【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
25 / 58

第21輪 薔薇の棘を研ぎ澄ます

しおりを挟む
 翌日、早朝から円卓の間に集まった。円卓の間は大事な会議に使われる場所で、一階と地下の中間に位置している。

 隠し部屋の一つだ。

 部屋単位で遮断魔法が付与され、破壊行為も出来ないような魔法鉱物の壁に囲まれている。これは、王族の部屋も同じだ。

 魔法鉱物とは、空気中に漂う魔力が鉱山などで採れる金属や鉱石などに長い時間をかけて染み込むことで、魔法素材になる。鉱山で採れる綺麗な宝石なども似たようなもので、魔力を込めやすい素材として貴族から好まれていた。

 リトス国王陛下、ファータ竜王陛下の右腕と呼ばれる側近二人が中心へ座り、左右に分かれて団長と副団長が座っている。

「今回の議題ですが、いつも通り共通の敵である【闇魔法結社】について」
「近年、こちらの国近辺であったこと、獣国の大掛かりな実験を阻止したことについてお話します」

 白髪交じりで鼻の下に伸びた短い髭を撫でる国王陛下の側近が口火を切った。それに続けて、口を開いたのはイグニスである。
 誰もが知る口の悪さは影を潜め、丁寧な口調で解決してきた出来事から対策まで話し始めた。
 竜王陛下の側近はすべてをシュヴァルツ団長に一任しているようで一切話さない。

 ただ、この間あった獣国の実験を阻止したことに対して称賛し、シュヴァルツ団長は勿論、副団長も食いついてくる。

「我々竜国は見目で分かる通り、屈強な肉体を持っていることもあって、闇魔法結社が国内へ入り込むことは滅多にないだろう。だが、闇魔法結社は精霊様の平和を乱す悪……見過ごすことは出来ない」

 シュヴァルツ団長と違って竜人らしい副団長は、腰まで伸びた流れるような青い髪を一つに結び、二本の赤い角を生やした屈強な男だった。肉体に反してシュヴァルツ団長と劣らず綺麗な顔立ちをしている。

 元々竜人は、屈強な見た目と反して妖精と呼ばれていた。獣人も同じく特徴的な部位はあるが、通常の武器では傷もつかない肉体が所以である。そのため、どの国よりも精霊信仰が厚い。

 だが精霊魔法を扱えるのはなんの特徴もない、か弱い人間だけだった。頑丈な体は魔力を内に秘める適性が低いという見解もある。
 だから、数の多い人間は歴史上でも他の種族の架け橋になっていた。

「闇魔法結社は、大半が俺たちと同じ特長のない人間だと言われています。ですが、各国に侵入するための協力者は複数いるかと。奴等は愚かじゃない。基本的に野盗を使ったり、ときには我らが守る国民を使う……非道で狡猾だ」

 話が進むにつれ、口の悪いイグニス本来の姿が顔を見せ始める。なんせ最近の闇魔法結社には散々な目しか遭わされていない。

 国民を盾にした旧市街への暴挙。グラキエスが間に合わなかったら、イグニスはどうなっていたか分からない。そして、獣国の件――。
 闇魔法結社のせいでグラキエスが暴走した……。あれもすべて闇魔法結社のせいにしている。

「奴等の理由は反旗を翻したときの演説で知らない者はいない……。だが、呪いと言う曖昧な闇魔法に執心して、穢れを増やし何がしたいのかが不明だ」
「穢れは生き物すべての負の感情が溢れ出たもの。負の感情は制御出来ず、根絶することは不可能……。だからこそ、僕たち聖がいる」

 闇魔法結社が聖女しか祓えない穢れを使って何かをしようとしているのは明らかだ。穢れは野生動物や植物、生き物すべてに作用して暴走化させる。
 歴史上では魔物の誕生も穢れのせいという説があった。増えすぎた人間の負の感情で悲劇を生んでいるのなら、抑えるのも人間の義務である。
 闇魔法結社は義務を放棄した負の感情そのものだ。

「それでは、これから対策の先……闇魔法結社を根本から排除するための話をしたい。信徒の総代である、について――」

 その後、二時間ほど話し合って会議は終了する。
 闇魔法結社の総代と呼ばれているフルーフは、イグニスやシュヴァルツのように頭が切れて、信徒に慕われていた。

 奴を捕まえたら結社は壊滅するかもしれない。それが、現時点での総意だった。

 会議が終わって各自解散すると、肩が凝ったように動かすイグニスの横を歩くグラキエスの手が伸びてくる。

「――てめぇ。その手はなんだ」
「えー? もちろん、お疲れ様なイグニスを労って肩を解そうかと」
「……なんか、腹が立つ」
「えー⁉ なんでー?」

 身長差を感じて出た素直な言葉だった。そんなやり取りをする二人を眺める視線が刺さる。誰だか把握しているイグニスは振り返らず、団長室へ戻っていった。



 ◆◆◆



 その後、竜国の重鎮を見送るイグニスへ再度シュヴァルツが握手を求めてくる。相変わらず不服な顔をするグラキエスを無視して硬く握手をした。
 その際、顔が近づいてきて、耳元で囁く言葉にイグニスの顔は熱くなる。ハッとしたグラキエスが引き剥がして前に立った。

「……イグニスにちょっかい出さないでくれるかな?」
「――君のだったか。それは、手の出しようがないな……ただの、だ」

 涼しい顔をして立ち去っていくシュヴァルツを見送ったあと、強引に腕を掴まれて連れ込まれたのはグラキエスの自室である。
 閉まる扉を背に、壁へ手をつくグラキエスは真剣な表情をしていた。顔の横に音を立てて置かれた手へ一瞬視線を向けたあと、前に向き直る。

「――それで、何を言われたの?」
「……何って、大したことじゃねぇ」
「それなら、僕にも話せるよね?」

 逃さないとばかりに詰め寄った体は僅かで、少し前へ足を出したら触れそうな距離感だった。少しだけ下を向く視線が重なって、曇りない空色の瞳に思わずそらしてしまう。

 敗北したイグニスは薄い唇を開いた。発色の良い薄紅色をした唇は、健康的な肌色をしたイグニスに似合っている。

「…………グラキエスと、どこまで進んだ関係なのか――」
「…………え?」
「だから……シュヴァルツ団長は、てめぇの方に興味を持ってるんだよ」

 言わせるなとばかりに頭を乱すイグニスは、見るからに照れていた。
 聖女であるグラキエスのことは、他国にも知れ渡っている。イグニス大好き人間で、綺麗な見た目に反して氷のような男。その笑顔は世界でたった一人にだけ注がれる……。

 屈強なのは肉体だけじゃないらしい。

 拍子抜けした様子のグラキエスだったが、次の瞬間。間髪入れず抱きつこうとして、上手く躱す。

「ちょっ……僕の動きを見切って至近距離で躱すって、相当だよ⁉」
「そんなの知るか……俺は暇じゃねぇ」

 今度は扉を死守して部屋から出さないグラキエスだったが、最後はお約束の拘束によってわざとらしく泣き言を漏らしていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...