寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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因縁

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町はいとも簡単に占領出来た。

あの『リンク』の統率者であるクジャクもワシの可愛いヒヒどもを前に太刀打ち出来ず、腕と脚をもがれていた。

ああなってしまえばもうクジャクなど怖くない。彼奴が守ってきたこの町がワシの策の元に落とされて彼奴は今どの様な表情を浮かべておるのか。それがとても気になる所だが、ワシはここから離れる訳にはいかない。

「キキーッ。」

ヒヒ系達がワシに擦り寄る。
服の上からワシの胸を撫で、下半身を撫で、早く寄越せと催促する。

畜生は我慢という言葉を知らないから困る。早く目の前の雌を犯したくてしょうがないらしい。

ヒヒ系魔獣は一妻多夫だ。
群のボスは雌で一匹の雌の為に雄どもは尽くす。その雌役がワシでワシはこの群のボスだ。

正直この手は最終手段だった。

しかしあの忌々しい金の目があの白い小僧をいとも簡単に捕縛してみせた。その所為で親方様の信頼は腕を一本無くしても金の目の方に傾いている。

ー ワシが一番でなくてはならないのぉ。何時だって、何処だって。

目を掛けてもらうのはワシでなくてはならない。この美しいワシが、頭の良いワシが一番でなくてはならない。

ー 後はあの白い小僧を嵌めるだけ。

どうせこの町の近辺にいるだろう。
ヒヒ系に捜索させれば直ぐに見つかる。あの白い小僧を献上出来ればワシの地位も安泰。そして『リンク』がなくなった今。強力な戦力を手に入れた今。ネズミなぞ敵ではない。

ー 脚でも斬り落として飼ってやろう。あの飄々とした顔が恥辱と復讐心に染まり、ワシしか見れぬ程に。

思わずおかしくてクツクツと笑っているとふわりと屋根の上からあの白い小僧が降りてきた。

「ほう、驚いたのぉ。自ら飛び込んで来たか。」

アメシストの瞳がワシを一瞥するとくるりと踵を返し、ワシから離れるように駆けていく。

ー 囮か。

追い掛けようとしたヒヒ系を止め、どうしてくれようか思案したが後ろから聞こえてきた怒声に思考は飛び去っていった。

「何してやがる、ヤマネコ!! 俺の『女』を捕まえろッ!! 」

元クジャクの家でくつろいでいた筈の親方様ディーガがそう怒鳴り散らしながら白い小僧を追い掛けて行く。そしてその後ろを金の目が続く。

「阿呆。止めろ、金の目ッ!! 罠だのぅ。」

「だからどうした? 俺には関係ない。」

金の目も親方様も止まらない。
幾らこちらがあちらの頭を追い詰め、町を堕としたからといって油断はするべきではない。油断している時が一番危ないのだ。

「くそぅ!! 追うのぉ、ヒヒども!! 」

仕方なく、ワシは二人を追い、森の中へと足を踏み入れた。しかし二人もあの白い小僧も見当たらなかった。

ー 嵌められた。

あんな小童に嵌められた事に憤りを感じ、唇を噛み締める。ヒヒ系を数匹放って探そうとしたが、木の上からクナイが飛んで来た。

「さぁて、楽しい楽しい果たし合い。因縁の二人が辿る結末は!! 」

何処からともなく木の上から飛んでくるクナイがヒヒ系どもを屠る。しかし、ヒヒ系どもも直ぐにネズミの居場所を特定出来たようで一本の木にタックルをした。

すると哀れなネズミは驕った猿のように木から落ちた。

「イッタイねぇ。チクッと調子に乗りすぎたかねぇ。」

ヒヒ系どもに囲まれてピンチだというのにネズミはカラカラと笑う。

本当に気に食わない男だ。
この男は何時だって思い通りにならない。

「ピンチで笑うとは酔狂だのぉ、ドブネズミ。」

「オイラぁ、笑いたい時に笑うかんねぇ。性分でい。」

そう笑いながらもまだ治りきってない脚を引きずっている。本当に愚かなネズミだ。出会った頃から。

行けッ!!っと合図を送るとヒヒ系どもが急に怯え始めた。

何事かと辺りを見回す。
すると背筋が凍るような殺気がワシに浴びせられる。

「ヒヒどもッ!! ワシを守れッ!! 」

嫌な予感がしてヒヒどもを盾にした。するとあの人食いの魔獣、『血染めの狼王』がその鋭い牙を向ける。

ヒヒどもはその牙に引き裂かれていく。

ー 『血染めの狼王』!! 何故!?

何とか数で押そうとヒヒどもは『血染めの狼王』に飛び掛かる。『血染めの狼王』はヒヒどもの武器をかわして嚙みちぎり、無双するが、やはり数で押されている。

ー 流石の『血染めの狼王』も数には勝てまい。

ホッとして、思わず、ほくそ笑むとワシの頰をクナイが掠める。

忌々しげに彼奴を見るとネズミはヒヒ系の攻撃を避けながら確実にこちらへとやってくる。

ー くそっ!! 

針を投げて、ヒヒ系を援護するが怪我人の癖にネズミはするりとそれもかわす。ヒヒ系どもをもう少しネズミに数を割きたいがそれをすれば『血染めの狼王』はヒヒ系どもを突破してその牙がワシを噛み砕く。

状況はこちらが優勢だった筈だ。
なのに何故ワシは追い詰められている。

ー やはり、罠か。

苦し紛れに針を投げた。
針はネズミの頰を掠めたが、もうその時には全てが終わっていた。胸を穿つクナイによって。

「呆気ないねぇ。長い因縁だったてぇのに。」

ネズミの何の感慨もない表情がワシを見下ろす。胸から溢れ出す命と消えゆく体温。

まるであの場所のように寒い。
生まれ育った北の地のように寒い。

初めて見たあの日のネズミの姿が頭の中に蘇る。

何じゃ……。
走馬灯という奴か……。
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