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番外編
精霊様の日常
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色鮮やかな薔薇が植えられた広大な庭で、一人佇む背景と同化したような美丈夫の姿。赤い屋根の二階建てながら大きな屋敷を眺めている。背景と同化して見えるのは、言葉のままで体が透けていた。
この世界で表すなら、彼は精霊だ。此処は、リトス王国で王城よりも薔薇の種類から庭の広さまで随一を誇るローゼン家。
薔薇の精霊から寵愛を受けて精霊魔法を扱える一族が住む家の庭だった。
普段、精霊は見え隠れしているだけでどこにでもいる存在。自然と一体だ。
一部の精霊は好みの場所で長い間過ごしていたりする。それが人間と関わるきっかけになった。
但し精霊の力は強大で、元々の種族的な能力を持つ人間と違い、なんの特徴もなく優しい心を持つ者だけに気紛れで力を与えたのが始まりだ。
精霊にとってなんの特徴もない人間の寿命は一年にすら満たず、そのため一族が繁栄している間は力を貸すと定めている。
背景が見える薄い衣を羽織っただけの肢体は、透明感のある色白で仄かに薄ピンク色をしていた。意外と男らしい肢体は腹筋が六つに割れている。
見え隠れする肢体には赤い薔薇が花開くような模様で彩られ、頬まで美しく飾られていた。薄い唇も赤く色付いている。けれど、大事な部分は全て隠されていた。
精霊が出来ることは精霊魔法だけじゃなく、寵愛している者だけに姿を見せたり、脳へ直接言葉を投げかけたりした。
薔薇の精霊はローゼン家。つまり、イグニスとアクア、父親に力を授けている。精霊にとっては、数日前に起きた闇魔法結社との荒事で思うところがあった。父親の瀕死、アクアの命が散りかけたこと。
寵愛を受けているとはいえ、いつも精霊がそばにいるわけじゃない。だから、気づいたら力を与えている人間が死んでいた……なんてことも多々ある。
ローゼン家が大貴族にのし上がったのも、精霊の寵愛あってこそ。元々貴族ではあったが、薔薇をこよなく愛していた先祖と気紛れな精霊の出逢いによるものだった。
『――あれからまだ、千年ほどか』
精霊にとって千年は『まだ』の範囲である。彼にとっては、漸く一年経ったくらいかもしれない。それだけ長く生きている精霊の一人だ。
その中でも平和じゃなかったときもある。だが、今回のように寵愛している子孫の死にかけた姿を見たのは初めてだった。
薔薇の精霊は、イグニスとアクアを見ていると分かる通り支援や攻撃しか出来ず、回復魔法は使えない。
面白い男と思っていたグラキエスが、懸命に命を繋ぎ止めてくれたのだ。しかし、二人は精霊が危険を伝えたことで自らを死地へ向かわせた。
それは、精霊の求めるものとは反対だった。
――逃がすために与えた情報だったのに……。
『人間は脆い生き物のはずだ。なぜ危険に身を投じる?』
自分の力を最大限に使うあのイグニスですら、グラキエスが遅れていたら死んでいる。いや、あの人間は何があってもあそこに舞い戻っていた。
それだけは精霊の考えを良い意味で狂わせてくれた行動だった。
精霊は人間のような感情がなく、無表情だと言われている。しかし、人間と関わりを持った精霊は少しだけ同じ感情を見せた。
薔薇の精霊は庭の薔薇を愛でる以外、草花のように光合成してぼんやりとしている。
必要以上に精霊が人間へ介入することは世界の歪みを生む――なんてことも一切ない。
『――あのとき、人間なら……』
何が正解だったのか。
答えを探してさまよう視線が、襟足へかからない程度に伸びた炎のような赤い髪の男を捉える。
そして、その傍らにはいつだってふわふわした白銀色の綿毛が寄り添っていた。襟足より少しだけ長く伸びた髪は柔かそうで、風に煽られている。
「イグニス~。今日は、風が強いから薔薇の花散っちゃうかなー?」
「あー……そうだな。でも、大丈夫だろう。此処には、精霊様がいるからな」
姿を隠した薔薇の精霊には、寵愛を受けた依代や一族であっても気づくことはない。精霊は人間に分からない部分が多くある。感情もその一つだ。
人間と同じ場所にはいない。
物事のスケールが違う。
だから、互いが歩み寄ることは不可能に近い。
それでも、だからこそ精霊は考えていた。この一族を病や寿命以外で失いたくないと……。
薔薇の精霊にとって、ローゼン家はお気に入りだった。自分の眷属である薔薇を慈しみ、愛でるだけじゃなく。献身的に身を捧げる行いや、使命感。すべて、護りたいと思った。精霊には、人間以上の魔力があるのだから。
『――依代よ。貴様達が、困難な状況へ陥った時……我、自らも力を貸すと約束しよう』
「は……精霊様⁉」
