寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

文字の大きさ
14 / 131

登場、なんちゃって男爵令嬢

しおりを挟む
「うぇッ、えぐッぐすん…。」

誰もいない静かな教室。
窓の外にはあの白い花が雪の様に舞っている。

そんな教室に若い男女が二人きり。
はたから見れば恋人同士にも見えるシチュエーションだが、実際はそんな甘酸っぱいものでなく、混沌していた。

「神よッ!! シュネー様がッ、シュネー様ガッ更に神々しくなって目の前にいらっしゃいますぅ。グスンッ…、これは、これはご褒美ですか!? 」

「…酷い顔で泣き止まないから誰もいない教室入ったのに。更に酷い事になった。」

「うわーんッ!! 病弱な薄幸美人設定だったシュネー様が出世してるぅよぉ。こんなカッコイイと色香が足された美人になるなんてぇ、美味しすぎるッ!! 神よッ、私はどれだけの代価を払えばいいでしょうかぁッ!! 」

「何が何だか分からないけど、取り敢えず落ち着いてよ…。頼むから。」

令嬢とは思えない程鼻水を垂らし、泣きながら狂喜乱舞する女の子。どうやら彼女はシュネーを知っているようだが、私もシュネーの記憶にも彼女との記憶はない。

ー 取り敢えず関わりたくないタイプだな。この子。

彼女の言動にドン引きしていると流石にそろそろ我に返ったのか「あら、恥ずかしい。」と初めて令嬢らしい恥じらいの姿をみせた。色々ともう遅いがそんなのどうでも良い。泣き止んだのなら後はサヨナラするのみだ。

「ハンカチはここに置いて置くので使ってください。返さなくて結構です。それでは失礼します。」

「待って!! 」

ギュッ
当たり障りない感じで逃げようとしたのに羽交い締めにされた。

この子は本当に令嬢だろうか?
令嬢なら待って欲しくても服の裾掴むとかもっと慎ましい行動しようよ。
初対面でしょ。

しかも本職っぽい隙のない絞め技。
とにかく令嬢がやる絞め方ではない。

「私、イーリス男爵家の娘。ヴィルマ・イーリスと申します。」

「ああ、そう。離して…。」

「シュネー様は前世の記憶がおありでしょう? でなければ、こんなにシュネー様が設定から変わる筈がない。そうなのでしょう? 」

「………。」

ー 設定? 前世の記憶?

少し引っかかるワードが出たが、それよりも羽交い締めをやめて欲しい。男爵家の娘だと言ったが、この子は本当に男爵家の令嬢だろうか。女性の筈なのに矢鱈と力が強い。

「逃げないのであれば、離しますわ。別にシュネー様を困らせたくないもの。…推しですし。」

「わかった。…逃げない。」

ー 十分困ってるって。

色々と諦めて言った私の言葉にパアッと顔が明るくなり、「よっしゃ!! 」と、謎の雄叫びをヴィルマは上げた。
絶対男爵令嬢じゃない。

ヴィルマは椅子に座り、パシッパシッと机を叩き、こっちに来て座るように催促する。絶対男爵令嬢ないでしょ、コレ。

ヴィルマに向かい合うように座るとヴィルマはムフーと鼻息を上げた。やっぱり男爵令嬢じゃな…。…もう良いや、どうでも。

「実は私、シュネー様と一緒で前世の記憶がありますの。四歳の頃に流行り病に掛かり、熱にうなされる中私は前世を思い出しました。」

「…はぁ。」

「前世では日本人で女子高生。バイト帰りに新作のゲームを買いに行ったら、交差点を曲がりきれなかった車に跳ねられ死にました。」

「…それは、ご愁傷様で。」

どうやらヴィルマは相当自身の前世について誰かに聞いて欲しかったらしい。食い気味にまるで今まで誰かに聞かせる為に何度も頭で練習してたかのようにつらつらと言葉が紡ぐ。身振り手振りを交えて教えようとしてくる。
まあ、悪い人では…ないのか?

