだったが、今度は切なそうな顔をするグラキエスに言葉を失った。

 幾度も拒んできても、ヘラっとしていたのに……。いままで見たことがない顔で、近寄ってくるのを拒めないでいたイグニスは唾を飲み込んだ。
 だが、唇同士が触れることはなく通り過ぎる顔を視線だけで追いかけると、耳元で囁かれたあと、思い切り首筋を吸われる。思わず肩が揺れるイグニスは目を見開いて、強引に引き剥がした。

「――てめぇ。調子に乗るんじゃねぇ」
「……イグニスが悪いんだよ。それは、僕からの贈り物だから」

 冷たい視線を向けて部屋から去っていくグラキエスに困惑しながら起き上がってすぐ姿見で確認する。
 くっきりと赤い花が咲いたように残る痕が生々しい。しかも隠せない場所だ。何かしても怪しまれる。

 あんなに凄まれたことも、強引なことをされたのも初めてだったイグニスは困惑したまま口を押さえた。明らかに熱を持った体は少しだけ震えている。

「……俺が、あいつを恐れてるだと? 馬鹿馬鹿しい……」

 ただ、普段なら魔法を使わなくても負けることのない力比べも、なぜかイグニス限定で強くなる性質を持つグラキエスは侮れなかった。いつもなら放置していたのに、揺らぐ精神面が気になったイグニスは部屋を出る。

 そんなとき、廊下で走ってくる部下から緊急事態が知らされた。
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