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罪人の町『リンク』
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チキチキと鳥の囀りが聞こえる。
穏やかな空気が流れる森の中、進んでいくと茅葺き屋根の小さな家が立ち並ぶ小さな町が現れた。
罪人達が住む町にしては長閑な雰囲気の流れるそこは何処かで『あの子』が『妹』と見たような昔ながらの日本の風景写し取った不思議な場所だ。
「本当にきちんと町なんだな。」
「昔読んだ本を見本にしてクジャクが作ったんだってぇ。」
町に女性の姿はないが、見るからにゴロツキって感じの人間も少ない。
本当に普通の町だ。
リヒトはキョロキョロと不思議そうに町を見回した。すると優しそうな町人がこちらに手を振ってくる。
「気を付けな、リヒッちゃん。今手ェ振ったのは連続殺人鬼で血みどろ卿って巷で呼ばれてた奴でい。」
「…………。」
「リヒト、私から絶対に離れないで下さい。大体本当に危ない奴程、普段は何処にでもいそうな善人の姿してます。」
リヒトは微妙な表情を浮かべて、私を後ろに庇いながら歩く。
阿呆。そうじゃない。
お前が危ないんだよ。
護衛対象が護衛守ろうとしてどうすんだ。
ネズミがニマニマして「愛だねぇ。若えねぇ。」と茶化す。
違うって。
その人、好きな人死んだばかりだから。寝言で呼んでるから何時も。
思わず溜息が出て、ゲルダの死に顔がまた頭に浮かぶ。
まぁ、『あの子』だって転生してすら忘れられないのに。心がズキリッと思い出すと痛むのにまだ数日も経ってないのに切り替えろなんて無理な話だ。
ー 例え、強制でも生きようとしてるだけマシか。
肩から落ちてくる荷物の麻袋を背負い直して、リヒトの前へ出る。寝言でしかその名前を口に出さない阿呆に「アホ。」と毒を吐くと阿呆は、あははと苦笑いを浮かべた。
そんな姿を見て何故か私は苛立つ。
最近の私は何処かおかしい。
リヒトの処断辺りから心がずっとざわついている。そのざわつきが日に日に大きくなっていく気がする。
◇
「基本は食料も生活品も物々交換。だけんど、基本は罪人の町だから理念は弱肉強食。物々交換は舐められると不遇な事になっから気をつけい!! 」
「それは…物々交換でカモられたり、奪われる事があるという事? 罪人らしい。」
クルクルと楽しそうに回りながらネズミが前を歩いて町を紹介する。昔、店まで案内するって話だったのに三歩後ろ歩いてる奴がいたな。アルヴィンは元気にしてるだろうか?
前を行くネズミが他の小さな家とは違い、少し立派な家の前に止まる。
「到着!! どぉ? シュネッち、そろそろ姫抱きしよっか? ネズミ様は労りの心を知るイケメンだから!! 」
「丁重にお断りする。」
「えーん。シュネッちの意地っ張りぃ。リヒッちゃんからもいってやりぃ!! 」
「僕に振らないで。」
「およよ。」と泣き真似をしながらネズミがガチャリと勝手に扉を開けて入る。そしてちょいちょいと手で「ついてきんしゃい。」と催促する。
家に入ると所狭しとドレスが並んでいる。どうやら衣装を取り扱っているらしくドレスだけでなく透け透けの下着……、いや、何屋だ?
「クジャクぅー。期待の新人連れてきたってぇい。クジャクぅー。」
「姐さんとお呼び!! ネズミ。」
野太い声とともにシュンッとネズミの頰を擦り、簪が柱に刺さる。
そしてドスドスと足音を立てて、部屋の奥から胸の大きく開いたドレスを着た筋骨隆々な大男が現れた。ソイツの顔はバッチバチの付け睫毛にグロスたっぷりの真っ赤な唇をしたバケモノだった。
「何回言えば、分かんのよん!! 姐さんかお姫様とお呼びッ!! 」
「それ、パワハラって言うんでい。どーすんよ? そんなんじゃ折角連れてきた新人が逃げるんでい。」
キイィーと地団駄踏むバケモノ。ネズミはそんなバケモノに怯えた素振りをしてリヒトの後ろに隠れる。
リヒトを盾にするなよ。
リヒトの苦笑いが引き攣ってるよ。
ドン引きしているとバケモノとはたと目が合う。
すると頭の先からつま先まで凝視され、「あんらぁ。」といきなりバケモノが女子高生のようにキャピキャピしだした。
「ねぇ、そこのアンタ!! ドレスとか興味ないかしらん? 背中のザックリ開いた白い絹のドレス。とぉっても似合うと思うわぁん。」
「ドレ!? ……いや、無視だ。気にするな。まさかこのバケモノがクジャクとか言わないよな。」
「シュネー、下がって。」
リヒトが何故か私を庇おうと抱き寄せる。
いや、だから護衛対象が護衛守ってどうすんだ。
バケモノは口を尖らせて「酷いわん。わっちみたいないい女引っ掛けてそれは無いわぁーん。」とプンプン怒ってる。
いい女?
