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【番外編】ワンワンワン(HOTランキング記念②)
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ローゼン家の広大な庭である事件が起きた。
無残にも掘り返されて幾つもの茶色い穴を開けた庭の土――。
魔物が侵入出来るような手薄な警備も、結界魔法もしていない。
こんな珍事件で家族会議が開かれようとしていたときだった。
家族団欒の間で大きく扉を開いて入ってきたのは、なぜか泥だらけになったグラキエスである。呆気に取られる家族は「ハッ、ハッ、ハッ」と言う奇妙な声を聞いて視線を下へ向けた。
グラキエスの手に握られていたのは太い綱で、その先にふわふわした毛を持つ犬がいる。
「犯人見つけましたー! この子です」
「は……? 嘘だろう……」
グラキエスに似た毛色でふわふわした体は全身泥だらけ。どこかの迷い犬かと思ったが、首輪はない。そして、泥だらけだったことで赤い薔薇のカーペットは大変なことになっている。
自覚がないのか、家族一同溜息を吐き出して執事に怒られるグラキエスは中庭へ歩いていった。仕方なくついていくイグニスは頭を抱えている。
犯人が見つかったのは良いが、犬共々全身泥だらけの大型犬のせいだ。
しかも、犬自体も全身筋肉で出来ていそうなほど靭やかな体をしている。
二人を連れてきたのは中庭にある洗い場だった。シャワーが完備されていて、汚れを落とすときに使われている。
しっかり外から隠せるようになっていて、二匹の大型犬を中へ押し込んだ。
「――経緯を話せ」
「えーと、犯人探しをしていたら、この子が花壇を荒そうとしているところを目撃してねー。興奮して暴れるから、こんなことになっちゃった」
「……なっちゃった、じゃねぇ。どこ行ったかと思ったら……」
「もしかして、心配してくれたの? それとも、せっかく二人でもぎ取った休暇なのに、一人にされて寂しかっ――いたっ……暴力反対ー」
休暇をもぎ取ったのはグラキエスであって、イグニスは普通の非番だった。基本は王城で暮らしているが、月に一度実家へ戻ってきて経過報告をしている。
当然、二人は団長と副団長のため家族団欒とはいかず、いつも一人欠けている状態だったが、グラキエスの働きによって全員揃ったわけだ。
それなのに、この体たらく。
執事から着替えを受け取っていたイグニスが近くの籠へ入れた。それから、上着を脱いでシャツ姿になる。
じっとりした視線を感じるが、イグニスは気にしない。なぜなら、様々なことを経験してシャツの下に黒いノースリーブを着ているからだ。
「……そんなに見ても、何も見えねぇぞ」
「えー? 僕にはちゃんとイグニスの裸体が見えてるから大丈夫だよ」
「気色悪いこと言ってんじゃねぇ……良いから脱げ!」
土で汚れているのは服だけだったが、綺麗にした方が良いと、アクアの助言を素直に聞いた結果こうなっている。
脱げと言う言葉でわざとらしく胸元へ手をクロスするグラキエスに青筋が浮かんだ。
そして、二人のやり取りを大人しく見ていた本物の犬が、イグニスの足へしがみつく。
「なっ……」
予想していなかったことで体勢を崩したイグニスはそのまま後ろへ倒れ込んだ。
しかし、背中に硬いクッションのような感触がして痛みはない。
代わりに背後から小さな声が聞こえてきて振り返る。
「いたたっ……イグニス、大丈夫?」
「え……てめぇこそ、大丈夫かよ。つか、聖女が団長を守るんじゃねぇ……」
「聖女とか関係ないから。イグニスの痛そうな顔は、僕だけが与えたいし……」
「――この変態聖女が! て、お前も降りろ!」
「ハッ、ハッ」と嬉しそうに尻尾を振る大型犬が腹に乗っていて、身動きが取れないイグニスは威圧した。
言葉の違いからか全く効果のない犬はイグニスの頬を舐めてくる。
口は悪いが、昔から動物に懐かれるイグニスも本気で嫌がってるわけじゃない。前と後ろに挟まれて、背中に硬いものが当たっていることでイラついていた。
「……おい。この状況で、おったててんじゃねぇ!」
