【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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【番外編】盗撮は犯罪です(HOTランキング記念)

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 城下街の一角にある魔法具店から出てきたグラキエスは鼻歌を歌っていた。
 両手で大事そうに抱えている茶袋を見る顔は、美貌が台無しなほどだらしのない顔をしている。

「ふふっ……これで漸く、念願が叶う」

 ふわふわした白銀の髪を風で靡かせながら、聖女として支給される金ではなく、副団長として得た給金を密かに貯めていたグラキエスは終始笑顔だった。

 少しの間、浮かれていたが視線を感じて真顔になる。家二軒くらい離れた場所に、王国騎士団とは別な隠密部隊がいた。
 必要ないと言っているが、聖女でもあるグラキエスには専属の護衛がいる。それすらどうでも良い顔で、王城へ戻ってすぐ自室に入った。

 早速とばかりに茶袋からある物を取り出して、こぢんまりしたテーブルへ置く。

「……待っててね。愛しのイグニス……。これで沢山写し取ってあげるから――」

 黒色で厚み三センチほどの四角い箱型の魔法具を撫でた。黒い加工金属で作られ、中心に丸い硝子が嵌め込まれている。持ち手の上には突起があり、説明書を開くとそこを押すことで内部の魔石が流れ込む魔力で振動して、中に入っている魔法紙へ目の前の形あるものを写し出すらしい。
 これは光を取り込んで、見ているものを写し出す光画こうがと呼ばれる物だった。
 詳細は不明だが、魔法具の画期的な発明品で十年前から市場に売り出され始めたものである。但し、価格は貴族でも手を出せるほど安くない。

 二十年ほど前に生み出された新しい魔法具で、グラキエスの部屋にも一枚飾ってあった。
 当時は、騎士団長の父親のお陰で陛下の計らいで撮ってもらったものである。

 この魔法具自体の名前は『写し出す物』と言う、なんとも味気ないものだった。
 一通り説明書を確認したグラキエスは、最後に書いてある大きな文字を見て視線をそらす。

 『尚、此方の商品で犯罪行為に当たる行動はしないようお願い致します。など――』

「――僕とイグニスの仲だからねー……犯罪行為じゃないから」

 自己中心的な言い訳を口にしながら支給品のローブ内へ忍ばせて、何食わぬ顔で部屋を出た。

 今日は非番のグラキエスは、まだ昼前と言うことでイグニスの予定を頭の中に思い浮かべる。書類仕事が終わっていたら、部下の訓練場にいる可能性……。
 一度、団長室を訪れて扉を叩くことなく開けようとしたが、びくともしない。魔法認証によって、登録された部屋の主がいない場合開くことはなかった。

 思わず口元が緩むのを隠して訓練場へ向かう。
 予想通り、汗水垂らす団員の中で一際目立つ赤い髪に靭やかな肉体美を晒す姿を見つけた。
 ローブはもちろん、団服やシャツを脱ぎ捨てて黒い袖なしのピッタリした薄手にズボンと言う防御力がない格好をしている。

「あーあ……イグニスは自分の魅力を全然分かってないんだから……。でも、汗ばんだ体に、ピッタリした服は駄目だよ……本当――」

 スッと懐から取り出した魔法具で、パシャリと色んな角度で撮影した。すぐに形となって出てきた光画こうがを見て、思わず破顔する。
 真剣な表情でスパルタ指導しているイグニスは気づいていなかった。

 暑さを嫌うイグニスは、時折黒い上着を摘んでパタパタと風を送る仕草をする。グラキエスが幾度も注意している癖だった。
 チラチラ見える少しだけ線の入った腹筋は、目の毒でしかない。当然のように目が笑っていないグラキエスは、撮影しながら紙の束を取り出して何かを控えていた。

「まだ、こんなにがいるとは思わなかったよ――本当に、残念だ」

 まったく笑っていない普段より低い声は、周りの空気を冷たくする。グラキエスが見ているのは、イグニスの素肌へ視線を向ける不埒者――。
 氷のような肌寒さで、漸く周囲も気づいてイグニスの目に留まった。
 サッと魔法具と紙の束を隠したグラキエスは笑顔を向ける。

 団員に自主練の指示をして、眉を寄せて近づいてくるイグニスは嫌そうな顔をしていた。

「……てめぇ。今日は非番だろうが……なんで、此処にいる」
「えー? 非番だけど、僕はいつもイグニスのそばにいるよー? 買い物が終わって戻ってきたんだよ」
「――てめぇのいない時間帯を狙った意味がねぇ……」

