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開幕
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煌々と空を照らしていた太陽が沈んで、まるでここからは自分が主役だと言わんばかりに空に浮かび上がるお月様。
辺りは闇夜に包まれて、夜の静けさに支配されるが、我等がサーカス団もこれからが本番。
夜でも一際明るいテントの中で、ザワザワと大人も子供もまだかまだかとワクワクしながらお行儀良く席に座り、これから始まる一夜の夢に心躍らせる。
「さぁ、今宵始まるは奇跡の公演。紳士も淑女も大人も子供も一瞬たりとも見逃せない素敵な一夜の夢をご提供。その目を見開き、ご覧あれ。オネイロスサーカス団、さあ開幕。」
ヒラヒラとテントの天井から紙吹雪が降る。
貴族や皇族相手でも変わらない劇の台詞のような口上を述べて団長がお辞儀をした。するとまだかまだかと期待して待っていた会場からは拍手や口笛が吹き荒れ、団員達が焚いた煙の中に団長は消えていった。
煙が舞台から消えると団長の代わりに大きな玉に乗ったピエロ達がジャグリングをしながら現れ、会場を盛り上げる。
わざと玉を頭に落として失敗して戯けて見せたり、舞台に呼んだ子供に絡む。
場が温まった所で更にもう一度現れた団長のダイヤモンドより硬い拳の岩割りショーや猛獣使いによる猛獣の火潜りショー。
公演が進むに連れて過激でワクワクするような演目が増え、観客達の盛り上がりは最高潮。
自分の出番を待ちながら客席をボンヤリ見ているとこの公演を依頼した皇帝が異世界から来た《聖女》とともに舞台を楽しそうに眺めていた。
黒髪黒目の化粧がケバい《聖女》が皇帝にピットリと身体を預けて甘えるように身体を擦り付けるのが見える。皇帝も満更ではないようで鼻の下を伸ばして僕達のショーすら観ずにイチャついている。
皇帝はあの《聖女》にご執心。
《聖女》が着ている胸の辺りがパックリ開いた品のないドレスも宝石も全てが貴族ですら手の届かない程高価なものばかり。
今日の公演もサーカスが見たいという《聖女》を喜ばせる為だけに実は開催させたものだ。
ー ありゃあ、聖女というより毒婦っすね。
そう苦笑いを浮かべながら見ていると、ふと《聖女》の隣に座っている男が目についた。
その男はサラサラな亜麻色の髪を緩く一つに束ねて、スッと高い鼻にちょんと眼鏡を乗せている知的美人。
何だかこっちの男が《聖女》です、と言われる方が納得できるような清廉な空気を纏っていて、隣の《聖女》より余程聖女に見えた。
ー アレで女だったら是非ともお近付きになりたいっすね。
男にしておくには勿体ない美貌の持ち主。
あの美貌で男ってのが残念だなとカラカラと笑いながら、暇なので《聖女》とその男を盗み見た。
その時、ふと、その男の青い瞳と目が合った気がした。
ー まぁ、気の所為っすよね。
男のいる客席と僕がいる舞台横からは結構距離がある。
彼等が居るのは二階席でオペラグラスで覗かないと舞台の芸人の顔すら分からない。そこから更に遠い舞台横、しかも幕の隙間から観客にバレないように客席を窺っている僕と目が合うのは不可能だ。
僕はちょっと目が良い方だからよく観客席の観客の鼻の穴までここからよく見えるが、普通は見えない筈だ。
「そろそろだぞ、シグリ。」
客席を覗いている僕に僕の出る演目の二つ前の演目の団員がそう声を掛け、「お前も頑張れよ。」と肩を叩いた。
辺りは闇夜に包まれて、夜の静けさに支配されるが、我等がサーカス団もこれからが本番。
夜でも一際明るいテントの中で、ザワザワと大人も子供もまだかまだかとワクワクしながらお行儀良く席に座り、これから始まる一夜の夢に心躍らせる。
「さぁ、今宵始まるは奇跡の公演。紳士も淑女も大人も子供も一瞬たりとも見逃せない素敵な一夜の夢をご提供。その目を見開き、ご覧あれ。オネイロスサーカス団、さあ開幕。」
ヒラヒラとテントの天井から紙吹雪が降る。
貴族や皇族相手でも変わらない劇の台詞のような口上を述べて団長がお辞儀をした。するとまだかまだかと期待して待っていた会場からは拍手や口笛が吹き荒れ、団員達が焚いた煙の中に団長は消えていった。
煙が舞台から消えると団長の代わりに大きな玉に乗ったピエロ達がジャグリングをしながら現れ、会場を盛り上げる。
わざと玉を頭に落として失敗して戯けて見せたり、舞台に呼んだ子供に絡む。
場が温まった所で更にもう一度現れた団長のダイヤモンドより硬い拳の岩割りショーや猛獣使いによる猛獣の火潜りショー。
公演が進むに連れて過激でワクワクするような演目が増え、観客達の盛り上がりは最高潮。
自分の出番を待ちながら客席をボンヤリ見ているとこの公演を依頼した皇帝が異世界から来た《聖女》とともに舞台を楽しそうに眺めていた。
黒髪黒目の化粧がケバい《聖女》が皇帝にピットリと身体を預けて甘えるように身体を擦り付けるのが見える。皇帝も満更ではないようで鼻の下を伸ばして僕達のショーすら観ずにイチャついている。
皇帝はあの《聖女》にご執心。
《聖女》が着ている胸の辺りがパックリ開いた品のないドレスも宝石も全てが貴族ですら手の届かない程高価なものばかり。
今日の公演もサーカスが見たいという《聖女》を喜ばせる為だけに実は開催させたものだ。
ー ありゃあ、聖女というより毒婦っすね。
そう苦笑いを浮かべながら見ていると、ふと《聖女》の隣に座っている男が目についた。
その男はサラサラな亜麻色の髪を緩く一つに束ねて、スッと高い鼻にちょんと眼鏡を乗せている知的美人。
何だかこっちの男が《聖女》です、と言われる方が納得できるような清廉な空気を纏っていて、隣の《聖女》より余程聖女に見えた。
ー アレで女だったら是非ともお近付きになりたいっすね。
男にしておくには勿体ない美貌の持ち主。
あの美貌で男ってのが残念だなとカラカラと笑いながら、暇なので《聖女》とその男を盗み見た。
その時、ふと、その男の青い瞳と目が合った気がした。
ー まぁ、気の所為っすよね。
男のいる客席と僕がいる舞台横からは結構距離がある。
彼等が居るのは二階席でオペラグラスで覗かないと舞台の芸人の顔すら分からない。そこから更に遠い舞台横、しかも幕の隙間から観客にバレないように客席を窺っている僕と目が合うのは不可能だ。
僕はちょっと目が良い方だからよく観客席の観客の鼻の穴までここからよく見えるが、普通は見えない筈だ。
「そろそろだぞ、シグリ。」
客席を覗いている僕に僕の出る演目の二つ前の演目の団員がそう声を掛け、「お前も頑張れよ。」と肩を叩いた。
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