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眠りの姫(♂)は眠らずに王子様を待ち続ける
第9夜
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予想外の男だった。
もう、色々と。
そもそも、恋人に、妻にと望む相手に、局部の色を混ぜた花束作って贈ってくるとか、もう何をどうつっこんだらいいのかわからなくなる。
それとも、今の時代の当たり前のものなんだろうか。五百年も経っていたら、その辺も変わるのかな?……あれか?『貴方のすべてを愛せます』的な意味とか?
……まぁ、いいや。
薔薇は香りも見た目も好きだし。
頓珍漢な男は、俺が勧めるとテーブルについて、物珍しそうに部屋の中を見ている。
そりゃそうか。
いつも月明かりの下で、しかも、棺に直行だったんだから。
棚に向かい、ティーポットに茶葉を入れる。
ケトルの中を魔法で沸騰させ、ポットに注いだ。
甘い花の香。俺が好きな紅茶だ。
カップと一緒にそれをテーブルまで運んで、男の目の前で注いだ。
「どうぞ。俺の好きな紅茶なんだ。普通に飲めるから」
「いただきます」
男は紅茶の香りに顔を緩ませ、少ない一口を飲んだ。……熱いからね。まだ。
「とても美味しいです。姫」
「そ」
俺も男の正面の席について、紅茶に口をつけた。
「……三回もここに来た奴は、あんたが初めてだ」
「それは光栄です」
「……いつも、勝手に俺を女だと思いこんで、男だとわかった途端、手のひらをくるくるまわしてさ。騙された!って喚くやつばっかりで。そういう奴は二度とここに来れないから」
「そういう魔法が?」
興味津々……とはまた少し違った顔をする男。
「何から話せばいいのかな」
「姫のことであれば、全て知りたいです」
大真面目に。
ほんと……。どうしようもない。
「……昔々の物語だけど。ある国に一人の王子がいたんだ。その王子は、母親譲りの容貌で、王太子ではあったんだけど、姫、姫、って、からかわれることも多かった。
そんな、ある日。馬鹿な貴族の息子たちが三人、その王太子に襲いかかったんだ。その王太子を手に入れれば、国が手に入ると思ったんだろうね。見た目は女の子のようななよなよした王子だったから。
裸にされて、あちこち触られて、それでも王子は魔法も使って逃げようとしたんだ。けど、三人相手じゃ分が悪くて、自分の尻に貴族の馬鹿息子の陰茎がピタリと押し付けられたとき、――――心が折れたんだ。
王子は願ってしまった。
こいつらが不能だったら、自分はこんな目に合わなかったのに。
不能になってしまえ―――って。
そしたら、どうだろう。
その王子の目の前に悪魔が現れたんだ」
「悪魔……」
飲むことも忘れて、手の中にカップを握りしめたまま、男は俺の話に耳を傾ける。
「悪魔は、王子の願いを聞き届ける代わりに、自分の花嫁になれと言ってきた。
王子はもう心がボロボロになっていて、愛してくれるならそれでいいと応えてしまった。
悪魔はすぐに王子の願いを叶えてくれた。
王子を襲ってた馬鹿息子達の陰茎は、どんどんちっちゃくなって、一切使い物にならなくなったんだ。
それと同時に、悪魔は王子が住んでいた宮に魔法をかけた。
そして悪魔は言ったんだ。
『今すぐ魔界に連れていきたいが、お前に猶予をやろう。お前を心から愛す者が現れ、お前もその者を心から愛することができたなら、私はお前を魔界へは連れて行かない。けれど、そんな者が現れなかったときは、私がお前に最上の愛を教えてやろう』」
「……最上の、愛」
俺は小さく頷く。
「『期間は五百年。その間、お前は老いることも飢えることもない。この屋敷から出ることも出来ない。この屋敷には、お前に対して害意を持つ者は入れない。お前を唯一として愛を誓う者が現れ、お前もその者を愛したとき、お前はこの屋敷を出ることができる』
……悪魔なのにさ。
五百年も猶予を与えたんだ。
人間より余程情のある悪魔だった」
願いを叶えた代償に、すぐに魔界に連れていけばよかったのに。
「……結局、王子は五百年待ち続けたけど、真実愛してくれる人は誰もいなかった。
そして、王子は悪魔に魔界に連れて行かれ、悪魔の伴侶になり、たくさんの子供を産んで、悪魔の寿命が尽きるまで、愛してくれた悪魔と共に幸せに暮らしました。
めでたしめでたし」
話し終えて、俺は冷めた紅茶を口にした。
喉を潤し、カップを置いた手に、男の手が重なる。
「姫」
その目は酷く真剣に、俺を見ていた。
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