彼女が残した物語

藤代みのこ

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第9章 落陽と焔(らくようとほのお)

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― 戦いの終焉 ―

城の天井が、崩れていく。
一撃ごとに、世界がきしむような轟音を立てた。

ネフェルとアルストリア――
光と闇、その根源が剣となってぶつかり合うたび、石床が割れ、柱が砕け、
王国の最後の砦が、崩壊の淵へと突き進んでいく。

「なぜ……なぜ私の愛を拒んだ!!」

狂気の叫びとともに、王子の黒き剣が振るわれる。
その剣は空間すら裂き、城内に重力のような渦を生み出していた。

ネフェルはそれをすれすれで躱し、反撃する。

「あなたが愛したのは、私じゃない。
私を“思い通りにしたい”という欲望だけ!!」

彼女の一閃が、王子の頬を裂く。
黒い血が飛び散り、玉座の階段に染み込んでいった。

「私の“すべて”がお前を欲しがったのだ。
お前の過去の“すべて”を焼き尽くす必要があったのだ!」

「それが愛じゃないって、まだわからないの!?」

ネフェルの叫びが、空気を震わせる。
彼女の羽が広がると、黄金の光が王城の闇を裂いた。

(ネフェル。限界が近づいています。彼の中にある“何か”が……)

「ええ、わかってる。だからこそ、今、終わらせる!」

剣を構え直し、ネフェルは王子へと飛び込んだ。
王子もまた、狂笑しながら応じる。

刃と刃がぶつかり合い、
意志と執着がぶつかり合い――

その瞬間。

ネフェルの中に、かすかに“あの日”の声が響いた。

――「ネフェル。お前には、人を救える力がある」
いつかのラウスが言ってくれた言葉。
あの日、炎の中で、最期に告げられた想い。

「私が、人間として終わるなら。
あなたを人間として、終わらせてあげる!」

叫びとともに、彼女は王子の刃を振り払った。

そして――

ラウスの指輪が、輝いた。

それは剣よりも眩しく、
炎よりも温かく、
何よりも、王子の心に突き刺さる“記憶の灯”だった。

王子の動きが止まる。

「……これは……?」

その瞳に、一瞬だけ“あの町”の光景が浮かんだ。
かつて笑っていた人々。
市場の賑わい。
花畑。
そして――町娘、ネフェルの笑顔。

「これは……こんなはずでは……」

ネフェルは最後の一歩を踏み出す。
剣を振りかざし、心を込めて、刃ではなく――声を放った。

「さようなら、アルストリア=カディオール。
あなたは、愛する方法を……間違えただけの人よ」

その言葉とともに、剣が王子の胸を貫いた。
だが、血は出なかった。

代わりに――黒き炎が、空へと昇っていった。

王子の体が崩れ落ちる。

「……ああ……これが……」

最後に、王子の目から、一筋の涙が流れた。

黒き炎が全てを包み、
玉座が崩れ――王城は、音を立てて、落ちた。

――そして。

金の羽だけが、空へと舞い上がった。
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