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第26輪 舌を絡めてきたから噛んでみた
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救出されたあと、王城で全ての検査が終わるとグラキエスに誘拐された。場所は、何度も訪れた中庭じゃなく――薄暗い室内。閉められた扉の前で背中を押しつけられている。
荒い息遣いが聞こえてくる部屋は、グラキエスのつけている香水と同じ匂いで充満していた。
触れない僅かな距離を保った細長い手が、あのときと同じく顔の横に置かれている。
真剣な表情で上から見下ろす視線は少しだけ垂れ目だ。
イグニスの自室と同じ形をしている部屋の大きな窓からは、月が輝いている。色墨の森に行ったのは朝方だった。イグニスが記憶を失っている間、夜を迎えていたらしい。
聖女の力で暴行された痕跡も消してしまったことを悔しがっていたグラキエスだったが、軽く出たイグニスの言葉で豹変した。
「ねぇ……僕のお願い、聞いてくれるんでしょ?」
「……俺に出来ることならな。抱かせろとかは無しだ」
薄暗い部屋の中でもハッキリ分かる表情は不服そうな顔をしている。自分はケダモノじゃないとでも言いたげな……。
だが、それに近い言葉が耳元で囁かれると思わず目を見張る。
イグニスが何かを言う前に子犬のような顔をしてみせるグラキエスはやり手だ。年下という武器を最大限に活用している。
イグニスが、唯一気にしている年下で強く言えないのは妹のアクアとグラキエスだけだ。
いつもは年下扱いされるのを嫌っているグラキエスは調子がいい。
「……似たようなもんだろうが」
「えー……全然違うよ。軽く触れるだけで良いから……ダメ?」
「…………てめぇに絆されたわけじゃねぇぞ。助けられたことに、変わりはねぇからだ……」
「……うん。良いよ、いまは……イグニスが、少しでも僕を意識してくれるだけで」
胸板に顔を埋めるように擦り寄るグラキエスの首筋へ腕を回して、少しだけ下を向かせる。これは、イグニスが言ったことだった。
しかし、まったくムードはない。
助けられたのはお互い様だからと言ったグラキエスの言葉を遮って、年下に助けられたのは癪だと一つだけ願いを聞いてやる――軽く出た災いの元である。
笑みを浮かべたグラキエスが目を瞑った。本当は、自分からしたがっていたが、そこだけは年上の威厳で譲れない。
唇を触れ合わせるだけの軽いものだと自分に言い聞かせ、目を閉じる。
相手がグラキエスだからか、今までされてきた行為と比べたら心の揺らぎもない。
一切の音も立てず、触れ合う唇は仄かに甘い味がした。なんの感情も湧かないイグニスが離れようとした直後、強い力が腰を掴む。
閉じていた瞼を開くと、強引に唇を割って咥内へ舌が侵入してきた。ドンと言う音を立てて扉に体を押し付けられ、グラキエスの膝が下半身の一点を擦るように動く。
「んっ……!」
思わず鼻から漏れる声。
侵入した舌が咥内を這うように動いて歯をなぞる。
なんとも言えない感覚に腰が震えるイグニスの舌を絡め取ろうとした瞬間、少しだけ強めに噛んだ。
大きく肩が揺れたグラキエスは両手で押し退けるように後ろへ下がって口を押さえている。
「てめぇ……調子に乗るんじゃねぇ!」
「いっ……ひゃい……イグニスのいじわるぅ……」
「あぁ⁉ 強く噛まなかっただけ有り難く思え!」
血は出ていない様子で噛んだ部分を見せてくるグラキエスは、容姿だけ見たら可愛く感じるはずだ。
少しだけ顔が熱くなったイグニスは大きく扉を開いて廊下へ出る。
あの男と違って嫌悪化もない。唇を触れ合わせ、少しだけ心地良さも感じていた。男に犯されかけたのは未遂だったことで、イグニス自身も感情の揺らぎはない。それでも、好きな相手を労るものだろうと思っているイグニスは不満顔をする。
当然のように追いかけてくるグラキエスは、花が飛んでいるような笑顔を向けてきた。自分がしたことに対してまったく反省していない。
あろうことか、イグニスの部屋までついてきて窓際に立って儚げな表情を向けてくる。
「――そもそも、可愛いイグニスが悪いんだよ」
「俺を可愛いとかほざいてるのはてめぇくらいだ」
「イグニスは自分の魅力を分かってない。全国共通認識だよ」
「……どうしたらそんなお花畑の脳みそが出来上がるんだ」
花に例えられて笑みを深めるグラキエスは、月に映る王都へ視線を流していた。二人の自室は街の方を向いているため、辛うじて王都の一角が見える。
もう何もしないと信じられない言葉を信じてないが受け入れて、部屋に上げたイグニスは寝る準備を始めた。
着替えている間も痛いほど背中に視線を感じたが、振り返らず淡々と寝衣へ身を包む。
ふと視線を感じなくなって振り返ったイグニスは眉間に皺を寄せる珍しい姿を目撃した。
「おい……。グラス?」
声をかけても反応はなく、背後へ回って窓の外へ目を向けると綺麗な女の姿があった。
赤いドレスに身を包んだ色白の女は、こちらを見て笑った気がして目を見張る。
あちらから視線に気づくことはないほど離れた場所だ。
細長い指先を窓に這わせ、食い入るような眼差しで外を見つめるグラキエスが、小刻みに震える体に気づいて思わず後ろから肩を叩く。
「へ?」
「……大丈夫か?」
気づいていなかったのか、目を丸くするグラキエスは寂しそうに笑って体を離した。先ほどまでのことを考えたらありえない行動に心臓が音を立てる。続く言葉も耳を疑うものだった。
