魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

23 お仕置き……って、なんで!?

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 クリスが怖い。
 笑顔なのに怖い。
 だらだらと背中に冷や汗をかきながら、それでもなんとか実技を終えた。
 クリスと殿下は途中から姿が見えなくなっていて、ほっとしたと同時に魔力感知でまだクリスが学院内にいることに気づいて、これ以上怒らせないように言動に注意した。
 というか、本気で俺、何もしてない。
 水浸しを回避したのはグレゴリオ殿下だし、チェリオ君の魔法発動を少し褒めただけで、落ち度はない、はず。なのに、あんなに『怒ってますオーラ』出さなくてもいいじゃん。
 そうだよ。
 俺、怒られるようなこと、してないしっ。

「理不尽!」
「何が」
「いろいろ!」
「?」

 ごめんね。ただの八つ当たり不満だから放っておいて。

 実技が終わって一旦学院内に戻った。
 それから荷物をまとめて、チェリオ君と肩を並べて改めて学院の門に向かう。
 希望者は寮に入ることができるけど、遠方の人とか平民さんが利用することが多い。城下町に住む貴族さんなら、ほぼ持ち馬車での通学。
 チェリオ君も馬車通学組だから、一緒に向かっていたんだけど。

「アキラ!」

 呼ばれて、そちらに視線を流したら、ニコニコなベルエルテ伯爵がおりました。

「は………、え、と、おじ、さん、どうされたんですか」

 ……俺、やっぱりそのうちボロ出すわ。

「そろそろ終わる頃だと思って迎えに。おや、ブリアーニ侯爵のところのチェリオ君と一緒だったんだね」
「ベルエルテ伯爵……っ!ご無沙汰しております…!!」

 あ、研究所に入りたいって言ってたもんね。そりゃ知ってるか。しかも、将来の上司さんか。緊張もするよね。
 ……というか、侯爵家だったんだ……チェリオ君。

「アキラ君と仲良くしてくれてありがとう。少しの間だけどよろしく」
「はい……!おれ、いや、私でよければ!!」
「期待してるよ。――――それじゃあ、アキラ君、馬車にとうぞ」
「あ、はい」

 少し豪華な馬車。
 伯爵が手を出してくれたので、その手に軽く手を載せてエスコートを受けた。

「チェリオ君、また明日」
「ああ!またな!」

 めっちゃ笑顔でチェリオ君が俺に手を振って、それから伯爵に直角のお辞儀をして、自分の家の馬車らしきところへ早足でむかった。
 スキップしそうな感じ。いいなぁ。わかるよ、その気持ち。

「お迎えありがとうございます」

 俺も改めてお礼を言う。
 伯爵はやっぱりニコニコ笑って馬車の扉を開けた。

「兄上の忠告通りだと思いまして」
「え?」
「では、私は御者台におりますので」
「ええ」
「ささ、中へどうぞ」

 ちょっと意味わからん……って思いながら馬車に乗り込んだら。

「……っ、クリス」
「お帰り、アキ」
「た、だいま…?」

 きれいな、とてもきれいな笑顔で、背後に不穏な気配をまとわりつかせたクリスが、足を組みながら座ってた。
 …魔王様自らのお迎えです…。





 気まずい。
 なんでだ。
 クリスの左手はがっしりと俺の腰を掴んでる。抱き寄せて、なんて軽いものじゃない。本当に掴まれてる。痛くはないけど、身じろぎすらできなくて、どうしようかと頭の中がぐるぐるしてる。

「あ、あの、さ、クリス?」
「………」

 クリスは無言。
 ずっと、馬車の外を眺めてる。

「あの…」
「楽しそうだったな」
「え?う、ん。楽しかった、よ?」
「……」

 なんでまたそこでだんまり?
 どうしたらいいか分からず、ずっとクリスを見てた。
 少しすると、窓の方を見てたクリスは、溜息を一つついて俺を見る。

「随分と仲が良さそうだったな」
「チェリオ君?」
「そう」
「…教室で紹介されたとき、最初に声かけてくれて…」
「昼食も一緒に摂っていた」
「あ、うん。色々俺に教えてくれたり……。あ、あのさ、もしかして、昼食のときクリスがいたのに他の人と食べたから怒ってる?」
「怒ってはいない」
「じゃあなんでそんなに機嫌悪いの」
「……アキ」

 掴まれてた腰を強引に引き寄せられて、クリスの膝の上に対面で座る形になる。こうなると、俺のほうがほんの少しだけ目線が高い。

「ク」

 頬に手が当たる。
 クリスがそのまま唇を重ねてきた。
 にゅるって入ってくる舌。
 目を閉じれなくて、甘さのない瞳を間近で見る羽目になった。
 ……キス、なのに、甘くない。クリスの魔力は相変わらず甘いのに、キスが全然甘くない。
 怒ってないって言ってたけど、絶対怒ってるじゃん。

「クリスっ」
「離れるな」
「ん、むっ」

 城下町のどのあたりを走ってるのかわからない。もうすぐ着くのか、まだ時間がかかるのか。
 でもクリスはそんなことお構いなしなのか、座面に俺を引き倒してのしかかってきた。

「ちょ」

 口はすぐ塞がれた。
 強制的に唾液を飲まされて、頭がくらくらし始める。
 クリスは俺のシャツのボタンを手荒に外していく。一応弾け飛んだりしてないから、まだ理性は残ってる……はず。
 あっさりとはだけさせられて、素肌が晒される。
 クリスはキスをやめない。口の中の俺の弱いとこを、確実になぶってくる。
 それから、大きな手があらわになった胸元に触れてきて、胸の尖りを思い切りつまみ上げてきた。

「ひぁ…っ、んんっ」

 上がりかけた悲鳴を吸い取られた。
 手足をバタつかせて抵抗してみたけど、全然びくともしない。
 クリスの手が容赦なく俺の尖りをひねり上げる。その度に上がる悲鳴はクリスの口に吸い取られて、それが続けられるうちに、鋭い痛みの中に確かな快感を感じ始めた。
 ……そもそも、俺の体はクリスに慣らされてる。クリスが与えてくれる刺激は痛みでも快感に変わる。
 だから、この痛みが快感に置き換わるのは、不思議では……ない、けど。

「や………、やだ……っ、クリス…やだっ」
「駄目。アキには仕置きが必要だ」

 いたく真面目なクリスの表情と声。
 お仕置き、って。
 お仕置きされなきゃならないこと、俺がしでかしたってこと?

「身に覚えがありません…!!」
「分からないなら体に分からせてやる」

 ……クリスが笑った。
 俺の背筋が凍るような、魔王様の笑みだったけど。









*****
「りーあ!」
「あら、マシロちゃん、お昼寝のお目覚めばっちりね」
「う!あね!あきぱぱと、くりすぱぱ、くる!」
「もしかして、お城ここに向かってる?」
「う!もすぐ、ここ!」
「あらら。じゃあお出迎えの準備しましょうね」
「あい!」
「(エロい夜着も下着も準備ばっちり。枕元の香油も確認したし……、ああ、細い紐とか縄とかもおいていたほうがいいかしら。お仕置きは多分確実として……、殿下がアキラさんに痛みを与えるとは思えないから、精々射精管理くらいだと思うんだけど……。ディルドもコックリングもブジーもないから……、やっぱり紐と縄ね)」
「りーあ、またおかぉ、こぁい」
「あらあら。マシロちゃん、お出迎えの前にもうちょっとだけ準備するものがあるから待っててね。すぐ終わるから」
「あい!ましろね、りーあ、まってる」
「ええ。いい子ね」

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