【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
33 / 58

第28輪 危なげで妖艶な赤い薔薇

しおりを挟む
 まだ太陽が顔を出していない少し早めの時間。ゆっくりと体を起こしたイグニスは薄暗い窓を見据える。あの日、グラキエスが居なくなってから七日過ぎた。それ以来、イグニスは一時間も早く目覚めるようになってしまう。
 着替えを済ませて、やることは決まって城下町から旧市街まで歩き回ること。
 あの日、追いかけなかったことを後悔していた。過信していた。グラキエスが向けてくる愛情は、絶対に離れないと――。

 喧嘩をしたと思っていた日ですら、長く感じて心が乱されたのに……。この七日間はイグニスにとっても長すぎた。

 副団長の椅子は空席のまま。部下には、長期休暇だと話している。だが、イグニスの話を鵜呑みにする者は少ない。そこまでグラキエスの存在は大きく、イグニスしか眼中にないことも知れ渡っているからだ。
 そんな副団長が男しかいない危険な薔薇薗で、団長を一人にするはずがないと……。ただ、イグニスにとっては嫌な風評だった。

「……あの馬鹿。一体、どこに行ったんだ」

 今日も一時間の探索をしたが成果は得られず、団長室へ戻ってくると扉を叩く音がして開ける。思わぬ人物が立っていると、そのままローゼンの屋敷へ向かった。

 ローゼンの屋敷で家族が集まる部屋のソファーへ腰を下ろす。向かい合って座っているのはローゼン家の当主であるイグニスの父親だ。なぜか母親の姿も、妹のアクアすらいない。
 使用人たちもいない二人だけの空間だった。

「父上、それでお話とは」
「ああ、お前も分かっていると思うが、今年で節目の百年が経つ。精霊様と交わしている契約の儀式を行う」
「はい。産まれたときから聞かされていたので。それで、儀式の内容は?」
「儀式の内容は、精霊様と一心同体になることだ。つまり、その身から心まで精霊様と交わることを意味している」

 思いがけない言葉に目を見張るイグニスは、父親から詳細を聞いて首を上下へ曲げる。
 両親はイグニスが結婚しないことを咎めることなく容認してくれた。それは、妹のアクアが説得してくれたこともある。そのため、家を継ぐのはアクアだった。
 だが、精霊との儀式はローゼンの血を引いてる者なら誰でも構わない。だからこそ、イグニスも儀式だけは自分がやると決めていた。
 そして、今回の話を聞いて確信する。絶対に自分がやるべき使命だと。

「……交わるって、グラスが俺に抱いてる行為……だよな? 契約を交わした精霊様ならあり得る……」

 以前、人間と契約していない精霊が悪戯しているのを目撃してしまった。しかも本番まで……。能力によってその記憶は失われたが、体は覚えているだろう。
 自分の代わりに家を継いでくれる妹は捧げられない。性別の概念は特にない精霊なら、男の自分でも問題ないはず。
 ただ、一つ気掛かりがあった。行方不明のグラキエスの存在である。未だに恋愛での好きは芽生えていないが、家族愛から友情、相棒としての愛情はあった。

「……こんなこと、考えるなんて。精霊様に抱かれるなら……初めては」

 思ってしまった言葉を飲み込んで、公務のために王城へ戻る。

 日が陰り、仕事に身が入らず夕暮れを迎えていた。
 精霊との儀式について聞いたあとから、イグニスの脳内はグラキエスにされた数々の行為で埋め尽くされている。

 自室に戻ったあと、ベッドへ倒れ込んだイグニスはなぜか火照る体を抱きしめた。そして、硬い団服の上着を脱ぎ去ってシャツのボタンを外す。
 露わになる健康的な肌と少しだけ割れた靭やかな肉体美を晒した。シャツの前を開きグラキエスが「可愛い薄紅色の小さな花」と称している二つの花を外へ晒す。
 緊張していないからか柔らかそうな花へ初めて触れた。ツンとした感覚が体を駆け巡る。思い出すのは、雨の中で触れてもいないのに犯された感覚を植え付けられた言葉や、湯浴みで実際に直接触れられた感触が鮮明化されていった。