 小さな声で独り言を呟くイグニスは、肌を晒している姿をグラキエスに見られたくなかったのだと察する。
 性的な目で見られているイグニスからしたら当然だった。しかも、それを分かった上で間近の上半身を集中的に凝視する。

「……て、どこ見てやがる!」
「えー……それは、もちろん。上半身で見るところって言ったら一つしかないよねー? ああ、二つか……」

 体を動かしたことで少しだけ盛り上がっている部分へ舐めるような視線を送った。
 イグニスも意識したことで、更に反応した胸板を飾る二つの花がツンと張る。
 それは、上半身裸になっている団員や薄着一枚の団員も同じなのだが、煽る言葉で肩を揺らして後ろへ向いてしまった。

 敵に背中を見せるなという言葉がある。

 後ろから襲いかかりたい気持ちを抑えるグラキエスは、背中から見える姿も写し取った。その上で、背筋を張って綺麗な姿勢のイグニスの背中を長い指先で上からスーッと下まで撫であげる。

「うっ……てめぇ!」
「可愛い反応だなぁ。後ろを向くイグニスが悪いんだよー? こんなえっちな格好も……」
「なっ……エッチじゃねぇ」
「他の団員とは違うって自覚してくれないと困るんだよねー。――お陰で、粛清対象が増えちゃった……」

 理由のわからないことを小声で呟くグラキエスに眉を寄せるイグニスは、端へ置いていたタオルを取って体を拭いていった。そして、チラチラとグラキエスを気にしながらシャツへ袖を通したところで狙って長い腕を伸ばす。

「僕も着替え手伝ってあげるよー」
「は? ふざけんな……つか、触るなっ……」

 抱き着く腕を払い除けようとしてくるイグニスに軽く抵抗したとき、まだ硬くなって主張していた胸板の花へ軽く触れた。
 まだ反応を示さないイグニスだったが、触れられた感覚は分かるのか少しだけ肩を揺らす。
 力を入れて両手を掴まれても微動だにしないグラキエスは、調子に乗って薄着の上から二つの花を軽く摘んだ。

「――服の上からだと小さくて摘みにくいね」

 その瞬間、ゾワゾワと体の震えを感じ取る。これは、まだ快感じゃない反応だと分かりながら上下へ動かした。
 触っていることで、グラキエスの股間も主張してしまい、太くて硬い熱の塊をイグニスの臀部より下へ密着する体勢になる。

「……てめぇ……調子に乗るんじゃねぇ!!」
「あ……やりすぎた――」

 少しだけ震えた声で睨みつける顔は、熱を帯びたように赤く感じられた。

 ――可愛い。

 そう思ったときには、団員の前でイグニスの得意とする拘束魔法に縛り付けられていた。
 蔓で手足や腹部を拘束されて吊るされる姿は誰しも羞恥心を覚えるだろう。

 いつもの光景だからか、団員も乾いた笑顔を向けていた。当のグラキエスはまったく羞恥心も感じていない様子で、わざとらしく泣き声を上げる。

「えーん……イグニスぅ。調子に乗りすぎたって反省してるから、降ろしてよー」
「――これで何度目か言ってみろ……」

 “何度目”という言葉でグラキエスは可愛らしく首を傾けた。数字は計算していなかったとばかりで笑顔を向ける反省の色がないグラキエスに、イグニスの額から青筋が浮き出ていく。
 同時に咲いた赤い薔薇の数は、通常の三個でなく――倍の六個だった。

 つまり、時間にして約一時間の拘束である。

「ちょっ……! 一時間も拘束されたら、体が疲れるし……お昼になっちゃうよー」
「……知るか。肉体疲労は、聖女の力で取れるだろう」
「えー……イグニスとの昼食デートが~」
「そんなのするわけねぇだろ……!」

 着替えを済ませてローブを羽織るイグニスは振り返ることなく立ち去っていった。
 残されたグラキエスは体の力を抜いてだらけながら、団員の視線を威圧する。

 魔獣に睨まれたような顔で自主練を再開する団員たちから、立ち去った出入口へ視線を向けた。

「あーあ……本当に、可愛い反応してくれちゃって――困るんだよねぇ。僕の理性に感謝してくれないと……」

 不敵な笑みを浮かべて、黒い言葉を放つグラキエスから溢れる白い光によって赤い薔薇はしぼんでいく。聖女の力は癒やしと、浄化……。
 イグニスの拘束は精霊魔法で、聖女の力が影響を与えることはない。
 はずだった――。

 赤い薔薇の数を三つまで減らすと、退屈そうな顔をしながらも「イグニスに抱かれているみたい」と変態な解釈をして楽しんでいた。
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