【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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【番外編②】トリック・オア・トリート

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 ――祭りの前にさかのぼること、早朝。

 まだ日が昇り始めて間もない時間帯。静かな寝息を立てるイグニスの部屋へ侵入者が扉を開ける。普段ならしっかりと施錠をしていたイグニスだったが、今日は大事な祭りがある日で、昨日深夜まで仕事を片付けていて魔力認証を忘れてしまっていた。

「――イグニス……不用心だよ。僕以外の誰かに夜這いされたらどうするのさ」

 きっと夜這いなんてする奴は一人だけだと言うだろう。何かに触れられて反応したイグニスは、重たい瞼を開けた。
 布団の中にある手の甲を撫でる感覚で、一気に覚醒したイグニスは反動をつけて上半身を起こす。手をはたくように振り解くと、怒りがわき上がってきた。額に浮き上がる青筋を見ても、暗がりの部屋で笑顔を向けてくるグラキエスは嬉しそうに何かを唱える。

「おはよう、イグニス。トリックオアトリート!」
「……つか、勝手に人の部屋入ってんじゃねぇ! なんだ、その奇妙な呪文は」
「え? これ、王宮書庫を調べてたらあったんだよー。古い魔法書みたいでね、お菓子くれなきゃ悪戯するぞーって」

 数秒の沈黙から寝起きのイグニスが菓子なんて持っているはずもなく、キッパリ「あるわけねぇだろ」と告げた。グラキエスの持ち出してきた遊びは、いつどこででも始められるなら知らないイグニスが不利になる。分かった上で妙な呪文を口にしただろう男は意味深な笑みを浮かべてじりじりと迫ってきた。しかも、先ほどまで何もなかった空間に時計が映し出されている。

「……なんだよ、この時計は」
「え? あれ、部屋で発音の練習してたときは見えなかったんだけど」

 しかも、時計の下に大きな文字で『トリック・オア・トリート』と刻まれていた。即ち、この時計が0をさすまでに、どちらか選択しろという意味だろう。先ほどの答えはカウントされなかったらしい。
 だが、頑張ってもイグニスに菓子を生み出す力はなかった。

 無情にもカウントが0をさした直後。時計と文字は砂のように消えていき、悪戯を意味する文字が大きく浮かび上がる。

「うわー。凄い細工だね! でも、悪戯になっちゃったねぇ……どうしよっか?」
「……どうしよっかじゃねぇ! てめぇが唱えたんだろうが……悪戯って、な」
「イグニス? どうしたの?」
「……体が、動かねぇ……」

 上半身を起き上がらせた状態で、石になったように指一つ動かなくなった。危険はないと思っていたグラキエスも慌てた様子で、聖女の魔法を使う。それでも、体は固まったままでグラキエスの細長い指先がイグニスの頬へ触れた。

「感度ある……?」
「……感度とか言うんじゃねぇ。でも、触られてる感覚はある。それに、話せるしな……体が動かせねぇだけか……」

 此処ぞとばかりにさわさわ腰や首筋など敏感な場所へ手を這わせるグラキエスを睨みつける。

「……おい。俺が動けねぇからって触んじゃねぇ!」
「えー。元に戻す方法を確かめてるんだってー」

 するっと上着の下から無骨な手が滑り込んだ瞬間、ビクッと肩を揺らした。男のくせにひんやりする手が腹部を撫でている。徐々に服を捲りながら上へ上ってくる手が胸板まで到達したときだった。触れられるとまずい場所へ本能的に察して声を上げる。

「てめぇ……調子に乗るんじゃねぇ!!」

 本気で怒ったときの声に肩を揺らしたグラキエスの手が止まり、腕を引いた。顔に熱が集まるのを感じて視線をそらすイグニスは、首を傾けて覗き込んでくるグラキエスから逃げられない。今度は手を握ってきたグラキエスが、真剣な表情で見つめてくる。

「これは多分……指示に従うしかないと思うんだ。だから、悪戯しなきゃね?」
「は? ふざけてんじゃねぇ……俺は、そんな魔法書なんて知らねぇし。やる義理もねぇ」
「それじゃあ、ずっとこのままだよ! あと、僕は普通にイグニスのこと悪戯したいだけだから!」

 ガバッと襲いかかるグラキエスを払い除けることは当然出来ず、悪びれた様子もなく体をまさぐってきた。

 【悪戯】の定義とは、悪ふざけ、無益な行為のことをさす。

 悪ふざけがどこまでをさすのか、無益な行為は確実にされる側が被ることだ。
 体を弄られているが、イグニスの拒否したところは触らず普段から手をつけている場所に這っている。

「てめぇ……調子に乗ってんじゃねぇ!! 擽ってぇんだよ!」
「えー……本当に擽ったいだけかなー? 性感帯じゃなくても、触られ続けたら気持ち良くなると思うんだよねー」
「――性感帯とか言うんじゃねぇ!!」

 重点的に腰を撫でてくるグラキエスの手も温かくなって、少しだけじわじわした感覚が疼き出していた。断じて認めないとばかりに、口と目しか動かせないイグニスは耐え凌ぐ。
 次第に口から普段とまったく異なる声が漏れ始めた。

「ぁっ……やめ、そこばっかり……撫でんな!」
「はぁ……可愛い声……。元々、擽ったかった場所なら、これだけ撫で回したら可愛くなっちゃうよね?」

 さわさわ撫でる手の動きを微妙に変えられて、くぐもった声が自分の口から出ていることで動揺を隠せない。震えるような感覚はあるのに、実際体は動いておらず、下半身も熱を感じ始めていた。
 どこまでが悪戯の範疇なのか、まったく終わることもなく与えられる刺激はイグニスの思考を鈍らせる。どこか潤んだ瞳を向けるイグニスの限界は近づいていた。

「か、かわいい……イグニス、とってもえっちだね――」
「ハァ……ハァ……」

 いつの間にか脱がされた上半身の胸板に咲く、薄紅色をした小さくて可憐な二つの花。一度も触れていないのに小さいながらツンと尖って主張している。触られ続けたことで体も火照っていた。汗ばむ体から流れる流れる雫で濡れて、宝石のように輝いて見える。

 グラキエスが弄っていたのは腹部と腰に首筋だけ。たまに舐めるような口付けを耳へ押し当てていた。動けないことで、熱は触れられた部分へ集中して感度が高まっていく。

「…………イグニス……。悪戯の魔法、全然切れないから……もっと、触らないと駄目かな?」
「…………卑猥なことは、悪戯を超えてんだろうが……」

 なんとか冷静になって吐き出した言葉は、唇すれすれで口づけるグラキエスの行動で思考を持っていかれる。そのときだった。なんの反応もなかった体が薄青く輝き出した直後、ピクリと指先が動く。青白い光はイグニスにしか見えていないのか、気づかず胸へ指先を伸ばすグラキエスの腕が捻り上げられた。

「いっ……! たたっ! 痛いよ、イグニスぅ――」
「てめぇに散々やられたツケと比べたら、少ねぇだろうが……。つまり、てめぇがしてたのは、ただの卑猥なだけってことだ!」

 グラキエスと違って卑猥な心を持ち合わせていなかった魔法書の悪戯判定は、“唇の横へ口付けたこと”だった――。


 祭りも含め、なんだかんだあった翌日。お詫びとして、グラキエスが焼いた菓子で二人は仲良く昼のティータイムを過ごしたのだった。
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