「……ごめん。もう遅いから、部屋に戻るね。お休みなさい」
「え……。おい、どうしたん」
最後まで聞くことなく開いた扉が音を立てて閉まる。あからさますぎる態度の違いに、上げた手はそのままで呆然と立ち尽くした。
荒い息遣いが聞こえてくる部屋は、グラキエスのつけている香水と同じ匂いで充満していた。
触れない僅かな距離を保った細長い手が、あのときと同じく顔の横に置かれている。
真剣な表情で上から見下ろす視線は少しだけ垂れ目だ。
イグニスの自室と同じ形をしている部屋の大きな窓からは、月が輝いている。色墨の森に行ったのは朝方だった。イグニスが記憶を失っている間、夜を迎えていたらしい。
聖女の力で暴行された痕跡も消してしまったことを悔しがっていたグラキエスだったが、軽く出たイグニスの言葉で豹変した。
「ねぇ……僕のお願い、聞いてくれるんでしょ?」
「……俺に出来ることならな。抱かせろとかは無しだ」
薄暗い部屋の中でもハッキリ分かる表情は不服そうな顔をしている。自分はケダモノじゃないとでも言いたげな……。
だが、それに近い言葉が耳元で囁かれると思わず目を見張る。
イグニスが何かを言う前に子犬のような顔をしてみせるグラキエスはやり手だ。年下という武器を最大限に活用している。
イグニスが、唯一気にしている年下で強く言えないのは妹のアクアとグラキエスだけだ。
いつもは年下扱いされるのを嫌っているグラキエスは調子がいい。
「……似たようなもんだろうが」
「えー……全然違うよ。軽く触れるだけで良いから……ダメ?」
「…………てめぇに絆されたわけじゃねぇぞ。助けられたことに、変わりはねぇからだ……」
「……うん。良いよ、いまは……イグニスが、少しでも僕を意識してくれるだけで」
胸板に顔を埋めるように擦り寄るグラキエスの首筋へ腕を回して、少しだけ下を向かせる。これは、イグニスが言ったことだった。
しかし、まったくムードはない。
助けられたのはお互い様だからと言ったグラキエスの言葉を遮って、年下に助けられたのは癪だと一つだけ願いを聞いてやる――軽く出た災いの元である。
笑みを浮かべたグラキエスが目を瞑った。本当は、自分からしたがっていたが、そこだけは年上の威厳で譲れない。
唇を触れ合わせるだけの軽いものだと自分に言い聞かせ、目を閉じる。
相手がグラキエスだからか、今までされてきた行為と比べたら心の揺らぎもない。
一切の音も立てず、触れ合う唇は仄かに甘い味がした。なんの感情も湧かないイグニスが離れようとした直後、強い力が腰を掴む。
閉じていた瞼を開くと、強引に唇を割って咥内へ舌が侵入してきた。ドンと言う音を立てて扉に体を押し付けられ、グラキエスの膝が下半身の一点を擦るように動く。
「んっ……!」
思わず鼻から漏れる声。
侵入した舌が咥内を這うように動いて歯をなぞる。
なんとも言えない感覚に腰が震えるイグニスの舌を絡め取ろうとした瞬間、少しだけ強めに噛んだ。
大きく肩が揺れたグラキエスは両手で押し退けるように後ろへ下がって口を押さえている。
「てめぇ……調子に乗るんじゃねぇ!」
「いっ……ひゃい……イグニスのいじわるぅ……」
「あぁ⁉ 強く噛まなかっただけ有り難く思え!」
血は出ていない様子で噛んだ部分を見せてくるグラキエスは、容姿だけ見たら可愛く感じるはずだ。
少しだけ顔が熱くなったイグニスは大きく扉を開いて廊下へ出る。
あの男と違って嫌悪化もない。唇を触れ合わせ、少しだけ心地良さも感じていた。男に犯されかけたのは未遂だったことで、イグニス自身も感情の揺らぎはない。それでも、好きな相手を労るものだろうと思っているイグニスは不満顔をする。
当然のように追いかけてくるグラキエスは、花が飛んでいるような笑顔を向けてきた。自分がしたことに対してまったく反省していない。
あろうことか、イグニスの部屋までついてきて窓際に立って儚げな表情を向けてくる。
「――そもそも、可愛いイグニスが悪いんだよ」
「俺を可愛いとかほざいてるのはてめぇくらいだ」
「イグニスは自分の魅力を分かってない。全国共通認識だよ」
「……どうしたらそんなお花畑の脳みそが出来上がるんだ」
花に例えられて笑みを深めるグラキエスは、月に映る王都へ視線を流していた。二人の自室は街の方を向いているため、辛うじて王都の一角が見える。
もう何もしないと信じられない言葉を信じてないが受け入れて、部屋に上げたイグニスは寝る準備を始めた。
着替えている間も痛いほど背中に視線を感じたが、振り返らず淡々と寝衣へ身を包む。
ふと視線を感じなくなって振り返ったイグニスは眉間に皺を寄せる珍しい姿を目撃した。
「おい……。グラス?」
声をかけても反応はなく、背後へ回って窓の外へ目を向けると綺麗な女の姿があった。
赤いドレスに身を包んだ色白の女は、こちらを見て笑った気がして目を見張る。
あちらから視線に気づくことはないほど離れた場所だ。
細長い指先を窓に這わせ、食い入るような眼差しで外を見つめるグラキエスが、小刻みに震える体に気づいて思わず後ろから肩を叩く。
「へ?」
「……大丈夫か?」
気づいていなかったのか、目を丸くするグラキエスは寂しそうに笑って体を離した。先ほどまでのことを考えたらありえない行動に心臓が音を立てる。続く言葉も耳を疑うものだった。
「……ごめん。もう遅いから、部屋に戻るね。お休みなさい」
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