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エルフの隠れ里

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 目が覚めたら、裸の王子様が眼の前にいました。
 当然のように俺も裸でした。
 何故ならここは風呂場だから。
 湯船に浸かる王子様の膝の上に座らされて、隠すもののなにもない状態にさせられてました。

 ……魂が抜けても仕方ない状況だと思いませんか?
 ……羞恥心が天元突破した状態になっても仕方ないと思いませんか?





「館内に不審な点は特に見当たりませんでした。私には魔力的なことはわかりませんが、館内の使用人に関しても妙な動きはありません。護衛らしき人物は特に見かけませんでした」
「エルフ族は皆が精霊魔法の使い手だから護衛の役割をする者は必要ないということでしょうか?」
「それもあるだろうな。俺も詳しいことはわからんが、精霊魔法は作用が多岐にわたるはずだ。……御前試合のときに見せた姿を変えるものも、アキを攫った転移も、精霊魔法の一種だろう」

 暗めの茶髪な人と、明るめな茶髪の人が、俺(と、王子様)の部屋に来て、ソファに腰掛け、王子様と何やら難しい話を始めた。
 ……俺は、頭から毛布を被ってぐるぐる巻になってる。自主的に。でも、居場所は王子様の膝の上。ましろはぐるぐる巻き毛布の中にいて、すぽっと頭を出したり引っ込めたり遊び中だ。ちょっとくすぐったいけど、我慢。
 ……なんで簀巻きみたいにぐるぐる巻かって言えば、そりゃ、『恥ずかしいから』の一言に尽きる。
 やたら丈の短い手触りのいい大きめの服を着せられたし、そもそも、同意?もなしに風呂に入れられてたし、大体、あ、あんな、恥ずかしいことされて……平常心でいられるわけがない。
 それにこの王子様、俺をとにかく触ってないと気がすまないらしい。
 風呂から部屋に戻って(脱兎のごとく逃げ出したとも言う)、自主的に毛布でぐるぐる巻になった俺を、あっさりと抱き上げてベッドに座り、滅茶苦茶普通な態度で入浴後の水分を飲ませてきたり。
 部屋になにかの報告に来たこの二人が入ってきても、俺のことこうして膝の上に座らせたままだし。
 部屋に来た二人は何一つ動じてなくて、ごくごく普通にそんな報告を始めたもんだから、俺としてはもうどうしようもなくて無になるしかなかった。ましろは可愛い。それだけでいい。

「アキラさん」
「ふぁぃ!?」

 ……いきなり名前を呼ばれて、変な返事をしてた。
 この二人、怖くはない。俺を見るときはかなり優しい目をしてるから。
 ……アルフィオさんとお父上と話し合いをしてたときは、かなり怖い雰囲気でしたけど。

「ほんとうに忘れてしまったんですか?」

 明るめの茶髪の人が、物凄く心配そうな目を向けてきた。

「えっと……は、い?」
「そうですか…」
「アキラさん。記憶がはっきりしない不安の中でこの殿下が何かしでかしたら、しっかりと言ってくださいね?私が制裁をいれますから」

「……オットー」
「記憶がなくて不安に思っているはずのアキラさんに、まさかその不安を煽るような無体を働いたりしてませんよね?」

 暗めの茶髪の人はオットーさん。
 明るめの茶髪の人はザイルさん。
 部屋に来たときに教えてくれた。

 無体。
 この部屋に戻ってきてからのことは、無体に入りますか?
 ……困ったことに、全部、『嫌』とは思ってないのですが。
 それに、不思議と不安……てのはあまり感じてない。何故か、ここが異世界だとか、魔法があるとか、ましろが獣人じゃないとか、ストンと飲み込めてしまったから。

「俺がアキの不利益になることをするわけがないだろ」
「ええ。そう願っております」

 にこりと笑うオットーさん。
 ちょっと怖い。

「今後はどう動きますか」

 空気が引き締まった気がした。
 …王子様を含めて、この人たち、こういう切り替えがすごすぎると思う。
 王子様は俺の顔を見て、頬を親指で何度か撫でて、ふ…っと表情を緩めた。

「アキの記憶が戻るまではここに滞在しようかと思っていたが、……そうだな。明日の昼過ぎにでも出るようにしようか」
「え」
「妥当ではないかと。害意が全く無いことはわかりますが、それでも不確定要素の強いこの里に居続けることが得策だとは思えません」
「ああ」

 よくわからん土地からはさっさと出ていったほうがいい、ってことね。

「アキの魔力自体もほぼ回復できている。あとは自然回復で問題ないだろう」

 ……魔力回復。
 補充……って言ってた気がするアレ、か。
 ……アレ。
 かあああって一気に顔が熱くなってきて、毛布を目深にしてましろをぎゅむぎゅむ抱きしめた。
 多分、あの、体の中が滅茶苦茶だ熱くなった、やつ。キスして、唾液飲んだときも感じたけど、それと比べ物にならないほど、熱くて熱くて仕方なかった。
 あのあとから、凄く体調がいい、体が軽いな…って感じてるのは事実なこと。今までが体調悪いと感じていたわけじゃないんだけど。これが通常の状態と言われたら、王子様に再会?するまではだるさとかがあったんだな…って気づく程度。
 恥ずかしいけれど、医療行為……と思うなら、まだ、なんとか、なる。

「自然回復なんて待たずにさっさと回復しきるか?」

 ニタリ…と笑って、俺が必死に隠していた顔を上向かされて、なにか言う前に唇が重なってた。
 ……前言撤回。
 なんともならん。



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