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本編

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 あまりにもきっぱりとしたアベルの否定に、ぼくの顔から血の気がひいていく気がした。
 だって、アベルは花籠持ちで、王太子妃で、……子供を、宿せるのに。レイには世継ぎが必要なのに。

「な、んで…?」
「俺はセレスに俺達の子を産んで欲しいと思ってるよ」
「僕も同じだね。そもそも僕は子を孕むことができないし」
「……え?」

 どうして。
 花籠もちじゃないと王族との結婚はできないのに。
 ぼくは理解ができなくて、アベルとレイを交互に見てしまった。
 本当にわからない。
 結婚したから、子供を成すために、レイはあんなに激しくアベルを抱いていたんだよね…?
 でも、アベルがレイの子供を宿すことをしないなら、レイは他の人を側妃に迎えなきゃならない。ぼくの知らないその人を、レイ、が、抱く。
 ぞわ…って悪寒が体を走り抜けたとき、レイとアベルの手がぼくの下腹部にあてられた。

「レイ…アベル?」
「セレスはおかしなことを考えてるな」
「本当にね。おかしいよね。僕が身籠らないって言ったから、きっと、レイが他の人を抱くとか考えて顔色変えちゃったんだよ」

 二人の手が当てられてる下腹部に、じわじわと熱が溜まる。
 それはすごく心地よくて、ぽかぽかしたものが全身に広がっていくようだった。

「恐らく、俺のは正しいと思う」
「まさかだったよね。どの文献を探してもそんなこと書かれてなかった」
「なに…?」
「セレスは俺達の花籠持ちってことだよ」
「…?」
「大丈夫。セレスが一番望む形になってるはずだから」

 そういって、アベルはぼくの『花嫁衣裳』の内側の布の小さなリボンとボタンを解いていった。
 姿見に全部映ってしまう。
 ぼくは自分の体を見る勇気がなくて、ぎゅって目を閉じた。

「――――ああ、ほら。こんなに綺麗に咲いてる」
「美しいな。これほどのものは見たことがない」

 二人の温かい手が冷たく感じるほど、ぼくの体……下腹部の不完全な花籠が熱くほてっていた。
 白っぽい、痣のようなものだけがそこにあるはずなのに、二人の手はとてもやさしくそこを撫で続ける。
 そしたらぼくのお腹の奥がぎゅっとしはじめて、内股を何かが流れ始めた。

「セレス、目を開けて」
「ちゃんと見よう?」

 二人が頬にキスをしてくれて。
 ぼくは恐る恐る、目を開けた。

「――――あ…」

 下腹部に、薄いピンク色の花が咲いていた。
 その花は二人の手が触れると、どんどんを伸ばしていて、ピンク色の蔦が臍の周りにも広がっていく。

「うそ……うそ……」
「嘘じゃないってば。これが本当のセレスの花籠だよ」
「俺達だけの花籠だ」

 蔦は臍を囲むように育って、そこで止まった。
 ぼくは自分の花籠に触れたけれど、指先がすごく震えている。

「熱い…」
「ああ。すごく熱い」
「僕たちが触れて喜んでるんだよ」

 こんな形じゃなかった。色じゃなかった。
 今朝、レイとお風呂に入っていたときだって、小さくて、白くて、朧気だったのに。
 文献でもみたことがない。
 一輪とか、咲いたとしても二輪とか。そんな絵ばかりで教えられていた。

「もしかしたらこれが本来の『花籠』なのかもしれないな。…確かにこれなら『籠』って言われていたのがわかる」
「本当に綺麗。蔦が籠のように見えるんだね。花もいくつも咲いてる。…セレス、何かおかしなことない?」
「……全部、おかしい感じがする」

 ぼくの花籠。
 ぼくの揺籠。
 お腹の奥がどくどくしてる。

「これでセレスが泣く理由はなくなったな?」
「僕たちの子供、産んでくれる?」

 泣く理由なんて……なくならないよ。
 だって、また、ぼくは泣いてる。どんどん涙が出てきて、止まらない。
 子供を望んでたのはぼく。誰よりも、二人よりも、ぼくは二人の子供が欲しかった。

「レイ」

 レイの左手をとる。
 薬指につけられた指輪に、唇を寄せた。

「ぼくは、誓います。ぼくは、レイを愛しています。ぼくはレイの傍から離れません。ぼくはレイの子供を宿したい。レイのために、ぼくの全てを捧げます」
「セレス」

 魔力だけたくさんあるぼく。使い方は下手だけど。
 でも、これは考えることなくできた。
 キスをした指輪が鈍く光る。
 どくんどくん…って、心臓がなる。

「アベル」
「ん」

 差し出してくれた左手をとって、改めてつけられた指輪にキスをする。

「アベル…ごめんね。ぼく、全然自分の気持ちなのに気づけなくて…」
「むしろ、セレスっぽい」
「ぼく…ぼくね、レイに抱かれてるアベルを見て、いやだ、って思った」
「レイが抱いているから?」
「ううん。レイに、抱かれているから。…アベルは抱かれるんじゃなくて、ぼくを抱いてくれなきゃやだ…って、思ったの…」
「セレス……」
「ぼく、アベルに抱かれたかった。アベルの肉茎が揺れてるの見たら、ぼくのお尻がどんどん濡れて、それを、ぼくの中にいれてもらいたい、って――――」
「ちょ、ちょっと待った!!」
「アベル?」

 アベルが叫んでぼくの両肩を掴んで顔を伏せてしまって、体もぷるぷる震わせていた。
 ぼく……何か間違った?

「…レイ、ぼく」
「セレスは何も悪くない。ただ、アベルが自分と戦ってるだけだから」

 …って、レイが楽しそうに笑って、ぼくを後ろから抱きしめてくれた。

「……レイ、お前さ、なに、このエロ天使前にして、二カ月も突っ込まずに堪えてたの?」
「耐えろって言ったのはお前だろ」
「言ったよ?そりゃ言ったよ?だって、僕が我慢しなきゃならないのに、レイだけ垂れ流しとかうらやましすぎるし、不公平だし」
「垂れ流し…」
「それに、溜めておかなきゃ僕相手に勃たないでしょ。たっぷり出してもらわなきゃならなかったし」

 何故か言い争いをはじめた二人の間で、ぼくは首をかしげてた。

「アベル…、ぼく、『誓い』たい……」


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