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第22輪 熟した果実の甘い匂い
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竜国の重鎮が帰国してから数日後。イグニスは、盛大にやらかしたグラキエスの下に組み敷かれていた――。
月に一度、中庭で盛大な撒水がされる。良い魔法具を作ってくれたと庭師が喜ぶほど活躍していた。
なぜかそれを見るために連れ出され、水を被って水浸しの上……馬乗りにされている――。
水に滴るいい男……と言えなくもないほど、垂れた前髪を手で掻き上げる仕草のグラキエスは、悪びれた様子なく笑った。
滴る雫はイグニスの頬を濡らす。
全身ずぶ濡れな状態でも、団服を着ているため服が透けることはない。ただ、明らかに素肌まで濡れている。
「――おい。喧嘩売ってんのか……」
「えー。そんなことあるわけないじゃない。事故だよ事故……それにしても、一切ムードないよねぇ」
「……あってたまるか」
団服がびしょ濡れになるまで濡れると重さが半端ないことを思い知った。ただ、手足のように魔法を使えるイグニスにとっては造作もない。こんな状況じゃなかったら……。
「――ねぇ、イグニス……良い匂いがする……」
「……嗅ぐんじゃねぇ、変態聖女」
びしょ濡れになったことでイグニスがつけている香水が散ったのだろうと思ったが、グラキエスの顔は胸板まで下りている。
幾度となく悪戯をされた、グラキエスが「小さな薄紅色の花」と呼ぶ場所の付近だった。
初めて触られたときから何故か視線だけでも意識するようになってしまい、じわじわとする感覚に襲われる。
表情で読み取ることにも長けているグラキエスは、敢えて無防備の腹部に触れてきてビクッと腰が揺れた。
「……男を誘う匂いだよ。イグニスって、感度良いよね? 服越しなのに……」
「――ふざけてんじゃねぇ……水のせいだ」
スンスンと匂いを嗅ぐグラキエスの後頭部を掴んで引き剥がそうと試みる。だが、微動だにせず踏ん張ったことで息を荒くして諦めた。暫く嗅がれていると、視線を空へ向ける。
水を放水しているこの時間帯は、夜のように誰もいない。
しかも、未だに水は止まることなく降り注いでいる。
花のために撒水をしているから水圧や量も少ないはずだった。つまり、びしょ濡れになるほど、二人は同じ場所で留まっている。
満足したのか、漸く嗅ぐのを止めて顔を上げるグラキエスは爽やかな笑みを浮かべていた。
数秒前まで変態行為をしていたのが嘘のように思えた矢先。度を超える吃驚発言が飛ぶ。
「じゃあ……胸元は? 服越しに触ったら、余計に感じないかな」
「此処って……見えねぇだろが」
「見えなくても分かるよ……イグニスの可愛くて小さな二つの花だもん」
向けられる淀みない視線は視姦されているようで、隠された小さな花がツンと張った気がした。
心の中で葛藤しながら、触られた記憶が蘇る。そんな精神状態でも、まだグラキエスの求めている感度がないことだけは察していた。
そんなすぐに反応していたら、シャツが擦れるだけでも危ないはず……。
イグニスの考えはグラキエスを遥かに超えて斜め上をいっていた。
「……ねぇ、触っ」
「許すわけねぇだろ」
「まだちゃんと言ってないのに……」
不貞腐れたような顔と声で、種を育てるように見つめる視線が刺さる。
じわじわと育っていきそうな不安に駆られ、両手で押しのけるように遮断した。
だが、そこで負けるような弱い精神がグラキエスに存在するはずなく、胸板を押す濡れた手袋を取り外されると、代わりに生暖かい何かが触れてくる。
「なっ……てめぇ……!」
「――イグニスが、意地悪だから……」
男らしい手の平から指先へ舌を這わせて絡めるように見下ろす視線で、わざとらしくぴちゃぴちゃ音を立てた。
