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マシロが養女(仮)になりました

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 春の三の月の、一の日。
 今日、ティーナさんの懐妊と、マシロがクリスと俺の娘になる発表をする。
 少し気温の上がった春の日差しが降り注ぐ、穏やかで心地の良い日になった。
 


 国民に向けて王族が何かを発表するとき、王城にあるバルコニーが使われる。
 そのバルコニーはそれ専用の仕様で、少し低めの手すりと広い足場。何かしらの発表があるときは手すりにはそれにあった色の装飾が施される。
 バルコニーからの演説や発表は、基本的に王都に住まう人たちへのお知らせ。王都に来れない遠くの人たちには、この日の発表に合わせて文書が配られるんだそうだ。
 王都の人たちには、何日のいつ頃に広場に集まってーっていうお触れが出る。もちろん、強制じゃない。けど、大概の人が集まるだそうだ。
 皆が集まる広場の周辺は、近衛騎士団が警備に立つ。王族のお知らせだから、警備状況は万全。これに加えて、クリス隊も総出動。近衛隊とは別動で周囲を警戒にあたる。
 このときの指揮はオットーさん。クリスは王族発表する側だから。

 テラスのあるお部屋は待機室。
 室内には大き目の応接セットが置かれてる。
 それから、厚みのあるカーテンで仕切られていて、カーテンの向こうは着替えたりお化粧を直したりする場所だ。
 女性陣が主に大変で、テラスに出る直前まで髪やドレスの乱れがないか確認に確認を重ねる場所。ま、男性陣にも必要なんだけど、女性陣に比べたら結構簡単に終わる。

 ……終わるんだよ。普通わっ。

 通常、そこを使うのは女性陣だというのに、今俺はそこにマシロと一緒に放り込まれてるわけで。

「メリダさん、も、もういい、も、髪、いいっ」
「何を仰っているんですか。アキラさんは婚姻後のお披露目もされていないんですから、しっかり整えませんと」
「や、でも、今日はマシロの…っ」
「ましろね、あきと、っしょね、ぅれしぃの」

 マシロ用の礼服は、俺とほぼ同じデザインで短いスカート仕様。俺のは白銀に青色があちこちに使われた軍服。婚礼衣装の裾短いバージョンみたいなものだけど、左胸に貰った覚えのない勲章みたいなものがつけられた。…飾りだと思っておこう。
 マシロのは、白銀ベースのドレスに青色と黒があしらわれていて、一目で俺の娘ってわかる感じ。
 ……そういえば俺、十八歳で子持ちになったんだな……。子供育てることになったよ……って、今度父さんたちに手紙書こう……。腰抜かさないといいけど。
 んで、マシロの強い要望により、俺とマシロの髪型は一緒。
 髪型の名前なんてわかんないよ。髪全体をどうやってかややってされて、両サイドを編み込んで、頭の後ろで止めて、そこを花で飾って、前髪も少し編み込まれたり。
 化粧もされた。
 こんなことまでしなくてもいいんじゃない…?だって、広場からバルコニーなんて、そんな細かいところまで見えないでしょ…?
 とは思うものの、メリダさんに言っても笑顔で却下されたので、諦めた。

 終わりましたよ、ってメリダさんからようやく言われてカーテンを出たら、クリスとお兄さんはソファに座って余裕な感じでお茶してた。

「マシロ、可愛くなって!」
「じぃじ!」

 きゃあっと叫んで、マシロが陛下のところに小走りで駆けていく。
 俺もクリスの隣に腰掛けてお茶を飲んで一息ついた。

「アキは綺麗だな」

 って、耳の横の髪をいじりながら、こそっとクリスが耳元で言う。
 クリスが、格好いいけど。黒の軍服。いや、ほんとに。格好良すぎる。
 心の中のつぶやきは声に出ていたらしく、少し笑ったクリスが、「ありがとう」って俺に小さく言ってきた。

 ティーナさんも支度が終わってカーテンから出てきた。お兄さんがすかさずエスコートに立ち上がる。
 ふんわりとした春らしい桃色のドレスは、ティーナさんによく似合ってた。

 時間です、と言われて、みんな立ち上がる。
 マシロはクリスが抱き上げた。
 陛下が出て、それからお兄さんとティーナさんが寄り添いながら出て、最後に俺たち。

 広場にはとてもたくさんの人たちがいた。そして響くのは空気を震わすほどの歓声と拍手。
 少しビクッとしてしまったけれど、悪意の感情はどこからも伝わってこなかった。
 クリスは右手でマシロを抱いて、左手で俺の腰を抱いてる。だから、広場に向かって手を振るのは、俺とマシロの仕事だった。






 バルコニーでの発表を終えて、ティーナさんの体調が少し悪くなった。緊張とかするもんね。
 直後に行われる予定だった貴族さんたちへ対するお披露目は、時間を遅らせようか、って話になったんだけど。

「てぃぁさん、ましろね、ぎゅする」
「マシロちゃん?」

 改めてティーナさんに会ったマシロが、ティーナさんの足に抱きついた。お兄さんが支えてるから倒れることはなかったからよかったけど。
 でも、妊婦さんにいきなり抱きついたり、体調崩したばかりのティーナさんに負担になるようなことしちゃ駄目だから…って、抱き上げようとしたら、ふわりとあたたかな魔力に似たものが溢れた。

「え…」

 精霊魔法の行使。
 クリスもすぐに気づいてマシロを抱き上げたけど、マシロはじ…っとティーナさんを見てた。

「げんぃ?」
「……すごいわ、マシロちゃん」
「ティーナ…?」
「だるさもなくなったの。少し残ってた目眩も」
「あのね、ましろとぉなじの、も、ね、げんぃ」

 多分これは、精霊魔法の癒やしだ。
 すごい。
 ちゃんと教わってなくても、マシロはわかって使ってる。
 ティーナさんの顔色も良くなったし、笑顔になってる。

「…勝手に魔法を使ったら駄目って言ってるのに」
「はぅ…」

 やらかした、って顔をしたマシロを、クリスから受け取って抱きしめて背中をポンポンする。

「でもティーナさんのためになにかしたかったんだよね?」
「う!」
「マシロは優しいな」
「ありがとう、マシロちゃん」
「ありがとう、マシロ」

 陛下に褒められ、お兄さんとティーナさんからありがとうと言われて、マシロは大満足な顔をした。……あれだな。ドヤ顔。
 まぁ、でも、練習もしていない、まだ未熟な魔法の行使に、マシロの体力が保たなかった。
 貴族へのお披露目が始まって、なんとかご挨拶をしたマシロは、クリスの腕の中でスピスピ寝息を立て始めちゃったんだよね。
 これはもう仕方ないはず。見た目は完璧な幼女だ。疲れたら寝る。これは子供の特権。
 寝ながら子猫姿に戻るのはまずいので、万が一を考えて早々に俺たちはお披露目会場を辞した。
 なにはともあれ、これでマシロは正式に俺たちの娘と認知されたんだ。
 文句を言う貴族もいるだろうけど、問題ない。俺たちが守ればいいだけだから。










*****
マシロ、養女お披露目終わりました。
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