「西洋風のレンガ造りの街並み。貴族や王族が統治している世界。」

ー へぇー、今まで気にしてなかったけど、西洋風なのか。

「そして五歳の時、王室主催のお茶会で第一王子と第二王子にあった時、私は確信しました。これは生前やっていたゲームの世界だと。」

「は? 」
ー 何言ってんの??

「そう、私が生前やっていたBLゲーム『花咲く学園で君と…』。『花君』の世界だと。殿方と殿方が愛し、愛されて、二人でハッピーエンドを目指す。それはそれは眼福な世界。」

「……はぁ!? 」

何言ってんだコイツ。
コイツ頭がおかしいんじゃないか。

途中からうっとりと自身の世界に浸るこの自称男爵令嬢にそう言ってやりたかった。私がシュネーが必死に生きてきた(主にエリアスの所為で)世界がゲームであってたまるかっと。しかも殿方と殿方が愛s……恐ろしい。

しかし、『愛』という言葉に反応して胃がムカムカする。…気持ち悪い。

思わず顔をしかめて胸をさするとそれを見たヴィルマが自身の世界から帰ってきて、悲しそうな顔をした。

「健康体だから回避出来たと思ってましたが…。その様子だとエリアスとのトラウマは回避出来なかったのですね。」

何言ってるんだか分からず怪訝な顔をするとヴィルマは「ああ、信じてないのですのね。」と悲しげな笑みを浮かべた。

「…貴方は幼い頃、初めての茶会で迷子になった。その時に貴方はエリアス・クランクハイトがとある貴族の男を身体で籠絡している最中を目撃してしまう。その行為とエリアスに目を付けられた事が幼少の貴方にとって深い心の傷になってしまった。その傷の所為で人からの好意もフラッシュバックの原因になって恋すら出来なくなってしまった。」
 
「なっ…ぜ。」

ー 何故知っている。

過去の事。
今日初めて自身でも気付いた事。
それを何故、今日初めてあった筈のヴィルマが知っている。

チリチリと頭が痛む。
また鮮明にあの日の事を思い出しそうなり必死に頭から追い出そうとする。

ー 大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫、大丈夫ッ。落ち着けッ!!

目に見えて真っ青になって行く私を見てヴィルマが背中を撫でようとしたが叩き落とす。

「敵じゃないわ。」

「そんな事どうでもいい。なんで知っている。」

「それは貴方が一番分かってる筈よ。」

「分からないッ。分かる訳がない。」

前世の記憶があるから?
だから私のシュネーの傷が分かる?
そんなの知らないよ。
知ったかぶりしないでッ!!

この世界がBLゲーム? 
別に私はこの世界を知らない。
妹が読んでいた漫画や小説のようにこの世界を知っていた訳じゃない。前世に自身が生きてた世界すら曖昧にしか覚えていないのに。

「ごめんなさい。貴方に会えて嬉しかったから舞い上がってしまったの。」

ハラハラと涙が机に降る。

「苦しめる気なんてなかった。ただ助けたかったのと共有したかったの。」

ヴィルマが先程の汚い泣き顔と違い、叱られた子供のような顔で泣いている。

「助けたいの。貴方を知っているのは前世で『花君』で好きだったキャラだから。貴方が『花君』の攻略対象だから。」

「攻略…対象? 」

ガッとヴィルマが私の片手を両手で包む。私の手より小さいのにそれはまるで男友達のような力強い。何故だかそれが動揺していた心を少し落ち着かせてくれる。

「私、協力するから主人公に。主人公とシュネー様とのハッピーエンドに行けるように修正するからッ!! 」

「……。」

「シュネー様は主人公とゴールイン!! シュネー様と主人公が愛を育めばトラウマから抜けられる。完璧ッ!! 」

「……勘弁して。」

訂正、やっぱりコイツはヤバい奴だ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

処理中です...