嫌悪感でもなく、性的な意味か分からない感覚が体をめぐり、小さく肩が揺れる。
生々しい音。舐めるのをやめさせようと、男にしては小さな顔を片手で掴んだ。すぼめられる顔は降参とばかりに体を起こしたときだった。
濡れた土についていた手が滑ってバランスを崩し、本能的に何かを掴もうとしたグラキエスの親指が、ある場所へ触れる。
しかも、上へ押しやるような動きで……。
「んっ……!」
硬い団服の一部から、じんわりとした疼きを感じて思わずくぐもった声が漏れる。
自分の口から漏れ出た声に、目を大きく見開いたイグニスは一番聞かれたくない男と視線が交わった。
品性のある顔は一瞬で崩れ去り、欲情に満ちた男の目へ染まる。
此処でそらしたら負けだとばかりの威圧感にも関わらず、空色の瞳は一切曇りなく釘付けになった。
先ほどまでは股を開く形で覆い被さっていた体も、体勢を崩したことで密着して跨がっている。血の気が引いたように下ろされる親指を思いきり払い除けた。
「……グラス……いい加減にしやがれ!」
「……イグニスが、えっちな声出すから……」
「えっ……な、声じゃねぇ‼ クソッ……」
じんじんする胸筋をわざと擦り、麻痺させる。
渋々後ろへ下がって地面に膝をつくグラキエスは眉を寄せた。
勢いつけて起き上がるイグニスも垂れてくる前髪を掻き上げると、一層赤い髪が燃えているようでグラキエスは目を輝かせている。
「……イグニスのそういう男らしい姿も、たまには良いよね」
「――たまにとか言ってんじゃねぇ。クソッ……醜態晒した……」
「醜態だなんて……可愛かったよ?」
「うるせぇ……!」
完全に羞恥心で肩を震わせながら、しゃがみ込んだままの胸ぐらを掴んで前のめりになった頭へ鉄槌を振り下ろした。
本気で涙目になるグラキエスを放置して、歩いていくイグニスは絆されていく心を押し込める。
「イグニスー、待ってよー。――もう少し、仕掛けられるかな……」
計画的に翻弄しているグラキエスの思惑へ気づくはずもなく、腕に抱きつこうとする体を払い除け仲良く城内へ戻っていった。
月に一度、中庭で盛大な撒水がされる。良い魔法具を作ってくれたと庭師が喜ぶほど活躍していた。
なぜかそれを見るために連れ出され、水を被って水浸しの上……馬乗りにされている――。
水に滴るいい男……と言えなくもないほど、垂れた前髪を手で掻き上げる仕草のグラキエスは、悪びれた様子なく笑った。
滴る雫はイグニスの頬を濡らす。
全身ずぶ濡れな状態でも、団服を着ているため服が透けることはない。ただ、明らかに素肌まで濡れている。
「――おい。喧嘩売ってんのか……」
「えー。そんなことあるわけないじゃない。事故だよ事故……それにしても、一切ムードないよねぇ」
「……あってたまるか」
団服がびしょ濡れになるまで濡れると重さが半端ないことを思い知った。ただ、手足のように魔法を使えるイグニスにとっては造作もない。こんな状況じゃなかったら……。
「――ねぇ、イグニス……良い匂いがする……」
「……嗅ぐんじゃねぇ、変態聖女」
びしょ濡れになったことでイグニスがつけている香水が散ったのだろうと思ったが、グラキエスの顔は胸板まで下りている。
幾度となく悪戯をされた、グラキエスが「小さな薄紅色の花」と呼ぶ場所の付近だった。
初めて触られたときから何故か視線だけでも意識するようになってしまい、じわじわとする感覚に襲われる。
表情で読み取ることにも長けているグラキエスは、敢えて無防備の腹部に触れてきてビクッと腰が揺れた。
「……男を誘う匂いだよ。イグニスって、感度良いよね? 服越しなのに……」
「――ふざけてんじゃねぇ……水のせいだ」
スンスンと匂いを嗅ぐグラキエスの後頭部を掴んで引き剥がそうと試みる。だが、微動だにせず踏ん張ったことで息を荒くして諦めた。暫く嗅がれていると、視線を空へ向ける。
