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閑話 ⑤
短冊に願いを込めた《後》
しおりを挟む願い事は、自分のことだと叶わない…って聞いたことがある。神社だったか七夕だったか、クリスマスだったかは、正直覚えていないけど。
この世界には八百万の神様も、十字架を背負った神様も、大きな天ノ川に阻まれて一年に一度しか会えない星の神様?夫婦もいない。いるのは、女神様だけ。
だから、自分のことでいいと思うんだ。他人のこと…と言われたら、『クリスが怪我しませんように』とか『クリスが病気になりませんように』とか『クリスが幸せでありますように』とか、クリス一色で染まることは容易に想像できる。どんだけおれはクリスのことが好きなんだろう。恥ずかしいな。
クリスも短冊に書き込み終わって、手元にある四枚の短冊を手に取った。
あとはあの低目の木にくくりつければ終わるけど、一旦部屋を出て……と思っていたら、クリスはひらりと窓を飛び越えた。
「あ゛」
俺には駄目って言ったくせに!!
「アキ、この木でいいか?」
「いいけどさぁ!」
椅子から立ち上がって物に掴まりながら窓際まで移動した。
クリスに木について聞かれたからそれでいいって言ったけど、穴が空いてなかった紙にポーチから何か尖ったものを取り出して穴を開けてるのを見て、クリスポーチには何が入っているのか気になった。何入れても大丈夫だけど。
「クリス、俺には駄目って言ったのに、自分は窓から出るし……」
「この方が近いだろ?」
…って、作業をおわらせたクリスが戻ってきて、またさくっと窓から入ってきた。
……これ、警備とか大丈夫なんだろうか。
まあ、今まで大丈夫だったんだから、いいのか。
短冊の揺れる木に視線を移した。
この距離だと短冊に何が書かれてるのかは見えない。短冊をくくりつけているものも竹じゃなくて普通の木だけど、これはこれで雰囲気が出てる。
ちょっとにほんが懐かしくなってそればかり見ていたら、クリスにいきなり抱き上げられて、ベッドに降ろされた。
「クリス?」
「少し休め」
「え。眠くないし」
「興奮しすぎ。夜に熱を出すから」
「でも」
「俺もここにいる。…夜になったらしっかり起こしてやるから」
「……ほんとに?」
「本当に」
俺の繰り返す確認にクリスは苦笑して、ちゅ…ちゅ…って、顔のあちこちにキスをしてくれた。
そのキスは優しくて暖かくて、どんどん眠気が強くなっていった。
「おやすみ」
って言葉に、僅かに頷きだけを返して、俺は眠りの中に落ちた。
しずかな話し声にふと意識が浮上して、ゆっくりと目を開けた。
ベッドに寝ていたはずの俺は、椅子に座ったクリスの膝の上に横向きで座らされてる状態になっていた。
…『起こして』とは言ったけど。
それは、寝てる俺が目を覚ますように声をかけるなり、体を揺らすなりしてもらうことを望んでいたのであって、寝たまま体を起こすことではない。
「…ぎるます?」
「おう。目が覚めたのか」
ギルマスが小さめのグラスを手に持っていた。
室内が薄暗い。
テーブルの上にはごくごく小さな明かりの灯ったランプや、簡単につまめる料理や多分お酒の瓶が置かれてる。
……それから、テーブルは、窓際に置かれてて、開けられた窓から夜の庭を眺められるようになっていた。
短冊をつけた木に、とても小さな明かりがつけられていて、クリスマスツリーを思い浮かべてしまったけど、まあいいや。
まだ少しぼんやりしてる頭で庭を見ていたけど、おもむろにクリスに顎を取られて上向きにされた。
あ、とか、わ、とか思う暇もなく、クリスにキスをされてた。しかも、普通のじゃなくて、しっかりと重なって、口の中に液体を流し込まれた。
「んっ」
口移しされたのは、ぬるい紅茶。
混ざるクリスの魔力が体に溶けていって気持ちがいい。
「はふ…」
「おはよう、アキ」
「………起こして、って言ったのに」
「抱き起こしてるだろ?」
……って、俺が思ってたことと同じことを笑いながら言われた。
