地下の初恋

神在琉葵(かみありるき)

文字の大きさ
3 / 14

しおりを挟む




 「スコット…今日は天気も良いし、薔薇でも見に行かない?」

 「そうだね。」



 彼がそんなことを口にしたのは、僕が着いて四日目のことだった。
 本当に手間がかかる……

彼が、相談事を話す時には、決まって動物か植物を見に行こうと言う。




 「相変わらず、見事な薔薇だね。」

それはお世辞でもなんでもない、僕の本心だ。
 子供ならきっと迷子になってしまうであろうこの広い庭の一角に、薔薇だけを育てている場所があった。
 僕の屋敷にも薔薇園はあるにはあるけれど、こことはとても比べものにはならない。
 硝子で囲まれた温室の中には、一年中、色とりどりの薔薇の花が咲き誇っている。



 「ハンスが毎日頑張ってくれてるからね。」

ハンスというのは、薔薇専門の庭師の名前だ。
なんでも、彼の父親も長年ここで薔薇専門の庭師をしていたのだという。




 「最近、体調はどうだい?
この前より、元気そうに見えるけど……」

 「……そうかな?」

アラステアは俯いて、薔薇を愛でながら、小さな声でそう呟いた。

 彼は、僕と二つ違いだが、僕よりずっと年下に見られることが多い。
 背が低く、華奢な身体付きが彼を未成熟な子供のように思わせるのだ。
じっくりと見れば、彼の灰色の瞳は実年齢よりも遥かに成熟した者のようにも感じられるのだけれど……

そう……彼は時折、すべてを悟り、諦めた老人のような目をする。
だけど、今回は少し違った。
 彼の目に、なにかいつもより明るいものが宿っている。
そうだ……彼が元気そうに思えたのはきっとそのせいなんだ。



 「なにか良いことでもあったのかい?」

 僕のその言葉に、深い意味はなかった。
ただなんとなく掛けただけの言葉だったのに、意外にも、彼は僕が予想していなかった笑みを返した。
それは、僕の今の言葉を肯定したということ。




 「え……一体、どんなことがあったんだい?
 聞かせておくれよ。」


 僕がそう言うと、アラステアは僕が初めて見るようなとても穏やかな顔で微笑んだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...