「えー……だって、イグニスが僕より犬を相手するからさー。嫉妬しちゃって。あ、唇は舐めさせないでよ?」
渾身の力で犬を引き剥がし、立ち上がったイグニスは始めにふわふわ髪の頭を叩く。二人して汚れたことで、最初に犬を洗うことを決めた。
シャワーの温度を調整してから背中からかけていき、犬を押さえるのはグラキエスがしている。必要なものも揃っているため、そのまま体を洗っていった。
犬などのペットを飼ったことがない二人は、洗い終わって一息ついた瞬間。盛大な犬の歓迎を受ける。
「うっ……」
「うわー……びしょ濡れ」
ブルブルと勢いよく体を振った犬によって、二人仲良く髪まで濡れた。犬の綱を頑丈な柱へ繋いでから、横目で楽しそうにしている男を流し見る。
想定外のことで、屋敷の湯浴みをすると言うイグニスに対して、汚いから入れてもらえないよと言うグラキエスの言葉を信じて背中合わせだ。
「……こっちを向いたら絶交だからな」
「分かってるよ。もー心配性だなぁ……イグニスと絶交なんて死亡宣告だからねー?」
意を決して上着を脱いで肉体美を晒す。但し、イグニスは肝心なことを忘れていた。
「…………俺の、着替えがない」
魔法も万能ではあるが、イグニスは貴族のため生活魔法は殆ど覚えていない。火の魔法を得意とするイグニスでも、繊細な微調整をしたことはなかった。
チラッと後ろを向いてグラキエスを確認する。グラキエスはイグニスの面倒を見たがっているため、生活魔法の代わりに光魔法で体の汚れを落としたり乾かすことも出来た。
聖女であるため、基本的に光魔法以外使えないグラキエスだったが、生活魔法に劣らない様々な創作魔法を使えたりする。
「……おい。てめぇ、確か光魔法で服を乾かしたり出来たんじゃなかったか」
「うん? そう言われると、出来るね」
「着替えがなかったのを忘れてたから……」
素直に頼み事が出来ず、歯切れの悪いイグニスの言いたいことを読み取ったグラキエスの肩が小刻みに震えていた。
顔が見えず、首を傾げるイグニスとの約束を守って後ろを向いたまま、条件を口にしてくる。
「そうだなぁ……イグニスが可愛くお願いするか、中の黒い邪魔な服を着ないで濡れたシャツを着てくれるなら、使ってあげるよ?」
「は……?」
出された条件は、どちらもイグニスにとって醜態を晒すことだった。しかし、選択肢を他に与えないのがこの変態である。
可愛くお願いなんて年上のイグニスに出来るはずもなく、選択肢は一つだった。
グラキエスの着替えを奪うという考えすら頭になかった素直なイグニスは、冷静を装って濡れたシャツを着る。
季節的に寒くはないが、一度脱いだからか少しだけ冷えて張り付く服へ眉を寄せた。
「……早くしろ」
「それじゃあ、この魔法は相手に触れないと発動出来ないから、一回正面向くね?」
「ぐっ……分かった」
振り向いたグラキエスが先ず見るところは決まっている。ボタンを留めたことで、余計に張り付いたシャツは胸板の飾りを露わにしていた。
今まで一切気に留めていなかった未発達な部分。グラキエスのせいで、意識してしまう頭を振るってやり過ごす。
「……いつまでも見てんじゃねぇ」
「はーい。――僕の可愛い薄紅色の花。それじゃあ、どこなら触って良い?」
「腕だ」
「えー! つまんないなぁ……」
「絶交するぞ……」
弱味を握られたような顔で瞳を潤ませるグラキエスを気にしている暇はない。少しだけ寒さに震える体に気づいたグラキエスも真顔で近づいてくると、両腕へ触れた。
強く握られた訳じゃないのに、なぜか男らしさを感じてしまい息を呑むイグニスは下を向く。次第に温かい感覚がし始めて、体の無駄な水分まで消えていった。
陽の下で洗濯されてすぐ着たような温かさに包まれたイグニスの顔は自然と緩む。顔を上げて珍しく感謝を告げようとしたイグニスの耳に、聞きたくない言葉が飛んできた。
「あーあ……乾いたから僕の可愛い小さな花が見えなくなっちゃった」
「――てめぇ……いま感じた俺の感情を返しやがれ!」
怒り狂ったイグニスにお仕置きとして縛られたグラキエスは「ひどい」と喚く。
そのあと、感謝の代わりと称してイグニスが操る巧みな蔓によって体を洗われて、服を着替えさせられたのだった。