貴方絶対ゴリゴリのオッサンだろ。
引っ掛けた? 何時!?
「大体ねぇ、わっちの好みは素朴なイケメンよん。美人な彼よりアンタの方がドンピシャよん。」
「えっ……。」
「良かったですね。ドンピシャですって。」
リヒトを見て、バケモノが舌舐めずりをする。リヒトの表情が目に見えて固まる。
ネズミはそんな状況に興味がないのか。あれ程親友だと言っていたリヒトをほっぽって柱に刺さってた簪を指で回してる。
自由すぎるでしょ。
「……貴方の話を聞きたいんです。僕達がこの森で生き残る為にどうすればいいか。貴方の話を聞いて考えたいんです。」
固まっていたリヒトが意外にも自分から話を切り出した。少しこのバケモノにビビリ気味だが……。
そしてやはり、このバケモノがクジャクなのか…。
「あんらぁ。お誘い? ……そうねぇ。アンタ達は早く身の振り方を決めた方がいいかもしれないわん。」
「何故ですか? 」
「ディーガがそこの美人な彼の事血眼で探してるみたいよん。久々に燃え上がってるみたい。」
バケモ…クジャクが私を指差す。
どうやら私はまだ追われてるらしい。忘れてくれればいいのに…。
散々暴れて逃げたからか?
媚薬顔にふっかけたからか?
報復…か? だけど、 ……私だけ…か。
リヒトの事が出てこなかった事に内心、ホッとしているとギュッと抱き締めるリヒトの腕に力が入る。
痛いって、どうしたの!?
リヒトは追われてないから安心して大丈夫みたいだってさ。
良かったじゃないか。
ふとバケモノいや、クジャクが私を見透かすような目で見てくる。その姿は先程のふざけた態度とは違い、統率者の目だ。
「あのディーガが敵対してるわっちにわざわざ『見つけたら俺様に差し出せ』ってね。一杯食わされたのが相当効いたみたいね。…とんだ男に執着されたもんねん。」
「差し出すので? 」
「まさか。」
ニンマリとクジャクが嗤う。
「そんな面白い子、わざわざあげるなんて勿体無いわん。だったら傘下に加えた方が面白い。」
「メリットは。私達に求めるものは。」
「ディーガから守ってあげる。だから魔獣との戦線と『レヒト』との睨み合いの戦力として貴方達を買いたいわん。そっちのドンピシャな彼も見た所、そこそこ使えそうだしねん。」
リヒトも戦力に数えるのか。
どうしよう。
ディーガに追われているのは私だけだしな…。
もう少し考えさせて欲しいと言おうとしたが、リヒトがそれを遮る。
「分かりました。僕達は貴方の傘下に入ります。」
「リヒト? 」
「うふふ、決断が早い男は好きよん。ハナからそのつもりみたいだけど面倒見てやんな、ネズミ。」
「りょーかい。なんたってオイラが拾ったんだかんね。ディーガの悔しがる表情が目に浮かぶ。」
二人が悪人ヅラで嗤う。
どうやら私達を傘下に加えたい一番の理由はディーガへの嫌がらせのようだ。
面倒だ。
やはり、もう少し見定めてからの方が……。
「ディーガの一味が来たぞー!! 」
外でそう叫ぶ声が聞こえた。
扉からチラリと外を覗くと見事なスキンヘッド頭のガタイのいい男、ディーガが目に青いアイシャドウを入れた女のように美しい男と仲間の男ども数人か引き連れてクジャクの家の前で仁王立ちしていた。
「あんらぁ、随分と早いご登場です事。」
「思った以上にシュネッちにご執心でい。」
扉の向こうのディーガとふと、目が合った。ディーガは獲物を見つけた捕食者のようにギラついた目で私を見ていた。
穏やかな空気が流れる森の中、進んでいくと茅葺き屋根の小さな家が立ち並ぶ小さな町が現れた。
罪人達が住む町にしては長閑な雰囲気の流れるそこは何処かで『あの子』が『妹』と見たような昔ながらの日本の風景写し取った不思議な場所だ。
「本当にきちんと町なんだな。」
「昔読んだ本を見本にしてクジャクが作ったんだってぇ。」
町に女性の姿はないが、見るからにゴロツキって感じの人間も少ない。
本当に普通の町だ。
