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マシロが養女(仮)になりました

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「あーきー!」
「んー」
「あーきー!おきー!」

 クリスにしては高い声…、それに、胸の上にクリスの腕以外の重みがずしっと…。

「うー?あーき?」

 小さな手で頬をペチペチされて、尻尾がパタンパタンと動いてる。

「あーきー!」
「っ」

 むにっと頬を両手で挟まれて、唇に柔らかくて温かいふにふになものがあたって目が覚めた。

「マ」
「おい」
「ぃーやー!ぅーりす、やー!」

 低い低い不機嫌なクリスの声と、マシロの駄々をこねる声。
 ん。
 今朝もみんな元気だ。




 王都に向けて出発する朝。
 マシロが人化するには精霊の力がぁとか言われてたからまだまだ変化しないと思っていたのに、マシロはしっかり人化して、俺におはようのキスをしてきた。……あ、いや。「ちゅーしたら起きる」と認識されてるらしい。……ある意味情操教育に問題ありということなんだろうか。
 人化したマシロを見たアルフィオさんは驚いていたから、予想外だったんだろうなぁ。アルフィオさんは多分、基本はいい人なんだろう。暴走しないことを祈ろう。
 それから、記憶が戻ったことをちゃんとみんなに報告した。オットーさんもザイルさんも笑顔で良かったって言ってくれて、エアハルトさんは涙流して喜んでた。相変わらずだった。アルフィオさんは「殿下に殺されずに済む…」とぼそりと呟いて喜んで、改めて俺に謝罪してくれた。

 そんなこんなで、出発。
 人化したけど、ヴェルに乗るには幼子の姿だと問題あるので、マシロはまた子猫姿になって俺の胸元に潜り込んだ。
 途中、パラパラ現れる魔物を瞬殺しながら北上していく。
 昼を過ぎて二時頃、王都を囲う石壁が見え始めた。
 先頭を駆けるオットーさんとザイルさんがお互いに顔を見合わせ頷きあったあと、ザイルさんが隊列から外れた。

「え」
「前触れを出しに行ったんだ」
「あ、そっか…」

 クリスが教えてくれた。オットーさんとザイルさん、言葉をかわした風もなかったのに、さすが目と目で語り合う護衛コンビ。

「忙しくなるな」
「ん」

 色々と報告とか手続きとかしなきゃならないし。
 俺よりもクリスがとにかく忙しくなりそうで。仕方ない…と言えば仕方ない。
 アルフィオさんについても一応誘拐犯なわけだし。しかもその対象者は王子妃……の立場にある俺で。『王族誘拐』ってことになるんだよね?
 そういうの考えると、大変そう……としか、言葉がでてこなかった。





 俺がお城を離れてから、実際にはまだ二週間と少しくらいしか経ってない。随分と濃い日々だったけど。三の月に入る前に戻ってこれてよかったと思う。
 四騎で南町を抜ける。
 西町ほどではないけど、活気ある町並みに少しほっとした。帰ってきたんだなぁ…って。
 予定ではまだ西側の海岸沿いの街とかを回っていたはずだから、『視察兼新婚旅行』の日程からしたら、随分早い帰城になってしまった。
 街を抜けて、王城のある中心部に向かう。
 城が目に入ってくると、正面の方に大勢の人が出迎えに出てきてくれていた。

「アキラさん!」

 先に城に戻っていたクリス隊のみんなと、メリダさん。
 クリスにヴェルからおろしてもらうと、クリス隊のみんなにもみくちゃにされてしまった。
 それが落ち着くと、メリダさんに抱きしめられた。

「アキラさんご無事で何よりです」
「心配かけてごめんなさい」
「私の寿命が縮まる思いでしたよ」

 メリダさんの目元には涙が溜まっていて、申し訳無さでいっぱいになる。…アルフィオさんが悪いんだけど。

「マシロちゃんもおかえりなさい」
「みゃぅ」

 ちゃんと一本尻尾に擬態したマシロが、メリダさんの胸元に飛びついて甘えた声を出した。

「あら、少し大きくなった?」
「みゃぁ」

 嬉しそうに尻尾を振るマシロ。……そこだけ犬みたいな仕草だけど。

「メリダ、すまないが風呂の支度を」
「はい、坊っちゃん」

 クリスはお兄さんと何やら話していて、その話し合いが終わると俺のところに来て腰を抱いてメリダさんにそう指示を出した。
 マシロがメリダさんの腕の中から、俺の肩に飛び乗ってくる。
 メリダさんはスカートをつまみ上げて綺麗に腰をおり挨拶すると、城の中に戻っていく。

「アキラ」
「お兄さん」
「無事で良かった。知らせを受けてから陛下も心配されていつ兵をむけてもおかしくない状態だったから、色々間に合ってよかったよ」
「あー……、えと……」
「それだけアキラのことを大切に思っているということだから、呆れないでいてほしいんだけど」

 苦笑するお兄さんだけど、聞かされた内容は呆れるとかそんなもんじゃない。兵を動かすって、とんでもない大事になりかけてたのか…って、呆れる前に焦る。
 それから、大切に思われてるのかって納得して、嬉しくなってしまった。

「あの…、心配をかけてしまって」
「そうじゃないよ。心配はしたけど。アキラが私たちに言うのはそれじゃないよね?」

 お兄さんは笑顔で言う。
 心配かけてごめんなさい、ではなくて。

「あの、……ただいまです」
「うん。おかえり」

 クリスとは違う、けど少し似てる笑顔で、お兄さんは俺の頭をなでた。



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