【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第21輪 薔薇の棘を研ぎ澄ます

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 翌日、早朝から円卓の間に集まった。円卓の間は大事な会議に使われる場所で、一階と地下の中間に位置している。

 隠し部屋の一つだ。

 部屋単位で遮断魔法が付与され、破壊行為も出来ないような魔法鉱物の壁に囲まれている。これは、王族の部屋も同じだ。

 魔法鉱物とは、空気中に漂う魔力が鉱山などで採れる金属や鉱石などに長い時間をかけて染み込むことで、魔法素材になる。鉱山で採れる綺麗な宝石なども似たようなもので、魔力を込めやすい素材として貴族から好まれていた。

 リトス国王陛下、ファータ竜王陛下の右腕と呼ばれる側近二人が中心へ座り、左右に分かれて団長と副団長が座っている。

「今回の議題ですが、いつも通り共通の敵である【闇魔法結社】について」
「近年、こちらの国近辺であったこと、獣国の大掛かりな実験を阻止したことについてお話します」

 白髪交じりで鼻の下に伸びた短い髭を撫でる国王陛下の側近が口火を切った。それに続けて、口を開いたのはイグニスである。
 誰もが知る口の悪さは影を潜め、丁寧な口調で解決してきた出来事から対策まで話し始めた。
 竜王陛下の側近はすべてをシュヴァルツ団長に一任しているようで一切話さない。

 ただ、この間あった獣国の実験を阻止したことに対して称賛し、シュヴァルツ団長は勿論、副団長も食いついてくる。

「我々竜国は見目で分かる通り、屈強な肉体を持っていることもあって、闇魔法結社が国内へ入り込むことは滅多にないだろう。だが、闇魔法結社は精霊様の平和を乱す悪……見過ごすことは出来ない」

 シュヴァルツ団長と違って竜人らしい副団長は、腰まで伸びた流れるような青い髪を一つに結び、二本の赤い角を生やした屈強な男だった。肉体に反してシュヴァルツ団長と劣らず綺麗な顔立ちをしている。

 元々竜人は、屈強な見た目と反して妖精と呼ばれていた。獣人も同じく特徴的な部位はあるが、通常の武器では傷もつかない肉体が所以である。そのため、どの国よりも精霊信仰が厚い。

 だが精霊魔法を扱えるのはなんの特徴もない、か弱い人間だけだった。頑丈な体は魔力を内に秘める適性が低いという見解もある。
 だから、数の多い人間は歴史上でも他の種族の架け橋になっていた。

「闇魔法結社は、大半が俺たちと同じ特長のない人間だと言われています。ですが、各国に侵入するための協力者は複数いるかと。奴等は愚かじゃない。基本的に野盗を使ったり、ときには我らが守る国民を使う……非道で狡猾だ」

 話が進むにつれ、口の悪いイグニス本来の姿が顔を見せ始める。なんせ最近の闇魔法結社には散々な目しか遭わされていない。

 国民を盾にした旧市街への暴挙。グラキエスが間に合わなかったら、イグニスはどうなっていたか分からない。そして、獣国の件――。
 闇魔法結社のせいでグラキエスが暴走した……。あれもすべて闇魔法結社のせいにしている。

「奴等の理由は反旗を翻したときの演説で知らない者はいない……。だが、呪いと言う曖昧な闇魔法に執心して、穢れを増やし何がしたいのかが不明だ」
「穢れは生き物すべての負の感情が溢れ出たもの。負の感情は制御出来ず、根絶することは不可能……。だからこそ、僕たち聖がいる」

 闇魔法結社が聖女しか祓えない穢れを使って何かをしようとしているのは明らかだ。穢れは野生動物や植物、生き物すべてに作用して暴走化させる。
 歴史上では魔物の誕生も穢れのせいという説があった。増えすぎた人間の負の感情で悲劇を生んでいるのなら、抑えるのも人間の義務である。
 闇魔法結社は義務を放棄した負の感情そのものだ。

「それでは、これから対策の先……闇魔法結社を根本から排除するための話をしたい。信徒の総代である、について――」

 その後、二時間ほど話し合って会議は終了する。
 闇魔法結社の総代と呼ばれているフルーフは、イグニスやシュヴァルツのように頭が切れて、信徒に慕われていた。

 奴を捕まえたら結社は壊滅するかもしれない。それが、現時点での総意だった。

 会議が終わって各自解散すると、肩が凝ったように動かすイグニスの横を歩くグラキエスの手が伸びてくる。

「――てめぇ。その手はなんだ」
「えー? もちろん、お疲れ様なイグニスを労って肩を解そうかと」
「……なんか、腹が立つ」
「えー⁉ なんでー?」

 身長差を感じて出た素直な言葉だった。そんなやり取りをする二人を眺める視線が刺さる。誰だか把握しているイグニスは振り返らず、団長室へ戻っていった。



 ◆◆◆



 その後、竜国の重鎮を見送るイグニスへ再度シュヴァルツが握手を求めてくる。相変わらず不服な顔をするグラキエスを無視して硬く握手をした。
 その際、顔が近づいてきて、耳元で囁く言葉にイグニスの顔は熱くなる。ハッとしたグラキエスが引き剥がして前に立った。

「……イグニスにちょっかい出さないでくれるかな?」
「――君のだったか。それは、手の出しようがないな……ただの、だ」

 涼しい顔をして立ち去っていくシュヴァルツを見送ったあと、強引に腕を掴まれて連れ込まれたのはグラキエスの自室である。
 閉まる扉を背に、壁へ手をつくグラキエスは真剣な表情をしていた。顔の横に音を立てて置かれた手へ一瞬視線を向けたあと、前に向き直る。

「――それで、何を言われたの?」
「……何って、大したことじゃねぇ」
「それなら、僕にも話せるよね?」

 逃さないとばかりに詰め寄った体は僅かで、少し前へ足を出したら触れそうな距離感だった。少しだけ下を向く視線が重なって、曇りない空色の瞳に思わずそらしてしまう。

 敗北したイグニスは薄い唇を開いた。発色の良い薄紅色をした唇は、健康的な肌色をしたイグニスに似合っている。

「…………グラキエスと、どこまで進んだ関係なのか――」
「…………え?」
「だから……シュヴァルツ団長は、てめぇの方に興味を持ってるんだよ」

 言わせるなとばかりに頭を乱すイグニスは、見るからに照れていた。
 聖女であるグラキエスのことは、他国にも知れ渡っている。イグニス大好き人間で、綺麗な見た目に反して氷のような男。その笑顔は世界でたった一人にだけ注がれる……。

 屈強なのは肉体だけじゃないらしい。

 拍子抜けした様子のグラキエスだったが、次の瞬間。間髪入れず抱きつこうとして、上手く躱す。

「ちょっ……僕の動きを見切って至近距離で躱すって、相当だよ⁉」
「そんなの知るか……俺は暇じゃねぇ」

 今度は扉を死守して部屋から出さないグラキエスだったが、最後はお約束の拘束によってわざとらしく泣き言を漏らしていた。
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