【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

74 『情けない男』の話

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「――――俺が、悪くて」

 食事も喉を通らないほど考えて落ち込んでしまったことを、クリスの体温を感じながら話しきった。
 話して、俺はどうしてほしいんだろう。
 結婚式をやめる?
 ……やだ。やめたくない。

「……俺、クリスと結婚したい。結婚したいのに……駄目、なの……?」

 クリスの傍にいるために、こっちの世界に来たのに。
 だったら、俺が音を上げても倒れても、必要なこと全部叩き込んでほしかった。王子の伴侶として相応しいように。ちゃんと、王族の一員です、って、紹介されるように。
 確かに、それに気づきもせず、言葉を覚えただけで満足して、ダンスレッスンだけでへろへろになって、ずっとクリスに甘えていたのは俺だけど。
 でも、こんなことなら、初めから、ちゃんとしてもらえてたら――――

「アキ」

 呼ばれたと同時に、きつく抱きしめられた。唇は塞がれて、すぐに舌が入ってきた。

「んぅ」

 ぞくぞくする。
 ぬちゅりくちゅりって湿った音が、耳について離れない。
 クリスが好きで、好きすぎて、クリスに慣らされた体は、キスだけで熱くなる。
 抱きしめてた腕からふ…っと力が抜けた。
 その代わり、手が背中を上下する。
 腰が疼き始めた頃、ようやくキスから解放された。
 息が上がってて、心臓がバクバクしてる。
 けどクリスは平然としていて、俺の髪を梳いた。

「アキ」
「……ん」
「情けない男の話をしてもいいか」
「……へ?」

 突然なんのこと。
 よくわからなくて顔を上げた。
 クリスはすごく優しい目で俺を見てる。

「えと……聞く、けど」

 クリスは頷いてから、殊更優しく俺の頭を撫でてきた。

「その男には、愛してやまない異国の少年がいるんだ。自分の立場も責任も全て放棄して、常に傍にいたいほどの存在なんだ。
 けど、その少年のほうが聡明で常識的でな。仕事をしないと怒られるんだ。……それだけでも情けない男だよな?」
「あの……」

 それって。

「男はかなり嫉妬深くて、その少年を常に手元においておかないと安心できないんだ。目を離した隙に、誰かに取られるんじゃないかと気が気でない。少年の綺麗な瞳に常に自分が映っていないと安心できない。
 可能なら部屋に閉じ込めておきたい。他者に会わせず、どこにも出さず。自分だけがその少年の世界の全てになりたいと願っているほどだ」

 困ったように、眉をひそめたクリス。

「その少年は間違いなく男の世界そのものであり、生きる意味そのものだ。その少年が死ぬのなら、その男の世界も終わる。
 一度は自害を止められたが、万が一次があるなら、男は迷うことなく少年の後を追うだろう。ひどい話だが、男が先に逝くならその少年に共に逝こうと願う。共に女神の元に還ろうと願うはずだ」

 涙の乾いた頬を、クリスの指が辿った。

「少年に、家族も友人も元の生活も、何もかも捨てさせて、少年にはその男しかいないのだと思わせて囲い込んで、請い願った少年を、その男はやっと手に入れることができた。
 その男は身分がそれなりにある立場だから、父と兄からは婚姻式に関して、通例に則った物をと言われたが、それを拒否した。
 身分が邪魔になったが、その身分を使って、男の意志を突き通した。
 男は大勢の前に着飾った少年を晒したくなかったんだ。男だけが堪能できればいい。なんなら、貴族も呼ばなくていい。だから男は、婚姻式を知らせる貴族も厳選した。他の貴族には夜会のみ報せを送った。
 夜会での少年も美しく艶めかしいだろう。だが、夜会なら、余計に着飾った令嬢たちの中に紛れる。一曲だけ踊らなければならないが、それは仕方ない。あまりにも通例を無視しすぎてるからな。それくらいは男も良しとした。
 …何より、着飾った少年とダンスをしたいという願望もあったからな。細い腰を抱き寄せて、隙間がないほどに体を重ねて。大勢いるであろう貴族たちなどその目に入らぬように、自分だけを見つめさせて」
「クリス」

 一度言葉を切って、クリスが微笑んだ。

「情けないだろ?愛されているのにまだ足りない。他の者の目に触れさせたくないほどの独占欲の塊。自分の欲のためなら、王族の義務だってなんだって放棄する。
 ……こんな男なんだよ、俺は」
「クリスっ」
「アキに相応しくないのは俺の方だ。お前を束縛して、可能性を全て摘み取っている。
 知識を得て、世界を知って、お前の興味が俺から離れることを、俺は何より恐れている。
 そんなことになるくらいなら、何も知らなくていい。俺が教えることだけを知っていてくれればいい。
 魔法師としての才能を埋もれさせることになるかもしれない。
 お前を狭い世界に閉じ込めることになるかもしれない。
 それでも俺は、やり方を変える気はない。こんなやり方でしか、お前を愛せない」

 激情…ではなく。
 ただ穏やかに。
 クリスが語ったのは、全部、俺への想い。
 俺が思ってたことと、全然違った。
 多分、中身は、普通に怖い。
 監禁したい、死ぬときは一緒。
 普通なら、引くと思う。重すぎる、怖すぎる、って。
 でも、俺は、それを聞いて嬉しいと感じてる。
 監禁されてもいい。首輪でも足枷でも、相手がクリスなら付けられても構わない。
 クリスに「生きてほしい」って願ったけど、もしクリスが先に逝くなら俺も一緒がいい。クリスのいない世界にいたくない。……そう考えたら、俺は前回クリスに酷いことを願ったのかもしれない。俺がいなくても生きていてほしい、なんて。

「クリス」
「嫌になったか?」
「全然。クリスになら、縛られてもいい」

 素直に言ったら、クリスの眉がへにょりと下がって、口元を手で抑えた。
 どうしたのかと思ったら、今度は目元を隠した。

「クリス?」
「アキ……それは反則だから」

 ナンノコッチャと思っていたら、クリスのズボンを押し上げるナニが。

「え」
「……はぁ。駄目だよ…アキ。そんなこと言ったら。……思わず想像してしまった。流石に今夜はしないが……、今度縛ってもいいか?」
「ん、ぅ」

 熱い吐息が耳をくすぐる。
 クリスが俺のこと縛るのを想像してこんな反応させてる……と思ったら、俺もあちこち疼き始めて大変なことになった。
 軽いキスだけでなんとか体の熱を逃した。

「もう大丈夫だな?」
「うん。大丈夫。ありがと、クリス」
「まさかアキがあんなことを考えてると思わなかったから。誤解させて悪かった」
「……いいよ。俺も、考えすぎてたみたいだし。クリスが話してくれて、良かった」
「俺は情けない男の話しをしただけだ」

 クリスがそう言って笑うから。
 俺も笑って。
 ずっと大人しくしていたマシロが俺たちの足をぺしぺし叩き始めてまた笑って。
 飲み物を用意して戻ってきたメリダさんに、心配をかけたことを謝って。
 甘めの果実茶を飲んで、またみんなで笑った。


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