リヒトはキョロキョロと不思議そうに町を見回した。すると優しそうな町人がこちらに手を振ってくる。
「気を付けな、リヒッちゃん。今手ェ振ったのは連続殺人鬼で血みどろ卿って巷で呼ばれてた奴でい。」
「…………。」
「リヒト、私から絶対に離れないで下さい。大体本当に危ない奴程、普段は何処にでもいそうな善人の姿してます。」
リヒトは微妙な表情を浮かべて、私を後ろに庇いながら歩く。
阿呆。そうじゃない。
お前が危ないんだよ。
護衛対象が護衛守ろうとしてどうすんだ。
ネズミがニマニマして「愛だねぇ。若えねぇ。」と茶化す。
違うって。
その人、好きな人死んだばかりだから。寝言で呼んでるから何時も。
思わず溜息が出て、ゲルダの死に顔がまた頭に浮かぶ。
まぁ、『あの子』だって転生してすら忘れられないのに。心がズキリッと思い出すと痛むのにまだ数日も経ってないのに切り替えろなんて無理な話だ。
ー 例え、強制でも生きようとしてるだけマシか。
肩から落ちてくる荷物の麻袋を背負い直して、リヒトの前へ出る。寝言でしかその名前を口に出さない阿呆に「アホ。」と毒を吐くと阿呆は、あははと苦笑いを浮かべた。
そんな姿を見て何故か私は苛立つ。
最近の私は何処かおかしい。
リヒトの処断辺りから心がずっとざわついている。そのざわつきが日に日に大きくなっていく気がする。
◇
「基本は食料も生活品も物々交換。だけんど、基本は罪人の町だから理念は弱肉強食。物々交換は舐められると不遇な事になっから気をつけい!! 」
「それは…物々交換でカモられたり、奪われる事があるという事? 罪人らしい。」
クルクルと楽しそうに回りながらネズミが前を歩いて町を紹介する。昔、店まで案内するって話だったのに三歩後ろ歩いてる奴がいたな。アルヴィンは元気にしてるだろうか?
前を行くネズミが他の小さな家とは違い、少し立派な家の前に止まる。
「到着!! どぉ? シュネッち、そろそろ姫抱きしよっか? ネズミ様は労りの心を知るイケメンだから!! 」
「丁重にお断りする。」
「えーん。シュネッちの意地っ張りぃ。リヒッちゃんからもいってやりぃ!! 」
「僕に振らないで。」
「およよ。」と泣き真似をしながらネズミがガチャリと勝手に扉を開けて入る。そしてちょいちょいと手で「ついてきんしゃい。」と催促する。
家に入ると所狭しとドレスが並んでいる。どうやら衣装を取り扱っているらしくドレスだけでなく透け透けの下着……、いや、何屋だ?
「クジャクぅー。期待の新人連れてきたってぇい。クジャクぅー。」
「姐さんとお呼び!! ネズミ。」
野太い声とともにシュンッとネズミの頰を擦り、簪が柱に刺さる。
そしてドスドスと足音を立てて、部屋の奥から胸の大きく開いたドレスを着た筋骨隆々な大男が現れた。ソイツの顔はバッチバチの付け睫毛にグロスたっぷりの真っ赤な唇をしたバケモノだった。
「何回言えば、分かんのよん!! 姐さんかお姫様とお呼びッ!! 」
「それ、パワハラって言うんでい。どーすんよ? そんなんじゃ折角連れてきた新人が逃げるんでい。」
キイィーと地団駄踏むバケモノ。ネズミはそんなバケモノに怯えた素振りをしてリヒトの後ろに隠れる。
リヒトを盾にするなよ。
リヒトの苦笑いが引き攣ってるよ。
ドン引きしているとバケモノとはたと目が合う。
すると頭の先からつま先まで凝視され、「あんらぁ。」といきなりバケモノが女子高生のようにキャピキャピしだした。
「ねぇ、そこのアンタ!! ドレスとか興味ないかしらん? 背中のザックリ開いた白い絹のドレス。とぉっても似合うと思うわぁん。」
「ドレ!? ……いや、無視だ。気にするな。まさかこのバケモノがクジャクとか言わないよな。」
「シュネー、下がって。」
リヒトが何故か私を庇おうと抱き寄せる。
いや、だから護衛対象が護衛守ってどうすんだ。
バケモノは口を尖らせて「酷いわん。わっちみたいないい女引っ掛けてそれは無いわぁーん。」とプンプン怒ってる。
いい女?
