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シグリ

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クルクルと手の上で簪が回っている。

手の上で回す度に簪に付いている空のように青い硝子玉が太陽の光を受けてキラキラと輝く。
それを美しいと思うと同時に無性に虚しさを感じるのは手を伸ばす事も叶わないあの空と同じ色をしているからだろうか。

ー 我ながら詩人っすね。

そうカラカラと笑い、簪を胸の上で握り締め、木箱の上に寝転がる。

眼下に広がる青空は何処までも広くて終わりがなく、そこには《自由》が広がり、手を伸ばせと誘惑する。
しかしそれは誘惑する癖に手が届かない程遠くにあり、伸ばした所で何も掴む事など出来はしない。

切ないねぇ、と空を眺めていると、いきなり、横っ腹に衝撃を受け、コロリ、コロコロと木箱の上から転がり落ちた。

イテテと立ち上がると目の前にはお尻のように綺麗に二つに割れた何とも魅力的な顎を携えた団長が般若顔が睨んでいた。

「シグリッ。何サボってんだい!! 今日は皇帝主催のサーカス公演なんだからヘマしたら承知しないからねッ。」

プリプリと…、いや、ワナワナと尻顎を振りながら怒る団長。
少し笑いを堪えながら団長の言葉に「ああ。そういやぁ、今日だったな。」と大事な公演の事を思い出し、面倒だなと欠伸をした。

すると今度は団長のダイヤモンドよりも硬い拳が僕の脳天に直撃。
頭がぐわんぐわん揺れ、視界が回る。

「頭…ぁ、割れたらどうするんすか、だんちょー。」

「そうしたら新しい団員を雇うだけよ。アンタよりもっとイケメンなナイフ使い雇うわよ。」

「へぇー。もっとって事は僕、一応はイケメン枠だったりするんすかねぇ。」

「あらま、イケメン枠だったらあたすが漏れなく食ってるわよ。」

「うわぁー。イケメン枠じゃなくて心底良かったって今、思ったっす。」

「…それはどういう意味よ。」

どういう意味でしょうねぇー、とサラッと追求を軽く流して、簪を髪に差す。
クワッともう一度だけ欠伸をして、一応練習しとくかとテントに戻ろうと重い腰を上げた。

「シグリ。」

団長がふと、懐から出した林檎を空に投げた。

その瞬間、目が勝手に投げられた林檎を追い、流れるように腰のポーチからナイフを取り出し投擲した。吸い寄せられるように投擲したナイフがストンッと林檎を射抜き落とす。

床にコロリと落ちたナイフの突き刺さった林檎。そんな綺麗にど真ん中を射抜かれた林檎を拾い、団長は溜息をついた。

「……サボり癖がなければ優秀なのよね。」

「人生サボってなんぼ。真面目に働き続けるなんてつまらない人生っすよ。」

「ホント、根っからのダメ人間ね。」

また一つ溜息をついて、シャクッと団長がナイフが刺さった林檎を齧った。

「ダメ人間が意外と上手く世を渡るもんっすよ。」

「ホントにそうなら世も末ね。」

「そんなもんっすよ。だから僕みたいのが重宝されるんすから。」

スッと懐から一つの黒い封筒を取り出して見せると、団長は眉間に皺を寄せた。深い溜息をつくとわしゃわしゃと僕の頭を撫でた。

「…あたすは団員達子供達の中で一番アンタの行く末が心配よ。」

「まぁ、良い死に方は出来ないかもしれないっすね。」

カラリと笑って見せると団長は少し悲しげな表情を浮かべて僕から目を逸らした。
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