「え? 精霊様が近くにいるの? この間、お世話になったから僕も会いたいなー」
勝手にそれだけ言って満足した薔薇の精霊は、再び沈黙する。困惑する二人の人間を陰から愛でながら――。
この世界で表すなら、彼は精霊だ。此処は、リトス王国で王城よりも薔薇の種類から庭の広さまで随一を誇るローゼン家。
薔薇の精霊から寵愛を受けて精霊魔法を扱える一族が住む家の庭だった。
普段、精霊は見え隠れしているだけでどこにでもいる存在。自然と一体だ。
一部の精霊は好みの場所で長い間過ごしていたりする。それが人間と関わるきっかけになった。
但し精霊の力は強大で、元々の種族的な能力を持つ人間と違い、なんの特徴もなく優しい心を持つ者だけに気紛れで力を与えたのが始まりだ。
精霊にとってなんの特徴もない人間の寿命は一年にすら満たず、そのため一族が繁栄している間は力を貸すと定めている。
背景が見える薄い衣を羽織っただけの肢体は、透明感のある色白で仄かに薄ピンク色をしていた。意外と男らしい肢体は腹筋が六つに割れている。
見え隠れする肢体には赤い薔薇が花開くような模様で彩られ、頬まで美しく飾られていた。薄い唇も赤く色付いている。けれど、大事な部分は全て隠されていた。
精霊が出来ることは精霊魔法だけじゃなく、寵愛している者だけに姿を見せたり、脳へ直接言葉を投げかけたりした。
薔薇の精霊はローゼン家。つまり、イグニスとアクア、父親に力を授けている。精霊にとっては、数日前に起きた闇魔法結社との荒事で思うところがあった。父親の瀕死、アクアの命が散りかけたこと。
寵愛を受けているとはいえ、いつも精霊がそばにいるわけじゃない。だから、気づいたら力を与えている人間が死んでいた……なんてことも多々ある。
ローゼン家が大貴族にのし上がったのも、精霊の寵愛あってこそ。元々貴族ではあったが、薔薇をこよなく愛していた先祖と気紛れな精霊の出逢いによるものだった。
『――あれからまだ、千年ほどか』
精霊にとって千年は『まだ』の範囲である。彼にとっては、漸く一年経ったくらいかもしれない。それだけ長く生きている精霊の一人だ。
その中でも平和じゃなかったときもある。だが、今回のように寵愛している子孫の死にかけた姿を見たのは初めてだった。
薔薇の精霊は、イグニスとアクアを見ていると分かる通り支援や攻撃しか出来ず、回復魔法は使えない。
面白い男と思っていたグラキエスが、懸命に命を繋ぎ止めてくれたのだ。しかし、二人は精霊が危険を伝えたことで自らを死地へ向かわせた。
それは、精霊の求めるものとは反対だった。
――逃がすために与えた情報だったのに……。
『人間は脆い生き物のはずだ。なぜ危険に身を投じる?』
自分の力を最大限に使うあのイグニスですら、グラキエスが遅れていたら死んでいる。いや、あの人間は何があってもあそこに舞い戻っていた。
それだけは精霊の考えを良い意味で狂わせてくれた行動だった。
精霊は人間のような感情がなく、無表情だと言われている。しかし、人間と関わりを持った精霊は少しだけ同じ感情を見せた。
薔薇の精霊は庭の薔薇を愛でる以外、草花のように光合成してぼんやりとしている。
必要以上に精霊が人間へ介入することは世界の歪みを生む――なんてことも一切ない。
『――あのとき、人間なら……』
何が正解だったのか。
答えを探してさまよう視線が、襟足へかからない程度に伸びた炎のような赤い髪の男を捉える。
そして、その傍らにはいつだってふわふわした白銀色の綿毛が寄り添っていた。襟足より少しだけ長く伸びた髪は柔かそうで、風に煽られている。
「イグニス~。今日は、風が強いから薔薇の花散っちゃうかなー?」
「あー……そうだな。でも、大丈夫だろう。此処には、精霊様がいるからな」
姿を隠した薔薇の精霊には、寵愛を受けた依代や一族であっても気づくことはない。精霊は人間に分からない部分が多くある。感情もその一つだ。
人間と同じ場所にはいない。
物事のスケールが違う。
だから、互いが歩み寄ることは不可能に近い。
それでも、だからこそ精霊は考えていた。この一族を病や寿命以外で失いたくないと……。
薔薇の精霊にとって、ローゼン家はお気に入りだった。自分の眷属である薔薇を慈しみ、愛でるだけじゃなく。献身的に身を捧げる行いや、使命感。すべて、護りたいと思った。精霊には、人間以上の魔力があるのだから。
『――依代よ。貴様達が、困難な状況へ陥った時……我、自らも力を貸すと約束しよう』
「は……精霊様⁉」
「え? 精霊様が近くにいるの? この間、お世話になったから僕も会いたいなー」
勝手にそれだけ言って満足した薔薇の精霊は、再び沈黙する。困惑する二人の人間を陰から愛でながら――。
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