但し、ふわふわの髪の毛だけはイグニスが優しく洗ってやった――。
無残にも掘り返されて幾つもの茶色い穴を開けた庭の土――。
魔物が侵入出来るような手薄な警備も、結界魔法もしていない。
こんな珍事件で家族会議が開かれようとしていたときだった。
家族団欒の間で大きく扉を開いて入ってきたのは、なぜか泥だらけになったグラキエスである。呆気に取られる家族は「ハッ、ハッ、ハッ」と言う奇妙な声を聞いて視線を下へ向けた。
グラキエスの手に握られていたのは太い綱で、その先にふわふわした毛を持つ犬がいる。
「犯人見つけましたー! この子です」
「は……? 嘘だろう……」
グラキエスに似た毛色でふわふわした体は全身泥だらけ。どこかの迷い犬かと思ったが、首輪はない。そして、泥だらけだったことで赤い薔薇のカーペットは大変なことになっている。
自覚がないのか、家族一同溜息を吐き出して執事に怒られるグラキエスは中庭へ歩いていった。仕方なくついていくイグニスは頭を抱えている。
犯人が見つかったのは良いが、犬共々全身泥だらけの大型犬のせいだ。
しかも、犬自体も全身筋肉で出来ていそうなほど靭やかな体をしている。
二人を連れてきたのは中庭にある洗い場だった。シャワーが完備されていて、汚れを落とすときに使われている。
しっかり外から隠せるようになっていて、二匹の大型犬を中へ押し込んだ。
「――経緯を話せ」
「えーと、犯人探しをしていたら、この子が花壇を荒そうとしているところを目撃してねー。興奮して暴れるから、こんなことになっちゃった」
「……なっちゃった、じゃねぇ。どこ行ったかと思ったら……」
「もしかして、心配してくれたの? それとも、せっかく二人でもぎ取った休暇なのに、一人にされて寂しかっ――いたっ……暴力反対ー」
休暇をもぎ取ったのはグラキエスであって、イグニスは普通の非番だった。基本は王城で暮らしているが、月に一度実家へ戻ってきて経過報告をしている。
当然、二人は団長と副団長のため家族団欒とはいかず、いつも一人欠けている状態だったが、グラキエスの働きによって全員揃ったわけだ。
それなのに、この体たらく。
執事から着替えを受け取っていたイグニスが近くの籠へ入れた。それから、上着を脱いでシャツ姿になる。
じっとりした視線を感じるが、イグニスは気にしない。なぜなら、様々なことを経験してシャツの下に黒いノースリーブを着ているからだ。
「……そんなに見ても、何も見えねぇぞ」
「えー? 僕にはちゃんとイグニスの裸体が見えてるから大丈夫だよ」
「気色悪いこと言ってんじゃねぇ……良いから脱げ!」
土で汚れているのは服だけだったが、綺麗にした方が良いと、アクアの助言を素直に聞いた結果こうなっている。
脱げと言う言葉でわざとらしく胸元へ手をクロスするグラキエスに青筋が浮かんだ。
そして、二人のやり取りを大人しく見ていた本物の犬が、イグニスの足へしがみつく。
「なっ……」
予想していなかったことで体勢を崩したイグニスはそのまま後ろへ倒れ込んだ。
しかし、背中に硬いクッションのような感触がして痛みはない。
代わりに背後から小さな声が聞こえてきて振り返る。
「いたたっ……イグニス、大丈夫?」
「え……てめぇこそ、大丈夫かよ。つか、聖女が団長を守るんじゃねぇ……」
「聖女とか関係ないから。イグニスの痛そうな顔は、僕だけが与えたいし……」
「――この変態聖女が! て、お前も降りろ!」
「ハッ、ハッ」と嬉しそうに尻尾を振る大型犬が腹に乗っていて、身動きが取れないイグニスは威圧した。
言葉の違いからか全く効果のない犬はイグニスの頬を舐めてくる。
口は悪いが、昔から動物に懐かれるイグニスも本気で嫌がってるわけじゃない。前と後ろに挟まれて、背中に硬いものが当たっていることでイラついていた。
「……おい。この状況で、おったててんじゃねぇ!」
「えー……だって、イグニスが僕より犬を相手するからさー。嫉妬しちゃって。あ、唇は舐めさせないでよ?」
渾身の力で犬を引き剥がし、立ち上がったイグニスは始めにふわふわ髪の頭を叩く。二人して汚れたことで、最初に犬を洗うことを決めた。
