【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
31 / 58

第27輪 毒草に絡め取られた雄花

しおりを挟む
 廊下の窓から日が差す早朝から、コツコツと革靴を鳴らしながら大きな扉を開いた先では、膝を立て頭を垂れるグラキエスの姿がある。玉座の間で国王と話をしている際に、無礼を承知で割って入った。

「――どう言うことだ。辞表なんて……聞いてない」

 部屋の中に響く低い声。雑音のない透明な声は鼓膜を震わせて、人々を魅了するだろう。

 国王の右腕である補佐官が口を挟もうとするのを、国王自らが止めていた。そして、団長であるイグニスに話を通していないことを知り、保留を宣言される。
 複雑そうな表情をしたまま部屋から出るグラキエスを追って廊下へ出た。いつもはイグニスをグラキエスが追う立場なのに、今日は逆転している。

 振り返りもせず、王城の外へ向かって歩くグラキエスの肩を掴んで引き留めた。漸く立ち止まったグラキエスは振り返らず、淡々と理由を述べる。

「……僕は男だけど、聖女らしくしようと思って」
「今更、何言ってやがる」
「うん……ごめんね」

 優しく振り解かれる手で、もう一度掴むことは出来なかった。副団長としてなのか、幼馴染で親友の私情……。そして、グラキエスの恋愛感情に応えられない今は、去っていく後ろ姿を見守るしか出来ないもどかしさで顔を伏せる。


 
 ◆◆◆


 
 イグニスと別れて王城から外へ出るグラキエスを止める者は誰もいない。城下町とはいえ、副団長になってから数年。グラキエスは一人で外を歩くのは数年ぶりだった。いつも隣にいたイグニスは自分が振り払ってしまった事実で未だにぐるぐるしている。
 だけど、昨晩イグニスの部屋から見てしまった赤いドレス姿の女――。

 こちらを見るに気づいて、一瞬で自分の作り上げた世界が壊れていく感覚が芽生えてしまった。
 「やっと見つけた」とばかりの歪んだ笑みが張り付いて、最愛のイグニスの声すら聞こえないほど。
 歪んだ笑みを浮かべるときは、限って悪巧みを考えている。自分は、あの女の子供なんだと本能が告げていた。

 娼婦だった母親は美しい女として、貴族に見初められる。だが、一年が経ってグラキエスが産まれると男に捨てられた。娼婦との子供は論外だったらしい。
 度々育児放棄をされながらも、子供が出来たことは大っぴらで母親の部屋から泣くグラキエスを不憫に思った娼婦の娘たちのおかげで生き延びられた。

 だが、八歳のとき。母親が別な男に見初められて邪魔だったグラキエスは置き去りで孤児となった。小さい子供は養えないと外へ出されてしまったグラキエスは、それでも母親を探して町を徘徊していたとき、イグニスの父親と運命の出会いを果たす。
 最初は希望を亡くした目をしていたグラキエスも、イグニスのおかげで安心出来る場所を見つけられた――それなのに。

「――今更、どういう了見だ……僕の日常を壊すなら、ただじゃおかない」

 愛するイグニスと離れる選択は想像を絶するものだった。しかも、昨日はお願いとしてでも初めて口付けを交わすほど。確実に良い方へ進展していた。
 ――それなのに。

 あの一人ならまだ良かった。暗がりでイグニスには見えなかったらしい。母親おんなの隣に闇魔法結社の男がいた。鮮明に覚えている。忘れられるはずのない、母親の細い腰を抱き、幸せそうに腕を組んで家を出ていったあのとき。あの男の横顔はグラキエスの脳裏に深く刻まれている。

 あのとき、母親は「明日、話がある。旧市街で会いましょう」そう言った。息子が聖女になったことをどこかで聞きつけたのだろう。副団長なのも情報として大きかった。忌々しいあの女の血が流れているだけで全身焼けるような熱に蝕まれる。

「……ああ、イグニスの肌に触れたい」

 輝きの失われた瞳に映る旧市街の路地裏へ足を踏み入れた。魔力感知に引っかかった数は五人。母親を含めなくても四人いる。

 グラキエスは、昨晩のイグニスを思い出していた。口内を舌で這ったときの反応は新鮮で、膝で男の中心を刺激して漏れ出た声も甘美に震えるほど。
 一般的に性的感度が高い場所は、イグニスも感じやすいことが分かった。服から擦っただけであの反応は、抱いたときの表情が浮かぶほど可愛く囀るだろう。

 そんな儚い幻想も打ち消す黒装束の闇魔法結社が四人姿を現した。冷めた目で睨みつける先から出てきたのは毒親あの女だった。
 昨日と違い、動きやすそうなワンピース姿をしている。ゆっくり歩いてくる女は笑顔を向けていた。約十七年前に捨てた息子へ対する顔じゃない。

「……坊や。ずっと、会いたかったわ……」

 演技するように瞳を潤ませる女へ、なんの感情すら浮かばなかった。闇魔法結社の信徒は近づいてくることなく、女に任せている。

「……良くそんな口が聞けるな。あんたが十七年前、捨てた子供だぞ」

 普段の柔らかい口調は影を潜め、部下に対する言葉ですらない。男の中では高い方の透明な声も低くなり、女が指示しなくても威圧感で周りは動けなくなっている。
 この女は本当に自己中心的だ。自分へ向けられる突き刺す視線すら、気にしていない。ただ、演技はやめたようで目つきが変わり口調もきつくなる。

「ハァ……それはアンタが一番分かってるでしょ? あと、アタシが産んでやらなかったら、あそこにもいないんだからね」

 女の主張はもっともだった。どんなに嫌がろうが、この女が自分を産んでくれたから此処にいる。現在の優しい両親に妹。そして、イグニス愛する人とも出会えた。どんなに憎くても切れない縁である。
 大切なものが大きくて、増えてしまった今のグラキエスは弱い。もしも、自分の力によって愛する人たちがいるこの世界を混沌に落とすときは、自決しようと決めていた。

 黙ってしまったグラキエスを良しとしたのか、背中へ触れてくる女の色白な手は細く、親子だと感じさせられる。
 女にしては身長も高く、そのままグラキエスの腕へ頭を寄せてきた。虫酸が走るのを飲み込んだグラキエスは、この日を境に忽然と消えてしまう。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

氷鉄の騎士団長に拾われたスラムのオメガは、無自覚な溺愛に溶かされる

水凪しおん
BL
スラム街で泥とハーブの匂いにまみれ、オメガであることを隠して生きてきた少年ノア。 ある雨の日、発情の熱と寒さに震える彼を拾い上げたのは、王国最強と謳われる「氷鉄の騎士」ヴァレリウスだった。 「お前からは、雨に濡れた花のような匂いがする」 冷徹と恐れられる騎士団長は、ノアを汚いものとして扱うどころか、その匂いに安らぎを見出し、不器用ながらも全力で愛を注いでくる。 温かい食事、ふかふかのベッド、そして何よりも甘く強烈なアルファの庇護。 これは、孤独な二人が運命の番として惹かれ合い、心と体を溶かし合っていく、極上の溺愛救済BL。 ※本作は性的な描写(キスや愛撫、発情期の描写など)を含みます。15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

処理中です...