ミステリーSS集

長い眠り

３

「ここです。」



 添乗員が止まったのは、飾り気のない建物の前だった。
おそらく今夜はそこに泊まるのだろうと皆が推測したが、建物には看板も何もかかっていなかった。
 中は、ひんやりとしており、照明も必要最低限しか灯っていない。



 「何々？なんか変な所に来ちゃったわね。」

 「まさか、廃墟を見て回るツアーじゃないでしょうね。
そういうの嫌いなんだけど…」



 由香と留美がこそこそと話しているうちに、添乗員は、ある扉の前で立ち止まり、その扉を開いた。
そこは、事務机のようなものとパイプ椅子が置かれた部屋だったが、机の上に並べられた料理は、とても豪勢なものだった。



 「どうぞ、御夕食をお召し上がり下さい。」

 部屋にいた女性が声を掛けた。
それと同時に皆が席に付き、料理に手を付けた。




 「わぁ、このお肉とろける～…！」

 「カニがこんなにいっぱい！」

 客たちは、料理にとても満足そうな笑みを浮かべていた。
 由香たちも、豪勢な料理のおかげで、今までの不満はすっかり吹き飛んでいた。



 「お次は、温泉にご案内します。」

 連れて行かれたところはこじんまりした浴槽で、景色も何も見えなかったが、長い移動で疲れた客たちの体を程良くほぐしてくれた。



 「では、皆様、こちらへどうぞ。」

 客たちは、泊まる部屋に案内された。
そこは、小さなベッドとテーブルがある、極めて簡素な部屋だった。
テーブルの上には、小さな瓶が置いてあった。
 疲れを取る栄養ドリンクだから、必ず飲むようにと書いてあった。
 由香と留美は、そのドリンクを何の疑いもなく飲み干した。