100 / 216
マシロが養女(仮)になりました
23
しおりを挟む「ましろ、でしゅ!」
ティーナさんとのお茶会が終わった日の午後。今度はクリス隊みんなへのお披露目だ。うんうん。なかなかに忙しい一日だね。
マシロは俺とクリスの手を離して、首を傾げながらスカートの裾を持ち上げて、頭を下げるでなく腰を落とそうとして……その場に座り込んだ。うむ。可愛い。
「あり?」
「ティーナさんの挨拶したかった?」
「う!」
頷くマシロ。
うちの子が可愛い。どうにかして。
「マシロ……って、え、殿下?」
呆然としてたみんなの中で、一番最初に声を上げたのは安定のムードメーカーのリオさんだった。
ただ。
「なんでいきなりアキラさんに子供産ませてるの?え、妊娠してたっけ?いや、そうじゃなくて、なんでわざわざ娘さんに子猫の名前つけてるの?」
大混乱、してました。
「リオ、落ち着け」
ディックさんが頭から抑えたから、それ以上は何も言わなかった…言えなかったみたいだけど。
「え…っと、マシロは、子猫のマシロで……」
座り込んでたマシロを抱き上げたら、マシロは待ってましたと言わんばかりに、耳と尻尾を出した。
「!!」
そりゃ、ね。驚くよね。耳と尻尾だもんね。
「ましろなのね」
うんうん。
そうだね。
ましろはましろだね。
「しまっていいよ」
「う!」
少しの魔力の動きで消える耳と尻尾。うんうん、器用だ。
「詳しい説明は省くが、間違いなく子猫のマシロだ。可能な限りこの姿で城で過ごすことになるが、特に護衛はいらない。……陛下には報告済みだ。そのうえで俺とアキの養女として扱うことに決まった」
とても簡単に、クリスが説明を終えた。
そんな簡単でいいんだろうか。
俺もなにか言わなきゃ?って思っていたら、マシロが俺の腕の中からずるずると降りていった。
はて、なにを。
そう思いながらマシロの行動を見ていたら、
「っとー」
「はい、マシロ」
「ぉよ!」
地面に膝をついたオットーさんの頬にちゅ、ってした。
「マシロっ」
そもそも、今、おはよーの時間でもないし、なんならお茶会に行くときも挨拶してたよね!?
「いるー」
「はいはい」
ザイルさんもわかってますーって顔で膝をついて挨拶をもらってた。
笑顔のザイルさんから頭を撫でられてテンションの上がったらしいマシロは、みんなの名前(多分)を呼びながらほっぺちゅうを繰り返す。
「いーく」
「みー」
「へぃ」
「ねぇ」
「りーお」
「らんと」
「ゆー」
「りゅと」
呼びやすいように適度に簡略化された名前。
聞いてるだけじゃ誰が誰だかわかんない。
でもみんな、嫌がることなく膝をついて挨拶を受け取ってた。
ブランドンさんなんて大喜びしたから、マシロも滅茶苦茶喜んでたし、上に放り投げるというとんでもない高い高いをされていた。…おう。アクロバティック。
そして。
茶髪のタレ目の擬態中エルフさんの前にいったマシロは、じっと顔を見て、むむむと口を尖らせて、なんとも言えない険しい顔をして、
「あー、いらい!!」
って叫んで、俺のところにてくてくと走ってきた。
「マシロ殿………」
ああ、うん。膝までついて準備万端だったのにね?でも自業自得だからいいのか。
アルフィオさんが犯人ってことはもうみんな知ってる。俺を攫った経緯も知ってる。その上でクリスが入隊を認めたことも知ってる。だから、アルフィオさんを受け入れたらしい。
まあ、付き合えば悪い人ではないことがわかるんだけど。
そのアルフィオさんが思いっきりマシロに拒絶されて、出迎えようと広げた腕そのままに固まってる姿を見て、みんな大笑い。
こんな感じで、クリス隊にも受け入れられたマシロ。
「マシロ」
「う?」
みんなから甘やかされていた中、クリスがマシロを抱き上げた。
「もう朝じゃない」
「ぉよ、ちぁう?」
「そう」
「じゃ、ぉやすぃ?」
「それは夜。寝る前だ」
「うむむ?」
むずかしい顔をしたマシロ。
「ちゅう、め?」
「駄目じゃないが、皆驚く」
「うむぅ?」
駄目、って言っていいと思うんだ。クリス。何故に駄目と言わないのか。
マシロは俺とクリスを交互に見て、納得したように「う、う!」と頷いた。
「ごたまの、ぁとに、ちゅう、ね?」
「「…………」」
手を合わせたごたま。……ご馳走さま?の、後に、ちゅう。
「……っ」
「マシロ……」
「う?」
うん。
そうだね。いっつもいっつも、食事の後にクリスが俺にキスしてくるもんね。そうだよね。そういう解釈になるよねっ。
「……殿下とアキラさん、あいっかわらずどこでもキスしてるんですね……。駄目ですよ?小さい子供はすぐ真似するんですから……」
っていう、リオさんの落ち着き払った声に、俺はとっても部屋にこもりたくなった……。
*****
「まあ…今更だけどな」
「今更ですねぇ…」
「まさか、アキラさん無自覚?」
「無自覚だったんでしょうねぇ……」
「殿下、息をするようにアキラさんに口付けてるから……」
「マシロが皆に口付けて回るのはその影響だな」
「マシロ、可愛い。あんな娘がほしい」
「ケインとこの娘の顔見に行くか……」
「そーしよ」
ごにょごにょと。
165
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる