【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第23輪 生々しい花たちの嬌声

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 竜国との話し合い以降、各国合同で闇魔法結社の動向を探るため忙しくしているときだった。一通の怪文書がイグニス宛てで届けられる。

 それは、まったく闇魔法結社と関係のない内容だったが見過ごせるはずもない場所での出来事だった――。

「――グラス、この内容どう思う」
「これは明らかに――夜の営みだね……!」
「そういうことを聞いてんじゃねぇ!」

 怪文書の内容は『夜な夜な、城内から女のような喘ぎ声が聞こえる。調査されたし』と言う短いものだったが、いかがわしい……。
 撒水事件でまた気まずくなるかと思った二人の関係も、イグニスが許してしまった。相変わらず調子の良いグラキエスは忘れたように接してくる。
 この男が、イグニスのことで一字一句忘れることはあり得ない……。

「夜な夜なってことは、深夜か……」
「当然でしょー? まぁ、朝の営みでもいいけどね……。イグニス、僕はどっちで」
「聞いてねぇ……。さっさと終わらせるぞ」

 相変わらず懲りないグラキエスの言葉を遮る。
 夕方までに仕事をすべて終わらせ、夜を迎えた。さすがに、団員が起きている時間帯はないだろうと、夕食後のティータイムを嗜んでいる。
 それから、グラキエスの手作りケーキも添えられていた。外見によらず、甘い物が好きという意外性を持つイグニスは無言で食べていく。反対にグラキエスは、甘いのが苦手だった。

 テーブルを挟んだ前に置かれた椅子へ座って笑顔を向けるグラキエスを睨む。

「おい……ずっと笑顔で見てんじゃねぇ」
「えー。だって、イグニスが僕の作ったケーキを食べてくれるのが……可愛いなって」
「気色悪いこと言ってんじゃねぇ……」

 食べてるだけで可愛いと言う男に、眉間に皺を寄せ意味不明だとばかりの暴言を吐いた。本人は当然、気にした様子もなく笑顔を向けている。
 そろそろ湯浴みも終わって夜の見回り以外で団員が寝静まる時間帯だ。場所は城内以外分からないため、二人で手分けして探すことになる。

 ちなみに、リトス王国魔法騎士団に女は所属していない。色んな理由はあるが、第一に危険な前線へ出たい女がいなかった。そのため、見回りに設けられた団員の寝室がある一階は男だけ。侍女などの寝室は王城内で繋がっている別館へ移動した場所にある。

 二階以降は王族や関係者の個室から、その他客間だったり大広間など。そのため、二階以降の階段前には交代制で団員が配置されている。

 だから一階から地下だろうと踏んだ二人は、左右へ別れることにした。

「イグニス……何かあったら、すぐ呼んでよ⁉」
「ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ……念話があるだろうが」
「そうだけどさー……変態がいるんだから」
「てめぇもその一人だけどな……」

 文句を言いながらチラチラ振り返るグラキエスを無視して右側へ歩きだす。長い廊下を回り、最終的に地下へ続く階段前で再び顔を合わせた。
 明らかに嫌そうな表情と、笑顔が交差する。グラキエスが軽い足取りで駆けてきたときだった。

「んっ……ぁっ…………」

 どこからか、くぐもったような艶めかしい声が聞こえてくる。一瞬、あのときの自分を思い出したイグニスは思わず口に手を当てた。その様子に視線だけを向けてくるグラキエスは何も言わない。ただ、見なくても分かる下品な表情をしているだろう……。

 声の主は、明らかに下から聞こえていた。地下室にはラントもいるが、隠し部屋で引きこもっていて除外。それに、あの男からこんな艶めかしい声は出ないだろう。

「は……ぁん、んッ……!」

 淫らな声は明らかに男だった。深呼吸したイグニスは無言で指示を出すが、無視してグラキエスは先を行く。

『おい。俺が先に行く』
『これは譲れないよ……イグニスが、あの声みたいにならないとも限らないからね』
『なってたまるか』

 相手に気づかれないよう足音を消して、念話で暗い地下を降りていった。すると、徐々に艶めかしい声は大きくなって聞こえてくる。ただ、一つだけ気になる点があった。
 そう思った直後に真面目な声が聞こえてくる。

『イグニス……。えっちされてる男の方……一方的にやられてない?』

 真面目に話し合う議題じゃないのを分かった上で、イグニスも感じた疑問を口にした。女の経験はあるイグニスも、良く聞いていた言葉がある。相手側から求める声がない。
 一方的に犯されていたとしても、声から嫌がる様子は感じられなかった。そもそも、男が性的暴行されている事実は受け入れ難くもある。

「……あり得ない。団員同士……」

 思わず口から漏れていた微かな音だけで、勘付かれたのか声が止む。

「イグニス……気づかれちゃったよ」
「……悪い」
「ううん。早く状況を拝みたかったし……それじゃあ、灯りをつけちゃうねー!」

 グラキエスによって部屋全体が白い光へ包まれると、前と変わらない地下室の中央にベッドだけが置かれていた。しかも、そこには見覚えのある団員が一糸纏わない姿で寝かされている。
 思わず目を見張るイグニスを守るように前へ出たグラキエスは、何かの気配を感じているようだった。

 何かの儀式のようにも感じられる不気味さの中で、痙攣したように震える体を何者かが撫でると、再び甘い声が漏れる。

「――寝たまま、出来るのか……」
「イグニス? そう言う疑問が先に出るのも可愛いけどねぇ」
『――この者は、半分起きているよ。だから、こんなに可愛い声が漏れている』

 敵意を感じられなかった相手からの思わぬ声に、緊張が走った。
 数秒前まで視認出来なかった何者かの姿を捉える。ベッドからゆっくり体を起こし、素肌が見える薄い布を羽織っただけの姿で、思わず視線が下へ注目してしまった。
 グラキエスと同じくらい太い男の象徴がそそり立っている。ただ、色白の肌と同じく白い。

 緊張する二人と違って飄々とした相手は明らかに人間じゃなかった。書庫にいた妖精とも違う……あまり相手をしたくないだ。

 二人が緊張と困惑で動かないのを良いことに、精霊は見せつけるよう再び手を動かし始める。

「んっ……ふ……はぁ」

 艶めかしい声の主は、精霊の言うように目を閉じたまま口だけが動いていた。生々しい行為に、肩を揺らすイグニスの背後へ回ったグラキエスが両目を手で塞ぐ。

「なっ……てめぇ、こんなときに何してやがる」
「イグニスには毒だからだよ! それに、彼と同じく可愛く囁くのもイグニスだしね」
「は……ふざけんな……」

 二人がふざけ合っている間に、大きな声が聞こえてくると絶頂を迎えたらしい体から淫らな音がして、塞ぐ手を引き剥がした。
 震える団員の下半身から流れ出る白濁と漂う独特な臭いに鼻を押さえる。
 衝撃的なのは、何食わぬ顔で精霊が指に飛び散った白濁を舐めていた。

『ふむ……やはり、美味ではないが悪くはない』
「うわー、生の精霊さまとか、初めて見たけど。念話と同じ話し方なんだね」
「それこそ今更だろうが!」
『君達は……つがいと言う生き物かな?』

 生き物と言われて困惑するイグニスに対して、動物で表現される番と言われてだらしない顔を晒すグラキエスは腰を揺らしている。
 否定よりも先に疑問が脳を支配してしまうのもイグニスの弱点かもしれない。
 再び前へ出るグラキエスは、精霊に対して人差し指を伸ばす。

「精霊さまとはいえ、うちの団員……ハッキリ言って、イグニス以外は別にどうでもいいけど。風紀が乱れるから辞めてもらえるかな」
「てめぇ……精霊様に対して無礼だぞ」
『……人間の所作は気にしない。風紀は分からないが、駄目なのか?』

 胸板の小さな茶色い突起へ触れて、転がしながら問いかける精霊に顔が歪んだ。団員は既に開発済みなのか、小さな声が漏れる。確実に悪いことだと自覚していない精霊へイグニスも一歩前へ出た。

「……精霊様が、人間に対してその……行為へ興味を持っているのは知りませんでした。ですが、同意もない行為は犯罪です。即刻お辞め下さい」

 理由を告げるイグニスの声で硬く尖って主張するそれから手を離す。緊張して腰が浮いていた団員の体は、再びベッドへ沈んだ。
 どんな魔法を使っているのかは分からないが、精霊は固有魔法しか使えない。精神干渉系なのは明らかだった。
 しかも、魔法界で精霊は敬うべき偉大な存在で、イグニスなど一部の人間は加護を得て通常の魔法より強大な力を授けてもらっている。そんな相手に物言うイグニスの額からは汗が滲んでいた。

 一心にイグニスを見つめる金色の双眸が突き刺さる。だが、すぐに視線は下へ向けられた。

『……なるほど。君は精霊の加護持ちか。しかも、彼……曲者だな』
「え……俺の、精霊様が誰か分かるんですね……」
『勿論。そうか、仕方ない……人間の営みを見ていたら、試したくなってね。私達は子供を作らないから、同じ物は付いているが生殖機能はない。けれど、女と言う生き物は良くないらしいから、同じ形をしている男を選んだんだよ』

 生々しい行為に対して赤裸々な告白する精霊が面白いのか、吹き出しそうなグラキエスの口を塞ぐ。理由は行為への純粋な興味と追求だった。理解を示した精霊が団員へ触れると、ベッドごと姿が消える。
 一瞬の出来事に口から手を離すイグニスが前へ出そうになるのを、後ろから伸ばされた長い腕で阻止された。
 両脇を掴まれたイグニスの焦りに対して無表情の精霊は理解を示す。

『ああ、彼は元の場所へ戻したよ。三人目だけど、全員私にされたことは覚えていないから、安心するといい』
「――三人⁉」
「まさか、そんなに可愛がってたんだー。ちなみに好奇心として聞くんだけどさー……前の二人は最後までしたの?」

 恐ろしく直球なグラキエスに青筋を浮き立たせるイグニスが何かを言うよりも先に、顎へ手を当てる精霊は答えた。

『君達の言う子作りなら、したよ。男の体だし、私は精霊だから挿れただけだけどね。最初は苦しそうだったけど、魅惑の霧をかけたら悶えていたよ』
「……もしかして、貴方は霧を操る精霊ですか」
『ああ、そうかもしれない。記憶も霧の魔法で消し去ったんだ。男なのに可愛らしく鳴くんだね』

 先ほどよりも生々しい発言に両脇から両耳を塞いでくるグラキエスにイグニスは引き剥がそうと腕を掴む。どこから湧き上がっているのか不思議なくらい動かない腕に困惑している間に、精霊の姿は薄れていった。
 手で耳を押さえたくらいで聞こえなくなるはずもなく、グラキエスの腹部へ一発肘鉄を食らわせる。

「あ、待って下さい! この王城や国民に不埒な真似は控えて頂きたい」
『ふむ。結構、気に入る行為だったんだけど、善処しよう。人間は、他の場所でも沢山いるからね……』

 最後の願いは聞き入れてくれた様子で完全に見えなくなった霧の精霊の存在へ緊張感が薄れながら、腹部を押さえたまましゃがみ込む男に冷たい目を向けた。一体何をしたかったんだとばかりの視線に気づいた様子で、顔を上げるグラキエスは腹部を擦っている。

 怪文書の依頼は達成出来たが、このことを報告など出来るはずもなくイグニスは盛大なため息を吐いた。
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