シャワーの温度を調整してから背中からかけていき、犬を押さえるのはグラキエスがしている。必要なものも揃っているため、そのまま体を洗っていった。
犬などのペットを飼ったことがない二人は、洗い終わって一息ついた瞬間。盛大な犬の歓迎を受ける。
「うっ……」
「うわー……びしょ濡れ」
ブルブルと勢いよく体を振った犬によって、二人仲良く髪まで濡れた。犬の綱を頑丈な柱へ繋いでから、横目で楽しそうにしている男を流し見る。
想定外のことで、屋敷の湯浴みをすると言うイグニスに対して、汚いから入れてもらえないよと言うグラキエスの言葉を信じて背中合わせだ。
「……こっちを向いたら絶交だからな」
「分かってるよ。もー心配性だなぁ……イグニスと絶交なんて死亡宣告だからねー?」
意を決して上着を脱いで肉体美を晒す。但し、イグニスは肝心なことを忘れていた。
「…………俺の、着替えがない」
魔法も万能ではあるが、イグニスは貴族のため生活魔法は殆ど覚えていない。火の魔法を得意とするイグニスでも、繊細な微調整をしたことはなかった。
チラッと後ろを向いてグラキエスを確認する。グラキエスはイグニスの面倒を見たがっているため、生活魔法の代わりに光魔法で体の汚れを落としたり乾かすことも出来た。
聖女であるため、基本的に光魔法以外使えないグラキエスだったが、生活魔法に劣らない様々な創作魔法を使えたりする。
「……おい。てめぇ、確か光魔法で服を乾かしたり出来たんじゃなかったか」
「うん? そう言われると、出来るね」
「着替えがなかったのを忘れてたから……」
素直に頼み事が出来ず、歯切れの悪いイグニスの言いたいことを読み取ったグラキエスの肩が小刻みに震えていた。
顔が見えず、首を傾げるイグニスとの約束を守って後ろを向いたまま、条件を口にしてくる。
「そうだなぁ……イグニスが可愛くお願いするか、中の黒い邪魔な服を着ないで濡れたシャツを着てくれるなら、使ってあげるよ?」
「は……?」
出された条件は、どちらもイグニスにとって醜態を晒すことだった。しかし、選択肢を他に与えないのがこの変態である。
可愛くお願いなんて年上のイグニスに出来るはずもなく、選択肢は一つだった。
グラキエスの着替えを奪うという考えすら頭になかった素直なイグニスは、冷静を装って濡れたシャツを着る。
季節的に寒くはないが、一度脱いだからか少しだけ冷えて張り付く服へ眉を寄せた。
「……早くしろ」
「それじゃあ、この魔法は相手に触れないと発動出来ないから、一回正面向くね?」
「ぐっ……分かった」
振り向いたグラキエスが先ず見るところは決まっている。ボタンを留めたことで、余計に張り付いたシャツは胸板の飾りを露わにしていた。
今まで一切気に留めていなかった未発達な部分。グラキエスのせいで、意識してしまう頭を振るってやり過ごす。
「……いつまでも見てんじゃねぇ」
「はーい。――僕の可愛い薄紅色の花。それじゃあ、どこなら触って良い?」
「腕だ」
「えー! つまんないなぁ……」
「絶交するぞ……」
弱味を握られたような顔で瞳を潤ませるグラキエスを気にしている暇はない。少しだけ寒さに震える体に気づいたグラキエスも真顔で近づいてくると、両腕へ触れた。
強く握られた訳じゃないのに、なぜか男らしさを感じてしまい息を呑むイグニスは下を向く。次第に温かい感覚がし始めて、体の無駄な水分まで消えていった。
陽の下で洗濯されてすぐ着たような温かさに包まれたイグニスの顔は自然と緩む。顔を上げて珍しく感謝を告げようとしたイグニスの耳に、聞きたくない言葉が飛んできた。
「あーあ……乾いたから僕の可愛い小さな花が見えなくなっちゃった」
「――てめぇ……いま感じた俺の感情を返しやがれ!」
怒り狂ったイグニスにお仕置きとして縛られたグラキエスは「ひどい」と喚く。
そのあと、感謝の代わりと称してイグニスが操る巧みな蔓によって体を洗われて、服を着替えさせられたのだった。
但し、ふわふわの髪の毛だけはイグニスが優しく洗ってやった――。
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