 短く息を吐き出してから今度は両手で触れてみる。

「ん……っ」

 いままで何も感じなかったそこは熱を持ったように感じて、硬くなっていた。グラキエスがしていたように上下へ動かすと、下半身もキュッとなる。
 コロコロ転がしていくと主張するように赤く色付いた小さな二つの花は芯を持ち始めた。
 息が荒くなる中、不意に自分の状態を確認したくなって立ち上がり姿見へ映し出す。

「うっ……これは、俺……なのか?」

 弄ったことで赤く色付いた二つの花は、もっと触って欲しいと言いたそうに主張していた。 
 男にとって無駄な物。未成熟な部位で何の価値もないと思っていたそこへ触れる度、体が震える。姿見に映し出されるまま、触れる姿は艶めかしいものだった。
 いつの間にか下半身も盛り上がっている。

 一気に熱が冷めて冷静になると、シャツのボタンを閉める。だが、熱く芯を持った二つの花はシャツの上からでも分かるほど主張していた。
 愚かな行為から、顔が熱くなるイグニスは何事もなかったように団服を羽織る。だが、服で擦れて不覚にも感じてしまった。

「んふっ……」

 一気に熱が帯びる顔は、恥ずかしすぎて思わず片腕で覆い隠す。

「……なんだよ、これ……。変な声出すんじゃねぇ……」

 全部の元凶にぶつけるため、火照った体のまま、ふらふらと部屋を出た。
 そのまま城下町へ下り、行方不明の男を捜して歩き回る。その間もなぜか周りの視線が気になった。自分の姿を見ても、変なところはない。ただ、刺さる視線はどれも性的で、女の場合は頬を赤く染め、男は下品な笑みを浮かべている。

 イグニスはリトス王国の魔法騎士団長であり、魔法の腕は世界一だ。例え、性的に言い寄られても敵う者はいない。それなのに、イグニス自身もほんの少しだけ不安を覚えていた。

 もしも、男に触れられて感じて変な声が出たらどうしようと――。

 性的な行為をしたあとに街へ出るべきじゃなかったと後悔していた。いたたまれず路地裏へ入ってすぐ、背後から肩を抱き寄せられる。
 普段なら、触れられる前に気づいて払っていた。

「なぁ、そこの騎士様……俺と一杯やらねぇか?」
「……ふざけるな。俺を誰だと――」

 振り返って見た髭面男の顔は、だらしのない表情で唾を飲む音すら聞こえてくる。
 イグニスの髪は炎のように赤く、その容姿も目立つもので城下町にいる者で知らない者はいないほどだった。それなのに声をかけてきた男は、外の人間ということになる。服装から魔法騎士だと分かった上での行為……。
 一瞬怯んでしまったイグニスに、もう一人隠れていたひょろい男が近づいてくる。しかも、一人かと思っていたら複数人姿を見せた。

 いつもなら人数など関係なく拘束も出来るのに、体が硬直して口も動かない。
 グラキエスの存在が精神面でも大きかったのだと、今更ながら感じたイグニスは唇を噛み締める。男として屈辱的な視線を浴びて、何も出来ない自分にも。

「……クソッ」

 肩に乗る男の手が撫でるような手つきで下ろされ、服の上から這うように動く。
 グラキエスに触られるのと全く違い、性的興奮は疎か気色悪さしかない。
 深く息を吐き出し、冷静さを取り戻したイグニスが魔法を唱えようとしたときだった。

「いっ、でででぇぇ!?」

 急に男の手が体から離れていく。思わず振り返ると、輝きのない瞳が笑った。

「――駄目だよ。そんな状態で、路地裏なんて来ちゃ……」
「――グラ……ス……。てめぇ、どこ行って……!」
「ごめんね? こんな状態のイグニスを一人にして……凄い、えっちな顔と匂いで充満してるよ」

 えっちな顔と匂いにビクッと肩が揺れる。この男たちの表情で感じていたが、知りたくなかった言葉を耳にして下を向いた。
 急に現れたグラキエスへ臆せず歩み寄ってくる男たちは次の瞬間、顔を青ざめる。
 侮蔑の視線は殺気に満ちていて、威圧感も合わさり腰を抜かす者すらいた。腕を捻られていた髭面男も、なんとか振り払って逃げていく。

