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エルフの隠れ里

2 ◆クリストフ

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 団を分け出発してから三日が経った。
 帰城組はそろそろ王城に到着しただろうか。

「エアハルト」
「はい」

 エアハルトは慣れた様子で魔力を練り上げた。
 オットーとザイルが周辺を警戒している中、エアハルトは自分の足元に魔力を流す。土属性の魔法制御は格段にその能力が上がっている。これもアキ効果かと思えば、複雑ではあるが関心もする。
 エアハルトの足元の地面だけが盛り上がり、奴を載せたまま周囲の木々よりも遥か上まで伸びていく。
 森の様子を見たエアハルトは、なんの揺らぎもなく土の塔を元の状態へと戻し、俺の前に立った。

「ここより更に南側に、風の不自然な動きがあります。確定ではありませんが、確認の必要はあるかと」
「わかった。オットー、ザイル、先に進む」
「「御意」」

 警戒はしたまま、各々騎乗する。
 ヴェルは特に指示をせずとも、エアハルトが示した方角を見ている。
 それならば間違いはないだろう。

 休憩は最小限にとどめ、闇の中も進んできた。
 この顔ぶれならば大概の魔物は瞬殺できる。
 これほどの強行軍は久しぶりだった。最優先にしなければならないのは、俺たちよりも馬の状態だったが、僅かな休憩だけでも十分走ってくれている。

 正直、『南』がどこを指すのかは未だにわからない。
 ヴェルの様子と、木々の上から魔力の揺らぎをエアハルトに確認させながら進むしかないのが現状だった。

 西側からどれ位南下してきただろうか。正確な位置はわからないが、それ自体は特に問題ではない。
 エルフ達の隠れ里。
 その位置を特定することができるのか。
 そもそも、エルフ達が何故存在を隠すように隠れ住んでいるのかもわかっていない。
 そのエルフが自らアキに接触を図ってきた。気まぐれなエルフのやること…とは思ってきたが、アキが特別である理由がわからない。
 何故、アキに興味を持ったのか。
 アキが、異世界から来た人間だから、なのか。
 考えてもわからない。
 直接会って問い詰めなければ。

 半日ほどかけて、エアハルトが異変を感じた場所に辿り着いた。
 そこは森の中というのに、よく日差しが入り明るい場所だった。

「……殿下」

 オットーが剣の柄に手をかけながら俺に近づいてくる。

「まだ抜くな」
「ええ」

 穏やかな空間。清々しい空気の中にいるはずなのに、背筋にはぞわぞわと悪寒が走る。
 ザイルとエアハルトも、俺の周囲を固めていく。
 ヴェルたちに怯えは見られない。
 それならこれは魔物の気配ではない、ということか。

「……退きますか?」
「いや」

 ここがその場所だと、理解できる。
 招待する、と言われたのだから、退く理由はない。
 だが、それとは逆に、この場所に俺たちが歓迎されていないということも肌で感じていた。それは、不安と悪寒として精神を苛んでいく。
 馬の様子に変化はない。
 恐らくこれは、人間だけを拒むものなのだろう。

 気を張り詰めたまま警戒を続けるには限度がある。
 どうしようかと視線を巡らせたとき、森の奥から冷気が流れ出てきた。

「っ」

 木々も草花も凍りついていく。
 何が起きているのかその先を凝視していると、馬ほどの大きさのみたこともない獣が、森の中から姿を現した。
 青白い毛並みの四足の獣。
 冷気はその獣から放たれているようで、足元から凍結が広がっていた。
 全員の警戒心が跳ね上がる。
 臨戦態勢が整った。

『――――去ね』

 直接頭に響く言葉だった。
 人の言葉とは思えない。

「この先に用がある。去ることはできない」
「殿下?」

 驚いたようなオットーの声に、獣の姿は見えているが声は聞こえていないのだと気づいた。
 なぜ俺にだけ言葉が理解できるのか。コトノハの力が何かしらの作用をもたらしているのか。

『愚かな人族よ。この地を汚す前に、去ね』
「いや、進む」

 守護獣か何かなのか。
 戦いは避けたいところだが、行く手を阻むと言うなら倒さなければならない。
 俺が剣を抜いた瞬間、冷気が広がった。
 
『愚かなり、人族よ――――』

 そう言葉が響いた瞬間、刃のような冷気が襲いかかってくる。

「!!」

 すぐにエアハルトの土壁がそれを阻んだが、土壁がみるみるうちに氷に覆われていく。
 魔力の相殺ではなく、通常の魔法ではない。
 これは、もっと、別の――――

「あー、ちょっと待って」

 柄を握り直したとき、そんな間の抜けた声がした。
 ばらばらと崩れていく土壁の向こうに、冷気を放っていた獣のの頭をなでているアルフィオの姿を認めた。

「俺が招いた客人だよ。問題はない」
『………そうか』

 冷気が一瞬で引いた。
 頭を下げた四足の獣は、俺たちを一瞥するとその体を小さくし、アルフィオの肩に乗る。
 その獣は一体なんなのだ…と考えているうちに、オットーとザイルが動いていた。
 獣の脅威がなくなったと判断した瞬間、剣に殺意を載せて馬上から飛び降り、地を蹴った。

「オットー、ザイル」

 剣先が、アルフィオの喉元を捉えた。




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