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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
0 招待状と抗議状
しおりを挟む『親愛なるアキラさんへ
ギルベルト様からお茶会の許可をいただきました。
アキラさんの言葉の勉強も兼ねて、二人でのんびり過ごしませんか?
クリストフ殿下が嫉妬なさらないようにと、ギルベルト様が城内の庭園を手配してくださいました。
今の季節ならば、可愛らしい花に囲まれて、とても落ち着ける場所です。
招待状を同封致しましたので、お返事をいただけると嬉しいです。
楽しみにしてますね。
フロレンティーナ・ヴォルタール』
**********
「……って!ティーナさんから、お茶会のお誘いきた!!」
「アキラさん、しっかり読めましたね」
「はい!」
ティーナさんからの手紙は、短くなく、長くもなく。難しい言い回しとかは使ってなくて、優しい単語を選んでくれてた。そして、字がとても綺麗。
封筒の中には、手紙の他に綺麗な飾り図柄が施された『招待状』も入っていた。
それを開くと、日付と、時間(時計はないから、太陽が中天から傾いた頃、的な書かれ方)と、場所と、参加メンバーが書かれてた。
参加メンバーは俺とティーナさんだけ。
「お返事を書かなければなりませんね」
「うん。…あ、でも、一応クリスに聞いておかないと」
「そうですね。では、今夜にでも確認してみてください。勝手に返事を出したら、坊っちゃん、焼きもちをやいてしまうかもしれませんしね」
「ふふ。うん。堂々とお茶会に行きたいから、ちゃんと許可もらいます!」
そしてその日の夜、ティーナさんからお茶会のお誘いを貰ったことをクリスに話したら、案外あっさりOKを貰った。クリスのところにも、ティーナさんからお手紙が届いたんだって。……わざわざお兄さん経由で。それならクリスも断れないよね。
翌日、メリダさんに教えてもらいながら、お返事を書いた。
できるだけ丁寧な字になるように気をつけたけど、どうだろう。
メリダさんは褒めてくれるけど。
ティーナさんの筆跡には遠く及ばない…。
兎にも角にも、ティーナさんとのお茶会が決まった。
西へ遠征に行くことになった、数日前の話である。
**********
「ヘルミーネ!!」
「お父様?」
無遠慮に自室に入ってきた父親に、娘は読んでいた本から顔を上げた。
「これは一体どういうことだ!」
父親は怒気も露わに、娘へ一枚の紙を突きつける。
激高する父とは裏腹に、娘は静かにそれを手に取った。
――――ああ、なんて綺麗な字。
「どうもこうも……、このお手紙のままじゃないですか、お父様」
「な…」
「私が殿下のもとに行くことで、ご公務が滞る?…殿下はそれほど私のことを気にかけてくださっているのですね」
「……どういうことだ」
「私が傍にいるだけで、私のことを気にしてお仕事が手につかないんですよね。ふふ。殿下、お可愛らしい。殿下の執務室でも、常に気をかけてくださいましたわ。何度も私を蕩けるような瞳で見つめて…。あの邪魔な偽りの魔法師を遠ざけてでも、私との時間を作ってくれましたわ。ああ、でも、今日は早々に執務室を出てしまわれましたが…」
片手を頬に当て、憂うような表情でため息をこぼす娘を見て、父は神妙な顔をする。
「それに……不貞を働くような者は、王族に必要ありませんわ」
「不貞だと?」
「ええ。仮にも殿下の婚約者だと吹聴しているというのに、あろうことか、女性と二人きりでお茶会までされるようですよ」
「なに?」
「汚らわしい…。王太子殿下のご婚約者様まで、その手に落とすなど、考えただけでも悪寒がいたします」
「……ヴォルタールの小娘とあの小僧が…?」
「お父様……、宰相をされてますのに、そんなこともご存じないのですか?」
辛辣とも言える娘の言葉に、父は僅かに息を呑んだ。
「でも、心配されることはありませんわ。私が諌めますから。殿下の正統な婚約者として、王太子殿下のご婚約者様の目も覚まさせてあげますから」
「殿下の……それは、殿下からお前に伝えられたのか?」
「ええ。私に注がれるあの熱い眼差し…。あの偽物の手前もあって、言葉にはされませんが、殿下は私を求めてくださってますわ。あの力強く優しい腕に抱かれて……私、とても幸せです、お父様」
「そ……うか。お前はすでに殿下と…。なるほど。それならこれは、あの小僧の目を盗むためにわざわざ勘違いをさせるような言い回しをした、お前に宛てた恋文だったか」
「ええ。そのとおりです、お父様」
「ああ……。よかったよ、ヘルミーネ。今すぐ婚約者として隣に立つことができないのは辛いだろうが…、遠からず、お前に婚約の話が来るだろう」
「はい。お父様」
「それまでお前は自分を磨けばいい。……殿下の寵を頂いたときに、子はできなかったのか?」
父のその言葉に、娘は嬉しそうに微笑み自らの腹をなでた。
その仕草に、父の顔には笑みが浮かぶ。
「なんと喜ばしい…!すぐにでも殿下にお知らせせねば!!」
「お待ち下さい、お父様」
「ん?」
「殿下は2日後、西へ遠征に出られるのではないですか?」
「――――ああ、そうだね。でも、何故ヘルミーネが知っているんだ?」
「殿下は私に隠し事などされませんから。――――今は準備や対応で忙しい時期…、私のことで殿下のお手を煩わせたくありません。お伝えするのは、西からお戻りになられてからでよいかと。……その頃には………」
娘は不自然に言葉を切った。
だが、父が疑問を投げかける前に、ニコリと微笑み、ゆっくりと腹を撫でる。
「殿下も今まで以上に私を求めてくれるはずですから」
父はそんな娘の様子に、思慮深く優しい子に育ったなと、目元に涙を滲ませながら褒め続ける。
すぐに医療師を手配しようと言う父に対し、娘は「まだ大事にされたくないから」とやんわりと断りを入れ、更に父を感動させる。
娘は微笑む。
その瞳に仄暗い影を落としながら。
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