貴方絶対ゴリゴリのオッサンだろ。
引っ掛けた? 何時!?
「大体ねぇ、わっちの好みは素朴なイケメンよん。美人な彼よりアンタの方がドンピシャよん。」
「えっ……。」
「良かったですね。ドンピシャですって。」
リヒトを見て、バケモノが舌舐めずりをする。リヒトの表情が目に見えて固まる。
ネズミはそんな状況に興味がないのか。あれ程親友だと言っていたリヒトをほっぽって柱に刺さってた簪を指で回してる。
自由すぎるでしょ。
「……貴方の話を聞きたいんです。僕達がこの森で生き残る為にどうすればいいか。貴方の話を聞いて考えたいんです。」
固まっていたリヒトが意外にも自分から話を切り出した。少しこのバケモノにビビリ気味だが……。
そしてやはり、このバケモノがクジャクなのか…。
「あんらぁ。お誘い? ……そうねぇ。アンタ達は早く身の振り方を決めた方がいいかもしれないわん。」
「何故ですか? 」
「ディーガがそこの美人な彼の事血眼で探してるみたいよん。久々に燃え上がってるみたい。」
バケモ…クジャクが私を指差す。
どうやら私はまだ追われてるらしい。忘れてくれればいいのに…。
散々暴れて逃げたからか?
媚薬顔にふっかけたからか?
報復…か? だけど、 ……私だけ…か。
リヒトの事が出てこなかった事に内心、ホッとしているとギュッと抱き締めるリヒトの腕に力が入る。
痛いって、どうしたの!?
リヒトは追われてないから安心して大丈夫みたいだってさ。
良かったじゃないか。
ふとバケモノいや、クジャクが私を見透かすような目で見てくる。その姿は先程のふざけた態度とは違い、統率者の目だ。
「あのディーガが敵対してるわっちにわざわざ『見つけたら俺様に差し出せ』ってね。一杯食わされたのが相当効いたみたいね。…とんだ男に執着されたもんねん。」
「差し出すので? 」
「まさか。」
ニンマリとクジャクが嗤う。
「そんな面白い子、わざわざあげるなんて勿体無いわん。だったら傘下に加えた方が面白い。」
「メリットは。私達に求めるものは。」
「ディーガから守ってあげる。だから魔獣との戦線と『レヒト』との睨み合いの戦力として貴方達を買いたいわん。そっちのドンピシャな彼も見た所、そこそこ使えそうだしねん。」
リヒトも戦力に数えるのか。
どうしよう。
ディーガに追われているのは私だけだしな…。
もう少し考えさせて欲しいと言おうとしたが、リヒトがそれを遮る。
「分かりました。僕達は貴方の傘下に入ります。」
「リヒト? 」
「うふふ、決断が早い男は好きよん。ハナからそのつもりみたいだけど面倒見てやんな、ネズミ。」
「りょーかい。なんたってオイラが拾ったんだかんね。ディーガの悔しがる表情が目に浮かぶ。」
二人が悪人ヅラで嗤う。
どうやら私達を傘下に加えたい一番の理由はディーガへの嫌がらせのようだ。
面倒だ。
やはり、もう少し見定めてからの方が……。
「ディーガの一味が来たぞー!! 」
外でそう叫ぶ声が聞こえた。
扉からチラリと外を覗くと見事なスキンヘッド頭のガタイのいい男、ディーガが目に青いアイシャドウを入れた女のように美しい男と仲間の男ども数人か引き連れてクジャクの家の前で仁王立ちしていた。
「あんらぁ、随分と早いご登場です事。」
「思った以上にシュネッちにご執心でい。」
扉の向こうのディーガとふと、目が合った。ディーガは獲物を見つけた捕食者のようにギラついた目で私を見ていた。
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