むむむーとしてたら、後ろにいたらしいメリダさんが、湯気の上がる紅茶を俺の前に出してくれて、それから、器に入ったなにかも出してくれた。
「メリダさん」
「料理長様からです。お食事はどうされますか?」
「あー……、これだけでいいです」
手元が暗くて色とかわからないけど。
器を手に持ったクリスが、一口分をスプーンで掬って俺の口元に運んでくれた。
パクって食べたら、とろとろのゼリーぽいものだった。冷たくて甘くて桃みたいな味がする。
「うま…」
「料理長様もお喜びになりますね」
「ん、これ、毎日でも食べたい…!」
「食事が摂れなくなるだろ」
「うう~~」
クリスに呆れられたような。
でも、笑ってるし、いっか。
口元をもぐもぐさせながら改めて外を見たら、短冊が増えてるのに気づいた。
小さな明かりの中でゆらゆらしていて綺麗。
「短冊……増えたね?」
「そりゃ、俺も書いたからな」
「ギルマスが?……あ、どうしてギルマスがいるの…?」
そうだった。
なんでこの部屋で夜にギルマスがクリスと酒盛りしてるんだろ。
「そりゃ、お前さんの旦那から誘われたからな」
「え」
クリスが折角だからってギルマスとラルフィン君を誘ったらしい。ラルフィン君は夜に出かけると恋人である幼馴染みズが気にするから、って断ったらしいけど、短冊は書いてくれたらしい。
それから、クリス隊のみんなも。
付けたクリスが言うには、大体が俺が元気になるように、って願いだったらしい。中に一つだけ、『殿下がもっと優しくなりますように』って願いがあったらしい。……誰だろう。クリスはわかってるはずだから、きっと、もっと、しごかれてしまうのではないだろうか……。
「ギルマス、なんて書いたの?」
「商売繁盛」
「ぷ……っ」
「大事なことだろ」
「そ、そうだけど……っ」
流石店主!っていったところか。
今度招き猫でも作ってみようかな。……俺じゃ変な形にしてしまいそうだけど。
「……それで?アキが書いてた願いは何だったんだ?」
「早く治りますよーに、って」
「それじゃない方」
日本語で書いたものがどうしても気になるらしい。
「なーいしょ!」
「……教えるといった」
「えー。まあ、いつか、叶ったらね?」
「アキ……」
「綺麗だね、クリス。……なんか幸せ」
外に出てるわけじゃないのに、大きく開けられた窓からは、七夕飾りだけじゃなくて星空も見える。
とても綺麗。
こんなきれいな景色を、大好きな人と見ることができてる。
……本当に、幸せ。
俺の治療だとかリハビリだとかで慌ただしく過ぎていった時間と季節。
でもこうして、クリスとギルマスと、他愛無い会話をできるまでに回復した。
クリスの膝の上で。クリスの鼓動を感じながら。
幸せ以外、感じてなかった。
女神様。
願う先はお門違いかもしれないけど、この願い、聞き入れてくれると嬉しいな。
そして、いろいろと、紆余曲折あって。
日本に戻されて、またこっちに帰ってこれて。
「どこに隠したのさ……」
恥ずかしいノートを探して、居間の机の引き出しを開けたとき、仕舞われていた紙の束を見つけた。
「……あ、七夕のときの」
みんなの願いが書かれた短冊。
捨てずに残してたんだ。
パラパラめくって、自分のものを見つけた。
震えたようなガタガタの文字で書かれた願いと、ちょっと歪んだ日本語で書かれた願い。
あの日の俺が心から願ったもの。
「へへ……。叶った、かな」
一度は別れを覚悟したけど。
でも、もう大丈夫。
「アキ?」
「クリス」
部屋に入ってきたクリスは、すぐに俺を呼ぶ。
俺は手に持っていた短冊を、机の引き出しに片付けた。
――――クリスとずっと一緒にいられますように
そう願った短冊を一番上に置いて。
(おわり)
*****
短いですが、七夕お話お送りしました。
最後は婚姻式を控えたいつかの辺り。
願いはちゃんと叶いますね。
ちなみに、北海道は8月7日が七夕です…。
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