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マシロが養女(仮)になりました

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 嫌がるマシロを両手で捕まえてお風呂場に連れて行った。
 そりゃ、マシロだけじゃなくて俺たちも洗浄魔導具を使えばすぐ汚れは落ちるけど、風呂に入るのはまた別。ちゃんと石鹸使って乾かしてあげれば、毛並みもツヤツヤ感も増し増しで可愛さアップだ。

 お風呂場の中ではキスくらいだけにして風呂からあがると、真新しい制服と下着類が脱衣所に用意されていた。ちなみにマシロはもう部屋に逃げ帰ってる。
 クリスの髪にも風魔法を使った。サラサラのいい手触り。俺も自分に使ったら、何度もクリスに髪を撫でられて、少し伸びた毛先にキスを落とされた。やられてることが妙に恥ずかしい。

 メリダさんが用意してくれた紅茶を飲むと、もうやっと帰ってきた…って実感して、ちょっと涙が出てしまった。
 改めてメリダさんからも「おかえりなさいませ」って言われて抱きしめられて、嬉しかった。

 人心地ついて部屋を出た。
 マシロはきりりっと俺の肩に乗ってる。
 廊下ではさっぱりとした護衛コンビ。それだけでいつも通り!って感じがする。
 向かうのは謁見の間。
 オットーさんが先導して、ザイルさんが後ろにつく。
 そして案内されたのは、一年前に俺がクリスの婚約者と認められた、比較的こじんまりとした広間。
 謁見室の前に、長い茶髪を後ろに束ねた糸目の人が待っていた。ニコニコしてて愛想はいいけれど。

「……アルフィオさん?」
「あれ。やっぱりわかりましたか?」

 糸目の青年はあっけらかんと肯定して笑う。精霊魔法の変態……は、語感があれだから擬態魔法とでも呼ぼう……。

「なんでアルフィオさん?」
「当事者だろう。誘拐の」
「あー…」

 当事者っていうか犯人だね。

「……牢屋に入れられたり」
「まあ」
「え、ほんとに投獄されるの?」

 驚いてクリスを見たら、苦笑しながら俺の頭をなでた。

「お前を拐った本人なんだがな。……心配するな。悪いようにはならない」

 クリスがそう言って笑うから、そうなんだな…って納得した。





 謁見室の中に人は多くはなかった。
 壇上には、陛下の右手側にお兄さんが、左手側にはティーナさんのお父さん宰相さんが立っている。
 壇のすぐ下には、左右に貴族の人が数名。結婚式後の夜会で紹介された、○○大臣さんとか、そういう役職付きの人。あとは、お兄さんの側近の人とか、とにかく国の偉い人たちばかり。役職についてない貴族さんがいないだけマシかも。
 俺はクリスの左隣。
 アルフィオさんは、俺たちの後ろで、護衛コンビに挟まれてついてきてる。手首に鎖がかけられてたりとかはしていない。
 所定位置で立ち止まったクリスが礼を取る。俺も隣で膝をついて礼をする。……一年前はこれができなくて散々な言われようだったな。
 クリスと陛下が視察のことでいくつか言葉をかわすと、本題に入った。

「アキラ殿」
「はい」
「無事の帰還、嬉しく思う」

 す…っと目を細めた、一瞬だけ見せてくれる父親としての表情。家族として心配してくれてたんだ…って改めて思う。

「ありがとうございます、陛下」

 陛下の両隣でうんうん頷く二人。
 ほんと、ご心配おかけしました。

「アルフィオ、前へ」

 クリスが後ろを見ながら促した。腕は俺の腰を抱いていて、左側に少し体をずらしてくる。
 護衛コンビは一歩下がり、アルフィオさんはクリスと並んだ。そしたら、おえらいさんたちの間からざわざわと声が上がり始めた。

「エルフと聞いていたが…」
「エルフではないのか?」

 ……と。

「クリストフ、お前の書状にはエルフ族の者がアキラ殿を拐かしたとあったが」
「ええ。間違いありません。彼がエルフ族のアルフィオ・ジル・テレジオです」
「……ふむ」
「エルフ族は普段会うことのない種族です。城内に余計な混乱を産まないために、彼には精霊魔法による擬態を使用する許可を出しました」

 またざわりとする。
 ヒソヒソ声にどういう意図があるのか俺にはわからない。

「その擬態を解くことは容易なことか?」
「ええ。――――アルフィオ」

 アルフィオさんはクリスに頷くと、陛下に改めて向き直り右手を胸に当てて左足をわずかに引きながら腰を折った。
 それが魔法を解く仕草ってわけじゃないだろうけど、その礼と共に、茶髪の青年から金髪の青年へと姿が変わる。
 周囲はまたざわめくけど。

「改めてご挨拶申し上げます。エルフの里『テレジオ』の族長リウネス・ジルド・テレジオが末子、アルフィオ・ジル・テレジオと申します」
「…御前試合に割り込んできた優勝したエルフですね」

 っていうお兄さんの低い声に、陛下が頷いた。

「其方、何故我が国の王子妃を拐かした」

 ……あれ、これ、アルフィオさんが「楽しそうだから」とか正直に答えちゃったらアウトじゃない?俺をさらった理由って、そんなんだったよね??

「私は」

 少しハラハラしていたら、姿勢を戻したアルフィオさんが、右手は胸に当てたまま話し始めた。



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