魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

5 意外な資料をもらった

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 クリスを落とすことは成功した。
 とりあえず、あとは陛下とお兄さんと重臣さんたち。国のトップの人たちに必要性とかを理解してもらうための書類を作って……なんていろいろ考えていたけど。

「へ?」

 執務室に戻ってきたクリスに言われたことがすぐに理解できなかった。
 多分俺はかなり呆けた顔をしていたに違いない。クリスは苦笑すると、俺の隣に座って膝の上に俺を引き上げた。

「許可が下りた――――と言ったんだ」

 許可、とは。
 いや、とりあえずクリスは打診に行っただけ。
 先に陛下にそれとなく話を通して、この後すぐに書類を作って会議にでもかけてもらって……だった、はずなんだけど、許可、とは。

「陛下も兄上も、アキがやりたいようにとのことだ」
「えっと」
「大臣たちには明日の朝議で通達される。正式な外交となるから外務大臣を無視するわけにはいかない。それなりに横槍は入るだろうが、まあ問題ない」
「イッテイーヨってこと?」
「ああ、そうだ」

 まだ把握しきれなくてポカンとしたままの俺。
 クリスは俺を見て苦笑したまま。
 …こんなあっさりと許可が下りるなんて思ってもいなかったから、不意打ちすぎて頭の中が真っ白だ。

「……クリス」
「ん?」
「陛下と、お兄さんに、お礼、言わなきゃ」

 なんとか絞りだした言葉はそんなもので。
 クリスに楽しそうに笑われて終わった。

 陛下から許可が下りたとは言え、とりあえずの書類は作らないとならない。外務大臣が誰か知らないけど(俺、一応王子妃なのに覚えてない)、その人が納得してくれないと許可から前に進まない。物事をスムーズに行かせるためには、それなりの資料が必要――――というのは、TRPGのセッションを組む時と似てる。舞台背景をしっかりしておかないと、逆に面倒なんだよな。うん。
 もちろん、これはセッションのような遊びじゃないことはわかっているけれど、そう思えば書類作りも苦じゃない。書類の大切さもこの数日間で身に染みてるし。

 とりあえず、魔法学院の必要性をくどいくらいに訴える。
 この国に魔法師が不足しているから、魔法師の確保・育成は重要課題になっているはず。けど、人材確保には大きな障害がある。…前魔法師長の影響で。
 魔水晶を持って生まれながら、我が子を軍属にさせたくない親によって魔水晶が隠され、それによって成長過程で魔力暴走が起きる。暴走が起きてしまえば、まず助からない。当然、ある程度育ってからでも、魔力暴走の危険はある。魔力の使い方を正しく導いてくれる人が近くにいないからだ。
 全ての魔水晶持ちの子供たちが魔力暴走を引き起こすわけじゃない。例え暴走したとしても、体が耐えられれば生き残る場合もある。現魔法師団うちにいるメンバーは、三人とも暴走なく自然とうまくいっていた例だと思う。
 これまでどれくらいの人たちが魔力暴走で亡くなっていたか――――それは意外なところから資料として渡された。

「アキラは忘れているかもしれないけど」

 そんな前置きでお兄さんから手渡されたのは、数年分の主に王都で起きた不審死の内容だった。

「これ…」
「魔法の練習を始めたときに、アキが言っていただろ。魔水晶を持って生まれてきてもそれを隠しているかもしれないと」
「えと……去年の、ってこと?」
「そう」

 確かにそんな話をした、ような?

「あ、そのあとザイルさんに何か指示だしてた?」
「ああ」

 なんで?って思ったんだよな、確か。まだこの国の事情とかなんも知らなくて。
 俺としてはそこで終わってた話だったんだけど。

「過去のことだから、詳細にとはいかないけれど、残されてる資料とか状況判断で魔力暴走で亡くなったと思われる方たちの資料だよ。…アキラが目指してる学院ができれば、こういった死者も減らすことができるんだろう?」

 できればゼロにしたい。けど、それは無理ってわかってる。

「減ると思います。……や、減らしたい、です」
「うん。それなら遠慮なくこの資料を使って。そうしなければ私たちは死者に顔向けできないからね」

 口調は穏やかだけど、お兄さんの表情は憂いに満ちていた。

「――――はい」

 前魔法師長の爪痕はまだまだ消えない。深く深く残り続けてる。

 新しい魔法師団を作った。
 団長になった。
 俺の理想に一歩近づいた。

 …そんなことは、本当に入口にしかすぎなくて、乗り越えなきゃならないことはまだまだ山積みで。

「絶対……やり遂げます」

 そんな決意をお兄さんの前で言葉にした。




 それからはずっと書類にかかりきになった。
 書いて直して、更に別紙に書いて、また直して。
 ……パソコンが欲しいい。手がつかれた。
 ある程度形になって、クリスに見てもらう。
 そこからまた直しをいれる。
 許可は下りているんだからもっと力を抜いていいとは言うけれど、それはそれで俺のけじめにならない。クリスも俺も納得できるものを提示したいから。
 だから、妥協なしでクリスにチェックしてもらうんだ。
 ……俺の字が汚い?それはもう諦めて。なんとか読めるくらいにはなってるんだから。これからももっと練習するし。多分。

「……できた」

 最後の手直し。
 正式な用紙に清書し終えたのは、真夜中のこと。
 過度の疲れと書き終えた安堵感で、俺は意識を失くすように眠りに落ちた。

「お疲れ様」

 最後までつきあってくれたクリスの優しい声を聴きながら。









*****
過去の死亡事例に関する話は、婚約編第2章第34話~参照です
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