【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第20輪 隣国の黒薔薇団長

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 此処リトス王国では半年に一度、隣国ファータ竜国の騎士団と交流会をしている。
 しかし、交流会と言うのは名ばかりで、主に国の防衛や闇魔法結社について対策と壊滅させるための話し合いだ。
 獣人の国と反対に位置している竜人の国は、屈強な肉体を誇りに思っている。その反面、繊細な魔法は使えず、肉体強化を主にしていて隆々とした筋肉体型ばかりいた。

 ――たった一人を除いて。

 竜人の特徴的な部分は、頭から伸びた二本の赤か青い角。二種類しか存在していない色で、青の方が希少らしい。それから長くて靭やかな尻尾だった。

 リトス王国魔法騎士団が赤薔薇なら、隣国は黒薔薇と呼ばれる美丈夫の団長がいる。

 竜人にしては珍しい黒髪で、うなじへ掛からないほど伸びた短い毛先。希少な青い角が映え、引き締まった肉体美だが、着やせするタイプらしく他の騎士団と比べたら細く感じられた。そのため親近感もあり、口の悪いイグニスより部下から人気がある。

 他の団員と体格差があるのを感じさせない凛とした表情や佇まい。人類で最も弱いとされる特徴のない人間相手に、差別的な感情を一切見せない強かさが同族含めて好感を抱いている。

 それは、口の悪いイグニスも絆されるほど……。

「今宵から明日まで、宜しく頼む」
「ああ、こちらこそ」

 瞳の色は透き通った海のような深い青で、イグニスと同じく切れ長の一重。リトス王国の方が資源も豊富で王城も広いため、こうして足を運んでくれている。
 と言うよりも、竜国は人間にとって大分大きく、こちらへ合わせてくれていると言うべきか。

 自然と伸ばされる手をイグニスも握りしめる。

 毎度交わされる握手に怪訝な表情をするのは一人だけだった。今日は王城の広大な庭で宴から始まり、翌日の早朝から団長、副団長、国王陛下の側近同士が集まって話し合いだ。
 振る舞われる酒や豪勢な料理の品々に舌鼓しながら、名ばかりの交流を深める。

 イグニスは「毎度同じ面子なんだから、挨拶はいらないでしょ」と、強引なグラキエスに捕まって酒を飲んでいた。血のように赤い果実酒は、度数も低くて宴で良く振る舞われている。

「てめぇ……俺は酔わねぇぞ」
「えー……別に酔わせようなんて他意はないよー。なんか、握手してたのが癪で……」
「……毎度小さいことで、喚くな」

 文句を言うグラキエスの前に影ができた。微々たる魔力でも誰だか分かるグラキエスは綺麗な顔で睨みを利かせる。
 正門の庭で宴をしていることもあって、艶のある黒髪が僅かに揺れていた。

 実のところ、赤薔薇の団長であるイグニスより、黒薔薇の団長は副団長で聖女のグラキエスに興味を持っている。
 聖女の魔法は人間だけが持っていて、尚且つ男など歴史上で初めてのため、誰もが好奇心を掻き立てられていた。だから、イグニスもそう思っている。

「メディシーナ副団長。握手してもらえるか」
「……僕の辞書に、握手の文字はないんだよ残念ながら」

 片手を出して握手を求める黒薔薇の団長は、毎年その手を握られた試しがない。強く言えないのは、グラキエスが王族と同じ地位だから。そして、この男はイグニス以外に靡かない。

「――やはり、彼以外に靡かないか……失礼」

 颯爽と去っていく姿は諦めが良くて好印象である。だが、当のグラキエスは「グルルゥ」と牙を立てる狼のような形相で睨みつけていた。そして、口直しとばかりに隣で果実酒を飲むイグニスの手を取る。

「ハァァ……。イグニスの手に頬ずりでもしないと、この怒りを鎮められないよ」
「……勝手なこと抜かしてんじゃねぇ! 暑苦しい」

 ただですらイグニスは団服を着ているとき、常に黒い革の手袋をしていた。付与魔法を通しやすい素材で出来ていて、魔法以外の武器を受け止めたり、持ち上げたりするためと本人は言っている。
 攻撃魔法の方が専門ではあるが、まったく支援魔法を使えないわけじゃない。硬化魔法や、身体能力強化などは必要なときに使っている。

 蒸れないよう常に冷気の魔法も付与していたが、暑苦しいとバッサリ切られてしまったグラキエスは項垂れて頭を下げた。

 一方のグラキエスは色白の綺麗な手を惜しげもなく晒している。この男は自分の武器を分かった上で狡猾に使っていた。
 関係が進展してからは、イグニスもグラキエスを性的な目で見る輩に対して、なぜかモヤモヤした苛立ちを覚えている。

 一気に果実酒を飲み干すイグニスは、いつもより酔いが回っていた。頭を押さえて立ち上がると、まったく酔った顔をしていないグラキエスの腕が腰に伸びる。
 手をはたこうとして、反対にふらついた肩を誰かに支えられて振り返った。

「ローゼン団長……大丈夫か?」
「あ、すまない……シュヴァルツ団長。醜態を晒したな」
「いや、別に。君は酔わない男だと思っていたが……精神面が不安定だと酔いやすいらしい」

 精神面で言うのなら、物凄い形相で睨んでいる男しか思い浮かばない。グラキエスと同じくらいの身長差で、特徴的な縦長の瞳孔は吸い込まれそうな魅力がある。

 無言で圧をかけるグラキエスは、右手を伸ばしてきた。
 スッと伸ばされる手は強引に奪い取ることもなく、どこか選ばせているようでいて、一つの選択しか与えない張り詰めた空気を漂わせている。

 肩へ触れる手は優しくてイグニスの動きに合わせて離れていった。グラキエスの手を握ると、今度は強引に引き寄せられたことで肩口へ顔を埋める。

「――お気遣いどうも……。団長のお世話をするのはなので……」

 一言だけ告げると、自然な動きでグラキエスに腰を抱かれてどこかへ連れて行かれた。
 明るい場所から移動して次第に暗くなる道すがら、見覚えのある場所だと気づく。

 そして、思った通りの白いベンチが見えて近づいていくと、目の前で立ち止まったグラキエスに思い切り腕を引かれて押し倒された。
 薄暗さでハッキリとした表情は読み取れないが、上から覆い被さる姿と荒い息遣いで大体察してしまう。

「――グラス……。シュヴァルツ団長に他意はなかったぞ」
「……分かってる。……けど、嫉妬した……イグニスに触れて良いのは僕だけだ」
「……てめぇも、此処まで許してねぇぞ」

 耳元で囁くような声は、酔いも回っているイグニスの心臓に悪い。普段はあれくらいなら酔ったりしないし、そもそも酒を飲めるようになってから酔ったことがなかった。
 シュヴァルツの言うように、イグニス自身も嫉妬めいた感情を抱いているのかもしれない。

 覆い被さったまま微動だにしないグラキエスの肩を下から押しやるが、そのまま手首を掴まれて頬へ寄せられる。
 手袋越しのため、体温は感じない。ただ、服を着ているのに心臓の音だけはうるさく聞こえてくる。

 きっと、グラキエスも同じだ――。

 どこか親鳥にすがる雛のようで、普段のような強引に退かすことがはばかられる。

「……イグニス。もう少しだけ……」
「…………変なこと、するなよ」
「うん……ありがとう」

 近い距離と息遣いで危ない扉が開きそうになるのを必死で抑えながら、グラキエス甘えてくる年下の言葉に弱いイグニスは胸板へ頬を擦り寄せてくる髪を梳くような手つきで撫でながら、空を見上げて短い息を吐いた。
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