水を放水しているこの時間帯は、夜のように誰もいない。
しかも、未だに水は止まることなく降り注いでいる。
花のために撒水をしているから水圧や量も少ないはずだった。つまり、びしょ濡れになるほど、二人は同じ場所で留まっている。
満足したのか、漸く嗅ぐのを止めて顔を上げるグラキエスは爽やかな笑みを浮かべていた。
数秒前まで変態行為をしていたのが嘘のように思えた矢先。度を超える吃驚発言が飛ぶ。
「じゃあ……胸元は? 服越しに触ったら、余計に感じないかな」
「此処って……見えねぇだろが」
「見えなくても分かるよ……イグニスの可愛くて小さな二つの花だもん」
向けられる淀みない視線は視姦されているようで、隠された小さな花がツンと張った気がした。
心の中で葛藤しながら、触られた記憶が蘇る。そんな精神状態でも、まだグラキエスの求めている感度がないことだけは察していた。
そんなすぐに反応していたら、シャツが擦れるだけでも危ないはず……。
イグニスの考えはグラキエスを遥かに超えて斜め上をいっていた。
「……ねぇ、触っ」
「許すわけねぇだろ」
「まだちゃんと言ってないのに……」
不貞腐れたような顔と声で、種を育てるように見つめる視線が刺さる。
じわじわと育っていきそうな不安に駆られ、両手で押しのけるように遮断した。
だが、そこで負けるような弱い精神がグラキエスに存在するはずなく、胸板を押す濡れた手袋を取り外されると、代わりに生暖かい何かが触れてくる。
「なっ……てめぇ……!」
「――イグニスが、意地悪だから……」
男らしい手の平から指先へ舌を這わせて絡めるように見下ろす視線で、わざとらしくぴちゃぴちゃ音を立てた。
嫌悪感でもなく、性的な意味か分からない感覚が体をめぐり、小さく肩が揺れる。
生々しい音。舐めるのをやめさせようと、男にしては小さな顔を片手で掴んだ。すぼめられる顔は降参とばかりに体を起こしたときだった。
濡れた土についていた手が滑ってバランスを崩し、本能的に何かを掴もうとしたグラキエスの親指が、ある場所へ触れる。
しかも、上へ押しやるような動きで……。
「んっ……!」
硬い団服の一部から、じんわりとした疼きを感じて思わずくぐもった声が漏れる。
自分の口から漏れ出た声に、目を大きく見開いたイグニスは一番聞かれたくない男と視線が交わった。
品性のある顔は一瞬で崩れ去り、欲情に満ちた男の目へ染まる。
此処でそらしたら負けだとばかりの威圧感にも関わらず、空色の瞳は一切曇りなく釘付けになった。
先ほどまでは股を開く形で覆い被さっていた体も、体勢を崩したことで密着して跨がっている。血の気が引いたように下ろされる親指を思いきり払い除けた。
「……グラス……いい加減にしやがれ!」
「……イグニスが、えっちな声出すから……」
「えっ……な、声じゃねぇ‼ クソッ……」
じんじんする胸筋をわざと擦り、麻痺させる。
渋々後ろへ下がって地面に膝をつくグラキエスは眉を寄せた。
勢いつけて起き上がるイグニスも垂れてくる前髪を掻き上げると、一層赤い髪が燃えているようでグラキエスは目を輝かせている。
「……イグニスのそういう男らしい姿も、たまには良いよね」
「――たまにとか言ってんじゃねぇ。クソッ……醜態晒した……」
「醜態だなんて……可愛かったよ?」
「うるせぇ……!」
完全に羞恥心で肩を震わせながら、しゃがみ込んだままの胸ぐらを掴んで前のめりになった頭へ鉄槌を振り下ろした。
本気で涙目になるグラキエスを放置して、歩いていくイグニスは絆されていく心を押し込める。
「イグニスー、待ってよー。――もう少し、仕掛けられるかな……」
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