その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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その役割はソイツには重過ぎる

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傷一つない手が頭を撫でる。
その手は手触りを楽しむように一頻り撫でると耳に触れ、耳の形をなぞると顎を伝って唇へと触れた。

「触んじゃねぇよ。」

やっと意識が返って来て込み上げて来た嫌悪感のままにその手を叩き落とす。寝起き早々また身体に痛みが走り、くらりとしたが今度こそ無理矢理意識を保つ。

こちらを見下げる灰色の瞳が細まり、口の端がクイッと上がる。その表情から嫌でも意に介していないのが分かりとても腹立たしい。

激痛で意識が飛んでもいいからもう一発殴っとくかと身体を起こそうとするとジャラリと金属がぶつかり合う音が響く。身体を持ち上げようとした手と足を重く冷たい何かが邪魔をする。


両手と両足を見て、思わず馬鹿らしくて笑う。

なんだよ。
俺の事を無理矢理何かで押さえつけようとしている癖に鎖で四肢を繋がなきゃ怖いってか? 
そういう所は兄弟なんだな。
ホント、しょうもねぇな。

鼻で笑うと後ろで見ていたクエなんちゃらとかいう奴がモモの顔で眉間に皺を寄せる。そんな奴に軽蔑の視線を送り、視線を臆病者に戻す。

「おイタが過ぎるから矯正の為に暫くは付けさせてもらうよ。」

「素直に言えよ。そんなに俺に殴られんのが怖いか?まぁ、鎖が付いてようが俺は殴りたい時に殴るけどな。」

「怖い?確かに身体は痛みに反応は示すけど、痛みが怖いと思った事はないよ。…まぁ、君はとてもお転婆な子だからすぐに居なくなってしまいそうでそれは困るなって意味はあるけどね。」

ジャラリッと重厚な足枷に臆病者の手が触れる。足枷は少し大きく触れる度に肌に擦れ、少し痛い。

「…細いね。掴んだら折れてしまいそうだ。」

「そんなヤワじゃねぇよ。枷付けられようがテメェをぶっ飛ばせるくらいにはな。」 

「そうだね。そのくらいの抵抗は許してあげるよ。」

睨むと俺を見て、フッと笑うとまた猫を可愛がるように顎下を撫でる。…コイツ、俺を馬鹿にしてやがる。俺はテメェのペットじゃねぇ!!

そう睨んでいるのに目の前の男は光悦の表情を浮かべて俺の唇を傷一つない指で撫でる。

「『テメェ』じゃなく『ソレーユ』って呼んで欲しいね。俺の名前はソレーユ。ソレーユ・アーサー・プロイ。」

「…断る。」

「残念だね。君の名くらい知りたい所だけど…。」

「テメェに呼ばれる名なんざねぇよ。」

「じゃあ、『ノワール』。……その綺麗な黒髪から取って『ノワール』って呼ばせてもらうよ。」

「…俺はその名も覚えてやる義理はない。」

そう突き放してベッドの上で胡座を掻く。
ここは何処だと見渡すと壁も床も固い石で出来ていて、ベッド以外のものはなく、窓もない。

そして部屋でもなかった。
なんか見覚えのある鉄柵が目の前に見える。
そして鉄柵の外にはこれまた見覚えのある男がいた。ソイツは俺と目が合うと「マズイ。」という顔で手に持っていた酒瓶を背中の後ろに隠した。……おい。お前、俺がトリスタンに入れられた牢にいた牢番じゃねぇか!!

まだクビになってないのかよと再びこの牢の責任者に思わず、状況も忘れて呆れてしまう。

ー …こ、ここは牢なのか。

しかし前よりも大きな牢屋でベッドはフカフカ。レースで出来た天蓋も付いてる。なんて牢に不釣り合いなベッドなんだ…。


俺が目を離した隙に職務中に関わらず、また酒を飲もうと酒瓶のコルクを空けている牢番。「お前…。」とその姿に呆れて見ているとクイッと顎を上げられ、視界が忌々しい男の顔でいっぱいになる。

「ノワール。そんなに部屋が気になる? ここは罪を犯した王族を収容する塔。窓はひとつもなく、外に出る通路も階段一本しかない。オマケにプライバシーはなく、常に牢番が一人、牢の目の前で見張っているから逃げる事は不可能。」

ー …え? アイツ、一人でここ見張ってんの??

「深刻な顔だね…。俺から逃げようとでも思った? 」

ー あの牢番アレひとりにその重責を任せるのか?アレに!?

なんて別の意味で恐ろしい警備なんだと、他人事なのに本気でこの国の未来が心配になった。…国の中枢だよな。国の中枢なのに警備がザル過ぎやしないか!?

とっても真剣にドン引きしていると、重厚感のある足音が階段を登ってくる音が響き、少し怯えた表情をした屈強な男が入ってきた。

ソレーユ忌々しい男はその屈強な男を冷え冷えとした目を向ける。すると屈強な男は後退ったが、覚悟を決めたように口を開く。

「で、殿下。…国王陛下がお呼びです。至急の用との事ですので、謁見の間に…。」

「…あのさ、グレイブ。俺は今、機嫌が良いんだ。何故か分かる? 」

「…ず、ずっとお探しだったモノを手に入れたからです。…邪魔だとは分かっております。しかし、事が事。魔王絡みの案件かもしれぬのです。」

「へぇ…。だから勇者の俺を呼んで来いって? 」

「お願い致します。」

グレイブ屈強な男が深々と下げた頭をソレーユ忌々しい男は見つめ、殺気を放つ。その殺気にあてられたのかグレイブ屈強な男は血の気が引いた今にも倒れそうな顔色になった。

モモの中の奴はその殺気にゾクゾクと身体を震わせて歓喜の表情を浮かべる。
その表情にピキリッと青筋が額に浮かぶのが自身でも分かる。


「情けねぇ…。テメェの仕事もまともに出来やしないんだな。」

モモの顔で気色の悪い面を浮かべるアイツへの怒りを抑えて、態とらしく溜息つき、ソレーユ忌々しい男をこれまた態とらしく見下す。

すると盛大に喧嘩を売ったというのに奴は怒る訳でも反論する訳でもなく、ただ目を丸くしてこちらを見た。そして、口の端を少しだけ上げると俺の耳の縁をなぞるように撫でた。

「……気が変わった。行ってあげるよ、グレイブ。」

そう訳の分からない心境変化を奴は遂げて、大人しくグレイブ屈強な男について出ていく。

モモの中の奴もそれを追ったが、出ていく際に俺を憎々しげにも羨んでいるようにも見えるような目でこちらを睨んできた。

屈強な男の方は何処か複雑そうな顔でチラリとこちらを見て、続いて出て行った。
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