 ゆっくり近づいてくる足音で、体が強張った。少しだけ頭を下げて、耳元で囁く透明な声が鼓膜を震わせる。

「……イグニス、外出る前に何かしたでしょ」
「ぐっ……何も……」
「……嘘ついても、だだ漏れだよ」

 腰に触れる手だけで体が反応して小刻みに震えた。その手が上へ向かうと、ギュッと目を瞑る。普段と違って弱々しく感じるイグニスに対してそれ以上手を動かすことはなく、後ろから抱きしめられた。

「……グラス。一緒に、帰るぞ……」
「…………だけど。僕が一緒にいたら迷惑かけるから」
「もう、迷惑かけてんだよ……。あの女は、誰だ」
「…………忘れて、イグニス」

 ギュッと抱きしめる重みを感じながら、あのときと同じように小さな震えを感じる。イグニスよりも細くて繊細な手へ、自分の手を重ねた。振動で分かるグラキエスの反応に、手袋越しで撫でる。

「なら……てめぇのいない間……俺が、誰かに――」
「それは駄目だよ。イグニスは僕のものだ……」
「勝手なこと言ってんじゃねぇ……俺は、てめぇのものでもねぇ」
「……イグニスの意地悪……」

 此処では敢えて精霊の儀式について話さない。理由を言いたがらないグラキエスでも、まずは連れ帰るのが先決だった。男の威厳を失う覚悟をしてイグニスが口を開く。

「……絶対、性的なことをしないって約束しろ」
「え? 何が?」
「今から話す内容を聞いたあとの話だ」
「もしかして……今の現状について?」

 項垂れるように首を動かすイグニスへ光のなかった瞳が輝いた。約束を取り付けたあと、唾を飲み込むイグニスはしどろもどろになりながら自分がした行為について赤裸々な告白をする。

「――キッカケはあるが、急に……自分の体を弄りたくなって。胸を……触った。前は、何も感じなかったのに……電流が走ったようで、そのまま城を出てきた……」

 シーンと静まり返る中、動こうとする手に気づいて添えていた手で叩いた。何もしない約束をしたばかりで、この男は節操がない。
 腰へ添えていた片手を口に当てるグラキエスを横目で見る。なぜか照れているような顔で、目が泳いでいた。

「――まさか、イグニスが……自分で触るなんて。えっちな体を晒してるってことは、感じちゃって声出た?」
「え……ち、じゃねぇ‼ 声なんて出るわけねぇだろが! ほら、帰るぞ」
「ぐぐっ……そんなことを聞いたら、帰らない選択肢なんてないよ……。イグニスが、一人でもっとえっちに育っちゃったら僕しか守ってあげられないからね」
「……誰が育つか! てめぇに守られなく――いや、違うな。ずっと、拠り所にしてた……」

 再び熱が帯びる顔で下を向くイグニスの耳へ唇を押し当てるグラキエスに、鉄拳が飛ぶ。
 密着してくるグラキエスの体を引き剥がしながら、二人は王城へ戻って行った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

氷鉄の騎士団長に拾われたスラムのオメガは、無自覚な溺愛に溶かされる

水凪しおん
BL
スラム街で泥とハーブの匂いにまみれ、オメガであることを隠して生きてきた少年ノア。 ある雨の日、発情の熱と寒さに震える彼を拾い上げたのは、王国最強と謳われる「氷鉄の騎士」ヴァレリウスだった。 「お前からは、雨に濡れた花のような匂いがする」 冷徹と恐れられる騎士団長は、ノアを汚いものとして扱うどころか、その匂いに安らぎを見出し、不器用ながらも全力で愛を注いでくる。 温かい食事、ふかふかのベッド、そして何よりも甘く強烈なアルファの庇護。 これは、孤独な二人が運命の番として惹かれ合い、心と体を溶かし合っていく、極上の溺愛救済BL。 ※本作は性的な描写(キスや愛撫、発情期の描写など)を含みます。15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

処理中です...